投資情報部 淺井一郎 栗本奈緒実
日経平均は小幅反落。TSMC決算受け、半導体関連株が軟調
あるかサプライズ!?日米欧の金融政策の注目点は?
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日経平均は小幅反落。TSMC決算受け、半導体関連株が軟調
7月第3週(7/18-21)の日経平均は前週末比87円1銭安(▲0.27%)と週足ベースで小幅反落。ひと足先に決算発表シーズン本格入りを迎えた米国企業や、世界最大手の半導体メーカーTSMCの決算動向で揺れ動いた格好です。円安が相場の下支え材料となりました。
同期間の米国市場では、NYダウが+2.1%となり2017年以来の10連騰を達成(7/24で11連騰)。対して、ナスダックは▲0.6%とグロース株が軟調な展開でした。週半ば、テスラやネットフリックスなどの大型テック株が決算を発表。両社の4-6月期の1株利益(EPS)は市場予想を上振れたものの、粗利率の低下や見通し据え置き等が失望売りへと繋がりました。
また、大型テック株への過度な集中を分散させるため、7/24(月)にはナスダック100指数のリバランスが予定されていました(上位7銘柄の合計比率は55.1%→43.7%に、7/14時点の仮データ)。同リバランスに伴う調整売りが出たことや、GAFAM等の主力テック株が翌週に決算発表を控えていたことで、利益確定で売られた面もありました。
日米両市場では半導体関連株が重しでした。7/20(木)に世界最大半導体メーカーTSMCが決算発表で、通期業績見通しの下方修正を行いました。日経平均株価採用銘柄の下落率上位(7/18〜24、図表8)では、首位はアドバンテスト(6857)と、前週の上昇率1位から急転落。SCREENホールディングス(7735)や東京エレクトロン(8035)などの半導体関連株が複数ランクインし、軟化気味でした。上昇率上位では(7/18〜24、図表7)、円安進行で恩恵を受けやすい輸送用機器から5銘柄が並ぶ結果となりました。
7月第4週の日経平均は、反発スタート。日銀の金融緩和政策は維持される見方が大勢で、YCCの修正有無に注目が集まっています。
図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景
図表2 日経平均株価
図表3 NYダウ
図表4 ドル・円相場
図表5 主な予定
図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定
図表7 日経平均株価採用銘柄の上昇率上位(7/18〜24)
図表8 日経平均株価採用銘柄の下落率上位(7/18〜24)
あるかサプライズ!?日米欧の金融政策の注目点は?
今週は日本、米国、ユーロ圏で金融政策を決める重要な会合が行われます。そこで本稿では、これらの国、地域で行われる会合について、市場の目線(コンセンサス)とサプライズ要素、そして考えられる金融市場(特に日本の株式市場)への影響について解説いたします。
(1)米国:FOMC(連邦公開市場委員会)【開催日:米国時間7/25(火)、26(水)】日本時間では7/27(木)早朝に結果発表
まず、先陣を切って行われるのがFOMCです。今回は政策金利であるFFレート誘導目標を2会合ぶりに0.25%pt引き上げることが見込まれています。利上げ見送りとなれば大きなサプライズですが、FFレート先物市場(7/25時点)において利上げが99%程度織り込まれた状況にあり、市場参加者は、流石に利上げ見送りは無いと見ているようです。
となれば、市場の注目は金融政策の見通しとなりますが、今回の会合では政策メンバーによる経済・政策金利見通しの変更はないため、会合後に開かれるパウエルFRB議長の記者会見の内容が注目されます。
6月FOMCでは、経済、政策金利見通し(ドットチャート)から、23年中に今回を含めて2度の利上げが行われる可能性が示されていました。それに対し、市場では今回で利上げが打ち止めとなる可能性が高いとの見方が支配的です。こうした市場の見方の背景には、米国消費者物価などインフレ市場の伸びが順調に鈍化していることが挙げられます。
今回のパウエル議長の記者会見において、市場参加者は、利上げ打ち止めの可能性について何らかのサインが出てくることを期待しているのかもしれません。もっとも、7/24付けの『一郎の投資戦略』で指摘するように、今後のインフレ鈍化は一筋縄ではいかず、パウエル議長から利上げ打ち止めを示唆するような言及が出てくる可能性は低いかもしれません。むしろ、同氏から先行きのインフレリスクに対する言及が多く出てくるようであれば、市場のハト派期待が裏切られる可能性があるでしょう。
その場合の影響としては、まず、米国金利の上昇が想定され、それに伴い円相場において円安・ドル高の動きが強まることが想定されます。また、金利上昇はテクノロジーなど成長株(グロース株)にとって逆風であるため、日本でも値がさハイテク株などが軟調に推移する可能性があるでしょう。
