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2017年07月22日
暑い(七月十九日)
チェコで気温が上がるのは、アフリカからの熱気が地中海を越えて流れ込んでくるからである。アルプスという壁があるので、日本の夏のように最初から最後まで毎日暑いというわけではないのだが、涼しい日と暑い日の気温の差が大きすぎるのも結構辛いのである。この辺は冬と一緒か。いや、冬は引きこもっていれば、何とかなるけど、夏は引きこもっても暑いという違いがあるか。
アフリカからやってくるといえば、チェコで「アフリツキー・モル・プラサト」という病気が発見されて問題になっている。末尾についている「プラサト」は豚を表す言葉の複数二格なので、豚の病気である。「モル」というのは、中世に何度かヨーロッパを襲って人口を激減させた黒死病、つまりペストのことである。ということは日本語ではアフリカ豚ペストという家畜の病気になるのかと考えた。
『動物のお医者さん』で、主人公のハムテルたちが獣医師試験を受けるときに、唱えていた暗号のような文句の中に、アフリカが出てくるものがあった記憶があるので、正しい病名が出ていないかと文庫本を引っ張り出してみたけど、アフリカ何なのかは書かれていなかった。以前、誰かがハンガリーの首都ブダペストのことを、ネット上で間違えてブタペストと書いている人が結構いるなんてことをいっていたし、豚インフルエンザも存在するから、豚ペストも存在するだろう。
存在しなかった。いや、「豚ペスト」で検索してみたら、「豚コレラ」が正しい名称で、豚ペストという言い方もあるということのようだった。つまりチェコで発見された病気は、アフリカ豚コレラと言うことになる。読みは、「トンコレラ」かな、「ブタコレラ」かな。昔「トンコレラ」というのを聞いたことがあるような記憶もある。「トンコロリ」だったかな。
とまれ、発端は東モラビアのズリーン地方の森の中で、イノシシの死体が発見されたことである。このイノシシがアフリカ豚コレラに感染していることが判明し、近くに豚を飼育する農家がいくつもあったことから大きな問題になった。野生のイノシシの間に流行しているのだとすれば、ズリーン地方からチェコ各地に拡散しかねないし、いつ飼育されている豚が感染するとも限らない。
ズリーン地方ではこれまでに40頭近くの死んだイノシシが発見されており、そのうち30体ほどがアフリカ豚ペストに感染していることが確認された。ということは、かなりの割合で感染しているということになる。政府はズリーン地方の感染したイノシシが発見された一帯からの豚の移動を禁止するとともに、養豚業者に対して感染防止のためのいくつもの指示を出した。
またチェコ全土で、イノシシ狩りが始まった。感染した個体は殺処分にするしかないのである。もともと近年イノシシの数の急増が問題になっており、農業、林業に与える被害もかなりの額に上っているようで。毎年一定数は猟師が狩っているはずなのだが、それを上回るペースで繁殖しているようである。生息密度が高いということは、どこかで流行し始めたら拡散しやすいということでもあるから、ある程度間引いておくことは、流行の防止にもつながるのだろう。
農務大臣のユレチカ氏の話では、今回のアフリカ豚コレラは、人為的な原因でチェコ国内に入ってきたらしい。つまり、誰かが病気のイノシシをチェコに連れてきて、放ったということなのだろうか。
チェコでは今年の冬に、鳥インフルエンザが猛威をふるって、各地の養鶏場などの家禽を飼育している施設で、一羽でも感染が確認されると全羽殺処分なんてことになっていた。それだけでなく一般の人が卵を得るために庭で飼育している鶏の中にも感染して殺処分を受けるものが続出した。一羽あたりいくらで国から保証金が出たらしいけれども、手続きと支払いに時間がかかったり、飼育を再開する前に殺菌消毒をして置かなければならないのだが、気温が低すぎて薬品の効き目が落ちるというので、飼育の再開まで長い期間がかかったりと、被害を受けた業者や家庭にとっては踏んだり蹴ったりだったようだ。
そのとき、鶏肉の主要な輸出先であるロシアが、鳥インフルエンザの流行を理由にチェコ産の家禽の肉にたいして禁輸措置を発動し、直接鳥インフルエンザの被害は受けなかった業者にも打撃を与えていた。国もそこまでは補償しきれないだろうし。
ということは、今回のアフリカ豚コレラが、本当に人為的に持ち込まれたものであるのなら、チェコの養豚業に打撃を与えるための試みだったのかもしれない。すでにチェコ産の豚肉の輸入禁止の措置を取った国もあるようだし、どこの国の業者がなどと考えてしまうけれども、国内の業者の争いの可能性もあるのか。
とまれ、ズリーン地方で、感染したイノシシが発見された地域では、森の中の土壌の殺菌、消毒処置も進められているから、近いうちに終息することを願ってやまない。チェコ政府は、迅速な対応で、問題をズリーン地方に封じ込めることに成功したと評価されているようであるけれども、養豚業者にとってはたまったもんではあるまい。豚には直接の被害のなかった今回、国からの保証はあるのだろうか。
7月20日18時。