省内でのセクハラだか、パワハラだかが問題にされて、辞職することになった前任のフラーデク大臣と違って、バラホバー教育相は、子供たちのスポーツ支援に力を入れていたらしい。そのお膝元に当たる分野でスキャンダルが勃発したことで、ソボトカ首相の勧めもあって辞任することにしたということのようだ。
ソボトカ首相としては、社会民主党の政治家は、スキャンダルが起こった場合には潔く辞任するのだということを印象付けて、財相の地位にしがみつこうとしているバビシュ氏との違いを演出したいのだろう。悪い手ではない。ただし遅きに過ぎるという印象も否めない。去年の秋の地方議会の選挙の前に、南モラビア地方の知事を務めていたハシェク氏の金銭を巡るスキャンダルが明らかになったときに、知事の辞任、議会への立候補の取り下げをさせておくべきだったのだ。
あの時のハシェク氏の言い逃れのしかたは、現在のバビシュ財相のそれと大きく違わない。スキャンダルの規模と地位の重大さは違うが、自分を政敵に罠にはめられた犠牲者だとして、他者に責任をなすりつけようとする姿勢は、どちらも同じレベルでみっともない。
数年前の話だが、元厚生大臣のラート氏が中央ボヘミアの知事を務めていたときに、病院の改修に関する補助金を巡る収賄の疑いで逮捕された。このときには、さすがに逮捕されていたから、ラート氏を積極的に擁護する声は、社会民主党の中からも聞こえてこなかったが、ラート氏が自分は罠にはめられたのだと主張していたことを考えると、仮に警察が動かずにマスコミがスキャンダルとして取り上げただけだったら、社会民主党はラート氏を辞任させられていただろうかと考えると、首を横に振るしかない。
日本もそうだろうが、政治家というものは身内のスキャンダルには甘いくせに、政敵が同じようなスキャンダルを起こすと鬼の首を取ったように大騒ぎしてしまうものである。旧来の政治家たちのそういう部分を嫌っていた人たちが、選挙のたびに新しい政党、現在であればANOに期待を寄せるのだろうけど、ANOもバビシュ財相の振る舞いで、馬脚を現しつつある。
バビシュ財相は、火曜日になってムラダー・フロンタの記者と会って話したことを認め、自分の立場を考えると会うべきではなかったと反省の弁を述べた。これも遅すぎる。いや、ここまで言を左右にして有耶無耶にしてきたのだから、それを貫くべきだったのかもしれない。それはともかく、政敵のカロウセク元財相か、ホバネツ内相のバビシュつぶしの陰謀だと叫ぶのは忘れなかったようだ。
これまでのみっともないとしか言いようのないバビシュ財相の言動が、結局ANOも既存の政治家、政党とあまり変わらないという諦念につながるのか、これまでのグロス首相やネチャス首相と違って、簡単に責任を投げ出さないという評価につながるのか、現在の状況を見ていると前者になりそうだけれども、選挙の結果につながるかどうかはわからない。
十日水曜日には、プラハなどチェコ各地の大きな町で、反ゼマン、反バビシュのデモが行なわれた。プラハではバーツラフ広場に二万人ほどの人を集めたらしいが、オロモウツでは中心となるホルニー広場では別のイベントが行なわれていたため、聖ミハル教会の前の小さなジェロチーン広場に反ゼマン・反バビシュ派が集まっていた。反ゼマン大統領でもあるのは、大統領が財相をかばって、憲法の規定を無視してまで辞任させないように努めているように見えるからのようだ。
日本と違ってデモが多いチェコでも、これだけの数の人が集まることは滅多にない。前回は労働組合が組織したデモで、全国から集まった同じぐらいの数の人々がバーツラフ広場を埋めたという。ただし、このデモの数字を見て、バビシュ財相、ゼマン大統領の命運は尽きたと考えるのは早計である。この手のイベントでゼマン大統領を批判する人たちの多くは、大統領を批判することで自らの政治的正しさを信じていられるある意味幸せな人たちである。自分が正しいと思えるから、自然と声も大きくなり、ニュースなどに取り上げられる機会も増える。
その一方で、前回の大統領選挙の結果や、支持政党のアンケートの結果を見ていると、ゼマン・バビシュ支持派の中には、積極的な支持派以外に、EUのヨーロッパ的な正しさの押し付けへの反感、または既存の政治家や、政党に対する忌避感から他にいないという消極的な理由で支持している人たちもかなりの割合でいるように思われる。
そういう人たちにとっては、ゼマン大統領とバビシュ財相の結びつきは、受け入れにくいのではないかと想像するのだけど、これまでの支持政党のアンケート結果を見る限り、そうでもないようだ。以前のゼマン大統領は、バビシュ財相をけっこう口汚く罵っていたんだけどねえ。
とまれかくまれ、政治という名の茶番劇は継続中である。
5月12日23時。
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