トヨタの鈍いコロナ対策が示す「リーダー不在」と云う日本の大問題











トヨタの鈍いコロナ対策が示す

「リーダー不在」と云う日本の大問題


〜現代ビジネス 井上 久男 3/31(火) 6:31配信〜


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ジャーナリスト 井上 久男

「即効薬」には為ら無い

トヨタ自動車は、直接取引している部品メーカー等仕入れ先・サプライヤーへの今年4月以降の値引き交渉を一旦中止する。トヨタでは毎年2回部品の仕入れ価格を見直し、1%未満で値下げ要求をして居た。しかし、新型コロナウイルスの世界的な蔓延を受けて、サプライヤーの仕事も減っており、それに配慮した形だ。7月以降に再交渉する計画と云う。

 値下げの一旦見送りは、トヨタと直接取引する、所謂一次下請けが対象。或る一次下請け部品メーカーの関係者は 「値下げ要求を見送る代わりに、我々一次下請けに対して〔二次下請けに無理な値引き要請をし無い様に〕との意味が含まれて居る」 と説明する。
 自動車産業の下請け構造は、一次・二次・三次・・・と階層的に連なっており裾野が広い。一次下請けにはデンソーやアイシン精機等上場大企業が多いが、階層が下がって行く程中小企業が増え、経営体力が弱い処も多い。

 サプライチェーン・供給網の頂点に立つトヨタが値引き要請を一旦中止する事で、値引き要請の「連鎖」を止め、弱小の下請け企業の経営に配慮する狙いが有ると見られる。只、こうしたトヨタの「配慮」が、三次や四次等の下位層の下請けに「即効薬」として効く訳では無い。
 新型コロナウイルスの影響により、トヨタは北米に在る14工場の生産再開を当初計画の4月6日から同20日に先延ばしする他、国内主力工場の一部も4月半ば迄稼働を停止させる。欧州でも稼働停止に追い込まれており、 世界規模で大減産を強いられて居る

 当然、こうした大減産は下請け企業の仕事量減少にも繋がる。特にこれから大変なのが資金繰りだ。トヨタの下請けの中には海外進出して居る処が多く、現地で従業員を採用して居る。経営体力の弱い中小企業が現地で資金繰り対応出来るかが、今後大きな課題として浮上するだろう。

過つて発揮したリーダーシップ

 今回の新型コロナウイルスによる事業活動への打撃は、2008年のリーマンショック時を上回るのではないかとの見方もある。当時トヨタは、日銀理事からトヨタフィナンシャルサービス副社長に天下って居た平野英治氏等が動いて財務省や経産省に働き掛け 「小泉改革」 の後、政府系金融機関が先進国向け融資を出来無く為って居たのを変更させた。
 その狙いは、海外で事業を展開する下請け企業向けの融資を素早く行う為だった。下請け企業が経営破綻に追い込まれれば、生産体制が正常に復帰した際に、サプライチェーンが分断されてしまい、戻したくても戻せ無く為るからだ。

 発言力のあるトヨタが動けば、役人や政治も動く。トヨタ系への優先融資では無く、下請け企業全般に配慮した、言わば産業基盤を維持する為の判断であった。これを誰も「官民癒着」とは呼ば無いだろう。当時のトヨタには産業界のリーダーとしての自覚があったし、何より行動力があった。
 その原動力と為ったのが「外の声を聞く力」だったと筆者は考える。こうした行動が執れる企業だったからコソ、莫大な利益を上げても妬まれず、社会からはトヨタに対する一定の尊敬の念が有ったと思う。

 しかし、今のトヨタは内向きに為り「外の声を聞く力」が衰えて居ると、日頃から筆者は感じて居る。こうした危機的な状況に在る今こそ、リーマンショックの時の様な産業構造に目配せしたトヨタのリーダーシップが問われて居るのではないだろうか。

