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2020年09月10日
イジー・メンツル1(九月七日)
チェコを代表する映画監督のイジー・メンツルが亡くなった。日本では名字は「メンツェル」と音写されることが多いが、チェコ語の発音では「メンツル」である。「Z」が「ツ」になるのはドイツ語の影響だろうか。享年82歳。天寿を全うしたといってもいいのだろう。協力して数々の名作を送り出した盟友のボフミール・フラバルと享年を同じくするのは、運命というものだろうか。フラバルはチェコ最後の文豪といいたくなる存在だが、メンツルも最後の巨匠と言ってもいいのかもしれない。
ニュースでは、当然メンツルの人生を簡単に紹介していたのだが、一番驚いたのは、母校であるFAMU(芸術大学の映画学部。音楽関係者は大学の略称のAMUを使い。映画はFAMU、演劇はDAMUを使うことが多い)では、才能不足を理由に当初希望した映画監督の勉強が許可されず、テレビ関係の学科で勉強していたという話である。教官を務めていた映画監督のオタカル・バーブラに見出されて映画監督の道に進めたのは、メンツルの映画のファンにとっても幸いなことだった。以下主要な作品を簡単に紹介しておく。繰り返しもあるけど。
メンツルは大学卒業後の監督としての活動でいわゆる「ノバー・ブルナ」の創設者の一人とみなされている。きっかけと言えそうなのは、ビェラ・ヒティロバーに誘われて参加したらしい1965年の映画「Perli?ky na dn?(水底の真珠)」である。ボフミール・フラバルの同名の短編集を原作とする映画で、メンツル、ヒティロバー、ニェメツ、イレシュ、ショルムという、いずれも「ノバー・ブルナ」に属する5人の監督が、それぞれ一本ずつ短編映画を制作している。
メンツルにとってはこれが最初の商業映画だったらしい。同時にメンツルと原作者フラバルという、1960年代以降のチェコスロバキア映画の最高の組み合わせが誕生した瞬間でもあった。メンツルが担当した作品は「Smrt pana Baltazara(バルタザル氏の死)」で、原作とは人名が変わっているが、オートバイの世界選手権のチェコスロバキアGPでドイツ人選手が亡くなった事故がモチーフになっているという。残念ながらこの作品については現在まで見る機会を得ていない。
翌1966年にメンツルとフラバルが世に送ったのが、アメリカのアカデミー賞で外国語映画賞を取った「厳重に監視された列車」である。日本では「運命を乗せた列車」という題名でも知られている、この映画は、アイドル歌手だったバーツラフ・ネツカーシュの俳優としての才能を見出したという点でも、重要な作品である。メンツル自身も医者の役で登場している。
1968年には、フラバルの原作ではないが、戦前の作家ブラディスラフ・バンチュラの同名の作品を映画化した「Rozmarné léto(気まぐれな夏)」が公開される。重要なのは名優ルドルフ・フルシンスキーとブラスティミル・ブロツキーが主要な役で出演していることである。特にフルシンスキーは、以後のメンツル作品には欠かせない存在となる。
そして、「プラハの春」で規制緩和が頂点に達した1968年に制作され、完成後、正常化の始まる1969年に問題作としてお蔵入りになったのが「つながれたヒバリ」である。20年以上のときを経て、ビロード革命後に初めて一般公開され、1990年にベルリン映画祭で金熊賞を獲得した。この作品でも主役のバーツラフ・ネツカーシュだけでなく、ルドルフ・フルシンスキーとブラスティミル・ブロツキーも印象深い役を演じている。共産党には、思わず発した何気ない一言のせいでネツカーシュが炭鉱送りになる最後が許せなかったんだろうなあ。
ネツカーシュは、俳優としての出演作こそ少ないが、「厳重に監視された列車」と「つながれたヒバリ」というフラバル=メンツルの二作での演技だけで、20世紀後半のチェコを代表する俳優になったといっていい。その後は、秘密警察に脅迫されて、協力者としての仕事を強要されたストレスから、見違えるように太ってしまって、一時は表舞台から姿を消していたようだけど。
以下次号。
2020年9月8日20時。
2020年09月09日
サッカーチェコ代表の危機2(九月六日)
金曜日の夜、チェコ代表がスロバキアに快勝したところまでは、スタッフから陽性者がでて発生した代表の危機もこれで終わったという感じだったのだが、深夜になって衝撃的なニュースが飛び込んできた。プラハの保健所の指示で、今回のチェコ代表の活動を打ち切り解散することになったというのだ。当然月曜日に予定されているオロモウツでのスコットランド戦は中止ということになる。
保健所の説明では、一回目の検査で一人、二回目の検査でもう一人と、陽性者を出していることから、このまま活動を続けると感染が広がる可能性が高いということだった。現時点ではスタッフだけの感染だが、それが選手の間にまで広がるのを避けたいというのもあったのだろうか。スラビアなどの選手を代表に送り出しているチームからの要請、逆にチームへの配慮もあったのかもしれない。
今年は、UEFAの特別規定で、武漢風邪が原因で試合が開催できない場合には、原因となった側の不戦敗となることが決められている。没収試合の場合はスコアは0-3扱いになることが多いので、勝ち点だけでなく、得失点差にも大きな影響が出てしまう。だからだろう。この時点では、チェコのサッカー協会では、スコットランドとの試合が没収試合になってチェコの不戦敗になるのを避けるのが今後の最大の課題だと語っていた。日程の問題もあるし、杓子定規に規定を適用するところのあるUEFAだから試合の延期は不可能だろうとは思っていたけど。
