【4-2-1. USDの特徴】
国際決済銀行(BIS) のHPでは、2016年4月の1日平均の通貨取引額が公表されています。その順位(比率)は、1位USD(88%)、2位EUR(31%)、3位JPY(22%)、4位GBP(13%)、5位AUD(7%)、となっています。ちなみに、中国元は8位で4%です。原典は金額で公表されていますが、10億ドル単位で4桁の数字はピンと来ないので、%を求めて転記しました。
USD取引量の圧倒的な多さと、JPYの意外な多さと、中国元の意外な少なさ、に驚きます。
USDの特徴は、国際決済に占めるUSD決済が90%近く占めることで生じます。
米国の経済規模は名目GDPで世界全体の約20%です。世界全体の20%の規模の国でCPIが1%上がると、世界の消費者物価が平均値で0.2%上がると考えても良いのでしょうか(わかりません)。でも、間違っていたとしても偶然なのか、ちょうど、そう考えて良いぐらいの為替変化(現在USDJPY=115の0.2%は約20pips)がCPIが動くと観察できます。
そう考えると、経済規模が小さな国や対外債務の多い国にとって、米金利よりも米景気の方が発表指標が多くて大変な関心事になっても良いような気がします。
【4-2-2. 現状チャート】
直近のUSDJPYの週足チャートを示します。
先週はFOMC後に大きく下げました。その結果、次週のローソク足を予想するための補助線を引くと、112円ぐらいの安値を示唆しています(終値とは限りません)。
【4-2-3. 現状テクニカル】
まず、直近の移動平均線(SMA)を示します。SMA(1日)は単に週足終値を表します。
先週末にSMA(1日)がSMA(21日)とデッドクロスしており、次週このまま推移するとSMA(5日)がSMA(21日)を下回りそうです。そうすると、短期下降トレンドシグナルの完成です。
次に、直近の方向・値幅と週末RSIを示します。方向・値幅は各週の始値基準週足を用い、棒グラフで表したRSIは14日の値を採っています。
先週の値幅は約200pipsで、今年に入って4番目によく動いた週でした。陽線であれ陰線であれ週足で同方向に2週続けて目立って動きが続いたことは、今年10回のうち2回しかありません。
2月9日週から凸凹しながら少しずつ上昇していたRSI(14日)は、先週凹となっています。今年に入って週末時点のRSI(14日)が2週続けて下がったことはないので、その点に次週は注目します。
よって、テクニカル指標は、移動平均線が次週の下降を示唆しているものの、週末RSIと値幅推移から言えば週の途中で安値を付けても、その後の戻りがほぼ先週終値になれば、年初からの傾向を継続していることになります。
【4-2-4. 現状ファンダメンタル】
直近の両国10年債金利と株価の動きを示します。
このままではわかりませんね。
まず、金利差です。下図は金利差の前週との差異を見ています。「金利差の前週との差異」というのは面倒な上に名前がややこしいので、以降は「Δ金利差」と表記します。
各週の始値基準週足値幅とΔ金利差とは、方向・程度ともに高い一致率を示しています。自然に考えれば、次週も金利注視でUSDJPYの動きを見ておくのが基本です。
がしかし、金利と株価と為替はどれかが動くと、他のふたつも追従しがちです。ここまでのΔ間金利差に基本を外れた動きがなく、FOMC後も先週2日間をこなしたので、今後も暫く金利と為替の関係に変化はない、と見込みます。
次は、主要株価指標の比の前週との差異です。「主要株価指標の比の前週との差異」といちいち書くのは面倒なので、以降は「Δ株価比差」とします。
株価で為替が動くのは、金利で動かないときです。金利の影響>株価の影響です。
直近4週は、金利差と週足値幅との相関が高いため、逆に、Δ株価比差は、Δ金利差と、方向(逆方向に)・程度ともによく一致しています。この対応は素直と言えるので、何かΔ株価指標前週比差を発端に次の動きを予感させる点は見出せません。
【4-2-5. 今週以降の注目点】
チャート分析が112円を示唆し、テクニカル分析も112円への接近後の再乖離を示唆しています。ファンダメンタル分析は、金利・株価・為替(USDJPY)の関係がここまで素直で、次の動きを予感させる変化は見出せません。
ここからは定性的な分析・解釈です。
先週の要約は、FOMC利上げ・陰線での反応、となります。
そもそも、今回の利上げは過去2回のときと比べて、前回利上げからの期間が短いことが特徴です。そのため、例えば1月時点の3月利上げの市場予想が30%だったのに、3月に入って市場予想が90%に達したように、市場の折込み期間が短かった、と言われています。FRBの金融政策で、こうした事例は(少なくとも)最近になく、以降の参考になります。
そして、今週は今後しばらくの分析のスタンスを見極める期間となります。すなわち、現時点で安全投資に好条件(高金利)で経済成長が見込まれるからドル高が進むか、金融引き締め志向で保護主義への政治的志向が嫌われてドル安が進むか、事実と雰囲気の綱引きの時期です。どちらの動きが優勢かは、アマチュアが予想できることでもないので、暫くは様子見です。これが米国側都合での状況です。
対して日本側の状況は、WH雇用問題と、貿易不均衡と、日銀の出口戦略なき緩和継続の円安誘導疑惑が、二国間で政治問題に発展しかねない状況を抱えており、円高要因ばかりを抱え込んでいます。3月レパトリというのもまだ残っているかも知れません。
米国経済指標に良く動く指標が予定されていない週で良かったと思います。経済指標と金利にUSDJPYを動かす要因がない以上、もしUSDJPYが一気に崩れるならば株価が最も引き金になりやすい状況ではないでしょうか。
【4-2-6. 指標分析一覧】
A. 政策決定指標
A1. 金融政策
