15 ペリシテ人は、昔、イサクの父アブラハムが僕たちに掘らせた井戸をことごとく塞ぎ、土で埋めた。 16 アビメレクはイサクに言った。 「あなたは我々と比べてあまりに強くなった。 どうか、ここから出て行っていただきたい。」 17 イサクはそこを去って、ゲラルの谷に天幕を張って住んだ。 18 そこにも、父アブラハムの時代に掘った井戸が幾つかあったが、アブラハムの死後、ペリシテ人がそれらをふさいでしまっていた。 イサクはそれらの井戸を掘り直し、父が付けたとおりの名前を付けた。 19 イサクの僕たちが谷で井戸を掘り、水が豊かに湧き出る井戸を見つけると、 20 ゲラルの羊飼いは、「この水は我々のものだ」とイサクの羊飼いと争った。 そこで、イサクはその井戸をエセク(争い)と名付けた。 彼らがイサクと争ったからである。 21 イサクの僕たちがもう一つの井戸を掘り当てると、それについても争いが生じた。 そこで、イサクはその井戸をシトナ(敵意)と名付けた。 22 イサクはそこから移って、更にもう一つの井戸を掘り当てた。 それについては、もはや争いは起こらなかった。 イサクは、その井戸をレホボト(広い広場)と名付け、「今や、主は我々の?栄のための広い場所をお与えになった」と言った。 23 イサクは更に、そこからベエル・シェバに上った。 24 その夜、主が現れて言われた。
「わたしは、あなたの父アブラハムの神である。
恐れてはならない。わたしはあなたと共にいる。
わたしはあなたを祝福し、子孫を増やす
わが僕アブラハムゆえに。」
25 イサクは、そこに祭壇を築き、主の御名を呼んで礼拝した。 彼はそこに天幕を張り、イサクの僕たちは井戸を掘った。
イサクとアビメレクの契約
26 アビメレクが参謀のアフザトと軍隊の長のピコルと共に、ゲラルからイサクのところに来た。 27 イサクは彼らに尋ねた。 「あなたたちは、わたしを憎んで追い出したのに、なぜここに来たのですか。」 28 彼らは答えた。 「主があなたと共におられることがよく分かったからです。 そこで考えたのですが、我々はお互いに、つまり、我々とあなたの間で誓約を交わし、あなたと契約を結びたいのです。 29 以前、我々はあなたに何ら危害を加えず、むしろあなたのためになるよう計り、あなたを無事に送り出しました。 そのようにあなたも、我々にいかなる害も与えないでください。 あなたは確かに、主に祝福された方です。 30 そこで、イサクは彼らのために祝宴を催し、共に飲み食いした。 31 次の朝早く、互に誓いを交わした後、イサクは彼らを送り出し、彼らは安らかに去って行った。 32 その日に、井戸を掘っていたイサクの僕たちが帰って来て、「水がでました」と報告した。 33 そこで、その町の名は、今日に至るまで、ベエル・シェバ(誓いの井戸)といわれている。
エサウの妻
34 エサウは、四十歳のときヘト人ベエリの娘ユディトとヘト人エロンの娘バセマトを妻として迎えた。 35 彼女達は、イサクとリベカにとって悩みの種となった。
リベカの計略 27
1 イサクは年をとり、目がかすんで見えなくなってきた。 そこで上の息子のエサウを呼び寄せて、「息子よ」と言った。 エサウが、「はい」と答えると、
2 イサクは言った。
「こんなに年をとったので、わたしはいつ死ぬか分からない。 3 今すぐに、弓と矢筒など、狩りの道具を持って野に行き、獲物を取って来て、 4 わたしの好きなおいしい料理を作り、ここへ持って来てほしい。 死ぬ前にそれを食べて、わたし自身の祝福をお前に与えたい。」
5 リベカは、イサクが息子のエサウに話しているのを聞いていた。 エサウが獲物を取りに野に行くと、 6 リベカは息子のヤコブに言った。
「今、お父さんが兄さんのエサウにこう言っているのを耳にしました。 7 『獲物を取って来て、あのおいしい料理を作って欲しい。 わたしは死ぬ前にそれを食べて、主の御前でお前を祝福したい』と。 8 わたしの子よ。 今、わたしが言うことをよく聞いてそのとおりにしなさい。 9 家畜の群れのところへ行って、よく肥えた子山羊を二匹取って来なさい。 わたしが、それでお父さんの好きなおいしい料理を作りますから、 10 それをお父さんのところへ持って行きなさい。 お父さんは召し上がって、亡くなる前にお前を祝福してくださるでしょう。」
11 しかし、ヤコブは母リベカに言った。
「でも、エサウ兄さんはとても毛深いのに、わたしの肌は滑らかです。 12 お父さんがわたしに触れば、だましているのが分かります。 そうしたら、わたしは祝福どころか、反対に呪いを受けてしまいます。」
13 母は言った。
「わたしの子よ。 そのときにはお母さんがその呪いを引き受けます。 ただ、わたしの言うとおりに、行って取って来なさい。」
14 ヤコブは取りに行き、母のところへ持って来たので、母は父の好きなおいしい料理を作った。 15 リベカは、家にしまっておいた上の息子エサウの晴れ着を取り出して、下の息子ヤコブに着せ、 16 子山羊の毛皮を彼の腕や滑らかな首に巻きつけて、 17 自分が作ったおいしい料理とパンを息子ヤコブに渡した。
祝福をだまし取るヤコブ