この決定に対して、試合に勝った選手たちは当然反発していて、ヤンクトやクラールなどは、意味不明だとか強く批判していた。イタリアとロシアから代表のためにわざわざ帰国したのに、普通なら試合が許可される状況、二人目の感染者が出た後の再検査では選手、スタッフとも全員陰性だったという状況で、活動が禁止されるのが納得できないというのはよくわかる。しかも不戦敗になる公算が高いのだし。
それが、土曜日になると話が全く違っていた。スロバキアで試合をした代表チームが活動を停止して解散するというのは変わらないが、その代わりに新たな代表チームを組織してスコットランドと試合をするというのである。誰の発案なのかは知らないが、この時点で、U18代表監督のホロウベクがこの第二代表の監督となることがほぼ決まっているようだった。
その後、最初の代表に選手を送り出していたからか、ヨーロッパのカップ戦を控えているからか、スラビアとスパルタ、プルゼニュの選手は招集しない方針であることが伝えられた。選ばれそうだという選手の中には、移動の必要のないオロモウツの選手の名前が多く上がっていたのだが、これも感染対策の一つだろうか。中にはオロモウツの人間でも知らない名前もあったから、U18代表でホロウベクの指導を受けている選手かもしれない。プルゼニュからオロモウツにもどってきた超ベテランのフブニークが選ばれたのは、代表経験の多さを買われた物だろう。
その後、日曜日になって発表された最終決定には、スラビアの選手も何人か含まれていた。協会の会長がスラビアのトブルディークに感謝の言葉を述べていたので、交渉の結果スラビアが譲歩して選手を提供してくれたのかもしれない。スラビアからテツルが選ばれたことで、代表で試合出場の経験がある選手が二人になった。
他は若手中心で、代表に呼ばれた経験があるのもオロモウツのイェメルカぐらいという非常に若いチームになった。監督代行を務めるホロウベクの話では、ジュニア世代の選手を入れてでも試合をしたいという声もあったという。代表監督のシルハビーと相談をしながらの選手選考は5時間でなされたらしく、その間にスラビアを筆頭に所属チームとの交渉なんかもあっただろうから、関係者も大変だっただろう。
その甲斐あって、オロモウツに集まった代表第二チームの選手、スタッフの試合前検査の結果は全員陰性で月曜日の試合は無事に開催されそうである。スコットランドチームの状況がわからないのでまだ中止になる可能性がゼロとはいえないのだろうが、チェコ代表対武漢風邪、二試合で二勝と言いたいところだけど、第二代表が必要になったから、一勝一分というのが妥当かな。
2020年9月7日10時。
2020年09月08日
中国大変、台湾大喜び(九月五日)
ビストルチル上院議長の率いる台湾訪問団が無事に帰国した。この台湾訪問は、世界的にも大きなニュースになるなど、大成功を収めたといっていい。恐らくは、ビストルチル上院議長を初めとする参加者の中にも、ここまで大きな成功を予想していた人はいまい。成功の最大の原因は、中国の横暴に対する反感が世界的に高まっていたことなのだから、中国に対しては自業自得とか、身から出た錆という感想しか思い浮かばない。
近年の中国の外交とも呼びたくないやり口は、表面上は言葉を飾ってはいるものの、中国からの膨大な投資と中国市場の開放を約束することで味方につけ、いわゆる「ひとつの中国」政策や昌す民俗対策に文句を言わせないというものである。ただ、チェコの例を見てもわかるとおり、中国側の約束が完全に達成されることはなく、約束を反故にしておきながら、相手側には守ることを強要する。
そして、台湾問題だけでなく、チベット問題などについて批判されると、投資や、中国に進出した企業を人質か使いにして脅迫する。やくざまがいの悪徳金融機関も顔負けのやり口なのだが、中国からの巨額の投資というのはそれほど魅力的なのか、詐欺に引っかかる国は後を絶たない。詐欺だと気づかないまま中国の温情にすがろうとして傷を大きくしているチェコみたいな国もあるはずだ。
さて、話は変わるが、チェコも日本と同じで、同じ三権の長の一つとは言っても、立法権の長である国会の議長の存在感は、行政の長である首相、大統領と比べるとはるかに小さい。上院など繰り返し不要論が出され、選挙の投票率も低く、大げさに言えば忘れられた存在で、議長であっても知名度はそれほど高くない。例外と言えるのが、かつて大統領選挙にも出馬したピットハルト氏と、在任中になくなったクベラ氏だった。
外遊に関しても、上院、下院の議長が独自に行うことはあるが、大きな話題になるのは、何か問題があったときぐらいで、大統領、首相の外遊とは注目度がまったく違う。それが今回、チェコ国内でも大きな注目を集めたのは、単に行き先が台湾だったからだけではない。中国が手下に逆らわれたガキ大将のような過剰な反応をして、一部を除くチェコ人の独立心に火をつけたからである。
台湾側の歓迎も、中国の反応に負けずに、非常に大きなもので、ビストルチル上院議長にとっては一世一代の大舞台になった。それでちょっと舞い上がったのか、初日の演説は、聞いている台湾の人も反応に困るようなことを言っていた。
確か、「チェコと台湾が手を組めば世界で一番になれます。その実例が、女子テニスの台湾選手と組んでダブルスの世界ランキング1位になったバーラ・ストリーツォバー選手です」とかなんとか。当然選手の名前も挙げていたけど、覚えておらず読み方もよくわからないので省略。テニスが盛んで人気もあるチェコでは、ストリーツォバーは有名で、ダブルスのランキング1位になったことも知られているが、台湾で、野球選手ならともかく女子テニス選手が誰でも知っているような存在になっていたかどうかは、いささか心もとない。台湾の国会での演説では、最後に「私は台湾人だ」とまずチェコ語で、その後、中国語で繰り返すことで万雷の拍手を浴びた。
