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2017年07月08日
1997年の洪水(七月五日)
日本では、おそらく2002年にプラハを中心とするボヘミア地方を襲った洪水の方が有名だろうが、犠牲者の数、被害を受けた範囲の広さを考えるとこちらの方が、大きな洪水であった。被害額は、プラハの旧市街が水没した分、2002年の洪水のほうが大きかったようだけれども。
1997年の7月初めにモラビア全域、特にベスキディとイェセニークの山地で激しい雨が降り続き、場所によっては7月一月で、一年の平均降水量を上回るような雨が降ったらしい。とはいえ、雨がそれほど多くない地域なので、せいぜい数百ミリのオーダーである。ただし、雨があまり降らないことを前提に整備された河川は、これだけの大雨を引き受けることができず、各地で洪水を引き起こすことになった。
このときの洪水は、モラビアの中心を南流するモラバ川と、そのベチバ川などの支流だけでなく、モラビアとシレジアの教会辺りから北流するオドラ(オーデル)川とその支流でも発生している。昔、オロモウツにいた日本の人から、ダムの放流のタイミングが悪かったのも洪水が起こった理由だという話を聞いたことがあるのだが、当時存在したダムでは対応できないだけの降水量があったというのが真相のようである。
1997と書かれたプレートに最初に気づいたのは、ベチバ川沿いの温泉町テプリツェ・ナド・ベチボウに出かけたときのことだった。川沿いの建物の見上げるような位置にあるのを見つけて、案内してくれた友人に何かと聞いたら、洪水で水が到達した一番高い位置を示しているのだと教えてくれた。洪水で被害を受けた建物の改修が終わった後、記念?のためにつけられることが多いのだという。
その後、洪水は、テプリツェの下流にあるフラニツェでも、川沿いの低地を襲い、サッカー場や体育館などに壊滅的な被害を与えている。プシェロフでは市街地がほぼ完全に水に覆われた。その勢いのままモラバ川との合流点の手前にあるトロウプキという村を壊滅させた。それが7月8日のことだったという。
一方モラバ川本流も洪水を起こしており、ザーブジェフ、モヘルニニツェ、リトベルと被害を与えてきて、オロモウツの中心部で水があふれたのがトロウプキの翌日7月9日である。ホルカー・ナド・モラボウ、ホモウトフなど、モラバ川沿いの周辺の地区も含めて、オロモウツの市街地はほぼ全域水に覆われた。被害がなかったのは、旧市街の大きな岩の上に建っている部分と、町の西側から北側にかけて連なるある小高い丘の上の住宅街ぐらいだったようである。
モラバ川、ベチバ川が合流するトバチョフでは魚の養殖が行なわれている池が完全に水没してモラバ川と一体化し、クロムニェジーシュなどでも市街地が洪水に襲われている。オトロコビツェ、ナパイェドラの辺りでは、川から溢れ出した水が二、三週間にわたって引かず、巨大な湖となっていたという。オトロコビツェは、ズリーンと同様にバテャの企業城下町で、バテャ社が第二次世界大戦前に従業員用に建設したレンガ造りの四角い住宅が多数残っているのだが、これらの住宅は、浸水はしても倒壊することはなく、バテャの雇った建築家達の街づくりの先見性を垣間見せている。
モラバ川の洪水に隠れて大きな話題にはならないが、北に向かうオドラ水系でも、クルノフ、オパバ、オストラバなどの主要な町が軒並み洪水の被害を受けている。特にクルノフに被害を与えたオパバ川上流では、このときの洪水を受けて新たな治水用のダムの建設計画が立てられたという。東ボヘミア地方でも何箇所かで洪水が起こったようだが、こちらはさらに話題に上ることは少ない。
この1997年の洪水では、チェコ全域で49人という大きな数の犠牲者を出し、千の単位で家屋が全壊や半壊している。建物や農産物、また養殖業などの被害額は総計で630億コルナに上るという。この未曾有の大洪水を契機に、消防隊などの防災体制の見直しが進み、河川の洪水対策にも大きな進歩があったらしい。ただし、地域によっては、未だに洪水を防ぐための堤防が設置できていないこと頃もあるようだ。2002年のボヘミアの大洪水のあと、プラハではチェコレベルではあっという間に洪水対策が進んだのと比べると、やはりモラビアの田舎は、軽視されているんだよなあ、などと考えてしまう。
近年チェコでは異常気象なのか、降水量の多い年と少ない年の差が大きくなっている。異常に乾燥するか、雨が降りすぎて洪水が起こる年が多いような気がする。地球温暖化の影響はともかく、この辺りの気候が変動期に入っているのは確かなようである。個人的には冷夏を求めてチェコに逃げてきたので、夏が必要以上に暑くならないことを願うのみである。
7月7日15時。
こちら から。ただし一面茶色の水に覆われていて何がなんだかわからない写真も多い。7月7日追記。