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2020年09月14日

老眼鏡続(九月十一日)





 お店に入るとすぐに声をかけられて、新しい眼鏡を買いたいという要望を伝えた。ついでに今欠けているのと同じようなフレームで、ちょっとだけどの強いレンズでお願いしたいんだけどと付け加えた。そうしたら、フレームはいくつも見繕ってくれて試せたのだけど、レンズに関しては、適切な度数を計測したほうがいいよと、できれば避けたかったことを勧めてきた。
 時間がかかるでしょうとか、あれこれいいわけを並べながら、フレームを選ぼうとするのだけど、かけて鏡を見ても、度が入っていないからちょっとぼやけてどんな感じかいまいち確認できない。サイズさえあえばどれでもいいやと、かけ心地のいいものを選んでかけかえていたら、お店の人がみんなで感想を言ってくれたので、参考にさせてもらった。この時点では値段なんて気にもしなかった。クーポンだから高くてもいいのである。



 フレームを選び終わったところで、再び計測した方がいいよという説得が始まって、こちらもそれが正しいことはわかっていたので、拒否し続けることはできなかった。幸い、ちょうど担当者がいて部屋が空いていたこともあって、その場で計測されることになった。昔日本でも眼鏡を作るときに使った機械で、遠くに赤い屋根の建物を見ることで何かを測定した後、ダミーのフレームにレンズを入れたり抜いたり重ねたりしながら最適なレンズを決めていく。
 壁に照射された視力測定用の文字が、裸眼では完全ににじんで、文字があるのかさえ判然としないのにショックを受けてしまった。日本でお店の人に、近視が進みましたねえと言われたときは、まだ何かがあるのは見て取れたと思うのだけど、日々コンピューターで目を酷使しているのがいけないのかなあ。

 コンピューターの画面が見づらくなるときがあるとか、本を読むときには眼鏡を外して読むとか言う話をしていたら、いくつかの大きさで同じ文が印刷された紙を渡され、一番小さい文字まで読めるか、不快感は感じないかなんて質問をされた。最後に、遠くを見るのから、コンピュータの使用、本を読むときにまで使える度数が滑らかに変わっていくレンズにしませんかと言われた。
 そうなのだ。だから、計測なんかしたくなかったんだ。ようは遠近両用の眼鏡、つまりは老眼鏡が必要だということである。何年か前に知人に老眼鏡が必要になっちゃってと愚痴られたときに、近視だけの眼鏡で十分だよと強がったのに、自分も必要になるとは。いや、近視用の眼鏡をかけると本を読むのが辛くなって久しいのだから、うすうすとわかってはいたのだ。それでも年老いたことを実感させられる現実なんて知りたくなかった。

 そんな葛藤を胸に、ええでもとか、抵抗したのだが、それなら読書用とコンピューター用の眼鏡も必要になるとか言われて抵抗をあきらめた。普通の近視用のレンズと値段に大した違いはないともいわれたし、高くてもどうせクーポンだからいいや。値段よりも老眼鏡ってのが嫌だなあ。人にどう思われるかってのはどうでもいいのだけど、老眼鏡をかける自分というのが想像もしたくない。

 その後は、店頭に戻ってレンズをどうするかの相談。基本的な機能以外に、圧縮するとか、青い光を遮断する機能をつけるとか、いくつかオプションがあって、付けるたびに値段が上がっていくのだが、毒を食らわば皿までで、どうせクーポンだし、一番高いバージョンのレンズでお願いした。フレームと合わせて、1万2千コルナ超。想定の二割五分ましだった。注文の際に保証金が必要だというので、超の部分だけカードで支払う。保証金にはクーポンは使えないらしい。
 受け取りは九月末。そのときに額面百コルナのクーポンを120枚持っていくことになる。それだけ使ってなお、今年の年末に有効期限が切れるクーポンが数十枚残る。うちのと二人でとはいえ使いきれるだろうか。それに加えて来年の年末までのもあるし、年末にはまたもらえるしで、今回注文した眼鏡だったら毎年買ってもお釣りがきてしまう。

 とまれかくまれ、これからは正真正銘の老人の仲間入りである。「もうジジイだから」とか、今までは半分冗談にできたのだけど……。時の流れってのは残酷である。自分のことでこんなことを考えるなんて、年は取りたくないものだ。
2020年9月12日18時。











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