今から考えると、予約の期日が、翌日と翌々日しかなかったのは、余計なことを考える時間がなかったという意味ではよかったのかもしれない。うちのの話では、注射自体はまったくといっていいほど痛くなかったというのだが、痛かろうが痛くなかろうが、注射は嫌なのである。
当日はメールで届いたワクチン接種に関する情報を印刷し、保険のカードがあるのを確認して、10時過ぎに家を出た。もともとは、歩いても20分もあればつきそうな場所なので、歩いて行って帰りだけトラムを使うつもりだったのだが、会場では熱を測られて、高すぎる場合は接種できないというので、素直に行き帰りともにトラムを使うことにした。ここ数年の中では冷夏だとはいえ、それなりに気温が上がっていて、歩くと会場に着くころには体温が上がって汗まみれになっている可能性が高かった。
トラムのチケットがなかったので、自動券売機のある隣りの停留所のフローラまではのんびり歩いた。以前はうちのほうからシベニークのほうに行くトラムUは、一時間に一本しかなかったのだが、現在旧市街のなかを走る路線が改修中のおかげで、15分に一本ぐらいの割合に変更されている。しばらく待って、トラムに乗ってシベニークの停留所に到着したのは、10時半ちょっと前だった。予約の時間が15分刻みだったので、念のために30分まで待って会場に向かった。
会場は停留所から歩いて二、三分のところにある建物で、ワクチンの接種を受ける人は裏口から入るようになっていた。会場になっているという二階に上がると、入口のドアのわきにテーブルが置いてあって、一回目の接種の人は記入するようにという注意書きと共に、二種類の書類が置かれていた。置いてあるだけで説明の人もいないというのが、チェコである。わからなければドアを開けて会場に入って質問すればいいだけということなのだろう。
どんな項目があったかは覚えていないが、住所やメールアドレスなんか以外は選択式だったと記憶する。よくわからなくても、適当に問題のなさそうなほうにチェックを入れて、記入する事項を、自分でもこれでいいのかと思ってしまうぐらい乱暴に書きなぐっている間に、何人かの人が書類の記入もしないでドアを開けて中に入っていった。恐らく二回目の人たちだったのだろう。
中に入ると受付の人がいて、書類をチェックされた。利き腕を聞かれて、左だと答えると、一枚目の紙の上のほうに大きく「L」と記入して返してくれた。右利きの人は左腕、左利きの人は右腕に打つということなのだろう。左利きの人間は、どちらの腕も同じぐらい使うから、左に打っても問題ないとも思ったのだが、せっかくの配慮なので、何も言わないことにした。ついでのように熱も測られたが、36度5分ぐらいで、問題なく接種に進むことができた。
次は、保険などの確認で、PCの前に女性が座っていて手続きをしてくれたのだが、マスクをしていないのにちょっと驚いた。手続きのほうは外国人ということで、普通より時間がかかっていたようだが、幸い何の問題もなかった。質問してみると外国人の場合はチェコの健康保険に入っていても情報に齟齬が出ることがあるらしい。それから、自分が予約の登録をした日を聞かれた。これは、間隔が三週間に短縮される前に予約した人の場合には、二回目の期日の変更の確認が必要だからだと言っていた。なので、三週間になるのを待っていたんだと言っておいた。せっかく準備した保険のカードのチェックはなかった。
この後、実際に接種を行う部屋に向かうのだが、その前で待っている人はいなかったので、そのまま中に迎え入れられた。書類をPCの前に座っているお医者さんに渡して椅子に座る。副作用で痛みが出た場合は、氷で冷やせとか痛み止めの薬を飲めとか言われている間に、準備ができて、看護師さんが右腕に注射を打ってくれた。お医者さんはマスクをしていなかったが、看護師さんはちゃんとしていた。患者にあまり近づかないから問題ないと言うことなのだろうか。
注射は、うちのの言っていた通り驚くほど痛みを感じなかった。待合室で15分、様子を見た上で、問題なければ帰っていいよと送り出された。会場の建物に入ってからここまで、10分ほどで終ってしまった。これは新規の接種希望者があまり多くないことを意味しているのだろう。様子見をしている間に、何人かの人が来て、接種の部屋に入るのを待っていることもあったが、ほとんどみんな、「来た、見た、打たれた」という感じで、「待った」は接種の後にしか入らないようだった。
2021年9月10日
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