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2018年11月05日

自己責任問題其の三(十一月一日)




 誘拐なんてものは、どんなに入念に準備して対策を練っていたとしても、遭うときには、いや遭う人は遭ってしまうもので、多少対策が足りなくても遭わない人は遭わないものである。誘拐でなくても、例えば悪名高いプラハのスリでも、すられる人はどんなに警戒していても何度もすられるし、すられない人は特に警戒なんぞしていなくてもすりには遭わないものである。一日に二度、朝は財布を取られて、午後は携帯をとられたなんて人もいたなあ。だから、一度戦場取材で被害にあった時点で、次は大丈夫などと考えずに、紛争の現場での取材からは手を引くべきだったのだ。それなのに、手を引かずに再びのこのこと紛争地帯に入って誘拐されることで、次なる日本人が誘拐組織に狙われる可能性を高めた責任は大きい。

 こう考えると、解放されたジャーナリストが果たすべき責任は二つである。一つは、国に対する責任で、国の反対を押し切って、しかもジャーナリストであることを振りかざして取材に向かったというのだから、何もなしというのはありえないだろう。誰かが登山で遭難したときと同じ扱いでいいんじゃないのとコメントしていたが悪くない。
 ジャーナリスト側は、またぞろ登山と取材は違うとか言い出すのだろうが、そんな特別扱いはしてはならない。ただでさえ勘違いしたマスコミをますます付け上がらせるだけである。山とは違って、渡航の禁止が出ている場合で職業がジャーナリストかマスコミ関係者に限るということにしておけば、一般の観光客や普通の仕事で外国に出なければならない人たちには実害はあるまい。

 もう一つの責任は、国民全体を危険にさらしたことである。今回の件で国外の日本人が狙われる可能性が僅かとはいえ上昇したのは間違いない。おまけに記者会見で日本政府には身代金を払う用意があったなんて事をばらしてしまった。国としてはあれでよかったのかね。誘拐組織における日本のカモ度が上がっていなければいいのだけど。
 こちらはヨーロッパでもチェコという比較的安全なところに住んでいるから、そこまでテロだの誘拐だのに対して危機感を持っているわけではないけれども、日本にいた頃に比べれば、テロのあるなしにかかわらず慎重に暮らしているつもりである。それは日本語の通じない、日本とは制度の違う外国に暮らしていれば当然といえば当然なのだけど、だからこそその慎重さを台無しにしてくれるような行動には、過敏に反応してしまう。チェコに住んでいる人間でもこうなのである。紛争地域の近くで仕事をし、生活をしている人たちは今回の件をどう考えているのだろうか。
 仮にジャーナリストが取材のために特別扱いをされるべきだとしても、その行動で他の人の安全を脅かしていいことにはなるまい。捕まるのが一回目というなら、まだ許容できるけど、一度誘拐された人間が反省することなく再び取材と称して出て行くのは、やめてもらいたい。現地からの報道の大切さというのはわかっているつもりなので、紛争地帯での取材を禁止しろと言う気はない。国の禁止を振り切っていくのもいいだろう。ただ、誘拐されるなどの失態を犯した場合には、きっぱりと現地取材からは手を引くのが責任の取り方ってもんじゃないのかと考えるのである。

 国全体を巻き込むようなリスクにふさわしい取材ができているのかどうかはまた別の話だけれども、日本の戦地からの報道を知らない人間には評価しようがない。
2018年11月4日20時55分。











タグ: マスコミ
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