今回の台湾訪問で、もっとも感動的だったのは、台湾訪問を計画し実現する前に亡くなったクベラ氏にも台湾から勲章が授けられたことである。夫人もチェコからビデオ通話で登場して謝礼を述べていた。その後、夫人はチェコの大統領府から最高勲章を授けるという話を断ったことを明かして、反ゼマンの人々を喜ばせていた。台湾訪問を阻止するために圧力を掛けた大統領から勲章なんて話にもならないということなのだろう。
台湾では、プラハ市長が、動物園で取材に答えて、中国と台湾のどちらが信頼に値するパートナーかが明らかになったと語っていた。直前に台北の動物園がプラハの動物園に、希少な動物を送るk東低が結ばれたという話をしていたから、プラハ市も中国が世界中でやらかしているパンダ詐欺に遭ったのかも知れない。
最後に、この訪問の恐らく一番の目的であった経済的な面でも大成功を収めたようだ。参加した企業の代表達が声をそろえて語っていたのが、ここまでうまくいくとは予想どころか期待もしていなかったということで、過去の企業関係者を引き連れての政治家の外国訪問でここまで成功したものはないとまで言う人もいた。
これは、ゼマン大統領が大成功だったと自慢してやまない何度かの中国訪問に同行した企業関係者が、首を振りながら、成果はあったけれども期待したほどではなかったと語っていたのと比べると対照的である。その得られた成果もどこまで約束どおりに実現したのかと考えると、今回の台湾訪問での成果との差はさらに大きくなる。
今後中国がどんな嫌がらせ、恫喝をしてくるのか注目である。
2020年8月6日12時。
2020年09月07日
サッカーチェコ代表の危機(九月四日)
今日は、武漢風邪騒動で活動を完全に中止していた代表チームの活動再開後の初戦が行われる。去年始まったヨーロッパのネイションズカップの二年目も、チェコはBカテゴリーで、スロバキアと同じグループに入った。そのスロバキアとのブラチスラバで行われる試合は、代表チームの不手際によって、勝つか負けるかよりも、開催されるのかどうかが問題となる事態になっていた。
代表チームから陽性者が出たというニュースが最初に流れたのは、火曜日のことだっただろうか。すぐに選手ではなく、スタッフの一人だったという情報が出てきたため一安心だったのだが、そのスタッフがマッサージ担当で、検査の結果が出る前に選手たちにマッサージを施していたというから話がややこしくなった。
一時はチーム全体が隔離される可能性もあると言われていたのだが、それは保健所との話し合いでなくなり、確認のための再検査が行われた。その検査では選手、関係者全員陰性で、無事に活動が再開できるかと思ったら、代表の感染対策の不徹底ぶりに不満なクラブ側から、選手を引き上げたいという声が出てきた。特に大量の選手を送り込んでいるスラビアはチャンピオンズリーグの最終予選を、選手の数は少ないけれどもプルゼニュもヨーロッパリーグの予選を控えており、代表で選手が感染した場合予選に出場できなくなるのを恐れたようである。
その後、クラブ側とサッカー協会側の話し合いで、選手の全員引き揚げはしないことが決まった。ただし、スラビアの選手に関しては、第三ゴールキーパー扱いで出場の可能性のほとんどないコラーシュはチームに戻ることが決まった。スラビア側は中盤のマソプストも戻したかったようだが、最終的にはブラチスラバに向かったようだ。代表側が所属チームをもとにグループ分けをして、どうしても必要のある場合以外は、グループ単位で行動させるという対策を約束したことで、スラビアのオーナー、トブルディークが軟化したとも言われている。
これだけであれば、代表チームに与える人的な面での衝撃はそれほど大きくなかったのだが、陽性判定されたスタッフの行動を調査していた保健所が、現在のチェコ代表で最も重要な二人の選手に対して、隔離の指示を出したのである。恐らく検査の結果が出る前にマッサージを受けた選手なのだろうが、それがよりにもよって、ソウチェクとシクというのだから、監督のシルハビーとしてはたまったものではない。
ウェストハムで完全に主力となっているソウチェクはともかく、シクは、木曜日に移籍(レンタルかも)先として交渉が進んでいるレバークーゼンでメディカルチェックを受けて、最終調整をする予定だったのに、チェコから出られなくなってしまった。昨シーズンレンタル移籍で活躍したライプツィヒと、所属先のローマの間で駆け引きが続いて、なかなか新シーズンのチームが決まらず、ようやく決まりそうになったら、これである。サッカー選手も大変だ。
一番の問題は、代表チームの選手、関係者が集結して、最初に行われた全員の検査の結果が出る前に、活動を始めて、身体的な接触を伴うマッサージまでさせてしまったことである。代表側は、集まる前の検査では全員陰性だったんだと言い訳をしているが、今日の陰性が明日の陰性を意味しないのがこの手の感染症の怖いところだと、春の流行最盛期に繰り返し指摘されていたはずだ。だからこそ、感染が疑われる人は検査で陰性の結果が出ても、一部の例外を除いて一定期間の隔離が義務付けられているわけである。
チェコ代表は、当初の予定より一日遅れで木曜日に、予定された空路ではなく陸路でブラチスラバに向かった。今日の試合前に再度の検査が行われるのかどうかは知らない。しかし、恐らく来週のオロモウツでのスコットランドとの試合の前には、もう一度検査が行われるはずである。何だか、試合が行われただけで勝ちと言いたくなる。
なんてことを書いたら、試合前の検査でさらに一人、チームスタッフから陽性者がで多というニュースが入ってきた。幸いなことにスロバキアの厚生省が許可したので試合は行なわれたが、チェコで同じような事態になったらどう対応するのだろうか。試合のほうは、前半にスロバキア側で負傷で交代する選手が二人出たせいもあって、チェコが終始優勢で進み、後半開始早々に2点取れたこともあって、最終的には3−1で勝利した。
その後、さらに代表を巡る混乱が拡大したのだが、これについてはどうなるのかはっきりしてから改めて書くことにする。
2020年9月5日12時。
2020年09月06日