18 ヤコブは、父のもとへ行き、「わたしのお父さん」と呼びかけた。 父が、「ここにいる。 わたしの子よ。 誰だ、お前は」と尋ねると、 19 ヤコブは言った。 「長男のエサウです。 お父さんの言われたとおりにしてきました。 さあ、どうぞ起きて、座ってわたしの獲物を召し上がり、お父さん自身の祝福をわたしに与えてください。」 20 「わたしの子よ、どうしてまた、こんなに早くしとめられたのか」と、イサクが息子に尋ねると、ヤコブは答えた。 「あなたの神、主がわたしのために計らってくださったからです。」 21 イサクはヤコブに言った。 「近寄りなさい。 わたしの子に触って、本当にお前が息子のエサウかどうか、確かめたい。」 22 ヤコブが父イサクに近寄ると、イサクは彼に触りながら言った。 「声はヤコブの声だが、腕はエサウの腕だ。」 23 イサクは、ヤコブの腕が兄エサウの腕のように毛深くなっていたので、見破ることができなかった。 そこで、彼は祝福しようとして、 24 言った。 「お前は本当にわたしの子エサウなのだな。」 ヤコブは、「もちろんです」と答えた。 25 イサクは言った。 「では、お前の獲物をここへ持って来なさい。 それを食べて、わたし自身の祝福をお前に与えよう。」 ヤコブが料理を差し出すと、イサクは食べ、ぶどう酒をつぐと、それを飲んだ。 26 それから、父イサクは彼に言った。 「わたしの子よ、近寄ってわたしに口づけをしなさい。」 27 ヤコブが近寄って口づけをすると、イサクは、ヤコブの着物の匂いをかいで、祝福して言った。
「ああ、わたしの子の香りは
主が祝福された野の香りのようだ。
28 どうか、神が
天の露と地の産み出す豊かなもの
穀物とぶどう酒を
お前に与えてくださるように
29 多くの民がお前に仕え
多くの国民がお前にひれ伏す。
お前は兄弟たちの主人となり
母の子らもお前にひれ伏す。
お前を呪う者は呪われ
お前を祝福する者は
祝福されるように。」
悔しがるエサウ
30 イサクガヤコブを祝福し終えて、ヤコブが父イサクの前から立ち去るとすぐ、兄エサウが狩りから帰って来た。 31 彼もおいしい料理を作り、父のところへ持って来て言った。 「わたしのお父さん。 起きて、息子の獲物を食べてください。 そして、あなた自身の祝福をわたしに与えてください。」 32 父イサクが、「お前は誰なのか」と聞くと、「わたしです。 あなたの息子、長男のエサウです」と答えが返って来た。 33 イサクは激しく体を震わせて言った。 「では、あれは、一体誰だったのだ。 さっき獲物を取ってわたしのところへ持って来たのは。 実は、お前が来る前に私はみんな食べて、彼を祝福してしまった。 だから、彼が祝福されたものになっている。」 34 エサウはこの父の言葉を聞くと、悲痛な叫びをあげて激しく泣き、父に向って言った。 「わたしのお父さん。 わたしも、このわたしも祝福してください。」 35 イサクは言った。 「お前の弟が来て策略を使い、お前の祝福を奪ってしまった。」 36 エサウは叫んだ。
「彼をヤコブとは、よくも名付けたものだ。 これで二度も、わたしの足を引っ張り(アーカブ)欺いた。 あのときは長子の権利を奪い、今度はわたしの祝福を奪ってしまった。」 エサウは続けて言った。 「お父さんは、わたしのために祝福を残しておいてくれなかったのですか。」
37 イサクはエサウに答えた。 「既にわたしは、彼をお前の主人とし、親族をすべて彼の僕とし、穀物もぶどう酒も彼のものにしてしまった。 わたしの子よ。 今となっては、お前のために何をしてやれようか。」
38 エサウは父に叫んだ。
「わたしのお父さん。 祝福はたった一つしかないのですか。 わたしも、このわたしも祝福してください、わたしのお父さん。」エサウは声をあげて泣いた。 39 父イサクは言った。
「ああ
地の産み出す豊かなものから遠く離れた所
この後お前はそこに住む
天の露からも遠く隔てられて。
40 お前は剣に頼って生きていく。
しかしお前は弟に仕える。
いつの日にかお前は反抗を企て
自分の首から軛を振り落とす。」
逃亡の勧め
41 エサウは、父がヤコブを祝福したことを根に持って、ヤコブを憎むようになった。 そして、心の中で言った。 「父の喪の日も遠くない。 そのときがきたら、必ず弟ヤコブを殺してやる。」 42 ところが、上の息子エサウのこの言葉が母リベカの耳に入った。 彼女は人をやって、下の息子のヤコブを呼び寄せて言った。 「大変です。 エサウ兄さんがお前を殺して恨みを晴らそうとしています。 43 わたしの子よ。 今、わたしの言うことをよく聞き、急いでハランに、わたしの兄ラバンの所に逃げて行きなさい。 44 そして、お兄さんの怒りが治まるまで、しばらく伯父さんの所に置いてもらいなさい。 45 そのうちに、お兄さんの憤りも治まり、お前のしたことを忘れてくれるだろうから、そのときには人をやってお前を呼び戻します。 一日のうちにお前たち二人を失うことなど、どうしてできましょう。
ヤコブの出発
46 リベカはイサクに言った。 「わたしは、ヘト人の娘たちのことで、生きているのが嫌になりました。 もしヤコブまでも、この土地の娘の中からあんなヘト人の娘をめとったら、わたしは生きているかいがありません。」
28
1 イサクはヤコブを呼び寄せて祝福して、命じた。
「お前はカナンの娘の中から妻を迎えてはいけない。 2 ここをたって、パダン・アラムのベトエルおじいさんの家に行き、そこでラバン伯父さんの娘の中から結婚相手を見つけなさい。 3 どうか、全能の神がお前を祝福して繁栄させ、お前を増やして多くの民の群れとしてくださるように。 4 どうか、アブラハムの祝福がお前とその子孫に及び、神がアブラハムに与えられた土地、お前が寄留しているこの土地を受け継ぐことができるように。」
