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2020年01月20日

「如月未代の奇妙な体験」(3)

○何部もの新聞の文面
   その中より、関連の記事の見出しを拾ってゆくと−−

   「列車の転覆原因は少女の飛び込み自殺」
   「自殺の動機はイジメか?」


   明らかに、なぎさである。

○なぎさ宅・玄関前
   入り口の手前で泣き崩れているなぎさの母親のまわりに、
   記者たちが沢山群がっている。
   その輪の中で、なぎさの母は、泣きながら、訴えている。
なぎさの母 「(泣き声で)うちの子が自殺したのは、いじめが原因だからに決まってます!
 うちでは本当にいい子だったんです。それしか、考えられません。
 あの子の遺書は見つかってませんが、それしか、ありえないじゃないですか!」

○記者会見会場
   手前の長いテーブルには、なぎさたちの中学校の校長、教頭ら、
   そして、吉川が着席している。
   それを会場一杯に記者たちが取り囲んでいる。
校長 「(感情を殺し)うちの学校で本当にいじめがあったかどうかは、
 まだ確認はできてはおりません」
   この校長の一言で、記者たちがいっせいにどよめく。
記者A 「(校長へ)待って下さい!
 生徒が自殺に走ってしまうほど、ひどいいじめを受けていたのかもしれないんですよ。
 それほどのいじめの実態が、なぜ、まだ確認できてないと言うんですか!」
記者B 「(続けて)知ってても隠しているだけなんじゃありませんか!」
記者C 「その生徒の飛び込み自殺が列車の転覆を引き起こしてしまったんですよ。
 もし、その生徒の自殺の動機がいじめなら、
 この列車事故を招いた本当の犯人はあなた方だと言う事になるんじゃないんですか!」
   記者たちに責め立てられて、
   校長らはすっかりうろたえて、返答がしどろもどろになる。
   すぐに、記者たちの矛先は、
   テーブルの隅の方でおとなしくうつむいていた吉川の方へと向けられ出す。
記者D 「自殺した生徒の担任教師は、一体、何をしてたんですか!
 いじめの事実を知らなかったんですか!」
記者E 「知ってても、やり過ごしてたんじゃないんですか!」
記者F 「(陰口っぽく)だから、女の先生はダメなんだよ」
   顔を真っ赤にしていた吉川が、突如、顔をテーブルに伏せ、激しく泣き出す。
吉川 「(泣き叫ぶ)私だって、できる限りの事はやったんです。
 一体、これ以上、どうすれば良かったと言うんですか!」
   吉川のヒステリックな反応に、記者たちもうろたえ、どよめく。
   困惑する教頭が、泣き崩れる吉川を会場の外へと連れてゆく。
校長 「(うろたえつつ、記者たちへ)今回の非常時の為、彼女は少し動揺しています。
 質問は勘弁していただけないでしょうか」
   記者たちは、相変わらず、騒ぎ立て続けている。

○中学校・未代のクラスの教室  (放課後)
   すでに清掃時間も終り、残っている生徒はまばら。
   隅の方にあるなぎさの席には、花瓶に入れた花が飾られている。

○同・校門  (放課後)
   他の生徒たちに混ざって、
   むっつりした表情の未代、ミチル、さちえ、麻衣子たちも出てくる。
   校門の周辺で生徒たちを待ち伏せしていた若い記者が走り寄り、
   何気なく、未代の方へマイクを向ける。
若い記者 「(うっとおしく)あのう、この学校の生徒ですね!
 今回の女生徒の自殺事件について取材をしているのですが。
 やはり、いじめが原因だったと思いますか。
 あなたは、いじめの現場を見た事がありますか。
 亡くなられた後藤さんとは面識はありませんでしたか」
   未代たちは、うるさそうに顔をしかめ、
   記者の事を相手にしないで、さっさと歩き去ってゆく。

○未代の家・居間
   テレビのスクリーンをアップ。
   消えていたのがパチリとつくと、ちょうど教育評論家(御台門)が話をしている。
教育評論家(スクリーン内) 「(はきはきと)現在の学校のシステムは、
 子供たちにとっては非常にストレスが溜まりやすいように出来ています。
 その抑圧された気持ちのはけ口として、いじめや非行などに走ると言うのは、
 それら子供たちにとっては、自身をダメにしない為の自己防衛的な行為なのであり、
 仕方がないものなのです。
 我々は、まず子供たちのいじめや不良行為などの事をどうのこうのと言う前に、
 その事について、もう一度、よく見つめ直すべきなのではないのでしょうか」
   そのテレビ放送を、ソファに座って、見ている未代が頷いている。
未代 「(つぶやく)そうよ。そうなのよ」
   未代は、リモコンでテレビをパチンと消す。

○同・未代の部屋
   未代が、本棚をガサゴソと漁っている。
   未代が手を滑らすと、いっぺんに何冊もの本が床の上にと落ちてしまう。
   その中に、教科書類に混ざって、手作りの学校の文集がある。
   未代は、その文集を手に取ると、ペラペラとめくりだす。
   時々、めくるのを止め、文面を読んでいる。
未代 「(つぶやき)あら」
   未代が目にしているページには、
   「不思議なボールペン 作・後藤なぎさ」と言うタイトルが冒頭に出ている。
未代 「(つぶやき)なぎさの書いた小説が載っているわ。
 そう言えば、あの子、文芸部に入っていたわね。
 (読み出す)・・不思議なボールペン。私は、一本のボールペンを持っています。・・」

○白い空間  (空想)
   白いバックに、なぎさが一人で立っている。
   なぎさは、片手で一本のボールペンを掲げ、ツンとすましている。
なぎさ 「(生き生きと)私は、一本のボールペンを持っています。
 いつ、どこで、これを手に入れたのかは覚えてはいません。
 しかし、これには不思議な力が備わっているのです。
 このボールペンで書いた話は、全て、現実のものとなってしまうのです。
 昨年、中近東の方で起こった戦争も・・」
   ここで、バックは戦場のドキュメンタリー映像。
なぎさ 「・・ついこの間、九州を襲った大地震も・・」
   ここで、バックは地震の映像。
なぎさ 「・・全て、私がこのボールペンの秘密の力を知らずに、
 うっかり小説のつもりで書いた文章が現実のものとなってしまったものなのです。
 他にも、私が、何気なく書いてしまった為に、
 現実の世界で引き起こしてしまった災厄や事件の数々は限りがありません」
   なぎさの顔を、どんどんアップにしてゆく。
なぎさ 「しかし、このボールペンの中身も、あと僅かとなりました。
 このボールペンの力を知った今、
 私は最後のお願いをこのボールペンで文章にしようと考えています」

○再び・未代の部屋
   未代が座り込み、熱心に文章を読んでいる。
未代 「(読みつぶやく)・・最後の願いとは、それは・・」
   そんな時、居間の方から電話の呼び鈴が聞こえてくる。
   もう少し、文章を目で読み続けた未代は、
   やがて、不満げな表情で文集を閉じ、下において、立ち上がると、
   スタスタと部屋から出てゆく。

○同・居間
   やって来た未代が、すぐ電話を手に取る。
未代 「(電話へ)はい、如月です。・・なに、ミチルなの?どうしたのよォ、一体。
 今すぐ、皆で集まるってェ?いいけど・・。なに、オドオドしてるのよ。
 いつもの場所ね。分かったわ!」
   未代が電話を切る。

(つづく)

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posted by anu at 14:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説
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