対策は具体性が肝心だ

 今回の新型コロナウイルスに関して政府は、リーマンショック時を上回る大規模な経済対策を行う方針を示して居るが、金額だけが先行して具体的に何を遣るのかその内容が乏しい。今重要なのは「直ぐに何を遣るか」だ。
 自動車産業の下請けだけに限らず、大打撃を被って居る飲食店も中小企業が多い。コンサートや公演等が中止に追い込まれて居る芸術家も死活問題だ。様々な業界に対して、政府は「直ぐに具体的に何を遣るか」を打ち出すべきだ。

 これは自助努力を怠って、政府に負んぶに抱っこと云う話では無い。今回のケースは自助努力の範囲を超えて居ると思う。しかも「命」に関わる問題である。国民の生命・財産を守るのは政府の大きな仕事の筈だ。
 経済的支援に限らず、新型ウイルスの感染者がこれ以上増え無い様にする為の感染防止策も、逐次的に対策を打つのでは無く、例えばパチンコやカラオケの営業停止等強制力の有る施策を一気に打ち出す局面に在るのではないか。特に大都市部での強い感染抑止策が求められて居る。

「まとめ役」不在と云う不安

 只、具体策が直ぐに打ち出せ無いのは、単に政府の責任だけとも言え無いのではないかと筆者は考える。政府が具体策を示せ無いのは、逆に各界のリーダーが具体的に何をすべきかを示せて居ないからではないか。経営者が皆「小物」に為り、自分の会社・組織さえ良ければ好いと云った利己的な人が増えて、業界の声を纏めて牽引して行く真のリーダーたる人物が居なくなって居るのではないかとさえ勘繰ってしまう。
 真のリーダーとは、危機に陥って居る時にコソ、その先の展望を具体的に示せる人だと思う。更に言えば、具体的な展望を示す為に、現場で何が起こって居るかを的確に捉え、真摯に現状を分析して直ぐに行動に移せる人だと思う。具体的な展望があるからコソ、今、具体的に何をすべきかが明確に打ち出せるのだ。

 先述した感染防止の為の強制的な施策を行って、一時的に営業被害が出ても、明確に保障する事が打ち出されて居れば、その業界も納得する筈だ。新型コロナウイルスへの対応を見て居ると、政治にも産業にも芸術にも、日本から真のリーダーが消えてしまったのではないかと思ってしまう。
 人類の知恵が有れば、何れウイルスの問題は解決するだろう。今回の騒動から見えて来た日本のリーダー不在の方が、寧ろ暗い気持ちに為って来る。


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井上 久男 ジャーナリスト 1964年生まれ 1988年九州大卒 NECを経て1992年朝日新聞社に中途入社 経済部で自動車や電機産業などを担当 2004年に独立 現在は主に企業経営や農業経営を取材し講談社や文藝春秋社・東洋経済新報社等の各種媒体で執筆する他 講演活動も行って居る
 主な著書に『自動車会社が消える日』(文春新書)『会社に頼らないで一生働き続ける技術 生涯現役40歳定年のススメ』(プレジデント社)『メイドインジャパン驕りの代償』(NHK出版)『トヨタ愚直なる人づくり』(ダイヤモンド社)『トヨタ・ショック』(講談社、共編著)
 2005年大阪市立大修士課程(社会人大学院)修了 2010年同博士課程単位取得退学 2016年4月から福岡県豊前市政策アドバイザーに就任


以上









何故 金融危機は繰り返すのか?

〜Wedge 塚崎公義  3/31(火) 12:23配信〜


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経済評論家 塚崎公義氏


 本稿は、飽く迄もリスクシナリオとして金融危機を論じるものであり、決してメインシナリオとして金融危機を予想して読者を不安に陥れ様と云うものではありません。過度な懸念は不要ですので、落ち着いてお読み頂ければ幸いです〜


金融危機は繰り返す

古来、金融危機は何度も繰り返されて来ました。最近だけでも日本のバブル崩壊後の金融危機・ホボ同時期に発生したアジア通貨危機・リーマン・ショック・ギリシャ政府の破綻危機・・・等々が起きて居ます。今後に付いても、何時か必ず繰り返されるでしょう。それが今次新型コロナに起因するもので無い事を祈りますが、その可能性は否定出来ません。

