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2018年11月06日

チェコとロシアの微妙な関係(十一月二日)





 日本でも知られるチェコアイスホッケーのスーパースター、ヤロミール・ヤーグルは、自らの背番号として、「プラハの春」の悲劇が起こった1968年にちなんだ「68」をつけ続けるほど愛国心の強い選手である。おそらく、あのときの悲劇を忘れないという意思を表しているのだろう。そんなヤーグルがロシア正教に改宗すると言い出してチェコ社会を驚かせたことがある。実際に改宗したのかどうかまでは覚えていないが、68にこだわるヤーグルがロシアを象徴するロシア正教に改宗するということは、ロシアに対して親近感を持っていたことを示しているのだろう。
 ヤーグルは、アメリカのNHLで希望するような契約が結べなかった時期にロシアのKHLでもプレーしている。その後、NHLに復帰したのだが、ロシアでプレーしたことは後悔していないと語っていた。ロシアに行ったときにも、まったく契約するチームがなかったわけではなく、条件を下げるぐらいならロシアに行くという感じだったようだ。このことからも、ヤーグルがロシアに対しては忌避感を持っていないことは明らかだと言ってよかろう。だからと言って、親プーチンかどうかはわからないけど。


 ノハビツァは秘密警察に協力を強要されていたという過去が暴かれることで批判の対象になったから、ソ連に対しては恨み骨髄というところだろうが、ロシアに対してはわだかまりはないらしい。特に言い訳することもなく、ロシアからの叙勲を受け入れていた。こんなのは事前に打診があるものだろうから、ロシアに反感を抱いていればその時点で断って話が表に出てくることもなかったはずである。
 幅広いファンの中には、当然ロシア嫌いの人もいるわけで、ロシアの勲章をもらったことを理由に、ファンをやめるとか、ノハビツァの曲を聴くのをやめるとネット上で表明した人たちもいるようだ。しかし、ファンたち、これまでの言動で、ノハビツァという人物がどんな政治的信条を持っているのか理解できなかったのかねえ。悪名高きバニーク・オストラバのもっともコアなファンたちと結びついているし、去年の下院の選挙ではオカムラ党支持を公言してしまうような人物なのである。オカムラ党支持者=ゼマン大統領支持者だから、ロシアのプーチン大統領に親近感を抱いていても何の不思議もないのである。

 チェコがロシアに対してどんな態度をとるべきなのかで一体になれていないのは、先日下院議長のANOのボンドラーチェク氏が議長就任後の最初の外遊としてロシアに出かけたことで物議をかもしていることからも明らかである。多くの党はEUが制裁の対象にしているロシアに外遊するとはどういうことかと批判し、外務省の外交政策と足並みをそろえていないのはけしからんとか言っていたかな。
 ゼマン大統領はもちろんボンドラーチェク氏の肩を持って、チェコは独立国でEUに加盟しているからと言って独自の外交を行う権利を失ったわけではないと主張している。ゼマン大統領はロシアに対する制裁自体を無意味なものだと批判しているから、ボンドラーチェク氏を支持するのは予想通りなのだけど、批判している人たちは、ロシアとの関係をどうしようと考えているのだろうか。ロシアへの対応については大本のEU自体が中途半端なところで揺れているから、個々の加盟国としても対応が難しいところである。

 旧共産圏諸国の反対を押し切って鳴り物入りで始めたロシアへの経済制裁も、肝心の天然ガスについては対象外にした上に、ドイツのエネルギー安定のために新たなウクライナを通らないパイプラインの建設を、経済制裁にもかかわらず、進めているのだから、プーチン政権を追い詰めるほどの効果は発揮していない。資源大国相手に最大の財源である天然資源を除外した経済制裁を仕掛けても意味がないだろうに。あの経済制裁でダメージが大きかったのは、輸出先のロシア市場を失い、ドイツなどのロシア向け製品に市場を荒らされた旧共産圏諸国なのである。それがこの辺りの反ドイツ、反EU感情を高めているから、ゼマン大統領が経済制裁を無意味なものとして廃止を求めているのにも理がないわけではない。
 考えてみれば、啓蒙主義の時代以来、チェコの政界は、ロシアとドイツに対してどのように対処するかという点で分断されゆれてきた。そう考えると、現在、ドイツに対しても、ロシアに対しても統一した態度が取れず、微妙な対応に終始するのも仕方がないのかもしれない。
2018年11月4日23時35分。








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