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2019年06月16日
すこやかな人生?F 日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
最終的には、心の働きの脳内メカニス?ムについて述べていきます。
すこやかな人生?F
日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
九州名誉教授。北九州市立小倉病院名誉院長。日本心身医学会理事長。
自律調整法国際委員会委員長。国際心身医学会前理事長。医学博士。
著書「セルフコントロールの医学」「自己分析」「心で起こる体の病」「心療内科」ほか
平成三年九月十五日 放送
池見: その点を分かり易くしますために、
私がこさえましたのが、このパネルです。
このパネルの人物の右側が人間の病気を治すための身体医学的な療法
—薬とか、注射とか、物理療法とか手術ですね、
これだけで治る病気は二十パーセントもないわけですね。
そこで左側の心理学的な療法
—ストレスに対するいろんな悩みの相談に応ずる、
現代人の不健康な生活
—食べ過ぎ、運動不足、タバコ、アルコール
—そういうのを改めて健康な生活をしよう。
それから近頃家庭が崩壊しまして、生活の基礎が出来ていませんので、
精神分析をやって、性格の基礎からの立て直しをする。
その二つを合わせたのが心身なんです。
この二つを併用するだけでは、
全人的な医療とはいえず、
患者自身が持つ心身両面での自然治癒力(気)を活性化する
「健康の医学」を忘れてはならない。
真ん中のところ、一番大事なものはわれわれ自身の中に
「自然治癒力・生命力」があるんですね。
心身両面でこれを東洋医学では「気」と呼んでいるんです。
井筒屋: そこの文字に書いてある療法は西洋的なもので、
池見: そうです。
井筒屋: これが気が抜けていると、
池見: まさに気が抜けている。
東洋医学では、患者の中にある自然治癒力(気)を
活性化する鍼灸などに加え気功、
ヨーガなどの健康教育が古くから重視されてまいりました。
この真ん中の気—生命力を踏まえた医学がこれからの本当の医学である。
その点を脳の働きから、ちょっとばかりお話しますと、
井筒屋: 先生がおっしゃったように、脳には三つの階層構造があると。
池見: そうです。
生命的な営み(本能や内臓諸器官の働きなど)を司る生命脳(植物脳)、
動物的感情(情動)を司る情動脳(動物脳)、
人間としての知恵の営みを司る知性脳(人間脳)です。
現代人は知恵の脳ばかりが過熱状態になって、
だんだん本当は人間の動物的な本能とか動物的な感情を
知恵の脳がうまくコントロールして、
建設的な人間のエネルギー、豊かな情操に通ずる教育がなければならない。
そこがだんだん切り離されちゃった。
だから日本人のことをエコノミック・アニマルという、
金儲けの上手な動物になる。知恵のある動物が横行する。
一番違うのは生命力の知恵、あそこに食欲の中枢なんかがありまして、
今の体のコンディション
—どういう種類の食べ物を、どのくらい食べたらいいか。
信号がちゃんと知恵の脳にきている。
それが聞こえなくなる。
さっきの話のように筋肉の緊張、肩が凝ったとか、
そういう感覚も全部鈍ってきますね。
井筒屋: 人間社会と自然との関わりであるわけですね。
池見: 生命に対する感覚が発達してきますと、
現代人は、左側の「おれが、おれが」という、
知恵だけで、人間、機械社会の中にどっぷりはまっている。
井筒屋: 人間社会との関わりだけが強くなっている。
池見: そればっかりの人間—ロボット人間。
右側の自然の感情とか、体の声も聞こえない。
体の声が聞こえなくなると、自然の声も聞こえない。
人間の全体性を説いたのが、
釈尊のおっしゃいました「よくととのえしおのれ」というお言葉ですね。
釈尊が三十五歳で悟りを開かれた時に、
「われは目覚めたるものなり」。
それはこの自分の全体がわかるようになった時に
はじめて人間らしくなる。
何も悟って神や仏になるわけではない。
人間らしくなる。
脳の付け根のところに、
脳幹網様体賦活(ふかつ)系とややこしいのを書いてありますね。
この部分が、脳内各部の働きに活を入れて、
脳の営みの自己調整に重要な働きをしています。
すなわち、筋肉の緊張、呼吸、光など身体的各部への刺激が、
この部分に伝達されますと、
ここで、それらの刺激の調整が行われ、脳内各部に目ざめ信号が送られる。
井筒屋: 一番赤く塗っているところですね。
