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2020年01月22日

「如月未代の奇妙な体験」(5)

○記者会見会場  (映像)
   沢山の記者たちに囲まれ、
   テーブルについた文部省の幹部らしき老紳士が宣言する。
老紳士 「(低い声で)文部省では、学校のいじめの原因は、
 いっさい、いじめっ子自身にあると言う見解を結論にいたす次第です」
   会場内の記者たちが、いっせいにどよめく。

○本  (映像)
   何冊もの本が、次々に映し出されてゆく。
   そのタイトルを見ると・・
「いじめっ子問題を考える」
   「恥ずかしいいじめっ子」
   「いじめっ子は世界をダメにする」
   「くたばれ!いじめっ子」
   「いじめっ子の飼いならし方」
etc

○テレビ放送  (映像)
   先に、未代が見ていた教育評論家が、
   またテレビの席上で、懸命に力説している。
教育評論家 「(ためらいも見せずに)今の学校はストレスが溜まりやすいとか、
 いじめっ子には不幸な境遇の子供が多いとか、様々な事が言われてはいますが、
 大人になれば、子供なんかよりも、
 遥かにストレスが溜まる、厳しい社会生活が待っているものなのです。
 それなのに、些細なストレスや苦労にも耐えられずに、
 安易にいじめなんてストレス発散法に走ってしまう子供たちが、
 果たして、どんな大人に成長してしまうのでしょうか。
 我々は、今まで、少し子供たちを甘やかし過ぎていました。
 もっと厳しく、強い忍耐力を持った子供たちを育てる為にも、
 いじめなんてものに手を出すような子供には、情けはかけるべきではないのです!」

○街頭  (映像)
   選挙の宣伝カーが車道をゆっくりと走っている。
   その車の上に立っている立候補者とは、吉川である。
吉川 「(マイクを通して)皆さん、どうぞ、私にお力を貸してください。
 学校内のいじめ撲滅の為にも、
 私は文部大臣にとなり、頂点から学校の全てを改革します。
 弱い者いじめをしない善良な子供たちの為にも、快適な教育環境を作ってあげましょう。
 七年間の教師生活の経験を生かして、吉川は頑張ります。皆さん、お願いします!」
   吉川は、かなり人気があるらしく、歩行者たちが拍手する。

○テレビ画面  (映像)
   アニメーション番組が写っている。
   かっこいい学生服姿のヒーローが、
   不良スタイルの学生たちを過激すぎる暴力アクションで、とことんやっつけている。
   (勇ましいBGMがバックに流れている)
ヒーロー 「(かっこをつけて)意地悪で、残酷ないじめっ子たちよ!
 ウジ虫みたいなお前たちに、生きてる権利はなーい!」

○面接室  (映像)
   スーツ姿の会社の面接官がカメラ目線で話しかけてくる。
面接官 「(冷ややかに)悪いけど、君、学生時代はいじめっ子だったみたいだね。
 すまないが、うちの会社では、
 いじめっ子は、新人としては、絶対採用しない事にしてるんだ。
 何しろ、会社の中でも、また同僚いじめなんかをして、
 トラブルなんかを起こされたりしては困るんでね」

○町中  (映像)
   主婦を中心とした一団が、通りをデモ行進している。
   持っているプラカードの文字は・・
「いじめっ子追放!」
   「学校に安全を!」
   「子供たちに平和を!」

   デモのリーダーらしき主婦が声を張り上げている。
デモのリーダー 「(大声で)いじめのある学校は学校じゃなーい!
 子供たちに自由と安心を!いじめをする子供は、学校に入れるなー!」

○中学校・校庭  (映像)
   おびえるミチル、さちえ、麻衣子らが、無数の生徒たちに追いかけ回されている。
   追っている生徒たちは、皆、きつい表情で、殺気だっている。
生徒の一人 「いじめっ子め!この野郎!お前たちのせいだ!」
別の生徒 「お前たちが問題なんかを起こすから、
 うちの学校はよけい校則が厳しくなっちゃったんだぞ!どうしてくれるんだ!」
さらに別の生徒 「お前たちなんか死んじゃえ!」
   ミチルたちは怯んで、ついに団子になって、地面に倒れてしまう。
   そのまわりにドッと生徒たちが群がり、
   まるで無抵抗のミチルたちを袋だたきにし始める。物凄い惨状。
   映像の最後に、未代の悲鳴が重なる。
未代の声 「(叫ぶ)止めてえ!もう止めてえ!」