5 ヤコブはイサクに送り出されて、パダン・アラムのラバンの所へ旅立った。 ラバンはアラム人ベトエルの息子で、ヤコブとエサウの母リベカの兄であった。
エサウの別の妻
6 エサウは、イサクがヤコブを祝福し、パダン・アラムに送り出し、そこから妻を迎えさせようとしたこと、しかも彼を祝福したとき、「カナンの娘の中から妻を迎えてはいけない」と命じたこと、 7 そして、ヤコブが父と母の命令に従ってパダン・アラムへ旅立ったことなどを知った。 8 エサウは、カナンの娘たちが父イサクの気に入らないことを知って、 9 イシュマエルのところへ行き、既にいる妻のほかにもう一人、アブラハムの息子イシュマエルの娘で、ネバヨトの妹に当たるマハラトを妻とした。
ヤコブの夢
10 ヤコブはベエル・シュバを立ってハランに向った。 11 とある場所に来たとき、日が沈んだので、そこで一夜を過ごすこにした。 ヤコブはその場所にあった石を一つ取って枕にして、その場所に横たわった。 12 すると、彼は夢を見た。 先端が天まで達する階段が地に向って伸びており、しかも、神の御使いたちがそれを上ったり下ったりしていた。 13 見よ、主が傍らに立って言われた。
「わたしは、あなたの祖父アブラハムの神、イサクの神、主である。 あなたが今横たわっているこの土地を、あなたとあなたの子孫に与える。 14 あなたの子孫は大地の砂粒のように多くなり、西へ、東へ、北へ、南へと広がっていくであろう。 地上の子孫はすべて、あなたとあなたの子孫によって祝福に入る。 15 見よ、わたしはあなたと共にいる。 あなたがどこへ行っても、わたしはあなたを守り、必ずこの土地に連れ帰る。 わたしは、あなたに約束したことを果たすまで決して見捨てない。」
16 ヤコブは眠りから覚めて言った。
「まことに主がこの場所におられるのに、わたしは知らなかった。」
17 そして、恐れおののいて言った。
「ここは、なんと畏れ多い場所だろう。 これはまさしく神の家である。 そうだ、ここは天の門だ。」
18 ヤコブは次の朝早く起きて、枕にしていた石を取り、それを記念碑として立て、先端に油を注いで、 19 その場所をベテル(神の家)と名付けた。 ちなみに、その町の名はかってルズと呼ばれていた。
20 ヤコブはまた、誓願を立てて言った。
「神がわたしと共におられ、わたしが歩むこの旅路を守り、食べ物、着る物を与え、 21 無事に父の家に帰らせてくださり、主がわたしの神となられるなら、 22 わたしが記念碑として立てたこの石を神の家とし、すべて、あなたがわたしに与えられるものの十分の一をささげます。」
ラバンの家に着く 29
1 ヤコブは旅を続けて、東方の人々の土地へ行った。 2 ふと見ると、野原に井戸があり、そのそばに羊が三つの群れになって伏していた。 その井戸から羊の群れに、水を飲ませることになっていたからである。 ところが、井戸の口の上には大きな石が載せてあった。 3 まず羊の群れを全部そこに集め、石を井戸の口から転がして羊の群れに水を飲ませ、また石を元の所に戻しておくことになっていた。 4 ヤコブはそこにいた人たちに尋ねた。 「皆さんはどちらの方ですか。」 「わたしたちはハランの者です」と答えたので、 5 ヤコブは尋ねた。 「では、ナホルの息子のラバンを知っていますか。」 「ええ、知っています」と彼らが答えたので、 6 ヤコブは更に尋ねた。 「元気でしょうか。」 「元気です。 もうすぐ、娘のラケルも羊の群れを連れてやって来ます」と彼らは答えた。 7 ヤコブは言った。 「まだこんなに日は高いし、家畜を集める時でもない。 羊に水を飲ませて、もう一度草を食べさせに行ったらどうですか。」 8 すると、彼らは答えた。 「そうはできないのです。 羊の群れを全部ここに集め、あの石を井戸の口から転がして羊に水を飲ませるのですから。」
9 ヤコブが彼らと話しているうちに、ラケルが父の羊の群れを連れてやって来た。 彼女も羊を飼っていたからである。 10 ヤコブは、叔父ラバンの娘ラケルと伯父ラバンの羊の群れを見るとすぐに、井戸の口へ近寄り石を転がして、叔父ラバンの羊に水を飲ませた。 11 ヤコブはラケルに口づけし、声をあげて泣いた。 12 ヤコブはやがて、ラケルに、自分が彼女の父の甥に当たり、リベカの息子であることを打ち明けた。 ラケルは走って行って、父に知らせた。 13 ラバンは、妹の息子ヤコブの事を聞くと、走って迎えに行き、ヤコブを抱き締め口づけした。 それから、ヤコブを自分の家に案内した。 ヤコブがラバンに事の次第をすべて話すと、 14 ラバンは彼に言った。 「お前は、本当にわたしの骨肉の者だ。」
ヤコブの結婚
ヤコブがラバンのもとにひと月ほど滞在したある日、 15 ラバンはヤコブに言った。 「お前は身内の者だからといって、ただで働くことはない。 どんな報酬が欲しいか言ってみなさい。」
