もう一つよくわからないのが、ギリシャである、チェコ語ではなぜか「?ecko」となっていて、最後の「cko」が国名や地域名に頻出する語尾であることを考えると、意味のある部分は「?e」のはずなのだが、「?e」がどこから来たのかがわからない。さらによくわからないのが、子音「?」を持たないスロバキア語では、「r」で代用されることが多いのに、「?ecko」だけは「Grécko」になることである。ということは、チェコ語の外国の地名の語頭に現れる「?e」は、「gre」と対応しているということだろうか。
チェコテレビで放送されたドラマの「チェトニツケー・フモレスキ」の主人公アラジムの妻になるルドミラ・ホルカーには、父か母の違う兄がいて、この人物の名字がジェホシュ、チェコ語で書くと「?eho?」である。世界恐慌で経済の悪化したチェコスロバキアを出て、アメリカにわたり実業家として成功してチェコスロバキアに戻ってきたという設定なのだが、「?eho?」では覚えてもらえないどころか、発音さえしてもらえないということで、英語風の名字を使っている。それがマックグレゴルで、最初の「マック」はともかく、グレゴルは「Gregor」と書くだろうから、ここにも「?e」と「gre」の対応が見られるのである。
このグレゴルは、ラテン語の形だとグレゴリウスになり、ローマ教皇のグレゴリウスも、チェコではジェホシュと呼ばれている。一番有名なのはグレゴリオ暦に名前を残しているグレゴリウス13世だろうか。そのグレゴリオ暦は「gregoriánský kalendá?」ということになって、ジェホシュのジェの字も出てこないのだけどさ。
ここで思いついたのが、アイスホッケー界のヤーグルを越える英雄であるグレツキーのことである。綴りを見ると「Gretzky」になっているから、チェコ系ではないにしてもスラブ系の移民の子孫であることは明らかである。ツを「tz」と二文字で表記しているからポーランド語ぽいとは思うのだが、この人がチェコ系だった、「ジェツキー」という名字だったかもしれない。いや、ポーランド語でも、名字の意味は「ギリシャの」という形容詞だったのかもしれない。
そして「?e」で始まる外国の地名といえば、「?ezno」である。これがドイツのレーゲンスブルクだというのには、チェコ語を勉強し始めのころに、見ただけ、聞いただけではどこのことか理解できない地名として教えられたかもしれない。でも、この地名が本来グレーゲンスブルクだったとしたら、「?e」と「gre」の対応を考えると、ちょっと覚えやすくなるような気がしないでもない。まあ、レーゲンスブルクがグレーゲンスブルクだったなんて話は、どこにも存在しないので、単なる妄想の類なんだけどね。
大学書林で出している『チェコ語日本語辞典』には「gre」で始まる言葉は一つも立項されていない。これも外国語の語頭の「gre」が「?e」に対応することを裏付けるなんて、えらそうなことを書こうとして、「grep」の存在を思い出した。グレプと読むこの言葉、日本のグレープとは似て異なるものである。グレープジュース、つまりブドウのジュースは、チェコ語では「hroznový d?us」になる。形容詞のもとになった「hrozen」がブドウだけをさすのかどうかは難しいところだが、ワインを意味する「víno」でブドウを表わすこともある。
チェコ語のグレプは、グレープはグレープでもグレープフルーツをさす言葉である。「grepový d?us」とあるのを見てグレープだと思って注文すると、予想とは違ったものが出てきて困惑することになる。お店で買うなら液体の色やパッケージでブドウではないことが理解できると思うけどね。グレープフルーツの「gre」が「?e」になって、「?ep」にはならなかったのは、チェコで手に入るようになったが遅かったからだろうか。それなら素直に「grépfruit」と書いて、「グレープフルイト」と読んでもよさそうだけど、長くて省略されたかな。
うーん、Gではなくて、?の話になってしまった。
2019年9月11日24時30分。
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