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2016年03月14日

一体何人? その一(三月十一日)




 以前からラジオやテレビに日本人のような顔をして出演し、日本の人口を増やしてくれたり、テレビの外国のクリスマスを紹介するニュースに浴衣着て帯刀して出てきたり、料理番組で和食としてオムライスを紹介していたり、となかなかとんでもないことをしてくれていたが、実害はないので笑いのネタとして見ていた。
 この人物、実業家として旅行業で成功したようで、旅行業の業界団体の会長みたいな立場で、大手の旅行代理店が倒産したときなどに、しばしばテレビに登場してコメントしていた。つまりは、あるときは日本人として、またあるときはチェコ人としてテレビに出ていたのである。


 そして、次の国政選挙である下院の選挙には政治団体を結成し多数の候補者を立てると共に、自らも出馬した。「ウースビット」というチェコ語の党名は、日本語に訳すと「夜明け」とか「黎明」と訳せるのだが、日本とのかかわりで考えると、新党魁あたりを意識したのだろうか。でも、最近のチェコやスロバキアの政党名は、読んでも何のことやらわからないものが多いので、その一つと考えたほうがいいのかな。「TOP09」とか、「SMER」とか、いい加減にしてほしい。日本の「みんなの党」とかいうのに比べればマシなんだけど。
 とまれ、その上院選挙でかなりの得票数を得て、アンドレイ・バビシュの新政党ANOと共に、ウースビットは、新しい勢力として下院に議席を得ることになった。これに調子に乗ったのか、オカムラ氏は、とんでもない発言や行動を繰り返すようになる。その最たるものが、ネオナチと目されている極右政党が主催する不法移民排斥を主張するデモに参加して、積極的に外国人排斥を訴えたことだろう。ウースビットの議員達の中には以前から党のイメージを悪化させるオカムラ氏の不穏当な発言に反感を抱いていた人たちがいて、この人たちが、党首であったオカムラ氏を党から追放してしまうのである。それにしても、党名の後に説明のように二格で「直接民主主義」なんて言葉がついている政党の党首が、ネオナチとつるむってのはどういうことなのだろうか。

 もう一つ、オカムラ氏には理解できないことがある。この人、母親がチェコ人で、父親が日本人だと言うことになっているが、実は父親は朝鮮系の人らしい。それがいわゆる在日の人なのか、日本に帰化した人なのかは知らないが、だから日本人というのは正しくないということではない。日本語が不自由なく使えて、日本語で話が通じるのであれば、その人は日本人で何の問題もない。
 もし、オカムラ氏が本人の言うとおり日本で育って、日本で学校に通ったのなら、母親がチェコ人で父親が朝鮮系というのはかなり大変だったはずだ。子供というものは残酷なもので、ささいな違いを理由に差別したりいじめたりする。親も、建前上は、外国人だからという理由で差別してはいけないなどと言いながら、自分の子供に対しては、あの子は外国人だから近づくなとか、遊ぶなとか言ってしまうものだ。少なくとも九十年代の半ばまでは、差別はいけないと言いながら、自分の子供が在日の人と結婚したいと言い出したら反対するという人も多かった。
 だから、オカムラ氏が日本の学校で、排斥されそうになったという体験をしただろうと考えてもあながち間違いではあるまい。少なくとも日本人の中に入りきれない疎外感を感じさせられることはあったはずだ。その一方で日本を出てチェコに来たときにも苦労はあったと推測する。外国人であることで苦労したはずの人物が、どうして外国人排斥を訴えるのだろうか。それとも、だからこそ排斥を訴えると考えるべきなのだろうか。よくわからない。

 オカムラ氏は、日本的なものをチェコに導入することを主張して支持を集めているという話も聞くので、もしかしたら、日本の外国に対する閉鎖性、異質なものに対する非寛容性を、外国人に対して寛容なチェコの社会に導入しようとしているのかもしれない。その結果として、チェコを、日本の経済的な成功の原因の一つだという人たちのいる日本的な単一民族国家にしようというのかもしれない。では、そのチェコ人の単一民族国家に、半分日本人であるオカムラ氏の居場所はあるのだろうか。

 最近、差別の原因は無知だという意見をさんざん聞かされてうんざりしているのだが、それは違う。本当に何も知らない無知であれば、差別なんてできはしない。問題なのは、無知ではなく、中途半端な知識、誤った知識なのである。そして、それは、差別だけでなく、このような喜劇の原因にもなる。

 当初の予定ではオカムラ氏は話の枕で、シュバルツェンベルク氏の話になるはずだったのだが、迷走してしまい、その分時間がかかった上に、いつも以上にしょうもない文章になってしまった。
3月12日23時30分。






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