池見: あそこに、坐禅の調身・調息・調心をしますと、
ちょうどうまく脳の知恵のカッカしたところを押さえまして、
うちの生命観なんかをうまく呼び覚ます。
気が活性化するんですね。
そういう頭で考えた時に、釈尊がおっしゃったように、
「われはめざめたるものなり」。
宗教という悟りというのは、
要するに「自分の全体がわかってくる」。
世界中がこうなったら仲良くなるわけなんです。
それでいま西洋の哲学とか、
へたな理屈じゃなくて、体から人間に帰ろう、
という東洋の身体文化、
いまアメリカでもヨーロッパではどんどんはやってきましたでしょう。
すごくいいことなんですね。
井筒屋: なるほど。その気というのは、考え方としては、
この生命力みたいなものとして捉えますと、
この生命力が活性化することで、
癌を治したり、癌の進行を食い止めたりすることもある
というふうに先生おっしゃっておられますね。
池見: 私どもはこういうことを十七、八年前から始めました。
その頃は無我夢中で始めたんですが、
癌の患者さんで、
医者から「もうあなたは末期で、あなたの命はあと二、三ヶ月しかない」、
或いは「半年しかない」と言われたような人が、
思いのほか五年も十年も、どうかすると、二十年以上も生きている人がある
ことが医学的にだんだんわかってきたんです。
外国で今から二十年位前に、こういう人を百六十名位集めて研究がありまして、
この頃までは、十万人か二十万人に一人と言われていたんですね。
私どもが中川俊二先生という非常に優秀な研究者の方と一緒にそういう研究を始めてまして、
福岡市近郊で数人集めてみました。
驚いたことに、その人たちが人間として一番気付かなければならない一番大事なこと、
人間は必ず死があるんだと。
周囲のお蔭で生かされておるんだ。
それ長いこと、宗教の信仰なんかしていても、
自分が死ぬなんてことは、みんな考えたくないわけです。
江戸時代の狂歌師・蜀山人(しょくさんじん)の辞世の句に、
昨日まで人のことだと思いし
おれが死ぬとはこれは堪らん
みんな自分が死ぬことは考えていない。
ところが、「あなたのいのちはあと二、三ヶ月、或いは半年」
と言われた時、
「あっと気がつく」。
最後のステップ、一番人間として大事なステップに気がつく。
そういう人たちの中にしばしばそういうことが起こってくるんですね。
これは、平成三年九月十五日に、NHK教育テレビの
「こころの時代」で放映されたものである
すこやかな人生?F
日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
九州名誉教授。北九州市立小倉病院名誉院長。日本心身医学会理事長。
自律調整法国際委員会委員長。国際心身医学会前理事長。医学博士。
著書「セルフコントロールの医学」「自己分析」「心で起こる体の病」「心療内科」ほか
平成三年九月十五日 放送
池見: その点を分かり易くしますために、
私がこさえましたのが、このパネルです。
このパネルの人物の右側が人間の病気を治すための身体医学的な療法
—薬とか、注射とか、物理療法とか手術ですね、
これだけで治る病気は二十パーセントもないわけですね。
そこで左側の心理学的な療法
—ストレスに対するいろんな悩みの相談に応ずる、
現代人の不健康な生活
—食べ過ぎ、運動不足、タバコ、アルコール
—そういうのを改めて健康な生活をしよう。
それから近頃家庭が崩壊しまして、生活の基礎が出来ていませんので、
精神分析をやって、性格の基礎からの立て直しをする。
その二つを合わせたのが心身なんです。
この二つを併用するだけでは、
全人的な医療とはいえず、
患者自身が持つ心身両面での自然治癒力(気)を活性化する
「健康の医学」を忘れてはならない。
真ん中のところ、一番大事なものはわれわれ自身の中に
「自然治癒力・生命力」があるんですね。
心身両面でこれを東洋医学では「気」と呼んでいるんです。
井筒屋: そこの文字に書いてある療法は西洋的なもので、
池見: そうです。
井筒屋: これが気が抜けていると、
池見: まさに気が抜けている。
東洋医学では、患者の中にある自然治癒力(気)を
活性化する鍼灸などに加え気功、
ヨーガなどの健康教育が古くから重視されてまいりました。
この真ん中の気—生命力を踏まえた医学がこれからの本当の医学である。
その点を脳の働きから、ちょっとばかりお話しますと、
井筒屋: 先生がおっしゃったように、脳には三つの階層構造があると。
池見: そうです。
生命的な営み(本能や内臓諸器官の働きなど)を司る生命脳(植物脳)、
