2020年04月01日
何故 安倍首相と小池都知事は「不要不急の会見」を繰り返すのか
何故 安倍首相と小池都知事は
「不要不急の会見」 を繰り返すのか
〜プレジデントオンライン 岡本 純子 3/31(火) 13:15配信〜
コミュニケーション・ストラテジスト 岡本 純子氏
〜新型コロナウイルスの感染拡大を受け、安倍晋三首相と小池百合子都知事が度々記者会見を開いて居る。コミュニケーションストラテジストの岡本純子氏は「ドチラの会見も曖昧な表現ばかりで、国民の不安を高めるばかりだ。全米で最悪の状況に在るニューヨーク州知事のスピーチとは正反対だ」と云う〜
何故 安倍晋三首相と小池百合子都知事のコロナ会見はダメダメなのか
新型コロナウイルスの世界的大流行と云う未曾有の危機に在って、リーダー達の「真価」が試されて居る。日本はこれ迄最前線の医療や行政関係者の地道な努力で乗り切って来たが、遂に感染が爆発的に拡大するかどうかの重大局面に差し掛かって居る。
そうした状況に於ける不安材料が、 安倍晋三首相と小池百合子都知事のリーダーシップの欠如 だ。3月下旬に行われた2人の記者会見は〔日本流コミュニケーション〕のダメダメさを凝縮した様な大変残念なものだった。
一方、アメリカでは、 ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事 が天才的なコミュニケーション手腕を発揮し、絶望的な状況での〔希望の星〕として人気を集めて居る。今回は、リーダーとは危機の時にどんなコミュニケーションを心掛けるべきかに付いて考えたい。
「ご協力を」「きめ細かな支援」抽象的な言葉を並べた安倍首相
安倍首相は3月28日、コロナウイルスの感染拡大に付いて3回目の会見を開いた。その会見スタイルはコレ迄と同じで、プロンプター・原稿が映し出される透明のボードを見ながら、用意された原稿を一字一句漏らさず読み上げて居た。
安倍首相は両側に設置されたプロンプターを交互に見る為規則的に左右に目を遣る。その姿はロボットの様に不自然で、聞き手(視聴者で有る国民)からすると、誰に向いて話して居るのか判ら無い居心地の悪さがある。何より「彼自身の言葉」と云う感じが全くしない。
「ご協力を」「徹底的に下支え」「きめ細かな支援」「笑顔を取り戻す」と云った抽象的な言葉を並べながら、行間にメッセージを滲ませる。これコソ日本のお家芸である「以心伝心」「忖度」のコミュニケーションスタイルだろう。
「〇〇して参ります」と云う未来形に国民は不安を覚える
又、これ迄と同じく「〇〇して参ります」と云う未来形が続く為、本当にコレで有事対応出来るのかと心配に為る。勿論人々の安全を確保しながら、経済を回すと云うのは大変に高度な舵取りを求められる。曖昧な物言いをし無くては為ら無いのだろう。だが、その余りの歯切れの悪さ中途半端さが、何ともモドカシイ。
更に気に為るのは、このご時世にギュウギュウ詰めの記者席だ。記者は記者で、事前に用意して来た様な質問を順番に読み上げて居る様で、緊張感も臨場感も無い。結局、折角の記者会見が「記者クラブ向けの内輪の儀式」に為って居て、国民に正面から向き合って居る様には見え無い。
世界のリーダー達は違う。ドイツのメルケル首相・イギリスのジョンソン首相等は、動画を通じて、国民に向けて直接メッセージを送ると云うスタイルをとって居る。会見にせよビデオメッセージにせよ、本人の思いの籠った切実なメッセージで有るべきで、国民一人ひとりの心に確りと届く様な情報発信の形を考える必要が有るだろう。
小池都知事はデータや医学的根拠が無く 曖昧な説明に終始
一方、小池都知事は3月25日夜に新型コロナウイルスに付いて初めての会見(※)を行った。フリップ・説明用の資料を用意し 「感染爆発 重大局面」 と視覚的にアピールする等工夫も見られたが、データや医学的根拠が無く、曖昧な説明に終始した。例えばコンな発言だ。
「平日に付きましては、出来るだけお仕事は、ご自宅で行って頂きたい。勿論職種にもよりますが。それから夜間の外出に付いてもお控え頂きたい。この週末で御座いますが、お急ぎで無い外出は是非とも控えて頂く様にお願いを申し上げます」
