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2016年03月04日

無宗教の日本が宗教心を持てば犯罪は減るのか?



無宗教の日本が宗教心を持てば犯罪は減るのか?結婚式では神父に愛を誓い、葬儀の際は住職の念仏とともに現世から旅立つ。こんなご都合主義がまかり通るのは、日本人の多くが無宗教とされるためです。しかし、凶悪な事件が起こる度に「もし犯人が宗教心を持っていれば、事件は起きなかった」という主張が展開されます。

実はこの宗教心と犯罪の関係については、犯罪学・社会学・心理学から各種の研究がなされており、宗教心が犯罪の抑制になるかについては肯定・否定の両方の研究結果が存在し、その議論は紛糾しています。

肯定論、否定論それぞれの主張

例えば、宗教心が犯罪の抑制効果がないことを示す研究としては、2009年に米国の社会学者ザッカーマン(Phil Zuckerman)が、世界での宗教心の強い国とそうでない国、また米国内を比較したうえで、「殺人の発生率は、宗教心の強い国よりもそうでない国で低い傾向がある」と結論づけています。また、「世界の安全な市上位50市のほとんど全ては宗教心の弱い国にある」とも述べています。そして同様な傾向が米国内の州の比較でもいえると結論しています。

また、米国のジョージア州立大学の犯罪学者(2013年)は、犯罪者の中には宗教心の強いものが多く、その者たちは宗教心を自分の犯罪行動を正当化するのに利用している(悪いことをしても救われる)と述べています。つまり、犯罪者のあるものは、宗教心を自分の都合のよいように「悪用」しているというのです。

一方、宗教心の犯罪に対する抑制効果を認める研究の例としては、英国のマンチェスター大学のもの(2014年)があります。それによると、教会などへよく行く人は万引きや薬物使用などの犯罪に走ることが少ないとの調査結果です。研究者はその説明として、宗教心が倫理観を育むことと共に、教会などで時間を過ごすことで「悪い人」と交わる機会が減るからではないかと考えています。

犯罪抑制効果を宗教的倫理感のみに頼るのは短絡的で危険

このように「宗教心が犯罪を抑制するか」という当初の質問は、宗教的倫理感が、悪い行動を阻止するとは単純に言い換えることができないという結論になります。実はこの宗教的倫理感が絶対でないことは、ある意味で明白といえます。例えば、キリスト教のカトリックの神父がヨーロッパや米国で児童を性的に虐待した事例が次々と明らかになったことが挙げられますし、広く人の歴史を見れば、宗教の名の下に人が殺戮を繰り返してきたことは世界各地で起きており、現在も続いています。

私自身、法務省の心理技官として非行・犯罪者と25年間かかわった経験から言うと、非行・犯罪の原因というのは極めて「複合的」というのが実感です。つまり、生い立ちなどの生育環境、教育の程度、性格要因、不況などの社会的要因などが相互に複雑に関係しているということです。

ですから、この宗教心と犯罪との関係について、単純に「宗教心が良い市民を生むから、犯罪を防ぐために宗教心を醸成しなければならない」と結論づけてしまうのは、ある意味で非常に危険といえます。

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