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2019年06月17日
すこやかな人生?G 日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
最終的には、心の働きの脳内メカニス?ムについて述べていきます。
すこやかな人生?G
日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
九州名誉教授。北九州市立小倉病院名誉院長。日本心身医学会理事長。
自律調整法国際委員会委員長。国際心身医学会前理事長。医学博士。
著書「セルフコントロールの医学」「自己分析」「心で起こる体の病」「心療内科」ほか
平成三年九月十五日 放送
井筒屋: そういう方はどのぐらい割合でいらっしゃったんですか。
池見: それが最近では千人に一人ぐらいおることがわかったんですね。
しかもこれには科学的な根拠があるということもわかってきたんです。
それをちょっと実例をお目にかけたいんですが、
この方は六十五歳になる、ある医科大学の名誉教授で病理学の有名な方なんです。
この方がこの写真で見ますと、左側の肺の方は真っ白くなっていますね。
これが癌で、これに気がつかれた時は、こんなに大きくなっていたんですね。
井筒屋: 正面左手の方が右の肺で、白くなっているところが癌なんですか。
池見: そうなんです。上の方に詰まったようになっているでしょう。
それでこの方が病理学者ですから、自分で自分の癌がわかるんですね。
顕微鏡検査をしてみられると悪性の肺癌ですね。
だから自分の同僚なんかに、この方は、「俺はあと半年の命だ」と自分で言っておられた。
実は長いこと信仰しておられたんですよ。
ところがその最後の蜀山人の「俺が死ぬとはこれは堪らん」というところだけはどうしても越えられない。
特に自分がそうなってみて、はじめて気がつかれた。
「あと半年の命」と言われると、
みんなヤケになったり、憂鬱になったりして、すぐ死ぬんですね。
ところが、「あ、あと半年も私はいのちを頂いておる」と思って、
それからそれこそ毎日毎日が拝んで暮らすような生活になられた。
ふと気がついてみると、「自分はこれまで六十五年間も生きてきた人生というのは、
周囲の無数の人のお蔭で生きてきた人生であった」
ということがはっきりわかるわけです。
そうなった時に。これ悟りでもなんでもない。
もっとも科学的なことなんですね。
一番人間が気づかなければならない一番当たり前のことに、
人間は気がつかないわけですね。
それに気付かれまして、この方は、癌でいのちがあと半年となってから、
ますます病院の仕事に熱心になられる。
この方は、病理学者ですから病院の顕微鏡でいろんな検査をされていた。
それから実に十七年間生きられました。
井筒屋: 「あと半年」と言われたのに?
池見: そうです。十七年間生きられた。
そして亡くなられた時に解剖された—ご本人が言うものですから。
腸閉塞で亡くなったんです。
腸閉塞という癌とは関係のない病気ですよ。
肺のほうに癌は残っていたそうです、小さくなって。
ですから、末期の癌患者で、そのことが告知された後、
癌が自然に退縮ないし消失して、予想を大きく上回って生存する。
これを「癌の自然退縮(たいしゅく)」と言います。
人生を生きながら、生きる意味や生きがいについて考え、
その考え方、生きざまの変化が心身の健康に重大な変化を及ぼす
動物と異なる人間の本質がありますね。
井筒屋: それはレントゲンで比較してもハッキリわかるわけですね。
池見: 左の写真が、一年十ヶ月経った時のものです。
向かって左の方綺麗になっています。治ったんではないんですけれども、自然退縮した。
井筒屋: 右の写真が、最初の末期癌と宣告された時のものですね。
池見: そうです。
井筒屋: それから何年も経って、左の写真のように綺麗になった?
池見: はい。中川俊二先生も、私も、この頃十四、五年前でしょう。
日本でこういうことを言ったら、「心身医学をやっている奴は、少し頭がおかしいぞ!
宗教かぶれしているんだ!」と言われるのがこわいものですから、
ドイツの雑誌にこっそり投稿したんです。
井筒屋: こっそりですか?