非常にマドロッこしい。外出を控えるのはこの週末だけで、平日は好いと云う事なのだろうか。 「お急ぎで無い」 とは何だろうか。何故 「職種にも依るが、仕事は為るべくご自宅で行い、今後は、平日・夜間・週末を含めて、外出は控えて頂きたい」 とシンプルに言え無いのだろう。
彼女のプレゼンでの強みは、決して怒りを見せ無い感情のコントロール力である。それは今回も発揮され、常に柔らかい表情を作って居た。只、時折笑顔も覗かせて居た。それは緊張を和ます為の戦略なのか、単なる愛想笑いなのか。平時では無い〔重大局面〕に有りながら、何だか他人事の様なノンビリとした印象を受けた。
言葉を発すれば 伝わると思い込んで居る
小池都知事は3月27日と30日にも会見を開いたが、残念ながらその印象は初回から変わって居ない。直近の30日の会見は表情が厳しく為り、配布資料等も用意されたが、結局、印象に残ったのは 「夜のクラブやバーを控えて」 と言うメッセージだけ。
〔外出自粛〕を求めるものでは無く、これで好いのかと戸惑いを覚えるものだった。しかも会見場はギッチリで、ゴホゴホと咳をして居る人が居るのがとても気に為った。
有事の時のリーダーは、自らの一挙手一投足が国民一人ひとりにメッセージを発して居る事を強く意識すべきだ。しかし日本の多くのリーダーは、只言葉を発すれば伝わると思い込んで居る。それだけでは意図通りの効果を発揮するとは限ら無い。
言葉を発する事は飽く迄手段であり、目的とすべきはどう云った行動や感情を喚起するかだ。安倍首相や小池都知事を初め、日本の多くのリーダーはそうしたゴールイメージを計算出来て居ない。
「プレゼンやスピーチは音響芸術である」
これは、奇しくも安倍氏のスピーチライターで、内閣官房参与である 谷口智彦氏 が筆者に述べた言葉である。であれば、こうした非常時には猶更、舞台装置も演出もジェスチャーも声も含めた総合的なパフォーマンス戦術を徹底して考え抜き〔演じ切る〕覚悟が必要なのではないか。
事態が深刻なNY市民を励ます クオモ州知事の「神会見」
海外に目を遣れば、アメリカではトランプ大統領が、相変わらずの「スタンドプレー」と云う迷走を繰り広げて居る一方で、ニューヨーク州のクオモ知事は、現場の第一線に立ち、精緻にして大胆なコミュニケーション戦略を展開して人気を高めて居る。
ニューヨーク州は、アメリカの中でも最も事態が深刻で非難の声も有る。だが、クオモ知事の毎日のブリーフィングに依って、全米中の人々が励まされて居る。クオモ氏は、ニューヨーク州知事を務めた父の元に生まれ、弟はCNNの有名なアンカーマン。バツイチ独身の62歳である。
過つては「人間ブルドーザー」「全ての人を釘と見做す『ハンマー』」と称された事もあり、決して好感度の高い人物では無い。しかし、こうした危機時には、その独自のスタイルが奏功して居る。
毎日行われるブリーフィングが本当に凄い。何が凄いのか、筆者はそのポイントを以下の10項目に整理出来ると感じた。
クオモNY州知事の此処が凄い
?@迅速かつ頻繁 毎日、一回一時間位を掛けて、何が起こったか何か起きて居るのか、これから何が起こるのかを極め細かくブリーフィング。勿論、記者達等オーディエンスはタップリと間隔を空けて座って居る。
?A徹底した情報開示 「11万のベッドが必要に為るかも知れません。一方で、我々の現在のキャパシティーは5万3000ベッド。3万7000人がICUで呼吸器付きのベッドが必要と為るかも知れません。しかし、今在るのは3000・・・コレは皆さん問題です」ファクトに基づき具体的な数字を上げながら、ネガティブな情報も一切包み隠さずに開示する。
?B圧倒的な判り易さ 彼は原稿を見ず、全て自身の言葉で話す。その動画の横にはパワーポイントの映像が映し出されており、口頭では判らない数字やデータ、ポイントがビジュアルで直ぐに理解できる様に為って居る。