図表9 市場の予想するFFレート
※BloombergのデータをもとにSBI証券が作成
(2)ユーロ圏:ECB(欧州中央銀行)理事会 【開催日:欧州時間7/27(木)】 日本時間では7/27(木)夜朝に結果発表
今回のECB理事会では、主要政策金利は0.25%引き上げが予想されています。また、市場ではユーロ圏の金融引き締めは終盤に差し掛かっているものの、まだ利上げ打ち止めが示唆されるタイミングに至っていないとの見方が多いようです。
この背景には、ユーロ圏6月消費者物価が前年同月比+5.5%と鈍化傾向にあるものの、依然として高い伸びになっていることや、昨年に始まった金融引き締めサイクルがやや後手を踏んでおり、インフレ抑制に時間がかかっていること、などが挙げられます。
ラガルドECB総裁は、前回6月理事会で利上げを決めた際、記者会見において次回(7月)理事会でも利上げが継続される可能性について言及していました。今回も同氏から政策金利の見通しについてどういった見解が示されるのか注目されるでしょう。
もっとも、その一方で、サプライズ的な見解としてECBの金融引き締めスタンスが緩和(ハト派化)される可能性を指摘する見方もあります。ユーロ圏では昨年7月から利上げサイクルが開始しましたが、7−9月期以降のユーロ圏実質GDP成長率は低成長が続いています。また、利上げが開始された頃のユーロ相場(対ドル)は、ユーロ離れの動きから1ユーロ=1ドルのパリティ(等価)割れまでユーロ安が進んだのに対し、現状は大きくユーロ高へ切り返しています。特に、貿易比率などを用いて算出される名目実効為替レートでは、ユーロ相場は過去最高値水準まで上昇しています。ユーロ高により輸出面の逆風が強まっていることを考慮すると、ECBは更なる利上げを行い難い状況ということも理解できます。
米国と同様、ユーロ圏もインフレ抑制の手を緩めることが出来ない状況にあることも確かであり、したがって、ECBがハト派スタンスに転じればサプライズとなります。その場合、為替市場ではユーロ安が進むことになるでしょう。ユーロ安の動き対し、ドル高がもっとも大きく反応することが予想されますが、ユーロ安・ドル高の動きが間接的にドル高・円安につながる可能性があります。実際、昨年の円相場が1ドル=150円まで駆け上がった一因に、ユーロ安の影響があったと考えられ、こうしたユーロ安の動きに注意を払う必要がありそうです。
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図表10 ユーロ相場と名目実効為替レート
※BloombergのデータをもとにSBI証券が作成
(3)日本:日銀金融政策決定会合 【7/27(木)、28(金)】
そして最後に開催されるのが日銀金融政策決定会合です。日銀は金融緩和策の1つとして、10年国債利回りを-0.5%から+0.5%の範囲に誘導するイールド・カーブ・コントロール(YCC)政策を実施しており、同政策で許容されている変動幅の拡大の有無が注目点となっています。今回の会合を控え、市場では変動幅拡大への思惑が強まる局面もありました。しかし、植田日銀総裁は、7/18(火)のG20財務相・中央銀行総裁会議後の記者会見で、粘り強く金融緩和を続ける姿勢を強調しており、YCCの修正観測は後退しています。
したがって今回の会合でYCCの修正はないというのが市場のコンセンサスと言えるでしょう。ただ、昨年12月に、黒田体制下のこととは言え、市場の意表を突く格好でYCCの政策変更を行なわれたことは記憶に新しく、完全に政策変更はないと決めつけられないというのも市場心理ではないかと思われます。
一方、今回の会合では「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」が更新されます。一部報道では、新たに消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)について、23年度予想が従来の前年比+1.8%から+2.5%へ上方修正される公算が大きいと報じられています。これを受けて、YCCが変更される訳ではなさそうですが、会合後の記者会見で植田日銀総裁から、物価上昇が順調に進んでいるといった見解が示されるようであれば、今後の政策変更への思惑が高まる可能性があります。
これまで日本株にとって“超”緩和的な金融政策は株価を押し上げる原動力の1つと言えます。YCCの修正観測が強まれば、円相場で円高が進むこともあいまって、一時的に日本株の逆風になる可能性には留意する必要があるでしょう。
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図表11 10年国債利回りとYCC政策
※BloombergのデータをもとにSBI証券が作成
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