二つ目は、感染すると重症化する可能性が高いとされ、自宅からでないことを強く求められていたお年寄り向けの専門チャンネル、チェコテレビ3を期間限定で開設することだった。お年寄りは、規制によって暇つぶしのためのお買い物、もしくはウィンドーショッピングなんかができなくなっていたから、テレビでお年寄り向けにかつての人気番組が再放送されるのはありがたかったに違いない。
うちでは、セットトップボックスは導入していたけれども、建物の集合アンテナが新しい電波のフォーマットに対応していなかったために、チェコテレビ3は見ることができず、実際にどんな番組が放送されているのかは確認できなかった。その後、9月に入ってうちでも新しいフォーマットの放送が見られるようになったころには、役割を終えたとしてチャンネルの終了がアナウンスされ、見る機会はないものだと思っていた。
もともとチェコテレビは、強迫観念的に常に新しい番組を粗製濫造的に制作しつづける日本のテレビ局とは違って、古い番組の再放送が多いから、チェコテレビ3でも、今までに見たことのある番組が放送されていることも多い。この前も子供向けのドラマ「Bylo nás p?t(我ら五人組)」が放送されていて、お年寄りが若かったころに子供と一緒に見ていたのかなあなんてことを考えた。
最近になって、放送時間が夜遅くまで延長されて、放送するものが足りなくなったのか、平日の夜なんかにチャンネルを替えていて、何これと言いたくなるような番組に突き当たることがある。そのうちの一つが、みょうちくりんな衣装を着た若い人たちが、いくつかのグループに分かれてプールの上に置かれた板の上を走ったり、馬の人形に乗ったり、壁をよじ登ったりする番組「Hry bez hranic(国境なきゲーム)」である。
この番組にチャンネルが合ったとき、うちのが思わず「ティ・ボレ」と言ってしまうようなとんでもない番組なのだが、簡単に言うと、かつてチェコでも人気を誇った「風雲たけし城」の国際版だと言ってよかろう。視聴者が参加してさまざまな「競技」を行うのである。違いは町の代表がチームで参加するということと、複数の国から各国1チームずつの参加だという点である。やっていることの馬鹿馬鹿しさは「たけし城」と大差ないが、公共放送のアナウンサーがまじめに、スポーツ番組のように中継しているのがおかしいと言えばおかしい。
チェコでは1990年代に放送された番組だというので、「たけし城」の影響がヨーロッパで国際大会が開かれるまでになっていたのかと思ったのだが、実際はこちらのヨーロッパ版のほうがはるかに前に始まっていた。チェコ語版のウィキペディアによると、何と最初の大会は1965年に開催されており、発案者は時のフランスの大統領シャルル・ド・ゴールだという。いやあ、「ティ・ボレ」を連発である。戦後の冷戦期にヨーロッパ、特に西側のヨーロッパ諸国の連帯感を養うことを目的として開催が始まったのだという。
この「大会」は断続的に冷戦後の1999年まで全部で30回開催されているが、参加国は年によって変わり、30回すべてに参加しているのはイタリアだけである。発案国のフランスと第一回の参加国のスイス、それにベルギーが20回を超えている以外は、多くとも半分ぐらいの参加である。一回の大会当たりの参加国は数か国にとどまると考えてよさそうだ。
チェコは、スロバキアと分離する前の1992年から参加をはじめ、4回出場している(冬の特別大会と合わせると5回になる)。そのうちチェコの代表チームは3回も優勝していて、優勝確率では参加国中一位だという。当時の東側として今以上に見下されていたチェコは、ヨーロッパ諸国の融和とか連帯感よりは、ひたすらに勝利を求め、西側に対する優越感を感じたがっていたのではないかなんてことも考えてしまう。
予選も含めると50ほどの町が代表を送り出しているが、残念ながらオロモウツの名前はない。あったからといってオロモウツのチームが出た回を見ようなんて気にはなれないけどさ。いかに過去を懐かしむお年寄りとはいえ、こんな番組を見ている人がどのぐらいいるのだろうか。この番組は知らず、チェコテレビ3自体は、放送が継続されていることを考えると、ある程度の高齢の視聴者を集めることに成功し、外出する人の数を減らしているのだろう。
日本でも、糞みたいなバラエティー番組や有害でしかないワイドショーなんかやめて、お年寄りが喜びそうな、テレビがまだ娯楽として魅力を持っていた時代の番組をどんどん再放送すれば、外出する高齢者を減らすことができそうである。個人的にも最近の日本のテレビ番組なんて見たいとも思わないけど、過去の自分の高校時代ぐらいまでの番組の中にはまた見てみたいと思うものはいくつかあるし、そんなのが昼間に放送されていたら外出しようとする足も止まろうというものである。
2021年3月1日22時。
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