 典型的な金融危機は、バブル崩壊に依って金融機関が巨額の損失を被る事で起きる訳ですが、それ以外にも様々な原因が考えられます。大不況に拠る倒産増加で銀行の損失が巨額に為る場合も有り得ます。大不況に依る税収減で政府の財政赤字が膨らんで債務危機が生じる場合も有るでしょう。今次不況の程度にも依りますが、欧米経済の深刻な状況を見ると起き無いとは言えません。
 対外債務を抱えた途上国がドルの返済に窮する場合も有るでしょう。米ドルが不足して居ると言われて居ます。そう為ると、米銀が途上国に貸して有るドルの返済を要請するでしょう。そう為ると途上国が窮するかも知れません。

 日本に付いても、銀行がゼロ成長とゼロ金利で疲弊して居ますから、金融危機が起こら無いとは限りません。ゼロ成長とゼロ金利の銀行への影響に付いては拙稿『ゼロ金利とゼロ成長に苦悩している地銀決算』を御参照頂ければ幸いです。

不良債権の増加で貸し手が疑心暗鬼に

 バブル崩壊や不況で不良債権が増加すると、貸し手が疑心暗鬼に為り、資金供給を慎重化させます。借り手企業への貸出に慎重化するのみ為らず、他の銀行への資金提供にも慎重に為るのです。 「信用力に若干問題があるが、他の銀行も貸して居るから大丈夫だろう」 と思われて居た所に、各行からの返済要請がき始めると各銀行は不安に為ります。
「他の銀行が回収する前に我々が回収しよう」 と考えて回収する銀行が増えると、一層多くの銀行が焦って回収する事に為る訳です。これに依り、材料が仕入れられ無かったり給料が払え無かったりする借り手が増え、倒産が増えるかも知れません。

 普通は信用力に問題が有る所から順番に返済要請が来る訳ですが、稀にはデマが流れる事で、全く健全な借り手の所に返済要請が殺到して倒産してしまう事が有るかも知れません。健全な銀行に対する取り付け騒ぎ等はその一例ですね。

借りられても金利が高いと利払いが負担

 資金繰りに困った借り手は 「高い金利を払いますから貸して下さい」 と頼むかも知れません。貸し手は 「リスクは有るが、高い金利が貰えるなら」 と考えて貸すかも知れません。しかし、話は簡単ではありません。
 仮に資金を借りられても、他の貸し手達は 「あれ程高い金利を払わないと、誰も貸して呉れないのか。アノ借り手は本当に危ないのかも知れない」「あれ程高い金利を払い続けたら、利払い負担で資金繰りが破綻するのではないか」 等と考えて、一層慎重に為るかも知れません。

金融機関が自分の資金繰りを心配

 金融機関相互に疑心暗鬼に為ると、金融機関が自分の資金繰りを心配する様に為ります。「他行から借りられ無かったらどうしよう」と云う訳ですね。銀行は相互に巨額の貸し借りをして居ますから、他行から一斉に資金を引き揚げられると資金繰りに窮する懸念が有る訳です。
 赤字の金融機関が増えて来ると、預金者達が不安に為るので、デマに依る取り付け騒ぎが発生する可能性も高まります。そう為ると銀行は 「金庫に現金を積み上げて置かないと不安だ」 と考える様に為り、貸出等に慎重に為ります。それに依り、資金が借りられ無い借り手企業が困るのみ為らず、他の銀行が一層自分の資金繰りを気にして貸出に慎重に為る・・・と云う悪循環も生じる訳です。

