いつもの場所。
ミチル、さちえ、麻衣子の三人が寄り添って、立っているところへ、
未代が速足で近づいてゆく。(他に人の姿は無い)
未代 「(三人へ)もう、どうしたって言うのよ!」
ミチル 「(パッと)未代、待ってたわ」
ミチルたち三人は、ひどくオロオロしている。
未代 「(強気に)びくびくしないで、もっとしっかりしなさいよ!
あたし達、やましい事は何も無いんだからさ」
ミチル 「(あたりをキョロキョロ見回してから)でもさ、やっぱり心配でさ、なぎさの事。
これから、本当にどうしたらいいの?」
未代 「(強く)あたし達には関係ないわ。なぎさは、自分で勝手に死んだのよ。
あたし達が悪いんじゃないわ。気にするんじゃない」
ミチル 「(オロオロと)でも・・もしさ」
未代 「(乾いた調子で)いい?なぎさの遺書は無かったのよ。
学校だって、自殺の原因がいじめだとは認めてないわ。
だったら、あたし達には、全然責任は無いじゃない」
麻衣子 「(口を挟む)だけど、マスコミが・・」
未代 「だから、学校はいじめは無かったと言う事にしたがってるのよ。
それなら、あたし達も協力しなくちゃ。ねっ、そうでしょう。
もし、クラスメイトの誰かがいじめの事をマスコミに話したにしても、
あたし達の名前が実名で出る事は絶対ないわ。
と言う事は、あたし達が責められる事もない。心配は無いのよ。
卒業だって、きちんと出来るから、安心して」
三人の友人は、なおも不安げな様子。
未代 「(悪魔的な表情になる)もう、皆、怖がりなんだから!
それなら、いい事をおしえてあげるわ。
なぎさの遺書は見つからなかったかもしれないけど、
あの子の作文とかにあたし達の名前が出ていた可能性もあるの。
そこで、あたし、昔の文集とか調べてみたんだけどさ、
怪しい事は何一つ書かれていなかったわ。
あなた達も、うちに帰って、ちょっと調べてごらんなさい。
もし不審な事が何も書かれていなければ、あたし達は安全だって事なんだから」
さちえ 「(少しホッとして)そう言えば・・。なるほど」
ミチル 「うん、帰って、すぐ調べてみるわ。さすが、未代!頭、いい!」
未代 「(笑みを浮かべ)もし、気になる事が書かれているようなら、また集まりましょう。
気をもむのは、それからでも十分だわ」
ミチル 「(笑顔で)うん、そうする。未代、ありがとう」
未代の視線が、ふと河原の方へ向く。
そこには、時間が止まったかのように、かむろの姿がある。
未代は、ギョッとして、顔をしかめる。
未代の方を見つめるかむろが、優しく微笑んでいる。
未代とかむろは、しばらく相手を直視し続ける。
ついに未代が耐えられなくなり、厳しく叫びだす。
未代 「(かむろの方へ)ちょっと、あなた!一体、何なのよ!
なぜ、そんなに、あたしの事を見つめるの!あたしがどうしたと言うのよ!」
いきなり怒鳴りだした未代の態度に、ミチルたちはすっかりうろたえる。
未代がどやしつけている方向へ、ミチルが目をやる。
しかし、そこには誰も居ない。ただの河原である。
ミチル 「(戸惑いながら)未代、誰もいないよ。何を怒ってるの?」
未代 「(興奮して)ミチル、目が悪いんじゃないの?あそこにいるじゃない。
変な女が!見えないの?」
未代の視線で見ると、相変わらず、河原でかむろが笑っている。
未代の異常に、三人の友人は弱り果てる。
未代 「(かむろへ)こっちに来なさいよ!来ないなら、こっちから行くわ!
どうせ、今のあたし達の話だって、こっそり立ち聞きしてたんでしょう!