池見: ほんとにそうなんです。
そうしたら、外国の有名な学者たちはどんどん増えてきたんです。
その一人が、ハーバード大学のロックという精神科の助教授です。
この人が「精神神経免疫学」と言いまして、
生命力・自然治癒力の核になるのに免疫がある、
ということがわかってきたんです。
これが私どもの血液の中にリンパ球というのがありますね。
あの中にわれわれの体に入ってきたエイズなんかのウイルスを見つけて喰い殺す。
その癌細胞を見つけて喰い殺す。
そういう免疫というのがあることがわかってきたんです。
これが中川先生が私どもが見た、この胃ガンの患者さんで、
やっぱりそういう自然退縮が起こってきた人の癌細胞、真ん中が丸いのがありますね。
その周囲にたくさん小さな兵隊が押し寄せてきていますね。
あれがリンパ球ですね。あんなに癌を包んでやっつける。
そういう免疫の力が人間が自分のいのちの本来の姿、
人間としてのあるべき姿に目覚めた時に、
生命力が一番活性するというのは、これは一番素晴らしい事実だと思うんですね。
それでそのロック助教授がアメリカへ数年前に『内なる治癒力』という本を出しまして、
これが大変いい本になったんですね。
その本の一番初めのところに私の研究を紹介してあります。
それが私の監修で、『内なる治癒力』という本が大阪の創元社から出ています。
今、日本でも随分広くみなさんに関心もって読んで頂いております。
結局、われわれの自然治癒力の柱は、
自律神経、ホルモン、免疫と。
この免疫ができました時に、免疫の働きというのは、
実は脳の働きと非常に深い関係がある。
これはさっき触れましたけれども、「精神神経免疫学」という。
今まで一番心と関係がないと思っていた癌が案外深い関係がある。
エイズなんかも。
そうしますと、こういう人間が、
「自己の本来に目覚める時に、人間が一番健やかになる」という原理を、
私は日本中の中高年の方にわかって頂くこと。
それを若い世代に少しでも伝えて頂くことが、
私は非常に大事な生きがいになるんじゃないかと思います。
井筒屋: 先生は、「生きがい療法」という言葉もありますけれども、
こう治っていこうという気持が、先生の免疫のシステムにも活性化していくと、
池見: 治っていくというよりは、
残された大事な仕事があるから頑張らなければいけないという、
ファイティング・スピリット(fighting spirit:闘志)も非常に大事ですね。
ところがさっき申しましたように、
「天地自然から頂いたいのちを、今日も生かして頂いておる」と。
よく「一期一会」と言いますね。
すなわち、限りあるいのちを生きる身として、
今・ここでたてる一椀の茶にベストをつくし、
この茶室での客人との出会いを最後と心得て愛情をこめてもてなすといった深い知恵が教えられます。
これなどは日本のわび・さびの文化を象徴するものとされています。
東洋はそういう生きるための心情も日常生活にちゃんと入れていたんです。
日本では昔から、東洋の「道」を通して、人づくりにいたる方法が、
哲学的、宗教的なレベルをこえて、日常生活の中に深くしみこみ、
茶の湯、生花、舞踊、武術などが、「道」にまで高められていたのが特徴です。
日常的営みのすべてを、「道」にまで高めようとする東洋の深い知恵にもとづくものです。
「今日も一日、生かしていただき、ありがとうございます。みなさん、ありがとうございます」と。
それが東洋ではちゃんと昔から「道」になっておって、
この「道」を、われわれが科学を通して、いま世界に広めることが、
私はこれからの今の二十世紀の危機から脱する一つの決め手ではないかと思っています。
井筒屋: なるほど。そういう道に添ったうえで、
もう一度お年寄りの方に生きがいについて、一言お願いします。
池見: 私どもの生きがいは、さっき申しましたように、パスカルにありましたように、
一人ひとりが他の人によって置き換えることのできない独特な役割を持っておる。
父親は父親、母親は母親、子どもは子どもですね。
その役割をみんなとの調和の中で生かされているいのちに感謝しながらやる。
そういうふうになった時にすべてがうまくいく。