自己資本比率規制が有るので貸し渋りせざるを得無い

 銀行には 自己資本比率規制 が課せられて居ます。これは条約なので、主要国の銀行に共通するものです。内容は、大胆に簡略化すれば 「銀行は自己資本の12.5倍迄しか貸出を行なっては為ら無い」 というものです。
 銀行の貸し倒れ損失が膨らみ、赤字に為ると自己資本が減ります。すると銀行は減った自己資本の12.5倍迄しか貸出が出来ないので貸出を絞ります。黒字が続いて何の問題も無い借り手が突然返済を求められたりする訳です。 「貸し渋り」「貸し剥がし」 と呼ばれる現象です。

 借り手は何も悪くありませんが、貸し手の銀行も意地悪で貸し渋りをして居る訳ではありません。法律に従って居るだけです。しかし、借り手は銀行を恨みます。それは仕方無い事なのですが、それが問題の解決を困難にするのです。
「銀行に増資させて、政府が引き受ければ、銀行の自己資本が増えるから貸し渋りをしなくて済む様に為る」 と考えて政府が予算を用意しても、貸し渋りを受けた中小企業が 「銀行を助ける為に税金を使うのは許さ無い」 と反対するからです。

対外債務を抱える途上国の通貨が売られる

 経常収支が赤字で海外からの借金をして居る国は、米国の銀行が貸し渋りをすると借金を返す為にドルを買って返す事に為ります。そう為ると、返済の為のドル買いがドルの値段を押し上げます。すると、最初に返した人は良いのですが、次に返す人の負担が重く為ります。
 次々と返済の為のドル買いがドルを値上がりさせて行くので、最後に返す人は1ドルを返すのに巨額の自国通貨が必要と為り破産してしまうでしょう。こうして、米国の金融危機は、世界中の途上国経済に大きな打撃を与える事に為り兼ねないのです。

日本は少子高齢化で救われる面も

 この様に、 金融危機 は様々な経路で発生し拡大します。そう為ると、当然ながら日本経済にも甚大な悪影響が及ぶ事に為るでしょう。最も心の支えとしては 「金融危機が起きても世界の景気が悪化しても、日本経済への影響は従来より小さい」 と云う事が挙げられるでしょう。
 少子高齢化により日本の景気変動が小さく為って居ますから。詳しくは、拙稿『少子高齢化で日本の景気変動が小さくなる理由』を御参照頂ければ幸いです。

 本稿は以上です。繰り返しに為りますが、本稿はリスクシナリオであり、筆者の予測では有りません。過度な懸念は不要だと思います。尚、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織等々とは関係ありません。又本稿は、厳密性よりも理解し易さを重視して居る為、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承下さい。


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塚崎公義 経済評論家 1981年東京大学法学部卒 日本興業銀行(現みずほ銀行)入行 主に経済調査関連の仕事に従事した後 2005年に退職して久留米大学へ 現在は久留米大学商学部教授であるが 当サイトへの寄稿は勤務先と無関係に個人として行なって居るものである為 現職欄には経済評論家と記すものである
 著書に『老後破産しないためのお金の教科書—年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数













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2020年04月01日

何故 安倍首相と小池都知事は「不要不急の会見」を繰り返すのか











何故 安倍首相と小池都知事は

「不要不急の会見」 を繰り返すのか


〜プレジデントオンライン 岡本 純子 3/31(火) 13:15配信〜


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コミュニケーション・ストラテジスト 岡本 純子氏

〜新型コロナウイルスの感染拡大を受け、安倍晋三首相と小池百合子都知事が度々記者会見を開いて居る。コミュニケーションストラテジストの岡本純子氏は「ドチラの会見も曖昧な表現ばかりで、国民の不安を高めるばかりだ。全米で最悪の状況に在るニューヨーク州知事のスピーチとは正反対だ」と云う〜

何故 安倍晋三首相と小池百合子都知事のコロナ会見はダメダメなのか

新型コロナウイルスの世界的大流行と云う未曾有の危機に在って、リーダー達の「真価」が試されて居る。日本はこれ迄最前線の医療や行政関係者の地道な努力で乗り切って来たが、遂に感染が爆発的に拡大するかどうかの重大局面に差し掛かって居る。
 そうした状況に於ける不安材料が、 安倍晋三首相と小池百合子都知事のリーダーシップの欠如 だ。3月下旬に行われた2人の記者会見は〔日本流コミュニケーション〕のダメダメさを凝縮した様な大変残念なものだった。      