16 ところで、ラバンには二人の娘があり、姉の方はレア、妹の方はラケルといった。 17 レアは優しい目をしていたが、ラケルは顔も美しく、容姿も優れていた。 18 ヤコブはラケルを愛していたので、「下の娘のラケルをくださるなら、わたしは七年間あなたの所で働きます」と言った。 19 ラバンは答えた。 「あの娘をほかの人に嫁がせるより、お前に嫁がせる方が良い。 わたしの所にいなさい。」 20 ヤコブはラケルのために七年間働いたが、彼女を愛していたので、それはほんの数日のように思われた。 21 ヤコブはラバンに言った。
「約束の年月が満ちましたから、わたしのいいなずけと一緒にならせてください。」 22 ラバンは土地の人たちを皆集め祝宴を開き、 23 夜になると、娘のレアをヤコブのもとに連れて行ったので、ヤコブは彼女のところに入った。 24 ラバンはまた、女奴隷ジルバを娘レアに召し使いとして付けてやった。 25 ところが、朝になってみると、それはレアであった。 ヤコブがラバンに、「どうしてこんなことをなさったのですか。 わたしがあなたのもとで働いたのは、ラケルのためではありませんか。 なぜ、わたしをだましたのですか」と言うと、 26 ラバンは答えた。 「我々の所では、妹を姉より先に嫁がせることはしないものだ。 27 とにかく、この一週間の婚礼の祝いを済ませなさい。 そうすれば、妹の方もお前に嫁がせよう。 だがもう七年間、うちで働いてもらわねばならない。」 28 ヤコブが、言われたとおり一週間の婚礼の祝いを済ませると、ラバンは下の娘のラケルもヤコブに妻として与えた。 29 ラバンはまた、女奴隷ビルハを娘ラケルに召し使いとして付けてやった。 30 こうして、ヤコブはラケルをめとった。 ヤコブはレアよりラケルを愛した。 そして、更にもう七年ラバンのもとで働いた。
ヤコブの子供
31 主は、レアが疎んじられているのを見て彼女の胎を開かれたが、ラケルには子供ができなかった。 32 レアは身ごもって男の子を産み、ルベンと名付けた。 それは、彼女が、「主はわたしの苦しみを顧みて(ラア)くださった。 これからは夫もわたしを愛してくれるにちがいない」と言ったからである。 33 レアはまた身ごもって男の子を産み、「主はわたしが疎んじられていることを耳にされ(シャマ)、またこの子をも授けてくださった」と言って、シメオンと名付けた。 34 レアはまた身ごもって男の子を産み、「これからはきっと、夫はわたしに結びついて(ラベ)くれるだろう。 夫のために三人も男の子を産んだのだから」と言った。 そこで、その子をレビと名付けた。 35 レアはまた身ごもって男の子を産み、「今度こそ主をほめたたえ、(ヤダ)よう」と言った。 そこで、その子を(ユダ)と名付けた。 しばらく、彼女は子を産まなくなった。
30
1 ラケルは、ヤコブとの間に子供ができないことが分かると、姉をねたむようになり、ヤコブに向って、「わたしにもぜひ子供を与えてください。 与えてくださらなければ、わたしは死にます。」と言った。 2 ヤコブは激しく怒って、言った。 「わたしが神に代われると言うのか。 お前の胎に子供を宿らせないのは?~御自身なのだ。」 3 ラケルは、「わたしの召し使いのビルハがいます。 彼女のところへ入ってください。 彼女が子供を産み、わたしがその子を膝の上に迎えれば、彼女によってわたしも子供を持つことができます」と言った。 4 ラケルはヤコブに召し使いビルハを側女として与えたので、ヤコブは彼女のところに入った。 5 やがて、ビルハは身ごもってヤコブとの間に男の子を産んだ。 6 そのときラケルは、「わたしの訴えを神は正しくお裁き(ディン)になり、わたしの願いを聞き入れ男の子を与えてくださった」と言った。 そこで、彼女はその子をダンと名付けた。 7 ラケルの召し使いビルハはまた身ごもって、ヤコブとの間に二人目の男の子を産んだ。 8 そのときラケルは、「姉と死に物狂いの争いをして(ニフタル)、ついに勝った」と言って、その名をナフタリと名付けた。
9 レアも自分に子供ができなくなったのを知ると、自分の召し使いジルパをヤコブに側女として与えたので、 10 レアの召し使いジルパはヤコブとの間に男の子を産んだ。 11 そのときレアは、「なんと幸運な(ガド)」と言って、その子をガドと名付けた。 12 レアの召し使いジルパはヤコブとの二人目の男の子を産んだ。 13 そのときレアは、「なんと幸せなこと(アシェル)か。 娘たちはわたしを幸せ者と言うにちがいない」と言って、その子をアシェルと名付けた。
14 小麦の刈り入れのころ、ルベンは野原で恋なすびを見つけ、母レアのところへ持って来た。 ラケルがレアに、「あなたの子供が取って来た恋なすびをわたしに分けてください」と言うと、 15 レアは言った。 「あなたは、わたしの夫を取っただけでは気が済まず、わたしの息子の恋なすびまで取ろうとするのですか。」 「それでは、あなたの子供の恋なすびの代わりに、今夜あの人があなたと床を共にするようにしましょう」とラケルは答えた。 16 夕方になり、ヤコブが野原から帰って来ると、レアは出迎えて言った。 「あなたはわたしのところに来なければなりません。 わたしは、息子の恋なすびであなたを雇ったのですから。」 その夜、ヤコブはレアと寝た。 17 神がレアの願いを聞き入れられたので、レアは身ごもってヤコブとの間に五人目の男の子を産んだ。 18 そのときレアは、「わたしが召し使いを夫に与えたので、神はその報酬(サカル)をくださった」と言って、その子をイサカルと名付けた。 19 レアはまた身ごもって、ヤコブとの間に六人目の男の子を産んだ。 20 そのときレアは、「神がすばらしい贈り物をわたしにくださった。 今度こそ、夫はわたしを尊敬してくれる(ザバル)でしょう。 夫のために六人も男の子を産んだのだから」と言って、その子をゼブルンと名付けた。 21 その後、レアは女の子を産み、その子をディナと名付けた。 22 しかし、神はラケルも御心に留め、彼女の願いを聞き入れその胎を開かれたので、 23 ラケルは身ごもって男の子を産んだ。 そのときラケルは、「神がわたしの恥をすすいでくださった」と言った。 24 彼女は、「主がわたしにもう一人男の子を加えてくださいますように(ヨセフ)」と願っていたので、その子をヨセフと名付けた。