○再び、白い空間
   映像は縮小し、光の穴の状態でとどまっている。
   その前に、かむろは超然と立ち、未代はうろたえて、耳を押さえている。
未代 「(怯えて)ひどい。ひどいわ!
 なぜ、これほどまでも責められなくちゃいけないの?可哀相よ。可哀相だわ!」
かむろ 「(冷たく)なに、おかしな事を言っているのよ。
 あなたは、なぎささんの事が可哀相だとは思わなかったんでしょう。
 それと同じよ。皆が、いじめっ子はいじめられても仕方がない、
 いじめっ子側にいじめられる原因があると考えるようになったから、
 あのような事が平気で行なわれるようになったのよ」
未代 「(半泣きで)でも・・」
かむろ 「(激しく)まだ分からないの!
 あなたはね、なぎささんや周りの人たちの優しさに甘えていただけだったのよ。
 なぎささんが抵抗しなかったから、いじめれたんじゃない。
 なぎささんが、優しく、あなたの意地悪行為を許してくれていたから、
 何のお咎めもなく、いじめを続ける事ができたのよ。
 あなたは、何も知らなかったのよ。赤ん坊と同じだわ。
 自分の事だけしか考えないで、他人から愛情や恵みを受け取ってばかりいる。
 そして、自分は誰にも何も与えようとしないのよ。
 全く、なんで、あなたみたいな人がこの世に生まれてしまったのかしら」
   未代は、完全に気が動転する。
未代 「(叫ぶ)うわーっ」
かむろ 「あなたみたいな人たちの為に、
 さんざん迷惑をこうむってきた人たちがいっせいに抵抗しだしたのが、
 今、あなたに見せたあの世界よ。さあ、あそこへ行きなさい!
 あなたがあの世界を望んだのよ!」
   かむろがバッと光の穴の方を指さす。
未代 「(泣きながら、必死に)いやっ!いやっ!」
かむろ 「反省したと言うの?遅いわよ!反省しただけで済む問題じゃないのよ!
 今頃になって謝ったって手遅れだわ。
 なぜ、いじめなんかする前に、よく考えなかったの?
 自分が何をすればいいのか、選択するぐらいの意志の自由は、
 あなたにだって十分あったはずよ」
未代 「(泣き続け)いやだ。いやっ・・」
かむろ 「(厳しく)あの世界へさっさと行ってしまいなさい!
 それが嫌なら、これから自分はどう言う形で償えれるのかをよく考えてみるべきね」
   かむろの姿がパッと消え、
   代わりに、泣き顔の未代の目前に、小刀がポツンと現われる。
   震える未代は、おそるおそる、その小刀を手に取る。
   ジッと小刀を見つめた末に、
   未代がそろそろと小刀の先を自分の喉の方へと近付けてゆく。
   しかし、土壇場になって、未代は小刀をバッと投げ捨ててしまう。
未代 「(悲痛に)いやーっ!」

○別の白い空間
   前のシーンの最後の、未代の叫んだ顔写真が宙の一角に浮いている。
   同じように、さまざまな人たちの絶望した顔写真が、
   あちこちに沢山浮かんでいて、その中央に、かむろがすまして立っている。
かむろ 「(冷ややかに)人間って、なぜ、何も学ばないのかしら。
 何百年たっても、何千年たっても同じよ。いつだって、まず自分の事しか考えていない。
 もし、自分の利害と他人の幸せが衝突するような事があれば、
 自分の主張の方は絶対引っ込めようとはせず、
 何だかんだと自己正当の理屈をこねて、相手の要望を押しのけようとする。
 誰もがそんな態度ばかりを取り続けているから、いつだってケンカやもめ事が絶えず、
 あげくは国同士や民族同士の戦争までもが起きてしまうのよ。しかし・・」
   ここで、かむろは、静かに未代の顔写真を手に取る。
かむろ 「(未代の写真を見ながら)こんな人たちでも、
 もし一からやり直せれる機会があるのならば、もしかすると、
 自分たちが本来歩まなければいけない生き方にも気付いてくれるかもしれないわ。
 ねえ、そうじゃないかしら」
   かむろは、カメラ目線で、視聴者の方へ微笑みかける。 (FO)

○川沿いの一本道  (朝・登校時)
   冒頭のシーンと同じ場所。
   なぎさが一人で立ち、静かに皆が来るのを待っている。
   そこへ、未代、ミチル、さちえ、麻衣子たちがやって来る。
   未代はおとなしくしているが、他の子たちはペチャクチャ喋っている。
ミチル 「(はしゃいで)なぎさー、おはよー!」
なぎさ 「(小さく微笑み)お早う」
   ミチルは、いきなり、なぎさへと自分のカバンを投げ渡す。
ミチル 「(明るく)じゃあ、なぎさ、今日も頼んだね!」
さちえ 「(慌てて)あー、あたしのもォ!」
   その時、未代が突然さちえを押さえ、
   なぎさから奪ったミチルのカバンをミチルの方へと突き出す。
未代 「(きつく)あんたたち、たまには自分のカバンぐらい自分で持ちなさいよ」
   未代の態度に、ミチルたちはもちろん、なぎさも呆気に取られている。
未代 「それからさ、あたし、なぎさと二人っきりで話をしたいから、
 あんたたち、悪いけど、先に学校に行っててくれない」
   未代の強きの命令に、戸惑いながらも、
   ミチルたちは、すごすごと先に歩き去ってしまう。
   あとには、未代となぎさだけが残される。
   なぎさは、未代の前で、ひどくオロオロしている。
   未代は、自分のカバンの中からソッと学校の文集を取り出すと、
   なぎさの方を見て、優しく微笑む。
未代 「(明るく)なぎさって、小説を書いていたのね。
 読ませてもらったけど、とっても面白かったわ」
   未代の言葉を聞き、なぎさの表情がパッと明るくなる。
   今まで見せた事のないような、嬉しそうな笑顔である。
未代 「(無邪気っぽく)他にも、まだ沢山書いているんでしょう。
 あたし、もっと色々読んでみたいんだけどな」
   未代となぎさは、楽しげに、並んで歩き出す。
   その去ってゆく後ろ姿は、まさに、仲の良い親友たちのそれのようである。
   二人は、どんどん、画面の奥へと去ってゆく。

テロップ 「この世には、存在しない時間帯と言うものがある。
 例えば、もし第二次大戦でナチスが勝っていたら?
 などと言うifの世界などがそうである。
 また、予定していながらも、
 結局、実行には至らなかった未来スケジュールなども、これに当たる。
 オカルティストの中には、このような時間帯の事を総称して、
<かむろの時間> と呼ぶ人たちもいる。
 あるいは、少女・未代は、
 そんな不可思議な負の時間帯の中にと迷い込んでいたのかもしれない」

END


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posted by anu at 14:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説
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