 一方、アメリカでは、 ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事 が天才的なコミュニケーション手腕を発揮し、絶望的な状況での〔希望の星〕として人気を集めて居る。今回は、リーダーとは危機の時にどんなコミュニケーションを心掛けるべきかに付いて考えたい。

「ご協力を」「きめ細かな支援」抽象的な言葉を並べた安倍首相

 安倍首相は3月28日、コロナウイルスの感染拡大に付いて3回目の会見を開いた。その会見スタイルはコレ迄と同じで、プロンプター・原稿が映し出される透明のボードを見ながら、用意された原稿を一字一句漏らさず読み上げて居た。
 安倍首相は両側に設置されたプロンプターを交互に見る為規則的に左右に目を遣る。その姿はロボットの様に不自然で、聞き手(視聴者で有る国民)からすると、誰に向いて話して居るのか判ら無い居心地の悪さがある。何より「彼自身の言葉」と云う感じが全くしない。
 「ご協力を」「徹底的に下支え」「きめ細かな支援」「笑顔を取り戻す」と云った抽象的な言葉を並べながら、行間にメッセージを滲ませる。これコソ日本のお家芸である「以心伝心」「忖度」のコミュニケーションスタイルだろう。

「〇〇して参ります」と云う未来形に国民は不安を覚える

 又、これ迄と同じく「〇〇して参ります」と云う未来形が続く為、本当にコレで有事対応出来るのかと心配に為る。勿論人々の安全を確保しながら、経済を回すと云うのは大変に高度な舵取りを求められる。曖昧な物言いをし無くては為ら無いのだろう。だが、その余りの歯切れの悪さ中途半端さが、何ともモドカシイ。
 更に気に為るのは、このご時世にギュウギュウ詰めの記者席だ。記者は記者で、事前に用意して来た様な質問を順番に読み上げて居る様で、緊張感も臨場感も無い。結局、折角の記者会見が「記者クラブ向けの内輪の儀式」に為って居て、国民に正面から向き合って居る様には見え無い。

 世界のリーダー達は違う。ドイツのメルケル首相・イギリスのジョンソン首相等は、動画を通じて、国民に向けて直接メッセージを送ると云うスタイルをとって居る。会見にせよビデオメッセージにせよ、本人の思いの籠った切実なメッセージで有るべきで、国民一人ひとりの心に確りと届く様な情報発信の形を考える必要が有るだろう。

小池都知事はデータや医学的根拠が無く 曖昧な説明に終始

 一方、小池都知事は3月25日夜に新型コロナウイルスに付いて初めての会見(※)を行った。フリップ・説明用の資料を用意し 「感染爆発 重大局面」 と視覚的にアピールする等工夫も見られたが、データや医学的根拠が無く、曖昧な説明に終始した。例えばコンな発言だ。

「平日に付きましては、出来るだけお仕事は、ご自宅で行って頂きたい。勿論職種にもよりますが。それから夜間の外出に付いてもお控え頂きたい。この週末で御座いますが、お急ぎで無い外出は是非とも控えて頂く様にお願いを申し上げます」

 非常にマドロッこしい。外出を控えるのはこの週末だけで、平日は好いと云う事なのだろうか。 「お急ぎで無い」 とは何だろうか。何故 「職種にも依るが、仕事は為るべくご自宅で行い、今後は、平日・夜間・週末を含めて、外出は控えて頂きたい」 とシンプルに言え無いのだろう。
 彼女のプレゼンでの強みは、決して怒りを見せ無い感情のコントロール力である。それは今回も発揮され、常に柔らかい表情を作って居た。只、時折笑顔も覗かせて居た。それは緊張を和ます為の戦略なのか、単なる愛想笑いなのか。平時では無い〔重大局面〕に有りながら、何だか他人事の様なノンビリとした印象を受けた。

