下院は定員二百名で、議院の任期は四年、任期中の解散はあると思うのだけれども、よくわからない。というのは、二千年代に入って、一度は、内閣不信任案の可決か、信任案の否決かを受けて、時の首相が下院を解散して総選挙が行なわれた。しかし、二度目に同じ状況になったときには、解散総選挙が決定されたにもかかわらず、失職したくないと考えたのか、何人かの議員が憲法裁判所に、違憲ではないかと訴えた。その結果、どういう根拠なのかは覚えていないが、上院の解散は憲法上認められないという判決が下り、準備の進んでいた総選挙は中止になってしまった。現在は法律の改正で、解散権が明記された形になっているとは思うが、チェコのことだから、その法律は無効だとかいうことになりかねない。だから、解散できるのかどうかは和からないということにしておく。
選挙は大選挙区制で行なわれる。行政区分としての地方が選挙区となっており、首都であるプラハも合わせて全部で十四選挙区に分かれる。人口に応じて議席が配分されており、比例代表方式で当選者が決定される。ただし、投票の仕方は、政党名を記入するのでも、事前に決定される政党の番号を記入するのでもなく、選挙前に有権者に配られる各政党の候補者名簿の印刷された紙の中から、自分が選ぶ政党のものを選んで、封筒に入れて、それを投票箱に入れるというものである。その結果、投票に向かう有権者でも、活用するのは大量に送りつけられた紙のうちの一枚だけで、残りすべて廃棄されるという紙の大きな無駄遣いをしているのである。寡聞にしてこの投票システムに、環境保護を声高に叫ぶ連中が反対の声を上げたという話は聞かない。
ただ、いい点も一つあって、投票の際に、候補者の名簿の中で特に支持する人に印をつけることで、その人の名簿順位を向上させることができる。もちろん、一人の付けた印だけでは無理な話だが、ある程度の数が集まれば、名簿上は下位でも順位を上げて当選することも可能になる。逆に×をつけて順位を下げることもできるんだったかな(ちょっと怪しい)。とまれ市民民主党のオロモウツ地方の有力者であったラングル氏が、名簿上は上位であったにもかかわらず、前回の選挙で落選してしまったのは、この制度のおかげであった。
個人的には、有権者が政党の名前を書けなくても投票できるように、番号を割り振るというだけでも、有権者をバカにしているようで嫌な感じがするのだが、チェコの上院の選挙では、番号は割り当てておきながら、それすら書く必要のないのである。日本の選挙の場合には、ポスターを所定の場所に貼り付けるために、候補者に投票には使わない番号をつける必要もあるのかもしれないが、チェコではポスターは、張り紙が許可されているところならどこに貼ってもいいし、金にあかせて高速道路脇などの広告用のスペースに巨大な選挙ポスターを貼りだす政党もある。
下院の選挙には限らないが、有権者を集めての演説会も、演説会というよりは何かのフェスティバルのようになることも多く、その政党を支持しているのか、金で雇われたのかはわからないけれども歌手のコンサートが付いていることもある。コンサート目当てで来た人に演説を聞いてもらおうというのかもしれないけれども。それから選挙の集会というと、なぜかブラーシュの配布がつき物だというイメージがある。これもグラーシュ目当てに来た人に演説を聞いてもらおうということなのだろうか。こんな有権者に直接物を配るようなことをしていいのかね、と初めて見たときには思ったが、友人の話では食べちまえば証拠は残らないからいいんじゃないかとこのこと。冗談であろう。
議席を得るためには、全国で五パーセント以上の得票が必要となるため、地域政党や、極右政党、ポッと出の泡沫政党などは議席を取りにくい制度になっている。以前は、そのため、いくつかの政党が連合を組んで、四党連合とかいう形で候補者の名簿を作成して、選挙に臨むことが多かった。ただ、選挙のための連合なので、そのあとの議会運営で問題が起こることも多く、最近は各地の市長達が作った政党が、どこかの党と選挙協力をするぐらいである。
ただし、ポッと出の政党が議席を取りにくかったのは、昔の話と言ってもいいのかもしれない。緑の党に始まり、VV(公共の福祉党)、黎明党、ANOなどなど、最近の総選挙では、それまで名前を聞いたこともなかった政党や、聞いたことはあっても議席を持っていなかった政党が、一気に多くの議席を獲得して、政局を混乱に陥れている。五パーセントの壁は、越えるまでが大変だが、越えてしまうと一気に多くの議席が獲得できてしまうのだ。
有権者の間に既存の政党に対する失望感があるという点では、チェコも周辺の国々と大差はないのだろう。今後も現在の情勢が続くと、EU離脱を求める政党や、外国人排斥を訴える極右政党が下院に議席を獲得する日も遠くないような気がする。EUの改革とどちらが早いか競争だな。
9月11日23時。
近づいてきた上院と地方議会の制度についてかくための枕として下院の話を書いていたら長くなったので独立させることにした。9月12日追記。
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