毎年七月の初めに、この人口五万人ほどの小都市に毎年一万人以上の観客を集めて開催されているのが、今年で五十一回目を迎えたカルロビ・バリの映画祭である。第二次世界大戦の終戦直後の1946年に近くの温泉街、ドイツ名のマリエンバードで世界的に知られているマリアーンスケー・ラーズニェで始まり、完全にカルロビ・バリでの開催が定着したのは1950年からであったという。
1956年には国際映画製作者連盟のよって、カンヌの映画祭などと同じカテゴリーAに認定されたが、モスクワで国際映画祭の開催が始まった関係で、東側に毎年二つも大きな映画祭は不要だということだったのか、モスクワよりも大きな映画祭が行なわれることが許されなかったのか、モスクワとカルロビ・バリで一年おきに開催されるようになる。
それで、バルトシュカが、フォルマンに電話をかけて助力を頼んだところ、たまたま一緒に居たのだったか、すぐに電話をかけてくれたのだったか忘れてしまったが、映画界の友人たちに「友達のバルトシュカってのがやってる映画祭がチェコで行なわれるんで、行ってやってくれないか」なんて頼んでくれたらしい。そのおかげで、最初の一番大変な時期に、映画祭のネームバリューにはそぐわないような大物が来てくれて、そのおかげで次を呼びやすくなったということなのだろう。
正直な話、映画にはあまり興味がないので、夏の暑い中ボヘミアの果てのカルロビ・バリにまで出かけて、仮説のキャンプ場に張ったテントで寝泊りしてまで映画を見る気にはなれない。もちろんホテルに滞在する人たちもいるが、観客の多くを占める学生たちには、温泉街のホテルの宿泊料金は気軽に出せるものではないようで、テントでの宿泊を選ぶ人が多い。今年は晴天に恵まれたが、何年か前は、大雨に襲われてキャンプ場から非難させられていた。
映画際自体にはあまり関心は持てないのだが、期間中七時のニュースの後に放送される映画祭の表彰式の司会を務めるマレク・エベンのレポートは、楽しみに見ている。エベンの話術の巧みさと、外国人にはわかりにくい冗談はチェコ語の訓練にちょうどいいのだ。エベンは、子どものころに子役としてデビューして、その後兄弟と一緒にエベン兄弟という名前の音楽グループで歌を歌ったりもしていたけれども、最近は専ら司会者としての活動が中心となっているようだ。
その毎日のレポートだったか、去年の総集編だったカを見ていたら、昔の共産主義時代の映画祭の様子が紹介された。平和賞とか、労働賞とかのいかにも共産主義の映画祭と言いたくなる様な名前の賞がいくつも並んでおり、ソ連や東欧諸国の作品が必ず賞を取れるように配慮されていたらしい。一番びっくりしたのは、年によっては、出展作品よりも、賞の数のほうが多かったという話だ。賞が多かったのか、出展作品が少なかったのかどちらだろう。
カルロビ・バリの映画祭では出展作品を対象にした賞だけではなく、映画界への功労賞ととでもいうべき賞を内外の映画関係者を対象に与えている。その賞にチェコから選ばれたのが、今年はイジナ・ボフダロバーだった。去年受賞したイバ・ヤンジュロバーと並んで、ビロード革命前の映画やテレビドラマにこれでもかというぐらい出てくる人気女優で、二人ともボフダルカ、ヤンジュルカなんてあだ名で呼ばれることもある。
二人とも役者としては素晴らしいのだけど、どちらがいいかと言われたら、ヤンジュルカかな。ボフダルカは、特に最近はどんな役を演じても、だみ声でがなりたてるので、ヤンジュルカのほうが役柄が幅広いような感じがする。ボフダルカが、「チェトニツケー・フモレスキ」に出たときの演技は特にいただけなかった。モラビアのど田舎の村の婆さんを演じているはずなのに、モラビア方言ではなくてプラハ方言が聞こえてきたのだから。
夏の風物詩としての映画祭は、カルロビ・バリだけでなく、他の町でも行われている。ただその名称がフェスティバルではなく、「映画学校」になっているのは何故なのだろう。昔、イタリア人の友人にウヘルスケー・フラディシュテで開催される「フィルモバー・シュコラ」に誘われたことがあったけど、そいつの話では普通に映画がたくさん見られるイベントという感じだったのだけど。
昔は、毎年春に日本映画を紹介するイベントが、南モラビアのどこかの町で行なわれていて、古いモノクロの映画に、ポーランド語の字幕の付いたものを、関係者が弁士よろしくその場で通訳するのを見たことがある。字幕を見ても、チェコ語を聞いても話がよくわからなかった上に、日本語での台詞もちゃんと聞こえてこなくて、大変だった。最近は連絡が来なくなったから、イベント自体がなくなってしまったのかな。その代わりに大使館の主導で日本映画際を始めたみたいだけど、プラハまで映画を見るために出かける気にはならない。
7月11日15時。
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