言葉を発すれば 伝わると思い込んで居る

 小池都知事は3月27日と30日にも会見を開いたが、残念ながらその印象は初回から変わって居ない。直近の30日の会見は表情が厳しく為り、配布資料等も用意されたが、結局、印象に残ったのは 「夜のクラブやバーを控えて」 と言うメッセージだけ。 
 〔外出自粛〕を求めるものでは無く、これで好いのかと戸惑いを覚えるものだった。しかも会見場はギッチリで、ゴホゴホと咳をして居る人が居るのがとても気に為った。

 有事の時のリーダーは、自らの一挙手一投足が国民一人ひとりにメッセージを発して居る事を強く意識すべきだ。しかし日本の多くのリーダーは、只言葉を発すれば伝わると思い込んで居る。それだけでは意図通りの効果を発揮するとは限ら無い。
 言葉を発する事は飽く迄手段であり、目的とすべきはどう云った行動や感情を喚起するかだ。安倍首相や小池都知事を初め、日本の多くのリーダーはそうしたゴールイメージを計算出来て居ない。

「プレゼンやスピーチは音響芸術である」

 これは、奇しくも安倍氏のスピーチライターで、内閣官房参与である 谷口智彦氏 が筆者に述べた言葉である。であれば、こうした非常時には猶更、舞台装置も演出もジェスチャーも声も含めた総合的なパフォーマンス戦術を徹底して考え抜き〔演じ切る〕覚悟が必要なのではないか。

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事態が深刻なNY市民を励ます クオモ州知事の「神会見」

 海外に目を遣れば、アメリカではトランプ大統領が、相変わらずの「スタンドプレー」と云う迷走を繰り広げて居る一方で、ニューヨーク州のクオモ知事は、現場の第一線に立ち、精緻にして大胆なコミュニケーション戦略を展開して人気を高めて居る。

 ニューヨーク州は、アメリカの中でも最も事態が深刻で非難の声も有る。だが、クオモ知事の毎日のブリーフィングに依って、全米中の人々が励まされて居る。クオモ氏は、ニューヨーク州知事を務めた父の元に生まれ、弟はCNNの有名なアンカーマン。バツイチ独身の62歳である。
 過つては「人間ブルドーザー」「全ての人を釘と見做す『ハンマー』」と称された事もあり、決して好感度の高い人物では無い。しかし、こうした危機時には、その独自のスタイルが奏功して居る。
 毎日行われるブリーフィングが本当に凄い。何が凄いのか、筆者はそのポイントを以下の10項目に整理出来ると感じた。

クオモNY州知事の此処が凄い

?@迅速かつ頻繁
毎日、一回一時間位を掛けて、何が起こったか何か起きて居るのか、これから何が起こるのかを極め細かくブリーフィング。勿論、記者達等オーディエンスはタップリと間隔を空けて座って居る。

?A徹底した情報開示  「11万のベッドが必要に為るかも知れません。一方で、我々の現在のキャパシティーは5万3000ベッド。3万7000人がICUで呼吸器付きのベッドが必要と為るかも知れません。しかし、今在るのは3000・・・コレは皆さん問題です」ファクトに基づき具体的な数字を上げながら、ネガティブな情報も一切包み隠さずに開示する。

?B圧倒的な判り易さ  彼は原稿を見ず、全て自身の言葉で話す。その動画の横にはパワーポイントの映像が映し出されており、口頭では判らない数字やデータ、ポイントがビジュアルで直ぐに理解できる様に為って居る。
 更に感染者拡大のカーブを〔波〕に例え「皆さん、カーブの話をして居ますね。このカーブは〔波〕高ければ、医療システムを破壊します」と効果的に比喩を使う。〔ピークの山〕の話も彼の手に掛かると、子供から高齢者迄全国民がアッと云う間に理解出来る。

