正確にどこでどのように発見したのかは覚えていないが、森雅裕の新作が連載されているページを発見して狂喜したこともある。ただ、どこが話の始まりかつかみきれなかったのと、画面が黒地で読みにくかったのが不満だった。とりあえず小説が掲載されている部分だけを指定してコピーし、ワードに貼りつけて、テキスト形式で保存することで、テキスト化を図ったのだけど、ものすごく手間がかかってあまり繰り返したいとは思わなかった。ブラウザ上で表示させたページをテキストで保存するという手も使ったのだけど、これも処理が厄介だった。
ネット上には、アマチュア向けのさまざまな小説投稿サイトがあり、自分のホームページやブログで自作の小説を発表している人たちもたくさんいた。小説家が自作を発表しているのもあったかな。出版社が発売している小説の一部だけ公開しているものもあったし、電子書籍販売店のパピレスもウッピーとかいう投稿サイトを始めていた。その中には読む甲斐のある傑作もないわけではないのだろうけど、玉石混交というか、大半は石で、苦労してテキスト化してまで読みたいと思うようなものではなかった。
それにも懲りずにあれこれ探していたら、 こんなページ を発見してしまった。似合わないのは十分以上にわかっちゃいるんだけど、この手の恋愛小説というかラブコメというか、嫌いじゃないんだよ。いや正直に言えば、結構好きなのだよ。SF作家でもある久美沙織の『丘の家のミッキー』も途中までとは言え読んでしまったし、集英社のコバルト文庫などの女の子向けのレーベルから出されている小説もかなり読んだ。少女マンガ買うより恥ずかしくて、人から借りて読むことが多かったのだけど。
この手のジャンルのマンガだったらみず谷なおきの名前は思い出せるけれども、一般にこの手の作品は、印象に残りにくいのか、マンガであれ小説であれ、何を読んだのか、どんなストーリーだったのか思い出すのが難しい。娯楽のための読書なんて、しょせん読んでいる間、面白さを感じて幸せでいられればそれで十分なのだ。
閑話休題
このページで小説を発表している九曜という人は、プロの作家ではないようだったけど、ちょっと読んでみたらなかなか面白くて続きが読みたくなった。ただ、ブラウザ上では文字が小さすぎて目が痛くなりそうだったし、テキスト化も面倒くさい。それで、「小説家になろう版はこちら」と書かれている部分を押してみた。そしたら完全に別のページに飛んで、文字が少し大きく表示も見やすいものに変わっていた。これがいわば小説家になろうとの本格的な出会いであったのだけど、そんなに大事になるとは、いや大事というほどのこともないけど、考えていなかった。
とまれ、ページの下のほうに、「TXTダウンロード」というのがあって、一話ごとにテキストファイルでダウンロードできるようになっていた。最初の作品は、えっちらおっちら一つづつダウンロードして、ワードで開いてコピーして一つのファイルにまとめるという作業を経てPDF化して読んでみた。途中でテキストファイルを結合するためのフリーソフトを発見したので、二作品目からはかなり楽になった。
作品自体について言えば、初期の作品はちょっと突飛な設定によりかかり過ぎかなという気もするけれども、十分以上に読むに堪えるし、自分が出版社のヤングアダルト向けのレーベルの編集者だったら、出版の企画を出してしまうだろうと思うぐらいには完成度は高い。もちろん、ところどころ「ん?」と言いたくなる部分はないわけではないけど、それは市販される作家の作品でも同じこと。
恐らく長編の最新作である『その女、小悪魔につき——。』が現時点でのこの人の作品の完成形なのだろう。男女それぞれの側からの一人称の語りで恋愛に至るまでの駆け引きを描き、語り手がすべてを語っているわけではないということをうまく使って作品に深みを出している。後に何かの賞を取って出版されるに至ったと聞いたときには、至極当然のことだと感じた。いや、そのときまで出版されていなかったことは見る目のある編集者がいないということなのだとまで思った。出版された単行本のほうは、こちらから買えるわけもないのだが、表紙などのイラストがちょっと邪魔で買えたとしても買ったかどうかわからない。この作品は文字で読んで想像力を働かせるだけで十分で、イメージを壊すイラストは不要である。
今考えると、最初にちゃんと読んだ小説家になろうの小説がこの人の作品だったことは、幸せだった。ネット小説だとか、なろう小説だとか、あれこれよくわからないレッテルが張られることの多いこの手の作品だけれども、この人の文章は非常にきれいで読みやすく、普通の小説と同じで、昔から小説を読み継いできた人間にも抵抗なく読めるものだった。だからちょっと読んで、小説の体をなしていない作品の海の中から、読める読書の喜びを感じられる作品を探し続けるモチベーションとなっていて、今でも読みたい作品を発見できないときには、しばしば読み返してしまうのである。
9月19日23時。
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