それはさておき、チェコ語にサテリットという言葉がある。外来語で日本語のカタカナ英語のサテライトと同じものを語源にしているから、衛星、特に人工衛星を指すのに使われる言葉である。そして日本語で衛星都市と呼ばれる大都市の周辺に成長する都市のこともこの言葉で表す。もちろんチェコなので衛星都市というよりは、衛星村、衛星町の類だが、チェコ的には大都市であるオロモウツの周辺にもいくつかサテリットと呼ばれる村や町がいくつか存在する。
このての町には共通する特徴があって、古い村の外側に新たに造成された住宅地が広がり、本来の村とはまったく違った雰囲気を作り出している。住人の大半は、都市部を拠点に実業家として資産を形成した人たちで、生活の場として都市に近い田舎を選んだということのようだ。そのため無駄に立派な家を建てることが多く、最近はそこまで醜悪なものは減ったけれども、「ポドニカテルスケー・バロコ」と呼ばれる「建築様式」を生み出していた。
そんなサテリット、衛星住宅地が一番多く形成されているのは、当然プラハの周辺なのだが、昨年来、そんな金持ちの集まる住宅地を狙った泥棒のグループが繰り返しニュースをにぎわしている。このグループは、夜中に泥棒に入るのではなく、日没後の暗くなったばかりの時間に、住人の帰宅していない家を探して庭に忍び込み、誰もいないことを確認すると窓ガラスを割って侵入し金目のものをかき集めてすぐに逃走するらしい。
警察でも警戒を強めて、この手の住宅地でのパトロールを強化しているようだが、ある程度金目のものを手に入れたらすぐに逃走するというスタイルに、後手後手に回っている。警察もすべての衛星住宅地で毎日日没後のパトロールを行えるほど人員が豊富ではないため、地域によっては住民たちが共同で自警団を作って、見知らぬ人が入らないように検問のようなことをしているようだが、これも長期にわたって毎日続けられるようなものでもない。
住民たちは防犯カメラや、警報装置の設置などの対策も進めているようだが、警察の警備、捜査も含めて、犯人たちにつながる手がかりは、ほとんど残されていないようだ。ニュースでは防犯カメラに映った犯人たちの様子も流されたが、それだけで人物を特定できるようなものではなく、今後もしばらくは被害が続くことになりそうだ。救いは空き巣狙いなので、人的な被害が出ていないことぐらいである。
それにしても、昨年のドレスデンでの博物館へ侵入した泥棒もそうだけど、窓ガラスを叩き割って侵入して短時間に集められるものだけを集めて逃走するという、何の芸のない犯行のほうが捕まりにくいのだな。防犯対策が進んでも、こういう原始的な犯罪にはなかなか有効な手が打てないようだ。落とし穴のような罠でも仕掛けて捕らえるというのはどうだろうなんてことを考えてしまった。
盗まれたことも気づかせないような芸術的な泥棒というのは、池波正太郎や半村良の江戸物に登場するだけで、現実的ではないのだろう。盗まれたことに気づかないからニュースにならないという可能性もあるか。その意味では制度を上手く利用して国家から盗む政治家が一番の芸術的泥棒というのは古今東西変わらない。うーん。うまく落ちなかった。
2020年2月12日18時30分。
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