厚生大臣隔離(九月三日)
最近、前日のことを取り上げることが増えているのだけど、これはちゃんとその日のうちに書き始めている証拠である。それはともかく、昨日うちに帰ったら、うちのが、厚生省で今回の武漢風邪対策の指揮を執っている衛生局長が検査で陽性になったというニュースを教えてくれた。さすがはチェコという感想を持ってしまうのは仕方あるまい。まあ、フランスでもツール・ド・フランスの開幕地になった、感染状況ではレッドゾーンに入っているという市の市長が、感染してトランプ大統領に倣ってマラリアの薬で治療してそれを声高に自慢しているなんて話もあるから、こういう笑えない笑い話は、どこの国にも一つや二つはあるものだろう。
ニュースによれば、この衛生局長は、火曜日の夕方まで普通に仕事をこなして自宅に帰ったあと、夜になって感染が疑われる症状が出たため、水曜日の朝一番に検査を受けたところ、陽性という結果が出たということらしい。直前まで、厚生省内だけではなく、政府関係者との会議に参加し、マスコミに対しても記者会見を行っていただけに、誰が感染が疑われる人として隔離状態に置かれるかが問題になる。
症状が出る二、三日前から、より厳密には48時間らしいけど、他人に感染させる可能性があるということで、日曜日ぐらいから一緒に仕事をした人たちを対象に、集中的な検査が行われることになった。さすがは責任者で、義務化はされていない場面でも、ほぼ常にマスクを着用していたようだが、テレビ出演や、一対一のインタビューなど、マスクなしだったこともあるようだ。
それはともかく、上司にあたる厚生大臣が検査の対象になったのは当然で、厚生省の建物全体で消毒が行われ、同じ部署で仕事をしている人たちなど、十人単位で検査が行われることになった。厚生省の建物の出入りも規制が厳しくなり、感染の疑いのない職員も可能な人は自宅で仕事をすることが求められているようだ。ここはそれでいい。
問題は、政府関係者の方で、月曜日に衛生局長を交えた会議にはバビシュ首相も参加していたらしいのだ。しかし、バビシュ首相は自分が感染している可能性はないとして、検査とそれに続く自宅待機を拒否している。理由は、確かに会議に出て同じ部屋にはいたが、衛生局長からは3メートル以上離れて座っていたし、常に医療用の高性能マスクのレベル2を着用しているから大丈夫というものだった。実はレベル3じゃないと感染は完全には防げないという話もあるのだけど。
新学期が始まって、武漢風邪の流行の拡大が確実視される中、上院議長の台湾訪問で、怒り狂う(ふりをする)中国へも対応しないといけないし、首相が隔離されるのは避けたいところなのだろうけど、念のために検査ぐらいは受けておいた方が、周囲の人々にとっても安心ではなかろうか。サッカー選手に倣って陰性だったら隔離はなしってことにすればいいんだからさ。
チェコでは、イタリアで流行が爆発した後、最初に患者が出たころの、感染者を出してはいけない恐ろしい病気という認識から、リスクの高いグループを除けば感染しても大きな問題はないという認識に変わりつつあり、それをもとに対策のなされるようになっているので、バビシュ首相が検査を受けないというのもその流れの一つなのだろう。
厚生大臣は、水曜日の朝、カルロビバリ地方の病院視察に向かう途中の車の中で、衛生局長の陽性を知らされ、病院の構内には入ったものの、車の中から病院関係者に挨拶と事情の説明をして、そのままプラハに戻り、検査を受けたという。検査の結果は陰性だったが、ルールに従って、これから十日間の自宅隔離に入るという。九月に入って隔離期間も短縮されたのだった。
大臣は陰性だったが、厚生省の役人の中には陽性が確認された人もいるようで、今後、対策の総本山である厚生省で集団感染が発生したという笑えない事態になることもあり得なくはない。それで、職員が軒並み自宅待機ということになったら、これまで毎日行われてきた記者会見や、感染状況、感染対策の発表などは誰が担当するのだろうか。
今日の夜のニュースによれば、衛生局長の陽性判定のせいで、20人ほどのマスコミ関係者が自宅監禁を余儀なくされ、チェコテレビの人気討論番組「バーツラフ・モラベツが問う」の司会者モラベツもその対象となるため、次の日曜日の放送は中止になったらしい。バビシュ首相とは逆に、外務大臣と労働大臣が自主的に自宅隔離に入ったという。二人とも社会民主党の人だから、ANOへのあてつけかな。
2020年8月3日22時。
2020年09月05日
「ぞっとしない」考(九月二日)
昨日、日本の首相には正確な日本語を使ってほしいなんてことを書いておきながら、自分の日本語の怪しさを実感させられる事態が起こってしまった。そんな大げさな話ではないのだけど、2日遅れでジャパンナレッジの「 日本語、どうでしょう? 」に新しい記事が投稿されていることに気づいたのである。そのテーマが「ぞっとしない」。
この表現が、一見「ぞっとする」の否定のように見えながら(そういう使い方を否定するつもりはないが)、実は違うということは知っていて、自分でもしばしば使っているのだけど、記事を読んでその使い方が正しかったのかどうか自信が持てなくなってきた。
明確には書かれていないが、漱石の用例を引いた「いい気持ちがしない」という意味と、文化庁の「国語に関する世論調査」の設問から「面白くない」という2つの意味があると認識されているように読み取れる。自分では、「ぞっとしない」は否定だけれども、肯定形の「ぞっとする」とほぼ同じ意味だと思っていたので驚いた。
改めて『草枕』から引かれた用例を見ると、「幾日前に汲んだ溜め置きかと考へると、余りぞっとしない」とある。でも、これ「余りぞっとしない」を「ぞっとする」に変えても通用しないか? 何日も前に汲んだ水を使った際に何が起こるか考えると、恐ろしいと理解してもあまり問題はない。そんな用例をたくさん読んで、「ぞっとしない」=「ぞっとする」だと思い込んでいたのである。
