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2018年07月13日

ツール・ド・フランス(七月十二日)




 さて、今年のツールにはチェコ人選手の姿はない。出場回数が最も多く総合でも一けたを何度か達成しているクロイツィグルと、ステージ優勝経験のあるシュティバルはジロに出場したことでツールはパス。ポーランドのチームからアスタナに移籍したヒルトもジロに出ていたのかな。ツールでの活躍がチームスカイ移籍につながったケーニックは、おそらくスカイ時代に負った怪我から完全に復帰できない状態が続いている。クイックステップの若手バコチは、数か月前にトレーニング中にトラックに轢かれて選手生命にもかかわるような大怪我を負い現在リハビリ中。もう一人のツール経験者バールタは、ボラからチェコのアルトゥルチームに戻ってきているので、そもそも出られない。

 チェコ選手がいなければということで、スロバキアの選手はというと、ペテル・サガンの印象が強すぎて他の選手が出場しているのかどうか判然としない。以前はベリツ兄弟とか、名前だけは知っている選手がいたんだけど、最近はサガン兄弟以外は知らない。兄のユライの存在を知っているのも、弟とセットで登場するからだし、現在のスロバキアのロードレース=サガンなのである。
 じゃあ、サガンを応援するのかと聞かれると、微妙である。心情的には応援したいし応援する気持ちはあるのだけど、あのスーパースターというよりは、トリックスターと言いたくなるような言動を見ていると、大きな声で応援しているとは言いたくないという気持ちにもなるのだ。うちのは、ステージ優勝後のサガンの英語でのインタビューが聞くに堪えないと言っているし。まあ、でも今年は失格になるなんてことがなく、何度目かの緑のジャージを獲得することをこっそり期待しておこう。八月にオロモウツ近辺で行われるチェック・サイクリング・トゥールには、ボラは来るのかな?

 今年のツールで気になるというか、気に入らないのは、チームスカイのフルームの出場が最終的に許可されたことだ。去年のブエルタで喘息薬を許容量を超えて摂取したことが判明した後のフルームへの扱い、WADAやらUCIやらの下した判断は厳しく批判されるべきであろうに、タブーなのかなんなのかほとんど放置されている。禁止された薬物が発見されたわけでも、何らかの数値が基準値を超えていたわけでもないクロイツィグルに対していじめとも思えるような執拗な攻撃を仕掛けてきた連中が、禁止薬物ではないとはいえ使用に制限のある薬物に関して許容量をはるかに超えた数値が検出されたフルームに対しては、ブエルタの結果をはく奪もしなければ、その後の暫定的な出場停止処分も課さなかったのだから、ふざけるなとしか言いようがない。
 この手の、悪い言い方をすれば喘息薬ドーピングが問題になっているのは、自転車のロードレースだけではない。あまり話題にならなかったけど、どこかのテニス選手が問題提起のための批判をしていたはずだ。何年か前には、スキーのノルディックのツール・ド・スキーで優勝した選手だったか、優勝目前だった選手が検査で基準値を大きく超えたことがある。このときも、あまり話題にはならないまま、こっそり結果が削除されて終わりだったかな。出場停止があったかどうかは覚えていないが、腫物に触るような、まるで何もなかったことにするかのような対応に、普段なら大騒ぎをするところなのにと不思議だった。

 恐らく、この喘息薬というのはいろいろとデリケートな問題があるだろう。それでも基準値を超えた数値が出たのであれば、原則として処分されるべきだし、かりにお咎めなしになるにしても、最終的な判決が下るまでは出場停止にするのが、他のドーピングで疑われ、最終的にお咎めなしになった選手たちとの兼ね合いからも妥当というものである。それなのに、金満チームのスカイに対してだけは、こんな対応をするから、WADAとかUCIという組織は信用しきれないのである。
 喘息という持病を持っている人でも、ハードなスポーツができるという意味で、喘息薬が使用されるのは悪いことではないのだろう。しかし、考えてみると、許容量を超えるような薬物を投与しなければ出場できない状態でレースに出場するのは、選手の肉体にとっていいことだとは言えまい。ドーピングの禁止が選手の身体を守ることを建前としている以上は、この手の過度な摂取は禁止されるべきではないか。スポーツ選手が風邪で発熱したような場合でもドーピング検査の陽性を恐れて風邪薬も飲めないなんて話を聞くと、本末転倒じゃないかと言いたくなる。
 今回の問題で、フルームが本当に治療のためだけに薬物を服用したのか、運動能力を上げるために使用したのかは、正直どうでもいい。喘息の症状が出てそれを押さえるというだけでも、その時点での能力を向上させていることになるわけだし、そういうあいまいな部分があるがゆえに超えてはいけない基準値が設定されているはずである。問題は、他のケースでは強硬に処罰を主張するWADAやUCIが、このフルームの件に関しては中途半端な対応に終始していることで、基準値を超えてもいなかったクロイツィグルの例を考えれば、対応が恣意的すぎるとしか言いようがない。でも、それを批判する声はほとんど聞こえてこない。これも健康的な状態ではない。

 チーム・スカイでは、イメージ向上を狙ってか、プラスチックの使用が何たらかんたらのキャンペーンをやっていて、チームジャージにはその象徴として背中に鯨が描かれているのだそうだ。偽善でも何もやらないよりはましだという考え方には賛成するけど、これって偽善にすらなっていないような気がする。給水のためのボトルは原則使い捨てで、不要になったら沿道に投げ捨てるのが自転車のロードレースである。エネルギー補給飲料などのパッケージも、ためらいもなく放り捨てる。こんなことをやっているチームがプラスチックが何たらかんたら言ってもなあ。使用済みのボトルやパッケージをアシスト役の選手が回収してチームが集団の後ろを走らせている自動車まで運ぶなんてことをして初めて、偽善と呼ばれるレベルに到達する。
 ということで、チーム・スカイを嫌う理由がまたいくつか増えてしまった。だからと言って、どこのチームを応援しているというわけでもないのだけど、チェコの選手、チェコの選手がいるチームは、ひいき目に見る傾向がある。チェコ選手のいない今年はUCIのワールドツアーに入っていないチームの選手が活躍するとうれしいかな。
2018年7月12日23時40分。







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