二足歩行の生物でありながら、一日に何時間も椅子に座り、デスクワークに追われることの多い現代人。肩こり、腰痛、運動不足など、座りっぱなしのデメリットは以前から言われているが、最近、座り続けること自体が人間の寿命を縮める可能性が示されてしまった。
この発表をしたのは、スウェーデン・カロリンスカ医学大学のマイ・リス・ヘレニウス教授率いる研究チーム。最新の医学研究で「座って過ごす時間が短い人ほど、遺伝子のテロメアが長い」ことを発見したのだ。
テロメアとは、染色体の一番端にある特殊な構造体。DNAの分解や修復から染色体を保護し、遺伝情報の異常な融合を防ぐストッパーのような役割を果たしているため、長いほど遺伝子が劣化しにくく、体の若さが保たれる。生まれたばかりの赤ちゃんの時が一番長く、細胞が分裂するたびに短くなっていき、ある一定の長さ以下になると細胞分裂そのものが止まってしまう。
これまでもテロメアの長さと長寿の関係は研究されてきたが、テロメアの短縮を遅らせるのに効果的な活動や、ライフスタイルについてはよくわかっていなかった。
●運動の量よりも立つことが肝心 そこで教授の研究チームは、60代後半の肥満気味で座っていることの多い49人の被験者を、6カ月間運動するグループとしないグループに分け、血液細胞のテロメアの長さを測定。その間は、日記と歩数計によって被験者の運動レベルと「座っていた時間」も記録した。
その結果、運動を続けたグループは、体重、体脂肪、血糖値などの健康レベルを示す数値が改善したものの、エクササイズのレベルとテロメアの長さに関係性は見つからなかった。一方、被験者が座っていた時間を基準にデータを分析すると、明らかに短い人ほどテロメアが長くなるという関係性が見られたという。もっと大規模な調査で確かめる必要はあるが、この結果は、運動時間を増やすことよりも、座っている時間を減らすことが、テロメアの長さを伸ばすことを示唆している。
現代は、適度な運動と健康との関係がすっかり認知され、いわゆる「エクササイズ」に時間を費やす人は、以前よりずっと増えているかもしれない。しかし依然として多くの人は毎日を座って過ごす。「この時代にあっては運動不足だけでなく、座りがちな生活こそ新たな健康への脅威だ」と、ヘレニウス教授は警告している。
これを聞いてうろたえたデスクワーカーもいるかと思うが、でもちょっと発想を転換してみよう。一日のうちで少しでも立つ時間を増やす工夫をすることは、新たにジョギングを始めるよりもずっと簡単なのだ。ときにノートパソコンをカウンターに置き、立って作業してみたり、スタンドのお店でお茶や食事をしたり、読書をしてもいい。まとまった時間をつくって運動をするより、少しずつでも席を立って体を動かすほうが、座りっぱなしの生活の弊害を緩和するのに効果的だという報告もいくつかある。
「座って過ごす時間を分割することが重要。30分ごとに1〜2分の休憩を取って椅子を離れるようにしてみてください」と、先の論文にも掲載されている。テロメアを伸ばして長生きをしたいなら、まずはヘレニウス先生のアドバイスを実行してみてはどうだろうか。
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