しかも、「いい気持ちがしない」は「気持ちが悪い」と言い換えれば、「ぞっとする」につながる。「面白くない」も、一番よく使う「つまらない」という意味では無理だけど、「気に入らない」という意味でなら、この漱石の用例にも適用可能である。ならば、「ぞっとしない」は、「気に入らない」から「気持ちが悪い」ぐらいまでをカバーする表現で、場合によっては「ぞっとする」と置き換えられると考えていいのではないか。
なんてことを考えるのは、「国語に関する世論調査」の設問の仕方に不満があるからだ。「今回の映画は、余りぞっとしないものだった」の「ぞっとしない」は、「面白くない」と「恐ろしくない」のどちらの意味だと思うかという問いだったようだが、最初に読んだときには、どちらも選びようがないじゃないかと思ってしまった。「面白くない」=「つまらない」で解釈していたのである。
それに、「ぞっとする」の否定として使うなら、「映画はぞっとする」というのは変で、むしろ映画の中の一シーンを「あのシーンはぞっとした」という形で使うわけだから、こちらも選べない。「あのシーンにはぞっとしなかった」なら、恐怖を感じなかったという意味で理解して全然問題ないわけである。ならば、「今回の映画には、ぞっとしないシーンが多かった」ぐらいの文にしたほうが、意味の把握の仕方の違いが現れていいのではなかろうか。
いや、やはり漱石に戻るべきである。このぞっとしないの使い方は、漱石の用例に示されているように、「〜考えると」とか、「〜思うと」のような表現と結びついて、うんざりするような、できれば避けたいという気持ちを表わすのに使われる、というか、個人的にはこの意味で、この形で使用している。そして、それはたいていの場合、「ぞっとする」に置き換え可能である。
今年はそうでもなかったけど、真夏の朝、すでに暑さを感じさせられているときに、「これからさらに気温が上がるかと思うとぞっとしない」とか、「これから面倒な会議に出なければならないと思うとぞっとしない」とかである。たまに、誰かに何かをしなければならないとか言われたときに、「そいつはぞっとしない」なんて返すこともある。とにかく、原則としてこれから起こることを想定して、それに対して「ぞっとしない」と現在形で評価を与えるのであって、「ぞっとしなかった」と過去の形で使ったことはない。
なんてことを書いて、「日本語、どうでしょう?」の記事を見直したら、題名が何か変である。
「ぞっとしない」は怖いわけではない
これでは本文とあっていなくないか? 本文では「ぞっとしない」を「恐ろしくない」と理解するのを本来の意味からは外れていると説明しているのだから、「怖くないわけではない」とあるのが正しいはずだ。それとも、実はこの記事は、「ぞっとしない」=「ぞっとする」=「恐ろしい」だと思っているこちらのような人間に対して書かれたものだということを題名で暗示しているのだろうか。
最後に、「ぞっとする」=「ぞっとしない」だけではなく、「気がおける」=「気がおけない」というのも誤解していたことを白状しておく。
2020年9月3日14時。
2020年09月04日
次は誰に?(九月朔日)
安倍首相が辞任するということは、自民党の総裁も辞任するということで、これから自民党の総裁を選ぶ選挙が行われ、選ばれた人が次の首相に就任するということである。ネット上では、候補者と目されている人たちの名前が、いくつか踊っているけれども、自民党の政治家である以上は誰がなっても大差はなく、自民党の人たちが自民党にとって最良だと判断した人を、党の規則にのっとって選んでくれればいい。
ありもしない世論などというものをでっちあげて、特定の候補を応援しようとするマスコミの雰囲気づくりに巻き込まれてはいけない。その先に待っているのは完全な衆愚政治である。理解できないのは、いくつかのマスコミが、世論調査という名の人気投票を行っていることで、その結果がメディアによって結構違うのも笑うけれども、世間一般の人気の高い政治家を自民党の総裁に、ひいては首相にというのは、普段大声で批判しているポピュリズムの発露にしか思えない。ただでさえ最近の日本の選挙は、人気投票に堕しているのだから、政党の党首選ぐらいは能力と政策を基準にして選ぶべきだろう。
そもそも自民党内部の選挙について外野がとやかく言うのが間違っているのである。選ばれた人が首相にふさわしくないと思うのであれば、その過程ではなく結果を批判し、次の選挙で自民党に投票しなければいいだけの話で、それが本来の間接民主主義というものではないのか。それが気に食わないというなら、首相を直接選挙で選ぶように法律なり憲法なりを改正する運動をすればいい。個人的にはとんでもない人が選ばれる可能性が高まるので、避けてほしいとは思うが、そっちの方がいいと考える人がいてもおかしくない。
さて、今回は安倍首相が任期途中での辞任となり、残りの任期だけを務める総裁を選ぶというのだから、80年代に大平首相が亡くなったときと同じような対応でもいいのではないかとも思う。任期が終わるまでは安倍首相の敷いた路線を踏襲する代行みたいな立場にしておいて、任期切れに際して改めて、通常の総裁選挙を行ったほうが、武漢風邪問題で大規模イベントの自粛強要が続いてもいるわけだし、無難じゃないか。その間を利用して立候補の意思のある人たちは、自らの政策をまとめて、自民党関係者に周知することもでき、有権者も時間をかけて熟考できるわけだし。
党首選挙と言えば、再合併する民主党も党首を選ぶことになるから選挙が行われるのだろう。こちらは臨時のではなく正規の党首選になるのかな。出身政党や支援団体のしがらみを外れて、候補者の能力と政策を基準にして選ばれる選挙が行われてほしいと思うのは、自民党の党首選と同じ。ただ、以前の民主党の党首の選び方を見ていると、自民党以上にというか、普通の選挙以上に人気投票の度合いが高かったからなあ。おまけに政策の違いは無視してとりあえず数合わせに組んだ感じだから政策論争なんてやったら合併が反故になりかねないのか。
