その常識だと思っていた考えが常識ではなかったことを知ったのはこちらに来てからのことだった。一年のうちで一番暑い時期、寒い時期は毎年全く同じというわけではなかったが、暑いのが五月から六月、寒いのは十二月から一月というのが、こちらに来た当初は一番多かった記憶がある。暑いのは長続きせず、数日単位で暑くなったり涼しくなったりすることもあったから、実際どの時期が一番暑かったかは判然としないことも多かったのだが、寒いほうは逆に長く続きすぎて泣きそうだった。社会の地理の気候の授業で勉強したことを覚えていれば、驚くこともなかったのかもしれないが、体にしみこんだ感覚というのは、知識だけで修正できるものではない。
一日のうちの一番暑い時間帯も、日本の最低気温が夜明け前の太陽が出る前の時間帯に記録されるのが多いのと同様に、日没も近くなった夕方に記録されることが多かった。九州でも西日が強くて暑いというのはあったけどさ。冬場の寒いほうは、夜が明けてから気温が下がり日中のほうが、夜間よりも気温が低い日も多くて、常識を破壊されてしまった。山の上のほうが低地よりも気温が高くなるインベルゼなんて現象には、最初のうちは理解が全く付いていかず、こちらのチェコ語の理解力が足りないせいで誤解していると思い込んでいた可能性もある。
それが、二月になって、気温が下がり、最低気温はマイナス10度に迫り、最高気温もマイナスから上がらないという日々が始まった。雪が降る日も増えて、正直外に出るのが億劫なのだが、頑張って毎日職場には出るようにしている。引越しに際して一度自宅に非難させたものを少しずつ運んでいるし、自宅で仕事ができなくないとはいえ、あのごみ捨て以外は外に出なかった引きこもり生活を繰り返したいとは思わない。
悔しいのは、その日本では経験したことのなかった寒さがあまり気にならなくなっていることで、気温がもう少し高かった時期のほうが、寒い寒いと大騒ぎをしていたような気もする。引越しで職場が近くなったおかげで、寒さの中を歩く距離が短くなったのも、寒さが気にならない原因かもしれない。最後まで気分は反対だったから、認めたくはないのだけど、早足で歩いても職場に着くまでに汗まみれにならないと言う意味でもありがたい。
これもあまり認めたくはないのだが、マスクも防寒に役立っている。例年であれば気温がマイナスに下がるとマフラーの使用を考えるのだが、これがうまく行かないことが多い。何せ日本では全く縁のなかった物だけに、上着の中に入れるのがいいのか外側に巻くのがいいのかよくわからず、締めすぎて途中で自ら緩めたり、逆に緩すぎて解けてしまったりとあまり防寒具として役に立たないのである。地面に落としてしまうこともままあるし。それがマスクのおかげで口の周辺が覆われているから、わざわざマフラーをする必要がない。
それでも、今年一番のこの寒さを我慢というほどのこともなく、乗り越えられそうなのは、こちらの体に染み付いたタイミング、つまりは二月の初めの冷え込みだったからじゃないかと思う。それに最高気温がマイナスとはいえ、午後の早い時間帯に来るのもありがたい。チェコに来てから廿年近く、その前東京近辺に十年ほど住んでいたけれども、故郷である九州で培った季節感や常識というものはなかなか消えないものである。いや、単なる思い込みの可能性もあるんだけどさ。
2021年2月13日24時30分。
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