ラバンとの駆け引き
25 ラケルがヨセフを産んだころ、ヤコブはラバンに言った。 「わたしを独り立ちさせて、生まれ故郷へ帰らせてください。 26 わたしは今まで、妻を得るためにあなたのところで働いてきたのですから、妻子と共に帰らせてください。 あなたのために、わたしがどんなに尽くしてきたか、よくご存じのはずです。」
27 「もし、お前さえ良ければ、もっといてほしいのだが。 実は占いで、わたしはお前のお陰で、主から祝福をいただいていることが分かったのだ」とラバンは言い、 28 更に続けて、「お前の望む報酬をはっきり言いなさい。 必ず支払うから」と言った。 29 ヤコブは言った。 「わたしがどんなにあなたのために尽くし、家畜の世話をしてきたかよくご存じのはずです。 30 わたしが来るまではわずかだった家畜が、今ではこんなに多くなっています。 わたしが来てからは、主があなたを祝福しておられます。 しかし今のままでは、いつになったらわたしは自分の家を持つことができるでしょうか。」 31 「何をお前に支払えばよいのか」とラバンが尋ねると、ヤコブは答えた。 「何もくださるには及びません。 ただこういう条件なら、もう一度あなたの群れを飼い、世話をいたしましょう。 32 今日、わたしはあなたの群れを全部見回って、その中から、ぶちとまだらの羊をすべてと羊の中で黒みがかったものすべて、それからまだらとぶちの山羊を取り出しておきますから、それをわたしの報酬にしてください。 33 明日、あなたが来てわたしの報酬をよく調べれば、わたしの正しいことは証明されるでしょう。 山羊の中にぶちとまだらでないものや、羊の中に黒みがかっていないものがあったら、わたしが盗んだものと見なして結構です。」 34 ラバンは言った。 「よろしい。 お前の言うとおりにしよう。」
35 ところが、その日、ラバンは縞やまだらの雄山羊とぶちやまだら雌山羊全部、つまり白いところが混じっているもの全部とそれに黒みがかった羊をみな取り出して自分の息子たちの手に渡し、 36 ヤコブがラバンの残りの群れを飼っている間に、自分とヤコブとの間に歩いて三日かかるほど距離をおいた。
ヤコブの工夫
37 ヤコブは、ポプラとアーモンドとプラタナスの木の若枝を取って来て、皮をはぎ、枝に白い木肌の縞を作り、 38 家畜の群れがやって来たときに群れの目につくように、皮をはいだ枝を家畜の水飲み場の水槽の中に入れた。 そして、家畜の群れが水を飲みにやって来たとき、さかりがつくようにしたので、 39 家畜の群れは、その枝の前で交尾して縞やぶちやまだらのものを産んだ。 40 また、ヤコブは羊を二手に分けて、一方の群れをラバンの群れの中の縞のものと全体が黒みがかったものとに向かわせた。 彼は、自分の群れだけにはそうしたが、ラバンの群れにはそうしなかった。 41 また、丈夫な羊が交尾する時期になると、ヤコブは皮をはいだ枝をいつも水ぶねの中に入れて群れの前に置き、枝のそばで交尾させたが、 42 弱い羊のときには枝を置かなかった。 そこで、弱いのはラバンのものとなり、丈夫なものはヤコブのものとなった。 43 こうして、ヤコブはますます豊かになり、多くの家畜や男女の奴隷、それにらくだやろばなどを持つようになった。
ヤコブの脱走 31
1 ヤコブは、ラバンの息子たちが、「ヤコブは我我の父のものを全部奪ってしまった。 父のものをごまかして、あの富を築き上げたのだ」と言っているのを耳にした。 2 また、ラバンの態度を見ると、確かに以前とは変わっていた。 3 主はヤコブに言われた。
「あなたは、あなたの故郷である先祖の土地に帰りなさい。 わたしはあなたと共にいる。」
4 ヤコブは人をやって、ラケルとレアを家畜の群れがいる野原に呼び寄せて、 5 言った。 「最近、気づいたのだが、あなたたちのお父さんは、わたしに対して以前とは態度が変わった。 しかし、私の父の神は、ずっとわたしと共にいてくださった。 6 あなたたちも知っているように、わたしは全力を尽くしてあなたたちのお父さんのもとで働いてきたのに、 7 わたしをだまして、わたしの報酬を十回も変えた。 しかし、神はわたしに害を加えることをお許しにならなかった。 8 お父さんが、『ぶちのものがお前の報酬だ』と言えば、群れはみなぶちのものを産むし、『縞のものがお前の報酬だ』と言えば、群れはみな縞のものを産んだ。
9 神はあなたたちのお父さんの家畜を取り上げて、わたしにお与えになったのだ。