誰が自民党、再合併民主党の党首になって、誰が首相になるかは、何を言っても左右のしようもないので、結果が出るのを楽しみに見守ることにしよう。これでは、分量が足りなさすぎるので、こんな人が日本の首相だったら嬉しいという願望をまとめておく。
一番望まれるのは世襲議員でないこと。日本も貧富の差だとか、経済格差なんてものが問題になっていて、悪い言い方をすれば、貧乏人の子供は貧乏人、政治家の子供は政治家なんてことになりつつあるようだ。そんな閉塞感を打ち破るには、政治家の子供ではなくても、しっかり勉強して仕事をすれば国会議員、ひいては首相にまで成り上がれるという実例を見せるのが一番である。理想は田中角栄みたいに低学歴を売り物にできる人なんだけど……。経歴は田中角栄的で、政治能力も高く、金銭的な問題を起こさない人ってのは日本の政治家の中には求められないか。
とまれ、その非世襲の首相には選挙区の世襲を禁じる法律を制定してもらいたい。親の七光りの通用しないところで一から苦労して議員に選出されるぐらいの能力は見せてもらわないと、政治家として、国会議員として信用に値しない。
それから、まともな日本語能力の持ち主であってほしい。英語など所詮は外国語なのだから、使えたほうがプラスという評価はあっても、日本の首相としては使えなくても差し支えはない。ただ母語である日本語だけは、字幕なしに聞いても理解できるような文章で発声であってほしい。チェコ語の字幕を読みながら日本語を聞いていると、何言っているのかわからないというのはちょっと悲しくなる。
日本語の正確性については、完璧である必要はないのだ。日本語担当のスタッフを雇ってできる限り正しい日本語で演説してくれればそれで十分。原稿のない質疑応答の場合には、多少崩れてもそれも個性ということになるが、準備原稿のある演説やコメントなんかでは日本語の言葉を正しく使ってほしいものだと、外国に住む日本語至上主義者としては思う。
2020年9月1日24時。
2020年09月03日
上院議長中華民国訪問続(八月卅一日)
昨日の話を読んで、経済的な利益なら、台湾よりも中国と結んだ方がいいのではないかと思った方もいるだろうが、その中国の経済による支配力に陰りが出ている事情は、 この産経新聞の記事 に詳しい。前回紹介した記事よりも以前の記事だが、内容的にはこちらの方が優れている。ただチェコを知らない人にはわかりにくいところもあるのでちょっと解説を加えておく。
まず、代表団の一人として紹介されているパベル・フィシェル上院議員だが、この人はもともとハベル大統領に近かった外交官で、2018年の大統領選挙に立候補したことで知名度を上げた。専門である外交の分野ではゼマン大統領の過度の中国への接近を批判していたはずである。その後、大統領選挙で得た知名度を生かして上院の選挙に立候補し当選した。
現在の上院には、フィシェル氏だけでなく、医師のヒルシュル氏、ゼマン大統領との決選投票にまで進んだ元科学アカデミー長のドラホシュ氏と、大統領選挙で反ゼマンの立場から立候補した人たちが何人かいる。同時に最大会派の代表として議長を務めるのが、90年代のゼマン大統領の政治的ライバルだったクラウス元大統領が創設した市民民主党の議員なので、上院はチェコの政界では反ゼマン、反バビシュ派の牙城のようなものになっている。
だから、上院議員たちが、その独立性を行使して、政府の意向に反する台湾訪問を強行するのも、政府、大統領側が自分たちには関係ないとさじを投げたような発言をするのも当然と言えば当然なのである。ただし、市民民主党は経済を重視しているので、中国からの約束された巨額の投資が実現していれば、あえて台湾訪問を唱えなかった可能性は高い。中国への接近を始めたのは自分だと、市民民主党のネチャス元首相が自慢していたぐらいだし。今回の件は中国の自業自得で、チェコを批判するのは盗人猛々しいという奴である。
アメリカのポンペオ国務長官の国会演説に関しては、チェコ側が驚きのあまりろくに反応できず、ポンペオ氏はそれに失望したという報道があったことを付け加えておく。来る前、来てからも途中までは大歓迎という雰囲気であれこれ会談の展望が語られていたのに、結局なかったことにされているような印象を受けたのは、この演説が原因だったのである。
この記事では、「ゼマン大統領が主導した中国接近の「失敗」」と断じていて、それは正しいと思うが、問題はゼマン大統領を筆頭とする中国信者は失敗ではないと考えていることである。今後も中国との関係を深めて、優遇を続けていけば、チェコへ投資を引き込むことができると考えて、中国への過度な配慮と譲歩を繰り返している。これまでの投資額が中国よりもはるかに多い国々に対しては、そこまでの配慮はしていないので、ふざけるなと思っている外資系の企業は多いはずだ。
中国からのチェコへの投資は、もともとある中国の投資会社が担当をしていて、その象徴としてまずサッカーのスラビア・プラハを買収した。このスラビア買収が予想に反して好結果をもたらしたことで、中国からの投資に対する期待が高まったと言っていい。投資会社の社長はチェコでゼマン大統領の相談役か何かに任命されていた。
風向きを変えたのは、その投資会社の社長が本国の中国で失脚したことである。記事には「汚職疑惑の中で撤退」とあるが、チェコから見ていると、事情も何も分からず。ある日突然社長が消えていたという印象だった。ゼマン大統領でさえも知らされておらず、中国を訪問した際にこの社長が出てこないことを不審に思って、中国側に問い合わせてもろくな情報が与えられなかったという話だったと思う。汚職疑惑というのは口実で、要は権力争いに負けて粛清されたのだろう。さすがは共産党国家である。
