何がひどかったかというと、まず一つはヘボン式のローマ字表記の日本の名字を読む際に、チェコ語の読み方を混ぜていたことである。アクセントが変とか、発音が微妙に違うというのは、日本で選手経験や監督経験のある人でもそうなのだから批判するつもりはないけれども、読み方を混ぜるのはいただけない。一番問題だったのは「Shoji」選手で、この名字を「ショイ」と読んでいた。
日本語では「ショージ」と読むべきところだろうが、長母音が短母音になっているのは、最近の日本語のローマ字表記では長音符を表示しないから仕方がない。「ジ」が「イ」になるのは、チェコ語では「j」がヤ行の音を表すからである。つまり「ji」はチェコ語では存在しなくなって久しいヤ行のイ段の音を表すのである。ただ、チェコ語の読み方に合わせるとすれば、「Sho」も「ズホ」もしくは、「スホ」となって、「ショ」とは読めないはずなのだけどね。不思議なのは、同じ「ji」でも、キーパーのカワシマ選手の名前のほうは「エイジ」と「ジ」と読んでいたことである。
セネガルとの試合では、ナガトモ選手のことを「ナガモト」と何度も言い間違えて、解説のルデク・ゼレンカに訂正されていたし、準備不足を批判されても仕方あるまい。ただこの「ナガトモ」「ナガモト」の間違いは他のアナウンサーもやっていたような気がするから、チェコ人には「トモ」よりも「モト」のほうが言いやすいのかもしれない。
もう一つの問題は、日本選手の名前の格変化がめちゃくちゃすぎて何格なのか理解できなかったことである。「ホンダ」「カガワ」などの「A」で終わる名前については、チェコ語の男性名詞の中にも「A」で終わるものがあるからか、問題なく格変化させられていたようだが、「ナガトモ」「オーサコ」のような「O」で終わる名前の変化がひどかった。少なくともスロバキア人の中には「O」で終わる名字の人はいるし、チェコにも存在してもおかしくないのだが、もうぐちゃぐちゃだった。
この「O」で終わる男性名詞の格変化は、硬変化の男性名詞と5格以外は共通である。つまり、2格、4格の語尾は「-a」で、3格、6格は「-ovi」、5格は1格と同じで、7格は「-em」になる。気を付けなければならないのは、外国の人名なので、「O」をそのままにして、その後ろに語尾を付ける形も認められていることである。こちらの方が推奨されるのかな。つまり「Osako」の例えば二格は「Osaka」よりは、「Osakoa」のほうが推奨されるのである。それでも「Osaka」になるのであれば文句はない。「Osaku」「Osaky」など、一格の姿が見えなくなるような、何格なのかもわからないような形が頻出して、ものすごく聞きづらかった。
もう一つ格変化で問題だったのは、「タカシ」と「イヌイ」などの「I」で終わる名前の場合で、前者は子音に「I」がついているので、形容詞軟変化が男性名詞につくときと同じ活用語尾を取る。つまり2格、4格は「Takašiho」、3格、6格は「Takašimu」、5格は1格と同じで、7格は「Takašim」になるはずなのである。それなのに、2格が「Takaše」になっていた。これでは一格が「Takaš」という軟変化の男性名詞になってしまう。
では母音の後ろに「I」のついた「Inui」の場合にどうなるかというと、「Takaši」と同じように形容詞軟変化的な語尾を付けてもいいのだが、推奨されるのは、末尾の「I」を「J」に見立てて、男性名詞の軟変化と同じ語尾を付けるやりかたである。だから上に書いた間違いは、こちらに引きずられてのものだと言ってもよさそうである。気づいたのはたしか「Takaši Inui」の2格を「Takaše Inuie」(タカシェ・イヌイェと読む)と言ったときだったし。
「シバサキ」と「シバザキ」が混在するという問題もあって、一見漢字の読み方かと思ってしまったのだが、実際はドイツ語の影響である。チェコ語では特に外来語において、ドイツ語の影響で「S」を理由もなく濁らせることがあるのである。例えばチェコ人が「シンカンゼン」「ボンザイ」と言っているのに気づいた人もいるかもしれない。だから「Shibasaki」と書かれていたのを、チェコ語的に読んだりドイツ語なまりで読んだりしたというのが原因なのである。
日本人の名前の表記、読み、格変化に関しては、あちこちで気になる例に出会うのだけど、今回のワールドカップの中継は最悪だった。日本のチェコの人名表記とどっちがひどいかと考えると、それでも、やはり日本のマスコミの表記(即読み方)のほうがひどいな。チェコは、個々のアナウンサーが間違えることはあっても、ちゃんと読めている人もいるわけだけど、日本はマスコミ全体で変な表記を使っているし、自慢げに修正する人の表記も変だったりするからなあ。
2018年7月4日23時54分
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