チェコにいると、新年よりもクリスマスのほうが重要視されていて、季節はずれのうるさいだけで迷惑としか思えない花火ぐらいしか、年末年始を象徴するものはない。今年は、もしくは去年は、外出規制、販売規制のおかげで、馬鹿高い花火を自費で購入して怪我や火災のリスクを犯してまで、上げようとする阿呆はいなくなるだろうと期待していた。
大晦日の夕方に、散発的に花火の音が聞こえてきた後、外出禁止が始まる午後九時を過ぎるとぱったりとやんで静かになった。日本と同じで習慣的に見てしまうような番組はあっても、どうしても見なければならない番組、放送が中止されたら困るような番組など存在しないので、熱心に見ていたわけではないけれども、テレビの音声が花火の音に遮られない大晦日というのは久しぶりである。
午後11時過ぎにテレビを消した後は、世界が静寂に包まれ、これで12時前に除夜の鐘は無理だから、教会の鐘が聞こえてきたら厳粛で、年の改まりを感じさせる大晦日になるのになんてことを考えていた。例年は12時過ぎて新年になる前、10時ぐらいから、花火を挙げて騒ぐ人が増え始めるのだが、今年は11版を過ぎてもまったく音が聞こえてこなかった。
これなら花火の音で寝られないということもあるまいと、そろそろ寝ようかと考えていたちょうど12時。突然の轟音で寝ぼけていた眼が覚めた。例年より時間は短かったとはいえ、それから三十分ほどあちこちから花火の音が響いてきた。窓を開けて外を見たら、白い霧が立ち込めていて花火なんか見えやしない。音しかしない花火なら爆竹じゃないか。風情のかけらもありゃしない。
チェコの政府が外出は禁止したものの花火は禁止しなかったせいで、例年は多少は安全を考えてちかくのスーパーの駐車場などまで足を運んでから花火を挙げる人が多いのだが、まともな場合には自宅の庭から、最悪の場合には自宅の窓から花火をあげる阿呆どもが続出したらしい。だから、妙に音が近くて例年以上にうるさく響いたわけだ。
今日のニュースでは、自宅の玄関かどこかで花火を上げていた人が、誘爆させて隣家にまで損害を与えたとか、いくつかの事件を報じていたが、例年よりは怪我などで救急車で運ばれる人の数は少なかったようだ。それでも病院の受け入れ態勢が逼迫している中、酔っ払って花火を上げそこなって怪我をして病院に負担をかける人たちがいたのは事実である。
どうせ何の役にも立たない、何の意味もない花火なのだから、今年の状況を利用して打ち上げ型の物だけでも販売と使用を禁止してしまえばよかったのに。この手の花火はどうせ中国製の低品質のものなのだ。禁止したところで自国の産業に悪影響を与えることはないし、病院や清掃業者の負担を軽減することにもつながるから一石二鳥である。新年を祝う花火が伝統行事だというのなら、それは行政が行う公式行事としての打ち上げ花火だけで十分で、思考力の欠けた酔っ払いに危険物である打ち上げ花火を許可するいわれはない。
環境保護論者が花火禁止を言い出さないのにも不満である。個人用の花火を禁止しても新しいビジネスにつながらないから放置されるのだろうが、火薬の燃焼、使用後のゴミの散乱などを考えたら、環境破壊の度合いは、ゴミ箱にちゃんと捨てる人のほうがはるかに多いファーストフード店のストローよりもひどいことになるんじゃないかと想像する。酔っ払いにまともな片付けなど期待できないのだから。
そして、みちもの動物愛護団体が花火禁止を強く主張しないのにも納得がいかない。花火の音に驚きパニックになって家を飛び出し迷子になってしまうなんて例が続出するのは動物虐待じゃないのか。花火の音と光に野鳥が眠りを妨げられるなんて話もあるし、鶏卵生産施設の一羽辺りの籠の面積を多少広げるなんて意味不明なことをするぐらいなら、打ち上げ花火の禁止を求めたほうがはるかに動物愛護の精神にかなっているはずだ。
ということで、個人用の打ち上げ花火の生産と販売、使用の禁止を主張しない自然保護運動も、動物愛護運動も、支持する気にはなれない。って去年も同じような結論で終わったような気がする。花火に睡眠を妨げられた結果だと言い訳しておこう。
2021年1月2日12時。
【このカテゴリーの最新記事】
- no image
- no image
- no image
- no image
- no image