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2016年04月14日
スカンゼン、あるいは野外博物館(四月十一日)
オロモウツのある ハナー地方のスカンゼン は、それほど大きくないのだけれど、オロモウツから少し北にいったところにある村、プシーカジにあるらしい。モラビアでも最も肥沃な土壌に恵まれ、経済的にも豊かだったハナー地方の豪農の家が博物館になっており、母屋だけでなく、大きな庭、納屋などを見学することができる。
これはテレビで見たのだが、ハナー地方の民族衣装は、チェコのほかの地域と比べても、装飾豊かで、襟の高さや靴なども、この地方の経済的豊かさを反映しているという。また独身の人が着るものと結婚した後に着るものが違っているとか、細かいルールがあるらしい。ハナー地方の結婚式の様子を、民族衣装を着た後のリボンなどの飾りつけの仕方も含めて説明していた番組の撮影された場所が、プシーカジの野外博物館で、そこの民族舞踊の団体が、結婚式を実演していたのだった。
そういえば、一月ほど前に日本の知り合いからNHKの衛星放送の旅番組でチェコが取り上げられて、オロモウツも出てくるという連絡を受けた。オロモウツの何が出てくるのだろうと思って番組のホームページを見たら、民族衣装を着た人たちの写真がオロモウツのものとして出ていた。オロモウツじゃなくて近くの村なんじゃないかな。民族衣装の専門家になると、服を見ただけでどの地方のどの村のものかわかるらしいけれども、私には無理な話である。
民族衣装のバリエーションの豊富さという意味では、ハナー地方よりも、むしろその南にあるスロバーツコ地方の方が有名であろう。スロバーツコは、乱暴な言い方をすると南モラビア地方の東半分というのが一番わかりやすいだろうか。英語名を日本語訳すると「モラビアのスロバキア」という意味不明な名称になる地域である。主要な町としては、四年に一度スロバーツコの年と呼ばれる民俗の祭典の行われることで知られるキヨフ、初代マサリク大統領の出身地とされるホドニーン、大モラバ国の中心地のひとつだったと言われるウヘルスケー・フラディシュテなどがある。ワインの生産で知られた地方である。
この スロバーツコ地方のスカンゼン があるのが、スロバキアとの国境にあるストラージュニツェという町である。この町は、チェコの民俗芸能の中心にもなっていて、毎年チェコ国内だけでなく、世界中から民俗音楽や、民俗舞踊の団体を集めたフェスティバルが行われている。ここのスカンゼンは、広大な土地にたくさんの建物が集められたものである。普通の農家の建物以外にもワイン関係の建物などもあって、入館料とは別にお金を出せばその場で試飲できるなんてサービスも昔はあったんだけど、今はどうだろう。
そしてモラビアでもう一つ特筆しておかなければいけないスカンゼンは、バラシュスコ地方にある。バラシュスコは、ハナー地方の東、スロバーツコの北にある地域で、南のズリーンから奥に入ったビーゾビツェから、北に向かってフセティーン、バラシュスケー・メジジーチーを経て、ロジュノフ・ポット・ラドホシュテムのあたりまで広がる地域である。山がちな地域で、昔から羊飼いが多く、その羊飼い達が、今ではルーマニアになってしまったバラキア(ワラキアとも)から来たという伝説があることからバラシュシュコと呼ばれるようになったと言われている。方言も独特なものがあるし、ハナー地方やスロバーツコ地方とは違って、家屋に木造建築を使っていた地域でもある。
バラシュスコ地方の木造建築物を集めて作られたのが ロジュノフの野外博物館 である。丘の斜面に点在する建物を全部見て回るのは一苦労だった。昔の山村での生活が再現されているので、映画の撮影などにもしばしば使われているようである。また、伝統的な焼き菓子や、工芸品などをお土産として買えるようになっていたんじゃなかったかな。
この博物館というかロジュノフのそばにあるのが、町の名前にも使われている山、ラドホシュトである。山頂にはスラブ人にキリスト教をもたらしたツィリルとメトデイの兄弟の像と、スラブ神話の豊穣の神ラデガストの像が建っている。ラデガストに関しては、資料が少なく、実際に神の名前なのか、神に関係する地名なのか判然としないらしい。学問的なことはともかく、一般のチェコ人にとってはラデガストという神様の名前は、定着しているのでそれでいいのではないかと思う。ヒュンダイの工場ができたことで知られているノショビツェで作られているビールの名前はこの神様の名前にちなんでラデガストというのだから。ビールのラベルに描かれた神の姿は、豊穣神というにはいかめしい。ラデガストは、実は戦争の神でもあるらしいのである。
4月12日0時30分。