動物的感情(情動)を司る情動脳(動物脳)、
人間としての知恵の営みを司る知性脳(人間脳)です。
現代人は知恵の脳ばかりが過熱状態になって、
だんだん本当は人間の動物的な本能とか動物的な感情を
知恵の脳がうまくコントロールして、
建設的な人間のエネルギー、豊かな情操に通ずる教育がなければならない。
そこがだんだん切り離されちゃった。
だから日本人のことをエコノミック・アニマルという、
金儲けの上手な動物になる。知恵のある動物が横行する。
一番違うのは生命力の知恵、あそこに食欲の中枢なんかがありまして、
今の体のコンディション
—どういう種類の食べ物を、どのくらい食べたらいいか。
信号がちゃんと知恵の脳にきている。
それが聞こえなくなる。
さっきの話のように筋肉の緊張、肩が凝ったとか、
そういう感覚も全部鈍ってきますね。
井筒屋: 人間社会と自然との関わりであるわけですね。
池見: 生命に対する感覚が発達してきますと、
現代人は、左側の「おれが、おれが」という、
知恵だけで、人間、機械社会の中にどっぷりはまっている。
井筒屋: 人間社会との関わりだけが強くなっている。
池見: そればっかりの人間—ロボット人間。
右側の自然の感情とか、体の声も聞こえない。
体の声が聞こえなくなると、自然の声も聞こえない。
人間の全体性を説いたのが、
釈尊のおっしゃいました「よくととのえしおのれ」というお言葉ですね。
釈尊が三十五歳で悟りを開かれた時に、
「われは目覚めたるものなり」。
それはこの自分の全体がわかるようになった時に
はじめて人間らしくなる。
何も悟って神や仏になるわけではない。
人間らしくなる。
脳の付け根のところに、
脳幹網様体賦活(ふかつ)系とややこしいのを書いてありますね。
この部分が、脳内各部の働きに活を入れて、
脳の営みの自己調整に重要な働きをしています。
すなわち、筋肉の緊張、呼吸、光など身体的各部への刺激が、
この部分に伝達されますと、
ここで、それらの刺激の調整が行われ、脳内各部に目ざめ信号が送られる。
井筒屋: 一番赤く塗っているところですね。
池見: あそこに、坐禅の調身・調息・調心をしますと、
ちょうどうまく脳の知恵のカッカしたところを押さえまして、
うちの生命観なんかをうまく呼び覚ます。
気が活性化するんですね。
そういう頭で考えた時に、釈尊がおっしゃったように、
「われはめざめたるものなり」。
宗教という悟りというのは、
要するに「自分の全体がわかってくる」。
世界中がこうなったら仲良くなるわけなんです。
それでいま西洋の哲学とか、
へたな理屈じゃなくて、体から人間に帰ろう、
という東洋の身体文化、
いまアメリカでもヨーロッパではどんどんはやってきましたでしょう。
すごくいいことなんですね。
井筒屋: なるほど。その気というのは、考え方としては、
この生命力みたいなものとして捉えますと、
この生命力が活性化することで、
癌を治したり、癌の進行を食い止めたりすることもある
というふうに先生おっしゃっておられますね。
池見: 私どもはこういうことを十七、八年前から始めました。
その頃は無我夢中で始めたんですが、
癌の患者さんで、
医者から「もうあなたは末期で、あなたの命はあと二、三ヶ月しかない」、
或いは「半年しかない」と言われたような人が、
思いのほか五年も十年も、どうかすると、二十年以上も生きている人がある
ことが医学的にだんだんわかってきたんです。
外国で今から二十年位前に、こういう人を百六十名位集めて研究がありまして、
この頃までは、十万人か二十万人に一人と言われていたんですね。
私どもが中川俊二先生という非常に優秀な研究者の方と一緒にそういう研究を始めてまして、
福岡市近郊で数人集めてみました。
驚いたことに、その人たちが人間として一番気付かなければならない一番大事なこと、
人間は必ず死があるんだと。
周囲のお蔭で生かされておるんだ。
それ長いこと、宗教の信仰なんかしていても、
自分が死ぬなんてことは、みんな考えたくないわけです。
江戸時代の狂歌師・蜀山人(しょくさんじん)の辞世の句に、
昨日まで人のことだと思いし
おれが死ぬとはこれは堪らん
みんな自分が死ぬことは考えていない。
ところが、「あなたのいのちはあと二、三ヶ月、或いは半年」
と言われた時、
「あっと気がつく」。
最後のステップ、一番人間として大事なステップに気がつく。
そういう人たちの中にしばしばそういうことが起こってくるんですね。
これは、平成三年九月十五日に、NHK教育テレビの
「こころの時代」で放映されたものである