人間としての一番深い気づきは個々の内なるいのちと外なる自然のいのちとの交流、
生きとし生けるものの限界としての死への目ざめではないでしょうか。
井筒屋: どうもありがとうございました。
これは、平成三年九月十五日に、NHK教育テレビの
「こころの時代」で放映されたものである
すこやかな人生?G
日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
九州名誉教授。北九州市立小倉病院名誉院長。日本心身医学会理事長。
自律調整法国際委員会委員長。国際心身医学会前理事長。医学博士。
著書「セルフコントロールの医学」「自己分析」「心で起こる体の病」「心療内科」ほか
平成三年九月十五日 放送
井筒屋: そういう方はどのぐらい割合でいらっしゃったんですか。
池見: それが最近では千人に一人ぐらいおることがわかったんですね。
しかもこれには科学的な根拠があるということもわかってきたんです。
それをちょっと実例をお目にかけたいんですが、
この方は六十五歳になる、ある医科大学の名誉教授で病理学の有名な方なんです。
この方がこの写真で見ますと、左側の肺の方は真っ白くなっていますね。
これが癌で、これに気がつかれた時は、こんなに大きくなっていたんですね。
井筒屋: 正面左手の方が右の肺で、白くなっているところが癌なんですか。
池見: そうなんです。上の方に詰まったようになっているでしょう。
それでこの方が病理学者ですから、自分で自分の癌がわかるんですね。
顕微鏡検査をしてみられると悪性の肺癌ですね。
だから自分の同僚なんかに、この方は、「俺はあと半年の命だ」と自分で言っておられた。
実は長いこと信仰しておられたんですよ。
ところがその最後の蜀山人の「俺が死ぬとはこれは堪らん」というところだけはどうしても越えられない。
特に自分がそうなってみて、はじめて気がつかれた。
「あと半年の命」と言われると、
みんなヤケになったり、憂鬱になったりして、すぐ死ぬんですね。
ところが、「あ、あと半年も私はいのちを頂いておる」と思って、
それからそれこそ毎日毎日が拝んで暮らすような生活になられた。
ふと気がついてみると、「自分はこれまで六十五年間も生きてきた人生というのは、
周囲の無数の人のお蔭で生きてきた人生であった」
ということがはっきりわかるわけです。
そうなった時に。これ悟りでもなんでもない。
もっとも科学的なことなんですね。
一番人間が気づかなければならない一番当たり前のことに、
人間は気がつかないわけですね。
それに気付かれまして、この方は、癌でいのちがあと半年となってから、
ますます病院の仕事に熱心になられる。
この方は、病理学者ですから病院の顕微鏡でいろんな検査をされていた。
それから実に十七年間生きられました。
井筒屋: 「あと半年」と言われたのに?
池見: そうです。十七年間生きられた。
そして亡くなられた時に解剖された—ご本人が言うものですから。
腸閉塞で亡くなったんです。
腸閉塞という癌とは関係のない病気ですよ。
肺のほうに癌は残っていたそうです、小さくなって。
ですから、末期の癌患者で、そのことが告知された後、
癌が自然に退縮ないし消失して、予想を大きく上回って生存する。
これを「癌の自然退縮(たいしゅく)」と言います。
人生を生きながら、生きる意味や生きがいについて考え、
その考え方、生きざまの変化が心身の健康に重大な変化を及ぼす
動物と異なる人間の本質がありますね。
井筒屋: それはレントゲンで比較してもハッキリわかるわけですね。
池見: 左の写真が、一年十ヶ月経った時のものです。
向かって左の方綺麗になっています。治ったんではないんですけれども、自然退縮した。
井筒屋: 右の写真が、最初の末期癌と宣告された時のものですね。
池見: そうです。
井筒屋: それから何年も経って、左の写真のように綺麗になった?
池見: はい。中川俊二先生も、私も、この頃十四、五年前でしょう。
日本でこういうことを言ったら、「心身医学をやっている奴は、少し頭がおかしいぞ!
宗教かぶれしているんだ!」と言われるのがこわいものですから、
ドイツの雑誌にこっそり投稿したんです。
井筒屋: こっそりですか?
