ポルトガルを旅する前に見ておきたい映画を、いくつかご紹介します。
リスボンへの夜行列車」。
原作を読んでしまうと、かなりの登場人物が削られている映画はどうしても別物に思えてしまう。原作の世界はもっと複雑でもっともっと深い。が、2時間の映画ではこれが限度なのだろう。
ジェレミー・アイアンズファンの私としては、暗〜い印象のグレゴリウスがあんなハンサムなロマンス・グレーとしてスクリーンに現れただけでも感謝かな。
アマデウの姉アドリアーナ役の シャーロット・ランプリング、運命の女性エステファニア役の メラニー・ロランとレナ・オリン、他にもブルーノ・ガンツやクリストファー・リーとこれ以上ないような豪華なキャストなのに、全体の出来栄えが少し地味に感じるのは深淵なストーリーゆえか。
シャーロット・ランプリングはイメージにぴったりで、間延びしがちな映画を引き締めている。メラニー・ロランは美人だし好きな女優だが、エステファニアのイメージは、晩年をレナ・オリンが演じているならペネロペ・クルスだろうなぁ。
決まりきった平穏な毎日に埋没していた「面白味のない男」グレゴリウスが、衝動的にリスボンへの夜行列車に飛び乗るところから、彼の人生は思わぬ方向へと転がっていく。
リスボンで出会ったアマデウの妹、アドリアーナ、眼科医マリアナ、その叔父ジョアン、アマデウのかつての親友ジョルジェ…様々な人々との出会いが彼の灰色の人生を変えていく。激動のポルトガル史を背景にしたアマデウ、エステファニア、ジョルジェとの三角関係もミステリアスでグレゴリウスを惹きつける。坂の街リスボンの石畳で、あの夜3人に何が起こったのか…。
スイス、ベルンの橋の上、リスボンの街並み、対岸へ渡るフェリー、スペインのフィステーラなど、ヨーロッパ各地の風景を楽しめる映画にもなっている。グレゴリウスが失われた自分の人生を、本の作者アマデウの人生を追うことで取り戻していく様子は、映画でも秀逸だ。彼の第二の人生が始まりそうな予感のするラスト、胸は高鳴る。断然リスボンへ行きたくなる映画だ。
テージョ川を見下ろす彼の滞在する部屋からの眺めが素晴らしい。行方不明の友人を探しながら、リスボンの街を歩いては「音」を集めるビンター。彼を見張るかのような不思議な少年。現地の子供達とのふれあい、美しい歌手へのほのかな恋心などを通してリスボンへの愛を深めていくビンター。坂の多いリスボンの街や人も含めて、意外に楽しめた一作。
「クレーヴの奥方」「階段通りの人々」などのポルトガル映画の巨匠、マノエル・ド・オリヴェイラ監督95歳の作品。
パイロットの夫とボンベイで落ち合ってバカンスに入るため、クルーズ船でリスボンを旅立った歴史学者の母と娘。地中海沿岸の多くの寄港地で歴史的遺構を見学し、行く先々で様々な人々とふれあいながら、実りある時間を過ごす。
クルーズ船内では カトリーヌ・ドヌーブ演じる実業家やイタリアの女優、ギリシャの歌手、船長らと交流を持ち、充実した船旅を楽しむ母子。
海面を進む船の舳先が映るたびに寄港地が変わっていくのだが、なかなか船内の様子が映し出されないので、いやいやダイニング・ルームでのディナーの様子とか見たいんだけど…と思っていたら最後の方でやっと。しかも女性3人と船長による長い政治談議の後、ようやく主人公の母子と交流が始まる。
どのシーンもカメラを据えたままあまり視点が変わらないので、映画というかドキュメントのようだった。監督自身の歴史観、人生観を織り込んでいるからだろう。
そして、あのラストは恐らく誰も予想できないに違いない。
衝撃的すぎて、 ジョン・マルコヴィッチのこれまた衝撃的な表情と併せて笑ってしまったほど。う〜ん、このラストで監督は何を伝えたかったんだろう。船からの脱出に関しては「?」な部分が多いが、そこはツッコミどころではないんだろうな、きっと。突然意外な瞬間に思わぬことが起こるのが人生だから、一日一日を悔いなく過ごそう、と監督は言いたかったのだろうか。
ポルトガルを舞台にした映画は、日本で公開されているものが意外に少なくて少々驚きました。
絵になる街が多いだけに、ポルトガル好きな私としては、もっとメジャー映画の舞台になってほしいところです?