?C劇場感  ビジュアルな臨場感を演出する為、時には山積みに為ったマスクや医療機器の前で、時には臨時病院に転用した大規模コンベンションセンターに並んだ病院ベッドの前でブリーフィングを行う。見る人に〔此処迄準備をして居る〕と直感的に判って貰うのだ。

?D専門性  常に専門家の医師や軍人等専門家と並び一体に為り、高い専門性を以て事態に対処して居る事をアピールする。

大乱気流を乗り切る「パイロット」に必要なコミュニケーション力

?Eワンチーム  「アメリカは何時も逆境やチャレンジを乗り越えて来ました。そう遣って、我々の世代を偉大なものにして行くのです」「我々の繋がりと人間性コソが我々の最大の強み。ニューヨーカー達がお互いを思い遣る姿、それは何にも負け無い強み」「我々は強い。そして我々は愛情深い」常に〔私たち〕と言う言葉を使い、国民、ニューヨーカーとしての団結を呼び掛ける。

?Fエモーショナルサポート  「ウイルスより悪質なのは、我々が今直面して居る恐怖」「我々は同じ戦いを戦って居る。我々は今、皆同じ塹壕(ざんごう)に居るのだ」人々の苦悩・不安・悲しみ・絶望に徹底的に寄り添い共感し「必ず乗り切れる」と不安を鎮め様とする。医療関係者等へも惜しむ事無く感謝と称賛の言葉を送る。その口調は、一方的に読み上げるスタイルとは程遠く「マルで一緒の食卓で家族を励ます父親の様」と形容される。

?G責任の所在を明確にする  「もし、何かでアナタが腹を立てて居るので有れば私に腹を立てて下さい、責任は私に有る。アナタの街の市長がレストランやバーやジムや学校を閉めたのでは無い。私がそうしたのですから私が全ての責任を取ります」と言い切る。

?H誇りと希望を喚起する  「こうした危機はアナタの魂を有りのママに曝け出す」「ニューヨークはアナタを愛して居る」「より良き自分達を見付け出し、道を示して行きましょう」とニューヨーカーの誇りを刺激し、必ず、終息する事を約束し希望を植え付ける。

?I圧倒的な信頼感  地道なコミュニケーションの努力に、ニューヨーク市民だけでは無く、多くの米国民が励まされ、有事のリーダーに最も求められる圧倒的な信頼感を勝ち得て居る。


アメリカの有名トークショー番組のホスト、トレバー・ノアは 「リーダーはパイロットの様なもの。優れたリーダーは、事前にコレからドンな状況に為るのかを説明し、乗客の不安を最小限に抑え、理解を得無ければ為ら無い」 と形容した。正に〔危機感と安心感〕を如何にバランス好く伝えるかがカギと為る。
 視界は極端に悪く 事態は予断を許さ無い。果たして日本のリーダーはパイロットとして、この大乱気流を乗り切る事が出来るのか。そう在って欲しい訳だが、であれば、コミュニケーションを一瞬たりとも疎かにしては為ら無い。リーダーシップとはコミュニケーションそのものなのであるから。


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岡本 純子(おかもと・じゅんこ)コミュニケーション・ストラテジスト 早稲田大学政治経済学部卒 英ケンブリッジ大学大学院国際関係学修士 元・米マサチューセッツ工科大学比較メディア学客員研究員 大学卒業後、読売新聞経済部記者・電通パブリックリレーションコンサルタントを経て 現在 株式会社グローコム代表取締役社長( http://glocomm.co.jp/
 企業やビジネスプロフェッショナルの「コミュ力」強化を支援するスペシャリストとして、グローバルな最先端のノウハウやスキルをもとにしたリーダーシップ人材育成・研修 企業PRのコンサルティングを手掛ける 1000人近い社長・企業幹部のプレゼンテーション・スピーチ等のコミュニケーションコーチングを手掛け 「オジサン」観察に励む その経験を元に「オジサン」の「コミュ力」改善や「孤独にならない生き方」探求をライフワークとして居る。


コミュニケーション・ストラテジスト 岡本 純子 以上








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