10 群れの発情期のころのことだが、夢の中でわたしが目を上げて見ると、雄山羊は縞とぶちとまだらのものばかりだった。 11 そのとき、夢の中で神の御使いが、『ヤコブよ』と言われたので、『はい』と答えると、 12 こう言われた。 『目を上げて見なさい。 雌山羊の群れとつがっている雄山羊はみな、縞とぶちとまだらのものだけだ。 ラバンのあなたの対する仕打ちは、すべてわたしには分かっている。 13 わたしはベテルの神である。 かってあなたは、そこに記念碑を立てて油を注ぎ、わたしに誓願を立てたではないか。 さあ、今すぐこの土地を出て、あなたの故郷に帰りなさい。』
14 ラケルとレアはヤコブに答えた。 「父の家に、わたしたちへの嗣業の割り当て分がまだあるでしょうか。 15 わたしたちはもう、父にとって他人と同じではありませんか。 父はわたしたちを売って、しかもそのお金を使い果たしてしまったのです。 16 神様が父から取り上げられた財産は、確かに全部わたしたちと子供たちのものです。 ですから、どうか今すぐ、神様があなたに告げられたとおりになさってください。」
17 ヤコブは直ちに、子供たちと妻たちをらくだに乗せ、 18 パダン・アラムで得たすべての財産である家畜を駆り立てて、父イサクのいるカナン地方へ向かって出発した。 19 そのとき、ラバンは羊の毛を刈りに出かけていたので、ラケルは父の家の守り神の像を盗んだ。 20 ヤコブもアラム人ラバンを欺いて、自分が逃げ去ることを悟られないようにした。 21 ヤコブはこうして、すべての財産を持って逃げ出し、川を渡りギレアドの山地へ向かった。
ラバンの追跡
22 ヤコブが逃げたことがラバンに知れたのは、三日目であった。 23 ラバンは一族を率いて、七日の道のりを追いかけて行き、ギレアドの山地でヤコブに追いついたが、 24 その夜夢の中で神は、アラム人ラバンのもとに来て言われた。 「ヤコブを一切非難せぬよう、よく心に留めておきなさい。」 25 ラバンがヤコブに追いついたとき、ヤコブは山の上に天幕を張っていたので、ラバンも一族と共にギレアドの山に天幕を張った。 26 ラバンはヤコブに言った。 「一体何ということをしたのか。 わたしを欺き、しかも娘たちを戦争の捕虜のように駆り立てて行くとは。 27 なぜ、こっそり逃げ出したりして、わたしをだましたのか。 ひとこと言ってくれさえすれば、わたしは太鼓や竪琴で喜び歌って、送り出してやったものを。 28 孫や娘たちに別れの口づけもさせないとは愚かなことをしたものだ。 29 わたしはお前たちをひどい目に遭わせることもできるが、夕べ、お前たちの父の神が、『ヤコブを一切非難せぬよう、よく心に留めておきなさい』とわたしにお告げになった。 30 父の家が恋しくて去るのなら、去ってもよい。 しかし、なぜわたしの守り神を盗んだのか。」
31 ヤコブはラバンに答えた。 「わたしは、あなたが娘たちをわたしから奪い取るのではないかと思って恐れただけです。 32 もし、あなたの守り神がだれかのところで見つかれば、その者を生かしてはおきません。 我々一同の前で、わたしのところにあなたのものがあるかどうか調べて、取り戻してください。」 ヤコブは、ラケルがそれを盗んでいたことを知らなかったのである。 33 そこで、ラバンはヤコブの天幕に入り、更にレアの天幕や二人の召し使いの天幕にも入って捜してみたが、見つからなかった。 ラバンがレアの天幕を出てラケルの天幕に入ると、 34 ラケルは既に守り神の像を取って、らくだの鞍の下に入れ、その上に座っていたので、ラバンは天幕の中をくまなく調べたが見つけることはできなかった。 35ラケルは父に言った。 「お父さん、どうか悪く思わないでください。 わたしは今、月のものがあるので立てません。」 ラバンはなおも捜したが、守り神の像をみつけることはできなかった。 36 ヤコブは怒ってラバンを責め、言い返した。
「わたしに何の背反、何の罪あって、わたしの後を追って来られたのですか。 37 あなたはわたしの物を一つ残らず調べられましたが、あなたの家の物が一つでも見つかりましたか。 それをここに出して、わたしの一族とあなたの一族の前に置き、わたしたち二人の間を、皆に裁いてもらおうではありませんか。 38 この二十年間というもの、わたしはあなたのもとにいましたが、あなたの雌羊や雌山羊が子を産み損ねたことはありません。 わたしは、あなたの群れの雄羊を食べたこともありません。 39 野獣にかみ裂かれたものがあっても、あなたのところへ持って行かないで自分で償いました。 昼であろうと夜であろうと、盗まれたものはみな弁償するようにあなたは要求しました。 40 しかも、わたしはしばしば、昼は猛暑に夜は極寒に悩まされ、眠ることもできませんでした。 41 この二十年間というもの、わたしはあなたの家で過ごしましたが、そのうち十四年はあなたの二人の娘のため、六年はあなたの家畜の群れのために働きました。 しかも、あなたはわたしの報酬を十回も変えました。 42 もし、わたしの父の神、アブラハムの神、イサクの畏れ敬う方がわたしの味方でなかったなら、あなたはきっと何も持たせずにわたしを追い出したことでしょう。 神は、わたしの労苦と悩みを目に留められ、昨夜、あなたを諭されたのです。」
ヤコブとラバンの契約
