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2020年03月20日

冷戦期のチェコSF ネスバドバ(三月十七日)





 それはともかく、今から考えるとちょっと以外にも思えるが、冷戦の時代にソ連を初めとする、いわゆる東側のSF作品が高く評価され、かなりの数の作品が日本語に翻訳され出版されていた。代表格としてはポーランドのスタニスワフ・レムの名前を上げることができるだろう。読んだことはないけど、「泰平ヨン」シリーズなんて、題名からして驚きである。
 我らがチェコの場合には、レムほどの大物のSF作家は存在しないが、何人かのSF短編がいろいろなアンソロジーに収録されている。SF的な作品も書いた大物作家なら、チェコにもカレル・チャペクがいるんだけど、執筆した時代は冷戦どころから第二次世界大戦前だからなあ。



?@千野栄一訳「アインシュタインの頭脳」(『現代東欧幻想小説』、白水社、1971)
 日本で最初に紹介された作品は、1960年に刊行された短編集『Einstein?v mozek』に収められた同名の短編で、以下?Cまではこの本からの訳出。内容は分からないけど、アインシュタインを題材にした映画との関連性が気になる。『現代東欧幻想小説』、どこかの出版社で再刊してくれんかな。ということで「復刊ドットコム」で確認したら15票しか入っていなかった。これじゃあ復刊は無理だなあ。興味のある人向けにリンクを貼っておく。
https://www.fukkan.com/fk/VoteDetail?no=15156


?A訳者不明「クセーネミュンデの精薄児」(『世界SF全集』第33巻、早川書房、1971)
 SFの高度成長期だったのだろう。『世界SF全集』なんて今ではとても考えられない企画である。文学全集自体がほぼ無理かな。この全集の33巻は「現代短編集ソ連・東欧篇」と題されているのだが、個々の作品の訳者名が国会図書館のオンライン検索では確認できなかった。原題は「Blbec z Xeenemünde」、チェコでは映画化もされているようである。でも、うーん、「精薄児」かあ。現在なら差別用語として言葉狩りの対象になりそうだな。クセーネミュンデは、原題からすると架空の地名か。


?B栗栖継訳「ネモ船長の最後の冒険」(『異邦からの眺め』、早川書房、1981)
 ネモ船長というのは、例のジュール・ベルヌ作の『海底二万里』の登場人物だろうか。原題は「Poslední cesta kapitána Nema」。『異邦からの眺め』は海外で編集されたアンソロジーを翻訳したもの。最初から文庫版で刊行されたようだ。チェコの作品はこの一篇だけしか収録されていないが、東側の作品が多いのかな。「復刊ドットコム」でのリクエストは7票だけ。


?C平野清美訳「裏目に出た発明」(『チェコSF短編小説集』、平凡社、2018)
 現在でも手に入る唯一のネスバドバ作品が、平凡社ライブラリーに収録されたこの作品。原題は「Vynález proti sob?」。電子書籍化もされているみたいだから、買って読んでみようかな。非常事態宣言で職場に出なくてもよくなったというか、出るなって言われてるし。古くはSFかという疑問はあるけど、ハシェクから、今でもときどきテレビで見かけるオンドジェイ・ネフの作品まで入っている。ネフというと、なぜだか、サッカー解説者のルデク・ゼレンカの顔が思い浮かぶんだけど、似てるのかなあ。

『チェコSF短編小説集』



?D深見弾訳「ターザンの死」(『東欧SF傑作集』下、東京創元社、1980)
 次は、1958年刊の同名の短編集に収められた作品。これも映画化されている。深見弾は旧共産圏のSF作家の作品を積極的に翻訳紹介した人である。ロシア語からの翻訳なのかな。著者名表記が「ネズヴァードバ」となっているのがちょっと残念。『東欧SF傑作集』は2003年に復刊されているが、残念ながら現在ではすでに絶版で入手できない。「復刊ドットコム」でのリクエストは8票だけ。

『東欧SF傑作集』下 絶版



?E団精二訳「吸血鬼株式会社」(『時のはざま』、早川書房、1977)
?F深見弾訳「吸血鬼株式会社」(『遥かな世界果しなき海』、早川書房、1979)
 わずか2年の間を置いて同じ出版社から刊行された短編集に、別の訳者による翻訳が収録されたという珍しい例になっている。別の出版社の本ならあってもおかしくないと思うのだけど。海外で編集された短編集二冊にたまたま同じ作品が収録されていたということか。原典は「Upír ltd」で1962年刊の『 Výprava opa?ným sm?rem(反対側への遠征)』に収録されている。
 とまれ『時のはざま』は、「ワールズ・ベスト」と題された全4巻のシリーズの第1巻。「復刊ドットコム」の解説によれば、当時権威のあった年間傑作集の翻訳らしい。アメリカで編集されたものかな。訳者の団精二は、あの荒俣宏の筆名の一つ。この名義で翻訳したのは、ファンタジーだけじゃなかったようだ。
 もう一冊の『遥かな世界果しなき海』は、ポーランドを中心にしたソ連、東欧の作家のアンソロジーのようである。この深見訳は、1981年刊の『世界カーSF傑作選』(講談社文庫)にも収録されている。「吸血鬼株式会社」でカーSF? うーんわからん。


?G栗栖継訳「絶対機械」(「SFマガジン」第23巻2号、早川書房、1982.2)
 残念ながら雑誌掲載だけで単行本には収録されなかったようだ。原典は「Absolutní stroj」で『 T?i dobrodru?ství 』(1972)所収。

 次はやり方をちょっと変えよう。
2020年3月18日24時。











タグ: SF 翻訳
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