チェコでの投資に関しては、撤退したというよりは、その投資企業自体が消滅して、政府系の投資機関が後を引き継いだのだと理解している。その政府系の投資機関は、もともとチェコが担当じゃなかったからか、中国政府によって約束されたはずの巨額の投資は行わず、チェコの経済界に失望をもたらした。さらには成功の象徴だったスラビアさえも売却することを考慮しているというニュースが流れるなど、撤退の準備を始めているようにも見える。忠臣であるゼマン大統領の任期中ぐらいは、チェコでの活動を続けるんじゃないかとは思うけどさ。
おそらく、ゼマン大統領がいかに努力しても中国が約束の投資を実行することはあるまい。まだ完全には終わっていないけれども、これが過剰に中国にすり寄ってしまった国の顛末である。今回の上院議長の台湾訪問を機に、中国からの投資が撤退する可能性はあるが、それは口実にされるだけで、撤退の本当の原因にはならないと思う。日本も中国に頼った経済政策なんてやめて、中国の存在なしでも成り立つ政策に切り替えないと、いつはしごを外されるか分かったものじゃない。トランプ大統領率いるアメリカが中国との対決姿勢を強めている今が最後のチャンスかもしれない。
80年代には左翼もどきとして、当然アメリカ嫌いだったのだけど、今の中国を見ると当時のアメリカ以上にひどくないか? かつてアメリカを批判し続けた左翼ならば、今は中国をも批判するのが正しいんじゃないかなんてことを、チェコを見ていると思ってしまう。
2020年8月31日23時30分。
2020年09月02日
上院議長中華民国訪問(八月卅日)
わかりやすく言えば台湾訪問なのだが、大陸の共産国家を中華人民共和国と呼ぶのなら、台湾も中華民国と呼ぶのが公平というものであろう。略せばどちらも中国。わかりにくいから台湾を使ってしまうけど、共産中国だけを中国と呼ぶのは、中国の共産党政権を支持することにつながるのではないかという気もしてくる。チェコ語の場合は、「?ína」は国の略称と同時に地域名でもあるから、台湾と対応させても何の問題もない。国名が大事なときには人民共和国と民国で区別する。
それはともかく、今年の初めに予定が発表されて以来、紆余曲折というよりは、各方面からの妨害があった上院議長の台湾訪問が実現した。取り上げるかどうか悩んでいたのだが、日本のネットニュースでも誤解交じりに報道されていたので、書くことにした。読んだのは、どうも翻訳記事らしい これ 。
一読するとチェコ政府が中国政府の反対を振り切って上院議長を含む代表団を派遣したような印象を受けそうだが、それは大きな間違い。前任のクベラ氏が計画を発表した時点から、ゼマン大統領を筆頭に、チェコ政府は計画の撤回を求めて圧力をかけていた。バビシュ首相はそこまで熱心な印象はなかったが、社会民主党の党首ハマーチェク内務大臣と、外務大臣が特に強硬に反対していた。
現議長のビストルチル氏も、就任当初は慎重に検討すると言い、一時は撤回しそうな発言もしていたと記憶するのだが、最終的には市民民主党の同僚でもあったクベラ氏の意志を尊重し、政府の反対を振り切って台湾訪問に踏み切った。ゼマン大統領は不満の意を表したし、外務大臣の口からは、繰り返しこの訪問はチェコ政府の外交方針に反したものだということが強調されている。中国に配慮しているのである。
もともとクベラ上院議長が、計画を発表した時点で、中国側からは脅迫もどきの警告がなされていたのだが、その警告が確か中国大使館から直接上院議長ではなく、大統領に対して出されたものが上院議長に回されたという話があったと記憶する。それで脅迫しているのが中国なのか大統領なのかという疑問も呼んだ。ビロード革命時に活躍した反共産党の闘志であるクベラ氏は、そんな内政干渉もどきには屈しないと、台湾訪問を実現する強い意志を見せていたのだが、残念なことに職場の国会で倒れて帰らぬ人になった。
後任の議長が決まった後、この台湾訪問をどうするかは、中国発の武漢風邪の大流行で一度はうやむやになっていたのだけど、流行が治まって再度議題に上るようになると、政府側の嫌がらせが始まった。主導したのは社会民主党だと見る。チェコも他の民主国家と同じで三権分立というものが確立されているため、立法権の長の一人である上院議長が政府の方針に反して台湾訪問をすると言い出しても、政府には阻止する権限はないのである。
普通この手の国の代表団が外国を訪問するときには、特に今回のように少人数ではなく、企業の代表たちまで含めて大人数で出かける場合には、軍が運行を担当する政府専用機が使用される。それが台湾訪問に使えないというニュースが流れたときには、軍は公式の依頼を受ければいかようにも対応すると語っていたので、上院議長の依頼は軍まで届いていなかったわけだ。防衛大臣はANOの人だが、この台湾問題に関してはほとんど発言していない。
その後、チェコの元国営航空であるチェコ航空の飛行機を利用するという案も出たようだが、現在チェコ航空の親会社であるチェコの格安航空会社であるスマートウイングスが今回の経済危機で政府の支援を必要としていること、最大の株主が中国企業であることなどもあって、これも実現せず、結局は台湾の民間航空会社の飛行機で、台湾に向かった。
公式見解は、軍の政府専用機を利用すると、途中でどこかの飛行場に着陸する必要があり、その場合、台湾に入って14日の隔離を受けなければならないので、その必要のない唯一の方法である台湾の航空会社を使ったというものである。誰も信じてはいないと思うけど。将来的には台湾とプラハを結ぶ直行便をこの会社に任せたいという考えもあるのかな。
またプラハと中国、台湾の都市の姉妹都市関係についても書かれていて、プラハが積極的に中国と対立しているかのように読めるが、これも微妙に違う。もともとプラハは台湾の台北と友好関係にあり、姉妹都市かどうかはわからないけど、何らかの協定を結んでいた。それをゼマン大統領が共産中華帝国に対する貢物の一つとしてプラハと北京の姉妹都市協定を斡旋したのである。同時に台北との協定は反故にされた。