43 ラバンは、ヤコブに答えた。 「この娘たちはわたしの娘だ。 この孫たちもわたしの孫だ。 この家畜の群れもわたしの群れ、いや、お前の目の前にあるものはみなわたしのものだ。 しかし、娘たちや娘たちが産んだ孫たちのために、もはや、手出しをしようとは思わない。 44 さあ、これから、お前とわたしは契約を結ぼうではないか。 そして、お前とわたしの間に何か証拠となるものを立てよう。」
45 ヤコブは一つの石を取り、それを記念碑として立て、 46 一族の者に、「石を集めてきてくれ」と言った。 彼らは石を取ってきて石塚を築き、その石塚の傍らで食事を共にした。 47 ラバンはそれをエガル・サハドタと呼び、ヤコブはガルエドと呼んだ。 48 ラバンはまた、「この石塚(ガル)は、今日からお前とわたしの間の証拠(エド)となる」とも言った。 そこで、その名はガルエドと呼ばれるようになった。 49 そこはまた、ミツパ(見張り所)とも呼ばれた。 「我々が互いに離れているときも、主がお前とわたしの間を見張ってくださるように。 50 もし、お前がわたしの娘たちを苦しめたり、わたしの娘たち以外にほかの女性をめとったりするなら、たとえ、ほかにだれもいなくても、神御自身がお前とわたしの証人であることを忘れるな」とラバンが言ったからである。
51 ラバンは更に、ヤコブに言った。
「ここに石塚がある。 またここに、わたしがお前との間に立てた記念碑がある。 52 この石塚は証拠であり、記念碑は証人だ。 敵意をもって、わたしがこの石塚を越えてお前の方に侵入したり、お前がこの石塚とこの記念碑を越えてわたしの方に侵入したりすることがないようにしよう。 53 どうか、アブラハムの神とナホルの神、彼らの先祖の神が我々の間を正しく裁いてくださいますように。」
ヤコブも、父イサクの畏れ敬う方にかけて誓った。
54 ヤコブは山の上でいけにえをささげ、一族を招いて食事を共にした。 食事の後、彼らは山で一夜を過ごした。
32
1 次の朝早く、ラバンは孫や娘たちに口づけして祝福を与え、そこを去って自分の家へ帰って行った。
エサウとの再会の準備
2 ヤコブが旅を続けていると、突然、神の御使いたちが現れた。 3 ヤコブは彼らを見たとき、「ここは神の陣営だ」と言い、その場所をマハナイム(二組の陣営)と名付けた。
4 ヤコブは、あらかじめ、セイル地方、すなわちエドムの野にいる兄エサウのもとに使いの者を遣わすことにし、 5 お前たちはわたしの主人エサウにこう言いなさいと命じた。 「あなたの僕ヤコブはこう申しております。 わたしはラバンのもとに滞在し今日に至りましたが、 6 牛、ろば、羊、男女の奴隷を所有するようになりました。 そこで、使いの者を御主人様のもとに送って御報告し、御機嫌をお伺いします。」
7 使いの者はヤコブのところに帰って来て、「兄上のエサウさまのところへ行って参りました。 兄上様の方でも、あなたを迎えるため、四百人のお供を連れてこちらへおいでになる途中でございます」と報告した。 8 ヤコブは非常に恐れ、思い悩んだ末、連れている人々を、羊、牛、らくだなどと共に二組に分けた。 9 エサウがやって来て、一方の組に攻撃を仕掛けても、残りの組は助かると思ったのである。 10 ヤコブは祈った。
「わたしの父アブラハムの神、わたしの父イサクの神、主よ、あなたはわたしにこう言われました。 『あなたは生まれ故郷に帰りなさい。 わたしはあなたに幸いを与える』と。 11 わたしは、あなたが僕に示してくださったすべての慈しみとまことを受けるに足りない者です。 かってわたしは、一本の杖を頼りにこのヨルダン川を渡りましたが、今は二組の陣営を持つまでになりました。 12 どうか、兄エサウの手から救ってください。 わたしは兄が恐ろしいのです。 兄は攻めて来て、わたしをはじめ母も子供も殺すかもしれません。 13 あなたは、かってこう言われました。 『わたしは必ずあなたに幸いを与え、あなたの子孫を海辺の砂のように数えきれないほど多くする』と。」
14 その夜、ヤコブはそこに野宿して、自分の持ち物の中から兄エサウへの贈り物を選んだ。 15 それは、雌山羊二百匹、雄山羊二十匹、雌羊二百匹、雄羊二十匹、 16 乳らくだ三十頭とその子供、雌牛四十頭、雄牛十頭、雌ろば二十頭、雄ろば十頭であった。 17 それを群れごとに分け、召し使いたちの手に渡して言った。 「群れと群れとの間に距離を置き、わたしの先に立って行きなさい。」 18 また、先頭を行く者には次のように命じた。 「兄のエサウがお前に出会って、『お前の主人は誰だ。 どこへ行くのか。 ここにいる家畜は誰のものだ』と尋ねたら、 19 こう言いなさい。 『これは、あなたさまの僕ヤコブのもので、御主人のエサウさまに差し上げる贈り物でございます。 ヤコブも後から参ります』と。」 20 ヤコブは、二番目の者にも、群れの後について行くすべての者に命じて言った。 「エサウに出会ったら、これと同じことを述べ、 21 『あなたさまの僕ヤコブも後から参ります』と言いなさい。」 ヤコブは、贈り物を先に行かせて兄をなだめ、その後で顔を合せれば、恐らく快く迎えてくれるだろうと思ったのである。 22 こうして、贈り物を先に行かせ、ヤコブ自身は、その夜、野営地にとどまった。
ペヌエルでの格闘
23 その夜、ヤコブは起きて、二人の妻と二人の側女、それに十一人の子供を連れてヤボクの渡しを渡った。