更に感染者拡大のカーブを〔波〕に例え「皆さん、カーブの話をして居ますね。このカーブは〔波〕高ければ、医療システムを破壊します」と効果的に比喩を使う。〔ピークの山〕の話も彼の手に掛かると、子供から高齢者迄全国民がアッと云う間に理解出来る。
?C劇場感 ビジュアルな臨場感を演出する為、時には山積みに為ったマスクや医療機器の前で、時には臨時病院に転用した大規模コンベンションセンターに並んだ病院ベッドの前でブリーフィングを行う。見る人に〔此処迄準備をして居る〕と直感的に判って貰うのだ。
?D専門性 常に専門家の医師や軍人等専門家と並び一体に為り、高い専門性を以て事態に対処して居る事をアピールする。
大乱気流を乗り切る「パイロット」に必要なコミュニケーション力
?Eワンチーム 「アメリカは何時も逆境やチャレンジを乗り越えて来ました。そう遣って、我々の世代を偉大なものにして行くのです」「我々の繋がりと人間性コソが我々の最大の強み。ニューヨーカー達がお互いを思い遣る姿、それは何にも負け無い強み」「我々は強い。そして我々は愛情深い」常に〔私たち〕と言う言葉を使い、国民、ニューヨーカーとしての団結を呼び掛ける。
?Fエモーショナルサポート 「ウイルスより悪質なのは、我々が今直面して居る恐怖」「我々は同じ戦いを戦って居る。我々は今、皆同じ塹壕(ざんごう)に居るのだ」人々の苦悩・不安・悲しみ・絶望に徹底的に寄り添い共感し「必ず乗り切れる」と不安を鎮め様とする。医療関係者等へも惜しむ事無く感謝と称賛の言葉を送る。その口調は、一方的に読み上げるスタイルとは程遠く「マルで一緒の食卓で家族を励ます父親の様」と形容される。
?G責任の所在を明確にする 「もし、何かでアナタが腹を立てて居るので有れば私に腹を立てて下さい、責任は私に有る。アナタの街の市長がレストランやバーやジムや学校を閉めたのでは無い。私がそうしたのですから私が全ての責任を取ります」と言い切る。
?H誇りと希望を喚起する 「こうした危機はアナタの魂を有りのママに曝け出す」「ニューヨークはアナタを愛して居る」「より良き自分達を見付け出し、道を示して行きましょう」とニューヨーカーの誇りを刺激し、必ず、終息する事を約束し希望を植え付ける。
?I圧倒的な信頼感 地道なコミュニケーションの努力に、ニューヨーク市民だけでは無く、多くの米国民が励まされ、有事のリーダーに最も求められる圧倒的な信頼感を勝ち得て居る。
アメリカの有名トークショー番組のホスト、トレバー・ノアは 「リーダーはパイロットの様なもの。優れたリーダーは、事前にコレからドンな状況に為るのかを説明し、乗客の不安を最小限に抑え、理解を得無ければ為ら無い」 と形容した。正に〔危機感と安心感〕を如何にバランス好く伝えるかがカギと為る。
視界は極端に悪く 事態は予断を許さ無い。果たして日本のリーダーはパイロットとして、この大乱気流を乗り切る事が出来るのか。そう在って欲しい訳だが、であれば、コミュニケーションを一瞬たりとも疎かにしては為ら無い。リーダーシップとはコミュニケーションそのものなのであるから。
岡本 純子(おかもと・じゅんこ)コミュニケーション・ストラテジスト 早稲田大学政治経済学部卒 英ケンブリッジ大学大学院国際関係学修士 元・米マサチューセッツ工科大学比較メディア学客員研究員 大学卒業後、読売新聞経済部記者・電通パブリックリレーションコンサルタントを経て 現在 株式会社グローコム代表取締役社長( http://glocomm.co.jp/ )
企業やビジネスプロフェッショナルの「コミュ力」強化を支援するスペシャリストとして、グローバルな最先端のノウハウやスキルをもとにしたリーダーシップ人材育成・研修 企業PRのコンサルティングを手掛ける 1000人近い社長・企業幹部のプレゼンテーション・スピーチ等のコミュニケーションコーチングを手掛け 「オジサン」観察に励む その経験を元に「オジサン」の「コミュ力」改善や「孤独にならない生き方」探求をライフワークとして居る。
コミュニケーション・ストラテジスト 岡本 純子 以上
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