あたし達に何か言いたいんだったら、堂々と言ったらどうなのよ!」
未代が、河原の方へと向かいだす。
ミチル 「(慌てて)み、未代!待ってったら!」
ミチルに構わず、河原へと降りた未代が、一直線にかむろの方へと向かってゆく。
未代が迫ってきた時、
かむろも微笑みながら、クルリと未代に背を向け、軽やかに駆け出す。
未代がその後を追う!追っ掛けっことなる。
二人の背景が消え、真っ白になってゆく。
○白い空間
駈けていたかむろが立ち止まり、未代の方に振り向く。
未代もまた走るのを止め、かむろの事をきつく睨みつける。
かむろは、相変わらず、微笑み続けている。
かむろ 「(声高らかに)最後の願いとは、それは・・
いえ、それを書くのは止めておく事にしましょう。
しかし、あなたも、その願いの正体を、やがて、必ず目にする事が出来るはずでしょう」
未代 「(少し動揺し)なぜ、なぎさの小説の最後のくだりを、あなたが知ってるの?
あなたが、その最後の願いの正体だったの?」
かむろ 「(明るく)あら、おかしい。それは、小説の中の話じゃない。
・・でも、そうかもしれないわね。私も虚空の存在かもしれない。
あなたも、誰かに作り出された幻想なのかもしれない」
未代 「(ムキになり)あたしはあたしよ!ここにきちんと生きているわ」
かむろ 「(優しく)そうかしら。
小説家は、自分は実在しているんだと信じきっている人物を、
作品の中に登場させる事だって出来るわよ」
未代はためらい、黙り込む。
かむろ 「(明るく)私はあなたに聞きたかったの。
あなたは、なぎささんの事をさんざんこき使ったり、意地悪したりしていたわよね。
やはり、それは、いじめる事が楽しかったからなの?
自分が楽しむ為には、何をしてもいい、と言う風に考えていたの?」
未代 「(口ごもり)それは・・」
○校舎の裏 (回想)
未代が、複数の年配の女生徒たちの輪の中で、いたぶられている。
未代一人では勝ち目がなく、いいように叩かれている。
女生徒の一人 「(笑って)この野郎!生意気に口紅なんか付けやがってェ!
ヤキだ、ヤキだ!」
未代は、歯を食いしばり、暴力に必死に堪えている。
○再び、白い空間
未代と対峙するかむろが、突然、大笑いする。
かむろ 「(可笑しげに)まあ、そう!
自分もいじめられたから、自分だっていじめたっていいじゃないかと言うのね。
なるほど。もっともらしい理屈ね」
未代 「(慌てて)あ、あたし、そんな事は言ってないわ」
かむろが、笑顔のまま、キッと未代を睨みつける。
かむろ 「(冷ややかに)面白い話をおしえてあげましょう。
あなたも、風紀の清水先生の事は御存知でしょう。
あの先生はね、実は、シナリオを書いて、
テレビのいろんなコンテストに送ってみるのが、唯一の趣味なの。
でもね、可哀相に、なかなか入選した事がないのよ。
そして、落選通知が届くたびに不機嫌になって、
そんな時は、やたらと生徒たちに当たり散らしたりするの」
未代 「(ムッとして)何よ、それ!ただの八つ当たりじゃない。
そんな事で叱られるんじゃ、あたし達がいい迷惑だわ」
かむろ 「(すまして)あら。それなら、いじめられたから、自分もいじめていい、
と考えるのは、八つ当たりにならないと言うの?」
未代は、再び返す言葉をなくしてしまう。
未代の心の声 「まるで、心の中を読まれているみたい。
死んだら、えんま大王の前ではウソがばれてしまうと言うけれど、
それは、こんな感じなのかしら」
未代 「(うろたえつつ)で、でも、なぎさは・・なぎさは何をしたって逆らわなかったわ。
もし意地悪されるのが嫌だと言うのなら、はっきりとそう言ってくれれば良かったのよ。
そしたら、あたしだって・・何もしなかったわ」
かむろ 「(ニコリと笑い)おや、本当かしら。でも、そう言うのならば、それでもいいわ。
抵抗しなかったなぎささんにも、いじめられる原因があると言いたいのね。
そう考えたいのならば、それでもいいわ。
では、私は、あなたに未来を見せてあげましょう。
さあ、いらっしゃい。これが、あなたの歩むこれからの未来よ!」
かむろがバッと指さした方向が、まばやく光り出し、
そこに以下の映像が次々に映し出されてゆく事になる。
(つづく)
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