一般の人が接種を受けるのは、多くは各地に設置された特設の会場である。既存の医療機関の一部を改装した小規模なものから、体育館やイベント会場などを利用して一度に何人もの人が接種できるようになっている大規模なものまで存在する。接種の実務を担当する地方政府によってやり方が違うようである。最近は接種希望者の数が減っており、大規模会場の中には八月いっぱいで閉鎖になるところもあるという。
その一方で、特に高齢者の優先接種が急がれていた時期には、開業医、すなわちかかりつけの医者のところでも接種できるようにしようとする動きがあり、一部は実現していた。これは、予約システムが、オンラインで登録することを前提としていたため、インターネットを利用できなかったり、利用できても登録手続きの複雑さに対応できなかったりする人が多数いたことへの対策の一つとして、行われたのだが、医者のほうから登録している患者に連絡を取ってワクチンの接種に来るように呼びかけるというものだった。最近は話を聞かなくなったことを考えると、あまりうまくいかなかったと考えていいのだろうか。
予約システムに関しては、他にも、優先登録が始まった頃に、息子や孫など家族の力を借りて、ようやく登録できた高齢者や、自力で何とか登録する高齢者(俳優のズデニェク・スビェラークが出てきたような気もする)の姿がニュースで紹介されていた。また、自力で登録できない人たちのために、老人ホームにスタッフが出向いて接種したり、村役場で在住の高齢者の登録を肩代わりし出張接種を要請し、自宅で接種したりするという活動も行われていたようである。
そして、七月になってからは、夏休みに入って接種を受ける人の数が減ったせいか、事前の登録なしで接種を受けられる会場が、駅やショッピングセンターなどの人の集まる場所に設置されるようになった。まずは、プラハの中央駅から始まり、ブルノ、オストラバなどの大都市でもある程度成果を収めたことから、各地に広がり、オロモウツでもシャントフカに事前登録なしの接種会場が設置され、買い物のついでに摂取を受ける人がいるようである。
また、交通の便の悪い地方の僻地では、接種会場に行きたくても行けない人もいるだろうということで、バスを使った巡回型の事前登録なしの接種も始まった。事前に日程を周知することで、希望者をバスの停車する広場などの会場に集める形を取っている。そして、ロマ人居住地区や、ホームレスなどの情報から遮断されている集団に対する出張接種も行われている。こちらの場合には、希望者のみなのか強制的に接種しているのか気になるところである。
さらに、一部の報道によると、ワクチンの不足が噂されなかなか接種対象が広がらなかった時期に、三月、四月ごろだったと思うが、セルビアにワクチン接種ツアーに出かける人がいたという。セルビアではチェコが導入を見送ったロシア製のワクチンが使用されており、外国人でも実費を払えば接種を受けられたらしい。ただ、当時は出入国の規制もかなり厳しかったことを考えると、実際にわざわざセルビアに出かけてロシアのワクチンを接種したチェコ人の数は、それほど多かったとは思えない。
あえて、極めて例外的な事例を取り上げて、あたかもそれが世論であるかのようになされる報道は、日本に限らないのである。ロシア製ワクチンの導入をプーチン大統領と約束してしまったゼマン大統領側の仕掛けだったという可能性もある。チェコのマスコミも好い加減な報道は多いのだが、救いは公共放送のチェコテレビが比較的まともであることだろうか。
2021年8月23日
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