記事 を見つけた。先週の記事だけど、先週は読める環境になかったので今日になって読んだ。
さて、日本では一般に「シャープペンシル」と呼ばれるものを、沖縄の石垣島で「シャールペンシル」という方言を使っているという。記事を書かれた神永氏は、シャープがシャールとなる変化について、「ボールペン」との混同を考えておられるようだけど、チェコにいて、チェコ式英語読みになれてしまった頭には、石垣島の方言にチェコ式発音との共通性があるようにしか見えない。
このブログの最初のほうにあれこれ書いたように、チェコ語の外来語(ドイツ語起源の人名は除く)の発音は、一言で言ってとんでもないものが多い。傾向は二つあって、一つには、かたくなにチェコ語の発音のルールに基づいてアルファベットをローマ字読みしてしまう。もう一つは、英語などの元になった外国語の発音に過剰に合わせてしまう。そして、その場合には、つづりまで発音に合わせて変えてしまう。
前者の例としては、パズル(puzzle)が、ドイツ語の読み方の影響もあって、「プツレ」になったり、カプセル(capsule)が「カプスレ」、ひどい場合には「ツァプスレ」になったりするものが挙げられる。一応英語で「ca」が「カ」と読まれることが多いのはわかっている人が多いようである。後者の例としては、「camp」が「ケンプ」と読まれ、「kemp」と書かれるようになったものや、「team」が「ティーム」と読まれて、「tým」と書かれるようになったものが挙げられる。
当初後者の例としては、「ham and eggs」が、「ヘメネックス」と読まれて「hemenex」と書かれるのを挙げようかとも思ったのだが、最後の「eggs」が清音になっているのは、英語の発音ではなくチェコ語の発音の規則にのっとったものなので、両者の中間といえば言えるか。オストラバ方言の「fine」からできた「fajne」も、ヘメネックスの仲間と言ってよさそうである。
ここで、本題に戻ろう。シャープペンシルの綴りは「sharp pencil」である。この言葉がチェコ語に入ったとして、問題の前半部分どう読まれるかと考えると、「star」が「スタル」もしくは「スタール」と読まれることを考えると、「シャルプ」か「シャールプ」であろう。「sha」はさすがに「ズハ」とは読まないだろうし。そう言えば、日本の家電メーカーのシャープのことは「シャールプ」と呼んでいるなあ。ということで、石垣島の人たちも、同様に「sharp」を「シャールプ」と読んだのではないかと推測するのである。
この「シャールプ」の後ろに「ペンシル」を付けた場合に、「シャールプペンシル」というのは、いかにも言い難い。これは、パ行の音が重なるのが原因だろうが、「シャープペンシル」が普通に使われていることを考えると、もう一つ理由がありそうだ。それは恐らく、「シャールプ」の場合の語末の「プ」が、母音なしに弱く発音されることが原因であろう。さらにその前の「ル」も子音だけで発音されそうだし。その弱い「プ」にもう一つパ行の音が重なったために、前の「プ」が発音されなくなったと考える。
石垣島の方言と、チェコ語の英語からの外来語の導入には同様の傾向が見られるという、ここに書いた推測が正しいかどうかは、正直どうでもいい。こういうらちもない想像を楽しむのが、言語学とは縁のない、言葉好きのやり方というものである。ちなみに、チェコ語でシャーペンはペンテルカ(pentelka)という。
ところで、このジャパンナレッジの記事では、日本のシャープペンシルの歴史についても触れられていて、国産のシャープペンシルを最初に製造したのが、シャープの創業者で、「繰出鉛筆」という名称で販売していたことも書かれている。シャーペンとシャープは関係がないと思っていたけど、実はそんなことはなかったようだ。チェコ語のペンテルカも、日本の文房具会社のペンテルと関係があるのかもしれない。チェコ語は商標名から一般名詞化することが結構あるから。
それはともかく、繰出鉛筆という名前を見て思い出したのが、確か高校時代に、みんなシャーペンを使っている中で、ある友人が使っていた、シャーペンの細い芯ではなく、鉛筆の芯と同じ太さのものを使って、ノックではなく、回転させることで芯を出すタイプの筆記具だ。小学校でシャーペンの使用が禁止されていたときも、これは鉛筆の芯を使っているからシャーペンじゃないと言って使えたとか言っていたかなあ。これを、つまりはシャーペンとは違う筆記具を、繰出鉛筆と呼ぶのかと思っていた。
2019年8月12日22時45分。
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