バビシュ政権との対決姿勢を強める、オカムラ党以外の五つの野党は、かなり早い段階で、市民民主党・キリスト教民主同盟・TOP09と、海賊党・市長連合という二つのグループにまとまってそれぞれ共同で比例代表の候補者名簿を作成することを決めていたが、それを支援するかのように、憲法裁判所が、選挙法に違憲の疑いがあるので改正するようにという判断を下した。
それは、所謂「一票の格差」に関するもので、地方ごとの議席数の配分とドント式での議席配分が、大政党に有利すぎるというのである。もともとは、得票率の高い政党を優遇し、ぎりぎりで議席を確保した政党を冷遇することで、安定した多数派からなる政権が成立しやすくなるようにという目的があったはずだが、政党が乱立した結果、三党以上の連立政権や、過半数を確保できない少数与党の政権になることが多く、機能しているとは言えないのも、憲法裁判所の判断に影響を与えたのかもしれない。
また、二つ以上の党が合同で候補者名簿を作成して選挙に出る場合の、議席確保のための最低得票率が、5%×政党数、つまり二党なら10%、三党なら15%になっているのも、死票をふやす可能性があるということで、改正を求められた。憲法裁判所では、複数の政党が合同した場合も、一律で5%にすることを考えていたようだが、国会の審議で、連合する政党が一党増えるごとに、最低得票率も2,5%だったか、3%だったかずつ増えるという形に収まった。野党側の三党連合と二党連合が、それぞれ14.9%、9.9%なんてことになったら、それだけで最低でも25%もの死票が発生することになるから、妥当な判断ではあるのだろうけれども、それなら全国でという縛りを削除して、選挙区単位での議席を獲得するための最低得票率にしたほうがいいと思うんだけどなあ。
とまれ、野党側の三党連合と二党連合は、選挙戦が開始される前から、選挙後は連立政権をクムということで合意し、バビシュ政権、つまりはANOとの対立姿勢を強め、選挙はANOと二党+三党連合の対決という構図になった。その結果、他の党、連立与党の一つでありながらバビシュ政権の提案する議案に反対の票を投じるなど、意味不明な行動を繰り返した社会民主党と、閣外協力をするという協定を結んだのに常に協力するのかしないのかはっきりしなかった共産党の左翼二党は、存在感を失っていった。ちなみに、ANOは、対立する五党のうち、海賊党に狙いを定めて、徹底的に批判するという戦略をとり、選挙結果にある程度の影響を与えることに成功したのだが、これについては後述する。
十月の初めに行われた選挙の結果は、市民民主党・キリスト教民主同盟・TOP09が最高得票率の27.8%で勝者となった。ただし議席数では、0.8%という僅差で二位になったANOのほうが一議席多い72議席を獲得しているから、日本的にはこちらが第一党と言いたくなる。三番目は海賊党・市長連合で37議席、四番目は20議席獲得したオカムラ党だった。議席を獲得できたのはこの4つのグループの七つの政党という結果になった。
社会民主党と共産党は、議席獲得は難しいかも知れないという選挙前の予想通り、得票率5%には届かず、議席を失うことになった。どちらも、元警察官で組織犯罪を摘発する組織の長として活躍したシュラフタ氏が設立した新政党プシーサハ(宣誓)よりも得票率が低かったのは、予想外だった。これまでの両党の迷走ぶりに愛想をつかして、左よりになりつつあるANOに鞍替えした支持者が多かったということだろうか。ANOは、右よりの支持者を失った分を、ここで補充して得票率の減少を最小限に抑えたとも考えられる。共産党の支持者はオカムラ党にもかなり流れていそうだけど。
とまれ、選挙の結果を簡単にまとめると、政党単位での獲得議席数から言えば、ANOが市民民主党(三党連合の72議席中34議席を獲得)に倍以上の差をつけて第一党となったが、社会民主党、共産党という協力関係を築ける可能性のあった政党が議席を失ったことで、政権獲得の可能性が消えた。その意味では、この選挙で最大の敗者だったということができる。
一方、選挙前からの公約で連立を組むことが予想された5党は、合わせて108という過半数の議席を獲得したのだが、個々の政党を見ると、海賊党が4議席の獲得に留まった。本来なら市長連合と合同で獲得した37議席が半々ぐらいになるように候補者名簿が作成されていたはずだが、市長連合の支持者の多くが、海賊党の議員が増えることを嫌ってなのか、投票の際に市長連合の候補者に特別に支持する印をつけたことで名簿の順位が変わり、海賊党の候補者の多くが落選してしまったのである。
日本であれば選挙の後、すぐにでも国会で総理大臣選出のための選挙が行なわれ、内閣が成立するのだが、大統領議会制を取るこの国では組閣までの手続きはややこしく、ゼマン大統領の存在もあって、内閣が任命されるまで、選挙後三カ月近くかかることになる。その辺の事情についてはまた稿を改める。
2022年1月15日
タグ: 選挙
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