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2016年03月26日
いんちきチェコ語講座(いくつめだっけ) 方向を表す前置詞(三月廿三日)
「do」と「na」の区別は、「v」と「na」の区別と同様である。一言で言うとこれで終わってしまうのだが、具体的に説明していこう。「do」の後に来る名詞は二格になり、「na」の後に来る名詞は四格になる。原則として場所を表すときに「v」を必要とした名詞は、方向を表すのに「do」を使い、場所に「na」を使う名詞は、方向にも「na」を使うのである。だから区別がわからなくて、いちゃもんを付けたくなるものも同じになってしまう。
そこで、今回はちょっと視点を変えたところからいちゃもんを付けることにする。「do」を付ける名詞と、「na」を付ける名詞は、厳密に区別されるのだが、たまにどちらも使えるものがある。一番最初に習ったのは冷蔵庫だった。動詞の「dát」(本来の意味は「与える」だが、日本語に訳すと、さまざまな動詞に訳せる)を使うときに、「do ledni?ky」と言うと、冷蔵庫の中に入れるという意味になり、「na ledni?ku」と言うと、冷蔵庫の上に置くという意味になる。つまり内部に入っていくときには「do」、表面で止まるときには「na」という区別だと考えればいいのだという。
それなら、人の家に遊びに行くときは、家の中に入るから「do」を使えばいいのかというと、そんなことはない。単純に「do domu」の後に、人名を二格でつければ、「誰々の家に(行く)」となりそうだが、チェコ語では、「家に(行く)」「家で(する)」と言う場合には、特別な副詞的な言葉を使う。だから「do domu」ではなく、「dom?」となり、これは名詞ではないので、二格で後からかけることができない。そのため、別な前置詞「k」+人名の三格を使わなければならない。全体で言うと、「k+人名の三格+dom?」になるので、それぞれを日本語に直訳すると「誰々のところに、うちに(行く)」と言うことになる。場所を表す場合も同様で、「u+人名の二格+doma」という形で使う。面白いことに、同じスラブ語でもポーランド語は日本語的な「do domu+人名の二格」が使えるらしい。ポーランド語のほうが、チェコ語より日本語に考え方が似ているというのはなんか悔しい。
それから、もう一つの問題は、場所を表す前置詞を使うのか、方向を表す前置詞を使うのかである。これは動詞によって決定される。「行く」「来る」のような、移動していくことを表す動詞の場合には、全く問題がないのだが、ややこしいものがいくつかある。日本語で「置く」と認識できる動作の場合、チェコ語では前出の「dát」以外にも、「polo?it」「nechat」などの動詞で表されるのだが、「机の上に置く」であれば、前二つは「na」+四格、最後は「na」+6格を取るのである。日本語に動詞だけ直訳すると、「polo?it」は「置く」、「nechat」は「残す」と訳し分けられるのだが、日本語ではどちらも助詞「に」を使えばいいので、これはチェコ語の勉強を始めて廿年近く、チェコで生活を始めて十五年ほどたった現在でも間違い続けている。わかっていても間違える問題だから、どうしようもないのである。
また、「前」を意味する「p?ed」も、場所なのか方向なのかで、七格になる場合と四格になる場合がある。チェコ語を勉強し始めてすぐに覚えたことの一つが、前置詞「p?ed」は七格を取ると言うことだったせいもあって、「p?ed」+四格は今でも使えないことが多い。
思い返してみると、勉強を始めたころに、同じ「ここ」でも、場所を示す「tady」と、方向を示す「sem」の違いがあるということを繰り返し繰り返し何度も説明されて、完璧にできるようになったとは言えないけど、重点的に勉強した。それなのに、チェコ語の方言の中には、この「tady」と「sem」を逆に使う方言があると言うのだ。それを知っていれば、間違えて怒られたときに、方言なんだよという言い訳が使えたのにと思うと悔しくてならない。師匠に言ったら、それに対して、「ほう、そうか、お前は、モラビアの人間ではなく、シレジアの人間なのか」と返されて、モラビア人でありたい私には反論できなくなりそうだけど。
3月23日18時30分。