2017年の政策金利利上げは3回が予定されています。3月利上げの次は6月か9月を有力視する解説が多いようです。
(1) FOMC政策金利 (2017年3月16日発表結果検証済)
(2) FOMC議事録 (2017年2月23日公表結果検証済)
A2. 財政政策
米国GDPに対し公共投資が与える影響は、日本の場合に比して小さなものです(絶対額でなく比率で考察)。従って、政府予算の配分が変わることは経済的な直接効果よりも、関連法規改正などで予算配分が増えた分野への政府支援が強まる間接効果となります(日本の場合は直接効果が大きい)。にも関わらず、そうした政策変更は、JPYに対してよりもUSDに対して大きく影響が現れがちな点が不思議です。
(1) 月次財政収支
A3. 景気指標
最近は全体的に非常に良い結果が続いています。今後見通しが「良くなる」「悪くなる」の景況感アンケートだけでなく、在庫や受注や出荷も加味した指標でも前月比プラスに留まらずに、前月の前月比プラスを上回る前月比改善が続き過ぎています。3月分データが発表されてやっと少し、プラスが減った指標も出てきたものの、実態が良くならなければいずれ景況感は失速します。
A31. 総合
ISMとCBの2月、UM速報3月のいずれも改善が進んでいます。
(1) ISM非製造業・総合景況指数 (2017年3月4日発表予定、事前分析済)
(2) CB消費者信頼感
(3) ミシガン大学消費者信頼感指数速報値/確報値 (2017年2月11日発表結果検証済)
A32. 製造業
最も反応が大きい指標はISMです。ISMへの相関が強いと言われるのがPhil連銀景気指数で、Phil連銀景気指数への相関が強いと言われるのがNY連銀景気指数です。
直近は非常に好調な数字が続いています。がしかし、実態指標の製造業2月の結果は改善したものの僅かで、物価指標のPPI・PPIコアの2月分データは伸びが1月分より鈍化しています。
(1) ISM製造業景況感指数 (2017年3月2日発表結果検証済)
(2) Phil連銀製造業景気指数 (2017年2月16日発表結果検証済)
(3) NY連銀製造業景気指数 (2017年2月15日発表結果検証済)
(4) リッチモンド連銀製造業景気指数
(5) シカゴ購買部協会景気指数
A4. 物価指標
FRBが注目しているというPCEコアデフレータが最重要だと思われます。物価は、材料→生産→消費へと下流に波及すると考えられるため、(4)→(1)へと影響が進む、と考えられます。
2月分データでは、輸入物価指数・PPI・CPIのいずれも伸びが鈍化していました。
(1) PCEコアデフレータ (2017年3月1日発表結果検証済)
(2) 消費者物価指数(CPI)
(3) 生産者物価指数(PPI) (2017年2月14日発表結果検証済)
(4) 輸入物価指数 (2017年2月10日発表結果検証済)
A5. 雇用指標
景気を表すのは新規雇用者数と失業率で、これらについては既にFRB幹部も満足しています。だから、最近は景気を後押しする平均時給の伸びが注目されています。
(1) 雇用統計 (2017年3月10日発表予定、事前分析済)
(2) ADP民間雇用者数 (2017年3月8日発表結果検証済)
(3) 前週新規失業保険申請件数
B. 経済情勢指標
B1. 経済成長
財政収支・国際収支の赤字が続いていても、主要先進国において米国経済は最も好調です。そういう実態を踏まえると、素人にも現状の景気の良し悪しを最もわかりやすく表しているのがGDPなのでしょう。
(1) 四半期GDP速報値 (2017年1月27日発表結果検証済)
(2) 四半期GDP改定値 (2017年2月28日発表結果検証済)
(3) 四半期GDP確定値
B2. 国際収支
最近の傾向は毎月400億ドルの貿易赤字が続いています。毎月400億ドルという大きさは、年間で日本の国家予算並みということですよね。米国の経済規模というのは本当にすごいのですね。本指標は、貿易赤字が多少増えようが減ろうが、発表直後の反応方向に関係なく、そして反応が比較的大きい傾向があること、です。少し変な指標です。
貿易赤字縮小が米政権の政治課題に挙がっており、USDJPYへの影響が直接・間接的に大きくなるでしょう。
(1) 貿易収支 (2017年3月7日発表結果検証済)
B3. 実態指標
「消費」や「住宅」が景気に関わるというのはわかるような気がします。がしかし、米国で「製造」が経済に与える影響は為替を動かすほど大きいのか、どうもピンとこないまま調査や分析を怠っていました。「住宅」は、もともとあまり反応しません。
やはり基本は、米国GDPの70%を占めるというPCEです。
B31. 消費
(1) 四半期PCE速報値 (2017年1月27日発表結果検証済)
(2) 四半期PCE改定値 (2017年2月28日発表結果検証済)
(3) 個人支出(PCE)・個人所得 (2017年3月1日発表結果検証済)
(4) 小売売上高
B32. 住宅
FX会社HPなどでは注目度や重要度が高く評価されている指標もあります。が、反応は小さな指標ばかりです。但し、素直な反応をしがちです。
(1) 中古住宅販売件数 (2017年3月22日発表結果検証済)
(2) 新築住宅販売件数 (2017年3月23日発表結果検証済)
(3) 建設支出 (2017年3月2日発表予定、事前分析済)
B33. 製造
米国経済に対し製造業の好不調が与える影響は小さい、と捉えています。雇用指標や景気指標に影響すると考えているので記録を取って見ていますが、反応は大したことありません。
(1) 鉱工業生産・設備稼働率 (2017年3月17日発表結果検証済)
(2) 耐久財受注 (2017年3月24日発表結果検証済)
以上
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