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2020年03月24日

冷戦期のチェコSF 『世界SF全集』(三月廿一日)




 ただ、日本人の読者はと言うべきなのか、出版社はというべきなのかわからないけれども、全集が好きだったのだ。戦前の戯曲全集や、プロレタリア文学系の全集にチャペクの作品が収録されたことはすでに紹介したが、戦後もさまざまな文学全集が刊行されて、図書館に入れられたのはもちろん、一般の家庭でも意外なほど購入していたようである。古本屋で買った本の蔵書印から労働組合で購入したなんてものもあったなあ。かくいう我が家にも、両親はどちらも文学なんてベストセラーを読むぐらいで、あまり感心のない人だったが、集英社かどこかの刊行した世界文学全集があった。読んだ形跡のない巻がほとんどで、いつの間にか押入れにしまいこまれていたかな。

 不思議なのは、あくまで個人的な印象だが、全集好きとは言っても、世界文学全集はよく見かけるのに、日本文学全集は、古典を除くとほとんど見かけないことと、一般の人で日本の文学全集を個人で購入したのを見かけたことがないことである。1970年代というのは、出版社にいた知人によると、この手の大部の叢書を所有していることが一種のステータスになっていたから、文学全集だけでなく、日本の歴史やら世界の歴史なんかの、いわば歴史を全集的に扱った叢書も、今からは考えられないほど売れていたらしい。
 言ってみれば、この早川書房の『世界SF全集』は、日本のSFが誕生し拡大していく時期と、文学全集が売れていた時期が、うまく重なったことで実現した企画だったといってよさそうだ。どのぐらい売れたのかは知らないが、これで早川が経営危機に陥ったという話も聞かないから、それなりの成功を収めたのではなかろうか。

 念のために大体の内容を説明しておくと、1巻から26巻までは海外SFの長編作品が収められているが、一人一巻ではなく、二人以上で一巻となっている巻もある。チャペクの9巻もエレンベルクと一緒だし。その後、27巻は安部公房の作品集で、28巻から30巻までが日本のSF作家の長編を収めたもの。小松左京と星新一だけが一人一巻で、30巻は筒井康隆、眉村卓、光瀬龍の三人の作品が収められる。
 31巻以降は短編集で、3冊目の33巻に、ソ連東欧篇ということで、チェコスロバキアの作家の作品も収録されているのである。ただし当時の東欧諸国の作品がすべてあるわけではなく、ソ連が力関係から言っても当然で圧倒的に多く10篇、続いてポーランドが5篇、チェコスロバキアが4篇。最後にルーマニアとブルガリアが1篇ずつという構成になっている。ハンガリーとユーゴスラビアはどこに行ったんだ? 東ドイツもないか。

 とまれ、この『世界SF全集』の第33巻に収録されたチェコの作家の作品は、原典が確認できなかったチャペクの「飛ぶことのできた男」と、前回紹介したネスバドバの「クセーミュンデの精薄児」の2篇に加えて以下の二つ。

?@バーツラフ・カイドシュ/栗栖継訳「ヴォラフカのセロリ」
 訳者名は日本語版のウィキペディア、以下の作者の説明はチェコ語版による。カイドシュもネスバドバと同様、本業は医師だったようだ。生まれは第一共和国時代の1922年、ビロード革命直後の1990年に亡くなっている。翻訳者としても活躍し、ラヴクラフトの作品もいくつか翻訳している。
 この作品の原題は「Volavkovy celery」で、1970年刊行された『Invaze z vesmíru(宇宙からの侵略)』に収録されている。ボラフカというと囮を意味する言葉が思い浮かぶのだが、所有形容詞が使われていることを考えると人名なのかもしれない。
 カイドシュの作品は、もうひとつ翻訳されていて、同じ『Invaze z vesmíru』から「Drak」が深見弾の訳で「ドラゴン」と題して、『東欧SF傑作集』下(東京創元社、1980)に収録されている。


?Aイバン・フォウストカ/深見弾訳「炎の大陸」
 作者のフォウストカは、本業はジャーナリストで、ムラダー・フロンタ紙などで活躍したらしい。その一方で俳優としても活動していたというが、劇場中心の活動だったのか、出演作品を見たことはない。生まれたのは1928年で亡くなったのは1994年のこと。
 作品の原題は「Plamenný kontinent」で、1964年刊行の『Planeta p?elud?(幻影の惑星)』。子供向けのSF作品で、この作品も含めて4篇の短編が収められているようだ。子供向けで、しかもSFなら読めるかもということで、本屋で探してみようと思う。
2020年3月22日22時。














タグ: SF 翻訳
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