マツダと言えば、技術力やスポーティなクルマ作りには定評があるものの、販売力の弱さから、大幅な値引きやレンタカー用などでの販売量確保を繰り返し、結果的にブランドイメージの低下を招いていた。これに対し、稲本信秀取締役専務執行役員は「新型デミオでは正価販売(値引き抑制)を実現し、マツダブランドは変わった、といえるような覚悟を持って臨む」と力を込める。
燃費や広さを「売り」にしない
そのために選んだ戦略が「逆張り路線」だ。とりわけ日系メーカーではそうだが、コンパクトカーと言えば燃費と車室空間の広さがウリ。もともと、初代デミオもコンパクトカーながら広い車室空間が受けてヒットした。だが新型デミオでは、燃費や広さでのアピールをあえて捨て、質感や走行性能にこだわった。
広さを確保するためにずんぐりとした形状が主流のライバル車種に対し、新型デミオは、ボンネットを長く取ったスポーティな外形を採用。後部座席や荷室の空間はあえて犠牲にした。フロントグリルなど基本的なデザイン形状は、2012年以降の商品群に採用しているマツダの統一デザインを採用。大型車の「アテンザ」や、中型車の「アクセラ」と共通のイメージを作り出している。
こうした手法はBMWなどのプレミアムブランドが用いるが、幅広いユーザーへの訴求を狙う日系メーカーでは珍しい。内装も上級車と共通の質感にこだわっており、日系のコンパクトカーとしては別格の仕上がりとなっている。柳澤亮・チーフデザイナーは「世界のコンパクトカーのベンチマークになるという高い目標をもって設計した」と語る。
エンジンでも、ライバルの低燃費路線とは距離を置く。コンパクトカーは各社が新型車で燃費ナンバーワンを競い合うカテゴリーだが、新型デミオはトップではない。カタログ燃費をみると、ガソリンエンジン車は現行車よりも悪く、価格帯で他社のハイブリッド車(HV)と競合するディーゼルエンジン車も、燃費ではHVに及ばない。燃費のために走りの楽しさを犠牲にしない、というのがその理由だ。中でも排気量1.5リッターのディーゼル車は、ガソリン車とはまったく異なる力強い走りを見せ、新型デミオの大きな特徴になっている。
プレミアムブランドの足がかり
燃費や広さ、さらにはHVの持つ環境イメージを求めるようなコンパクトカーユーザーの“多数派”には、新型デミオは向いていない。だが、コンパクトカーでも質感や走りの楽しさを求めるユーザーにはぴったりだ。従来、このマーケットは欧州車、とりわけドイツ車の独壇場だった。ただ、外国車が抱える割高感やサービスの悪さに不満を持つユーザーも少なくないだろう。欧州ブランドにも引けを取らないクルマが、日系の価格と品質で手に入るとあらば、一定の人気を博しそうだ。
モータージャーナリストからの前評判は、ひいき目を割り引いてみても上々と言っていい。事前受注も好調で、特に目玉のディーゼルエンジン車は、10月23日発売ながら、すでに納車は11月以降になっている。もともと技術志向が強いマツダにとって、BMWのようなプレミアムブランドになることが悲願。安売りイメージを払拭しプレミアムブランドへの足がかりを築けるかは、新型デミオの成功にかかっている。
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