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2017年04月10日

大統領選挙に向けて(四月七日)




 そのためなのかどうかは知らないが、ゼマン大統領は、四六時中遊説しているような印象がある。遊説というのが、本当に正しいのかどうかわからないけれども、チェコのあちこちに出かけては、地元の人たちとの交流を図っている。ときに高校に行って、高校生から厳しい質問をされて答えに窮するなんてこともあったようであるだが、大抵は機嫌よく冗談を飛ばしまくっている様子がテレビで取り上げられる。

 ちなみに、ゼマン大統領のお気に入りの冗談で、繰り返し過ぎてもう笑えなくなってしまっているのが、クラウス大統領をネタにした冗談である。各地に出かけて、何かの書類に象徴的に署名をするたびに、「このペンはちゃんと返しますからね」とわざわざ言った上で、相手側に渡すのである。これはもちろん、よその国では忘れられているかもしれないけどチェコでは忘れられていない、クラウス前大統領が、南米のチリかどこかで署名に使ったペンが気に入ったのか、そのまま上着のポケットに入れて持って帰ってきてしまった事件にあてこすっているのである。
 ただし、クラウス前大統領とゼマン大統領は、政治上ではライバル関係にあったけれども、実は意外と仲がよさそうなので、当てこすりではなくて、クラウス前大統領の存在を思い出させることで、敬意とか親愛の情を表明しているのかもしれない。それにしても、毎回毎回同じ冗談に笑わなければならないお付の人は大変だろう。

 そして、ゼマン大統領が新たな、多分人気取りの一環として表明したのが、以前ちょっと触れた金をもらって人を殺したということで入れられた刑務所から脱走を果たしたことで有名になったカイーネクへの恩赦を検討しているということである。
 クラウス前大統領は恩赦を連発し、特に任期の最後の行なった恩赦は、正気を疑うような範囲で、強い批判を受けた。必要以上に長くかかる裁判と、収監された受刑者の数が多すぎて機能不全になりかかっていた刑務所の負担を軽減するという目的もあったらしいのだが、恩赦の範囲が広すぎた上に、明確でなかったこともあって、誰が刑務所から出て行けるのかはっきりさせるためにものすごい労力がかかっていた。さらにこれで釈放された人たちの多くが、再び犯罪を犯して刑務所に舞い戻ることで、批判の声はさらに高まった。そもそも誰の発案だったのかで、非難合戦が始まったのも非常に見苦しかった。

 こんな前任者の姿を見てきたゼマン大統領は、恩赦に対しては非常に慎重だった。初代のハベル大統領でさえ、いいのかこいつという人間に恩赦を与えて避難の対象になったことがあるのだが、ゼマン大統領は、犯罪者に恩赦を与えるのは、原則として重病で死を前にした囚人に限っていたようだ。人生の最後の瞬間だけは、刑務所の外で過ごさせてやろうということなのだろう。
 その自分自身が決めたルールには外れるけれども、カイーネクに恩赦を与えることを検討していると発表したのだ。理由としては、裁判で有罪が確定したけれども、冤罪である可能性もかなり高いことを挙げていた。それに、ゼマン大統領が就任して以来、八十通以上もの恩赦を求める嘆願書が届いているというのも、検討のきっかけになっているのかもしれない。カイーネクという人は、不可能と言われた脱獄を達成したこともあって、一部のチェコ人にカルト的な人気があるのだ。
 実行すれば、ゼマン大統領に対する批判の声は高まり、反ゼマン派は盛り上がるに違いない。ただゼマン派の連中がこんなことでゼマン大統領を見捨てるとも思えない。そうすると、政治や選挙にはあまり関心のなさそうなカイーネク支援者達をひきつけようというのだろうか。
 他にも、今年の秋の下院の選挙の選挙日の選定においても、いくつかの可能性の中から、すべての政党にとって一番よさそうな日程を選定して、しかも早めに公表することで、恩を売ろうとしている節もある。このままいくとまたまたゼマン大統領ということになりそうである。

 現時点で立候補を表明している対立候補は二人だけ。一人は歌謡曲の作詞家として有名なホラーチェクという人物で、スポーツの賭けの会社を創立してうっぱらったことで財産を築いたとか言っていたかな。ある意味知る人ぞ知るだったこの人物が、一般の人の目にも留まるようになったのが、ノバでやっていた「スーパースター」だったか何だったか、セミプロも出場したチェコ全土から出場者を集めて行なわれたオーディション番組で、審査員を務めたことだった。
 政治家としての実績はないし、この人を大統領として認めることができるチェコ人がどのぐらいいるかというと正直首をかしげるしかない。ただ出馬することは、かなり前から表明しており、昨年のダライラマ事件のときには、自腹でゼマン大統領に反対して、勲章授与式をボイコットした人たちの集会を組織していた。でもなあ。

 もう一人が、つい最近出馬を表明した科学アカデミーの所長を務めたドラホシュ氏で、こちらには、ゼマン大統領との間に軋轢を起こし続けている大学関係者などの支持が集中することが予想される。ただ、知名度という点ではゼマン大統領はもちろん、ホラーチェク氏にも負けているだろう。
 この人が立候補する結果として、高学歴の知識人階級がドラホシュ氏を支持し、それ以外の人がゼマン大統領を支持するという前回の、ゼマン対シュバルツェンベルクの決戦と同じで、アメリカの大統領選挙のトランプ対クリントンに似た構図が作り出される懸念もある。そうなると、それはそれでゼマン大統領の思う壺のような気もしてくる。

 誰か、この構図を突き崩してくれるような候補者が出てこないものか。アンチゼマンというつもりはないけれども、さすがにゼマン大統領は五年で十分だろうと思う。長野オリンピックで金メダルを取ったときに、群衆が叫んだといわれる言葉にならって、ドミニク・ハシェクの出馬を期待するかな。いっそのことテニスのナブラーティロバーでもいいかもしれない。でもこの人アメリカに帰化しちゃったか。
4月8日15時。





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