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2017年11月21日

名詞格変化落穂ひろい(十一月十八日)




 このチェコ語では同じ「data」となる日付とデータを自分で使うときに混乱してしまうのである。何よりも悩むのが、データという意味の「data」がどのタイプの名詞になるのかで、一見、女性名詞の硬変化なのだけど、中性名詞の複数という可能性もある。その場合単数1格は「dato」「datum」のどちらなのだろう。どちらでも複数の格変化は変わらないからいいか。女性名詞として使って間違いを指摘されたことが何度もあるような記憶があるから、中性名詞で複数でしか使わない名詞なのだろうということにしておく。データを女性名詞として使ってしまうために、日付も女性名詞のように使ってしまうという間違いをやらかしたこともあったような……。

 では、前回予告した女性名詞の外来語で母音+「a」で終わる名詞の格変化である。例としては「idea(理想)」が使われることが多いのだが、この手の名詞で日本人が使う機会が多そうなものとして、国名だけど「Korea(朝鮮)」を使おう。複数形がないんじゃないのなんて言うなかれ、北朝鮮と韓国を合わせて言うときに、「二つの朝鮮」というから複数で使う可能性もあるのだ。
 チェコ語では、北朝鮮(Severní Korea)は、正式名称の朝鮮民主主義人民共和国(Korejská lidov? demokratická republika)から作られる略称KLDRが使われることも多いけれども、韓国は南朝鮮(Ji?ní Korea)としか呼ばれない。大韓民国なんて訳しにくいしね。だから二つ合わせて両方の「Korea」となるのだけど、その格変化が単数も含めて微妙で覚えにくいのである。

 先ず単数から。

  1格Kore-a
  2格Kore-y/Kore-je
  3格Kore-ji
  4格Kore-u
  5格Kore-o
  6格Kore-ji
  7格Kore-ou/Kore-jí

 御覧の通り「a」で終わる硬変化と、「je」で終わる軟変化が入り混じっていて、2格と7格などどちらでもいいといういい加減さである。「j」が出てくるのは発音上の要請なのだろうと思う。複数になると、2格を除いてすべてどちらでもいいことになっている。使うときにはどちらでもいいのだから気は楽なのだけど、厳密に覚えさせられた他の名詞に何だか申し訳ない気持ちである。

  1格Kore-y/Koreje
  2格Kore-í
  3格Kore-ám/Kore-jím
  4格Kore-y/Koreje
  5格Kore-y/Koreje
  6格Kore-ách/Kore-jích
  7格Kore-ami/Kore-jemi



 この手の些細な違いを特例として挙げていくときりがないので、名詞の変化についてはこれぐらいにしておく。それで、名詞の最後を飾るものとして、当初の予定には反するけれども、変化しない名詞を取り上げておく。チェコ語の名詞には性の区別があって、格変化するのが常識なのだが、非常識にも全く変化しない名詞が少しだけ存在しているのだ。

 一つ目は、「deka」である。女性名詞に「毛布」という意味の「deka」が存在するが、これは普通に格変化する。変化しないのは「10g」という意味の「deka」で、中性名詞の扱いになるのかな。スーパーの肉売り場でハムを注文するときに、日本風にグラムを使ってもいいのだけど、チェコの人たちはほとんどみんなこの「デカ」を使う。
 この言葉を初めて聞いて師匠に質問したときに、意味だけしか聞かなかったのが間違いで、「毛布」のデカと同じように格変化させたら、怪訝な顔をされた。お店の人は、それまでグラムで注文していた外国人が、デカを使ったのも不思議だったのだろうけど、「10 dek」なんて言われて、こいつは本当にわかっているのかと不安になったのだろう。「100グラムでいいの?」とグラムを使って確認されてしまった。
 次の日に師匠に聞いたら、これは特別な名詞で変化しないんだという。なんで昨日教えてくれなかったんだよと言うと、言ったけど聞いてなかっただけだろと言われてしまった。意味を知ることができて舞い上がってしまって、性と変化の仕方を聞き飛ばしてしまったのだ。中性だろうとは思うけど、未だに確信はないし、単数扱いなのか複数扱いなのかも知らんなあ。いやはや怠け者になったものである。

 二つ目は「anga?má」という言葉で、意味は「契約」。ただし「契約を結ぶ」と言うときには使わず、プロのスポーツ選手が、今のチームを離れて新しいチームとの「契約を探す」、今のチームとの「契約が残っている」なんてことを表現するときに使われる。スポーツ選手以外でも、特定の劇場と長期的な契約を結んで仕事をする俳優や音楽家たちの場合にも使われる。
 この言葉、「á」で終わるので、形容詞の女性形と同じように変化するもんだと思っていたら、無変化だった。フランス語か何かから入った外来語なのかな。同じように「á」で終わる無変化の名詞が他にもあったような気がするのだが思い出せない。

 最後は名字であるが、名詞の複数2格が名字になっているものがある。日本でも知られているものとすれば、スメタナ、ドボジャーク、ヤナーチェクに次ぐ第四のチェコの作曲家マルティヌーがいる。この人の名字は、男性の名前であるマルティンの複数二格からできているのである。ほかにもヤンからできたヤヌー、ヤネクからできたヤンクーなんて名字を見かけたことがある。
 この手の名字の人は、チェコでは例外的に男性と女性の名字が同じ形である。そして、複数2格がもとになっているので、これ以上格変化させられないということなのか、男性でも女性でも、単数も複数も1格から7格までまったく変化しないのである。もちろん前につく名前は書く変化をするので、フルネームで書かれている場合には問題ないのだが、突然「Martin?」なんてのが出てくると、マルティンの複数2格なのか、名字のマルティヌーなのか判断が付かないことがある。

 男性と女性が同じ形になる名字としては、形容詞の軟変化型の名字、たとえば「Krej?í」がある。ただし、この名字格変化はするので、2格以降は男性と女性、単数と複数で違った格変化をする。女性は変化しないけど、やっぱりこっちの方が落ち着くなあ。チェコ語の名詞は格変化をするものであって、名詞が各変化をしないとチェコ語ではないような気がしてしまう。いや、ありとあらゆる言語において、名詞は須く格変化すべき、もしくは助詞をとるべきものなのである。日本人としては、てにをはで済んでくれるのが一番いいんだけどね。
2017年11月19日12時。





チェコ語のしくみ新版 [ 金指久美子 ]







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