池見: ほんとにそうなんです。
そうしたら、外国の有名な学者たちはどんどん増えてきたんです。
その一人が、ハーバード大学のロックという精神科の助教授です。
この人が「精神神経免疫学」と言いまして、
生命力・自然治癒力の核になるのに免疫がある、
ということがわかってきたんです。
これが私どもの血液の中にリンパ球というのがありますね。
あの中にわれわれの体に入ってきたエイズなんかのウイルスを見つけて喰い殺す。
その癌細胞を見つけて喰い殺す。
そういう免疫というのがあることがわかってきたんです。
これが中川先生が私どもが見た、この胃ガンの患者さんで、
やっぱりそういう自然退縮が起こってきた人の癌細胞、真ん中が丸いのがありますね。
その周囲にたくさん小さな兵隊が押し寄せてきていますね。
あれがリンパ球ですね。あんなに癌を包んでやっつける。
そういう免疫の力が人間が自分のいのちの本来の姿、
人間としてのあるべき姿に目覚めた時に、
生命力が一番活性するというのは、これは一番素晴らしい事実だと思うんですね。
それでそのロック助教授がアメリカへ数年前に『内なる治癒力』という本を出しまして、
これが大変いい本になったんですね。
その本の一番初めのところに私の研究を紹介してあります。
それが私の監修で、『内なる治癒力』という本が大阪の創元社から出ています。
今、日本でも随分広くみなさんに関心もって読んで頂いております。
結局、われわれの自然治癒力の柱は、
自律神経、ホルモン、免疫と。
この免疫ができました時に、免疫の働きというのは、
実は脳の働きと非常に深い関係がある。
これはさっき触れましたけれども、「精神神経免疫学」という。
今まで一番心と関係がないと思っていた癌が案外深い関係がある。
エイズなんかも。
そうしますと、こういう人間が、
「自己の本来に目覚める時に、人間が一番健やかになる」という原理を、
私は日本中の中高年の方にわかって頂くこと。
それを若い世代に少しでも伝えて頂くことが、
私は非常に大事な生きがいになるんじゃないかと思います。
井筒屋: 先生は、「生きがい療法」という言葉もありますけれども、
こう治っていこうという気持が、先生の免疫のシステムにも活性化していくと、
池見: 治っていくというよりは、
残された大事な仕事があるから頑張らなければいけないという、
ファイティング・スピリット(fighting spirit:闘志)も非常に大事ですね。
ところがさっき申しましたように、
「天地自然から頂いたいのちを、今日も生かして頂いておる」と。
よく「一期一会」と言いますね。
すなわち、限りあるいのちを生きる身として、
今・ここでたてる一椀の茶にベストをつくし、
この茶室での客人との出会いを最後と心得て愛情をこめてもてなすといった深い知恵が教えられます。
これなどは日本のわび・さびの文化を象徴するものとされています。
東洋はそういう生きるための心情も日常生活にちゃんと入れていたんです。
日本では昔から、東洋の「道」を通して、人づくりにいたる方法が、
哲学的、宗教的なレベルをこえて、日常生活の中に深くしみこみ、
茶の湯、生花、舞踊、武術などが、「道」にまで高められていたのが特徴です。
日常的営みのすべてを、「道」にまで高めようとする東洋の深い知恵にもとづくものです。
「今日も一日、生かしていただき、ありがとうございます。みなさん、ありがとうございます」と。
それが東洋ではちゃんと昔から「道」になっておって、
この「道」を、われわれが科学を通して、いま世界に広めることが、
私はこれからの今の二十世紀の危機から脱する一つの決め手ではないかと思っています。
井筒屋: なるほど。そういう道に添ったうえで、
もう一度お年寄りの方に生きがいについて、一言お願いします。
池見: 私どもの生きがいは、さっき申しましたように、パスカルにありましたように、
一人ひとりが他の人によって置き換えることのできない独特な役割を持っておる。
父親は父親、母親は母親、子どもは子どもですね。
その役割をみんなとの調和の中で生かされているいのちに感謝しながらやる。
そういうふうになった時にすべてがうまくいく。
人間としての一番深い気づきは個々の内なるいのちと外なる自然のいのちとの交流、
生きとし生けるものの限界としての死への目ざめではないでしょうか。
井筒屋: どうもありがとうございました。
これは、平成三年九月十五日に、NHK教育テレビの
「こころの時代」で放映されたものである