この姉妹都市の協定を結ぶ時点で、台北との関係をどうするかだけではなく、中国が協定に、本来無関係であるにもかかわらずねじ込んできた、いわゆる「一つの中国」政策条項も問題とされたのだが、当時のANOが市長を出していたプラハ市政府はゼマン大統領の意を汲んで、反対派を抑え込んで調印に持ち込んだ。実はプラハと北京の姉妹都市関係が始まったのは、最近のことでしかないのである。
そして、前回の地方議会選挙でプラハ市に海賊党を中心とした市政が誕生すると、改めてこの「一つの中国」が問題とされた。プラハは国政レベルの条約や協定ならまだしも、自治体同士の交流協定に、このような国政に関わる条項が入るのはおかしいと主張し北京側と交渉しようとしていた。それに怒った中国政府が、プラハと名のつく音楽団体に対して、興業ビザを発給しないなどの嫌がらせを始め、プラハ側がこの条項を撤廃しない限り姉妹都市の協定は破棄すると通告したのが去年の夏だった。
この問題で中国側が譲歩するはずもなく、プラハと北京の姉妹都市の関係はまともな話し合いもないまま解除され、制約のなくなったプラハは、以前から友好関係にあった台北とよりを戻したというのが、プラハをめぐる北京と台北の争いの経緯である。プラハとしては観光客の誘致が最大の目的である以上、両方の都市と姉妹都市の関係を結べるのが理想的なはずだが中国側がそれを許すはずはない。
だから、チェコという国も、プラハもこの記事から受ける印象ほどには、中国に対して強硬な姿勢に出ているわけではない。もちろん、徹底的に反中国の人もいるけど、ゼマン大統領と共産党、社会民主党の支持者を抱える親中国派ほどは多くない。バビシュ首相を筆頭に多くの人にとって重要なのは、経済的な利益である。それで、上院議長の台湾訪問にもたくさんの企業の代表がビジネスチャンスを求めて同行しているのである。
この話もうちょっと続く。
2020年8月31日16時30分。
2020年09月01日
ツール開幕(八月廿九日)
例年より二ヶ月遅れとはいえ、今年もまたツール・ド・フランスが始まった。量の面での感染状況を見れば、本来の開催時期よりも悪化しているのが皮肉ではある。それでも中止と開催をはかりにかければ開催に傾くのは当然のことで、厳しい、一部ではやりすぎだと批判も出ているほどの感染症対策をした上での開催となった。
先週のロードレースのチェコ選手権で聞いた、選手二名が陽性になった時点でそのチームは出場停止処分にするというルールは、部分的に緩和、部分的に強化された。強化されたのは選手だけではなく、行動を共にするチームスタッフも対象になることで、緩和されたのは総数としての二名ではなく、直近七日間で二名ということになっている点である。
ニュースによれば、選手たちは毎日二回の検査を受けることが義務付けられているという。レースのためだとはいえ大変なことである。しかし考えてみれば、ロードレースの選手たちは、日頃からドーピング検査で非人道的な扱いに直面しているのである。この程度の検査なら特に抵抗もなく受け入れられるのだろう。それに検査の精度による偽陽性対策として、頻繁に検査することで本当の陽性と、間違いの陽性を分別しようとしているのかもしれない。
今年も、チェコテレビが放送してくれるので、午後、PCで仕事?をしながらの、BGVとして活用しようと思っていたら、うちのテレビでチェコテレビが映らなくなった。地上波デジタルで新しい企画での放送が始まり、古い規格の電波が切られたのである。対策としてすでにセットトップボックスは導入済みなのだが、うちの建物の集合アンテナが未対応のようだ。
それで、室内アンテナはどうかと考えて電器店に出かけて話を聞いたら、利用してもせいぜい10チャンネルぐらいしか映らないから、高い金出して導入する意味はないと説明してくれた。売り上げ的にはそんな説明はしないほうがいいのだろうが、こういう説明をされると次に何か買うときに利用しようという気になる。
せっかくなので、同じ建物に入っている靴屋に寄って、割引で売っていたのを一足買って帰った。それがツール出場チームのスポンサーになっているCCCだったのは、ある程度意図的である。最近このポーランドの靴屋以外では靴を買っていないのも確かで、ツールがなくてもこの店で新しい靴を買っていたはずだけど、気分というものも大切である。CCCチームからはチェコ人選手も出場しているわけだしさ。
自宅に戻って、ネット上でツールの速報のページを開けてびっくり、提供がNTTになっていた。去年まで、データの収集テクノロジーを提供していたダイメンションデータをNTTが買収した結果らしいのだけど、この手の日本企業のグローバリゼーションの名のもとに、しばしば外国人経営者の判断で行われる外国企業の巨額買収は、国内市場の軽視と経営の不安定化につながるから、あんまりやってほしくないんだよね。
日本を軽視してないと言うなら、速報ページに日本語版を導入するぐらいのことはしてほしいものである。スポンサーの権限で日本人選手を獲得して、ごり押しでツールに出場させろなんてことは言わないからさ。そもそもそれが可能だとしてツールに出させられそうな日本選手というと、新城選手しかいないというのが日本のロードレース界の残念な現実なのだし。
チェコからは今年は二人の選手が出場している。NTTのロマン・クロイツィグルと、CCCのヤン・ヒルトである。先週のチェコ選手権の時点では、クイックステップのシュティバルも出場の可能性が高いというので期待していたのだけど……。ヒルトは初出場だし、クロイツィグルも今や大ベテランで総合上位というのは難しそうだから、期待はクロイツィグルのステージ優勝かなあ。スロバキアのサガンも応援していないわけじゃないけど、ゴールまでたどり着けさえすれば、サガンがポイント賞を獲得するのは規定路線である。
2020年8月30日16時。