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2020年09月02日

上院議長中華民国訪問(八月卅日)




 それはともかく、今年の初めに予定が発表されて以来、紆余曲折というよりは、各方面からの妨害があった上院議長の台湾訪問が実現した。取り上げるかどうか悩んでいたのだが、日本のネットニュースでも誤解交じりに報道されていたので、書くことにした。読んだのは、どうも翻訳記事らしい これ

 一読するとチェコ政府が中国政府の反対を振り切って上院議長を含む代表団を派遣したような印象を受けそうだが、それは大きな間違い。前任のクベラ氏が計画を発表した時点から、ゼマン大統領を筆頭に、チェコ政府は計画の撤回を求めて圧力をかけていた。バビシュ首相はそこまで熱心な印象はなかったが、社会民主党の党首ハマーチェク内務大臣と、外務大臣が特に強硬に反対していた。
 現議長のビストルチル氏も、就任当初は慎重に検討すると言い、一時は撤回しそうな発言もしていたと記憶するのだが、最終的には市民民主党の同僚でもあったクベラ氏の意志を尊重し、政府の反対を振り切って台湾訪問に踏み切った。ゼマン大統領は不満の意を表したし、外務大臣の口からは、繰り返しこの訪問はチェコ政府の外交方針に反したものだということが強調されている。中国に配慮しているのである。

 もともとクベラ上院議長が、計画を発表した時点で、中国側からは脅迫もどきの警告がなされていたのだが、その警告が確か中国大使館から直接上院議長ではなく、大統領に対して出されたものが上院議長に回されたという話があったと記憶する。それで脅迫しているのが中国なのか大統領なのかという疑問も呼んだ。ビロード革命時に活躍した反共産党の闘志であるクベラ氏は、そんな内政干渉もどきには屈しないと、台湾訪問を実現する強い意志を見せていたのだが、残念なことに職場の国会で倒れて帰らぬ人になった。

 後任の議長が決まった後、この台湾訪問をどうするかは、中国発の武漢風邪の大流行で一度はうやむやになっていたのだけど、流行が治まって再度議題に上るようになると、政府側の嫌がらせが始まった。主導したのは社会民主党だと見る。チェコも他の民主国家と同じで三権分立というものが確立されているため、立法権の長の一人である上院議長が政府の方針に反して台湾訪問をすると言い出しても、政府には阻止する権限はないのである。
 普通この手の国の代表団が外国を訪問するときには、特に今回のように少人数ではなく、企業の代表たちまで含めて大人数で出かける場合には、軍が運行を担当する政府専用機が使用される。それが台湾訪問に使えないというニュースが流れたときには、軍は公式の依頼を受ければいかようにも対応すると語っていたので、上院議長の依頼は軍まで届いていなかったわけだ。防衛大臣はANOの人だが、この台湾問題に関してはほとんど発言していない。

 その後、チェコの元国営航空であるチェコ航空の飛行機を利用するという案も出たようだが、現在チェコ航空の親会社であるチェコの格安航空会社であるスマートウイングスが今回の経済危機で政府の支援を必要としていること、最大の株主が中国企業であることなどもあって、これも実現せず、結局は台湾の民間航空会社の飛行機で、台湾に向かった。
 公式見解は、軍の政府専用機を利用すると、途中でどこかの飛行場に着陸する必要があり、その場合、台湾に入って14日の隔離を受けなければならないので、その必要のない唯一の方法である台湾の航空会社を使ったというものである。誰も信じてはいないと思うけど。将来的には台湾とプラハを結ぶ直行便をこの会社に任せたいという考えもあるのかな。

 またプラハと中国、台湾の都市の姉妹都市関係についても書かれていて、プラハが積極的に中国と対立しているかのように読めるが、これも微妙に違う。もともとプラハは台湾の台北と友好関係にあり、姉妹都市かどうかはわからないけど、何らかの協定を結んでいた。それをゼマン大統領が共産中華帝国に対する貢物の一つとしてプラハと北京の姉妹都市協定を斡旋したのである。同時に台北との協定は反故にされた。
 この姉妹都市の協定を結ぶ時点で、台北との関係をどうするかだけではなく、中国が協定に、本来無関係であるにもかかわらずねじ込んできた、いわゆる「一つの中国」政策条項も問題とされたのだが、当時のANOが市長を出していたプラハ市政府はゼマン大統領の意を汲んで、反対派を抑え込んで調印に持ち込んだ。実はプラハと北京の姉妹都市関係が始まったのは、最近のことでしかないのである。

 そして、前回の地方議会選挙でプラハ市に海賊党を中心とした市政が誕生すると、改めてこの「一つの中国」が問題とされた。プラハは国政レベルの条約や協定ならまだしも、自治体同士の交流協定に、このような国政に関わる条項が入るのはおかしいと主張し北京側と交渉しようとしていた。それに怒った中国政府が、プラハと名のつく音楽団体に対して、興業ビザを発給しないなどの嫌がらせを始め、プラハ側がこの条項を撤廃しない限り姉妹都市の協定は破棄すると通告したのが去年の夏だった。
 この問題で中国側が譲歩するはずもなく、プラハと北京の姉妹都市の関係はまともな話し合いもないまま解除され、制約のなくなったプラハは、以前から友好関係にあった台北とよりを戻したというのが、プラハをめぐる北京と台北の争いの経緯である。プラハとしては観光客の誘致が最大の目的である以上、両方の都市と姉妹都市の関係を結べるのが理想的なはずだが中国側がそれを許すはずはない。

 だから、チェコという国も、プラハもこの記事から受ける印象ほどには、中国に対して強硬な姿勢に出ているわけではない。もちろん、徹底的に反中国の人もいるけど、ゼマン大統領と共産党、社会民主党の支持者を抱える親中国派ほどは多くない。バビシュ首相を筆頭に多くの人にとって重要なのは、経済的な利益である。それで、上院議長の台湾訪問にもたくさんの企業の代表がビジネスチャンスを求めて同行しているのである。
 この話もうちょっと続く。
2020年8月31日16時30分。













タグ: 中国 台湾
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