前回のコラム59で、紅林刑事(横光克彦)の母親探しのドラマについて紹介しました。結局、別人だったわけですが、その続編というか、完結編にあたるのが第315回「面影列車!」です。
私だけの特捜最前線→59「母・・・・・・・・・〜紅林刑事が語る母への思い、子への思い」
紅林の母の消息は?
紅林が昔逮捕し、更生した男性と妻が殺されて発見されました。男性は「紅林に恩返しができる」と話していたそうで、何かを知らせるために静岡県から上京してきたのだと、紅林は推測しす。
夫婦には子供がいました。紅林がちょうど、母親と生き別れになったのと同じ年代です。葬式でも無邪気にふるまっていたのですが、両親のお墓で泣きじゃくりながら土を掘り返す姿を紅林は目撃します。
すがりついて泣きじゃくる子供に対し、紅林は 「明日泣くんだよ。今日はこらえて笑ってみせるんだよ」と言ってなぐさめます。どうしてこの言葉が出てきたのか、彼自身もわかりませんでした。
捜査をしていくうち、男性は紅林の母親の消息について手がかりをつかんだらしいことが分かります。紅林にとって男性の足取りを追うことは、同時に生き別れの母親に会える可能性も示唆していたのです。
ところが、母親はすでにこの世の人ではありませんでした。30年近く思い続けていた再会がかなわず、墓前で涙にくれ、あの子供と同じように墓の土を掘り返そうとする紅林。
その時、紅林の脳裏に「明日泣くんだよ。今日はこらえて笑ってみせるんだよ」という言葉が浮かんできます。なぜだか分かりません。ですが、この言葉に励まされ、悲しみをこらえて捜査を続行します。
母親が残してくれた「形見」
母親は、1年前に交通事故で亡くなっていました。母親は、身寄りのない子を養女に引き取って育てていたこともわかりました。つまり、紅林にとっては 血のつながらない妹がいたのです。
兄と名乗る男とともに上京した妹のもとを紅林らは訪ねます。しかし、妹は紅林を兄とは信じず、追い返してしまいます。紅林には母親の形見が何一つなく、母親の子であることを証明できなかったのです。
にせものの男は、母親の保険金目当てで妹に接近したのではないかと判明。妹が男と落ち合うだろうと見越し、特命課は妹を尾行して大井川鉄道のSL列車を追跡します。
妹は保険金の通帳をだまし取られ、殺されかけましたが、すんでのところで逮捕されます。信じていた兄がにせものだったと知り、妹は泣き崩れてしまいます。紅林が妹に寄り添った時、あの言葉が浮かんできたのです。
「明日泣くんだよ。今日はこらえて笑ってみせるんだよ」。それを聞いた妹は「兄さん?」と驚き、その言葉が母親の口癖だったと話しました。幼い紅林の心に刻み込まれていた母親の形見だったのです。
母と子の深い絆を描いた名作
このドラマの肝は、なんといっても「明日泣くんだよ。今日はこらえて笑ってみせるんだよ」という言葉です。母親の言葉だということは想像がつきましたが、 兄と妹を結びつけるキーワードにしたのは見事です。
ドラマのストーリーにひねりはなく、最初から「紅林の母親探し」が軸になっていたことは分かりました。秀逸なのは、紅林ら特命課がどうやってそこにたどり着くかという過程を丹念に追っている点だと思います。
紅林の母親への思いは、前回作「母・・・・・・・・・」の取調室のシーンで切々と語られ、容疑者への激しい言葉としてぶつけられていました。それだけに、紅林がお墓を見た時の無念さは想像に難くありません。
一方で、母親の方も、生き別れになった紅林への思いが、手掛かりとなった「絵馬」に託された願いから浮き彫りになりました。絵馬には「再会祈願」と記されていたのです。
紅林の母親は、どんな思いで絵馬を託していたのでしょうか。いつか必ず会えると信じていたに違いありません、それだけに、交通事故という不慮の死は無念だったことでしょう。
特捜最前線らしい激辛なストーリーなのですが、たとえ離れ離れであっても 母と子の深い絆は決して切れるものではない・・・そんなメッセージを強烈に訴えかけた名作と言えるでしょう。
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