24 皆を導いて川を渡らせ、持ち物も渡してしまうと、 25 ヤコブは独り後に残った。 そのとき、何者かが夜明けまでヤコブと格闘した。 26 ところが、その人はヤコブに勝てないとみて、ヤコブの腿の関節を打ったので、格闘をしているうちに腿の関節がはずれた。 27 「もう去らせてくれ。 夜が明けてしまうから」とその人は言ったが、ヤコブは答えた。 「いいえ、祝福してくださるまでは離しません。」 28 「お前の名は何というのか」とその人が尋ね、「ヤコブです」と答えると、 29 その人は言った。 「お前の名はもうヤコブではなく、これからはイスラエルと呼ばれる。 お前は神と人と闘って勝ったからだ。」 30 「どうか、あなたのお名前を教えてください」とヤコブが尋ねると、「どうして、わたしの名を尋ねるのか」と言って、ヤコブをその場で祝福した。 31 ヤコブは、「わたしは顔と顔とを合せて神を見たのに、なお生きている」と言って、その場所をベヌエル(神の顔)と名付けた。 32 ヤコブがベヌエルを過ぎたとき、太陽は彼の上に昇った。 ヤコブは腿を痛めて足を引きずっていた。 33 こういうわけで、イスラエルの人々は今でも腿の関節の上にある腰の筋を食べない。 かの人がヤコブの腿の関節、つまり腰の筋のところを打ったからである。
エサウとの再会 33
1 ヤコブが目を上げると、エサウが四百人の者を引き連れて来るのが見えた。 ヤコブは子供たちをそれぞれ、レアとラケルと二人の側女とに分け、 2 側女とその子供たちを前に、レアとその子供たちをその後ろに、ラケルとヨセフを最後に置いた。 3 ヤコブはそれから、先頭に進み出て、兄のもとに着くまでに七度地にひれ伏した。 4 エサウは走って来てヤコブを迎え、抱き締め、首を抱えて口づけし、共に泣いた。 5 やがて、エサウは顔を上げ、女たちや子供たちを見回して尋ねた。
「一緒にいるこの人々は誰なのか。」
「あなたの僕であるわたしに、神が恵んでくださった子供たちです。」
ヤコブが答えると、 6 側女たちが子供たちと共に進み出てひれ伏し、 7 次に、レアが子供たちと共に進み出てひれ伏し、最後にヨセフとラケルが進み出てひれ伏した。
8 エサウは尋ねた。
「今、わたしが出会ったあの多くの家畜は何のつもりか。」
ヤコブが、「ご主人様の好意を得るためです」と答えると、 9 エサウは言った。
「弟よ、わたしのところには何でも十分ある。 お前のものはお前が持っていなさい。」
10 ヤコブは言った。
「いいえ、もし御好意をいただけるのであれば、どうぞ贈り物をお受け取りください。 兄上のお顔は、わたしには神の御顔のように見えます。 このわたしを温かく迎えてくださったのですから。 11 どうか、持参しました贈り物をお納めください。 神がわたしに恵みをお与えになったので、わたしは何でも持っていますから。」
ヤコブがしきりに勧めたので、エサウは受け取った。
12 それからエサウは言った。
「さあ、一緒に出かけよう。 わたしが先導するから。」
13 「御主人様。 ご存じのように、子供たちはか弱く、わたしも羊や牛の子に乳を飲ませる世話をしなければなりません。 群れは、一日でも無理に追い立てるとみな死んでしまいます。 14 どうか御主人様、僕におかまいなく先にお進みください。 わたしは、ここにいる家畜や子供たちの歩みに合わせてゆっくり進み、セイルの御主人様のもとへ参りましょう。」
ヤコブがこう答えたので、 15 エサウは言った。
「では、わたしが連れている者を何人か、お前のところに残しておくことにしよう。」
「いいえ。 それには及びません。 御好意だけで十分です」と答えたので、 16 エサウは、その日セイルへの道を帰って行った。
17 ヤコブはストコへ行き、自分の家を建て、家畜の小屋を作った。 そこで、その場所の名はストコ(小屋)と呼ばれている。
18 ヤコブはこうして、パダン・アラムから無事にカナン地方にあるシケムの町に着き、町のそばに宿営した。 19 ヤコブは、天幕を張った土地の一部を、シケムの父ハモルの息子たちから百ケシタで買い取り、 20 そこに祭壇を建てて、それをエル・エロヘ・イスラエルと呼んだ。
シケムでの出来事 34
1 あるとき、レアとヤコブの間に生まれた娘のディナが土地の娘たちに会いに出かけたが、 2 その土地の首長であるヒビ人ハモルの息子シケムが彼女を見かけて捕らえ、共に寝て辱めた。 3 シケムはヤコブの娘ディナに心を奪われ、この若い娘を愛し、言い寄った。 4 更にシケムは、父ハモルに言った。
「どうか、この娘と結婚させてください。」
5 ヤコブは、娘のディナが汚されたことを聞いたが、息子たちは家畜を連れて野に出ていたので、彼らが帰るまで黙っていた。 6 シケムの父ハモルがヤコブと話し合うためにやって来たとき、 7 ヤコブの息子たちが野から帰って来てこの事を聞き、皆、互に嘆き、また激しく憤った。 シケムがヤコブの娘と寝て、イスラエルに対して恥ずべきことを行ったからである。 それはしてはならないことであった。 8 ハモルは彼らと話した。
「息子のシケムは、あなたがたの娘さんを恋い慕っています。 どうか、娘さんを息子の嫁にしてください。 9 お互いに姻戚関係を結び、あなたがたの娘さんたちをわたしどもにくださり、わたしどもの娘を嫁にしてくださいませんか。 10 そして、わたしどもと一緒に住んでください。 あなたがたのための土地も十分あります。 どうか、ここに移り住んで、自由に使ってください。」
11 シケムも、ディナの父や兄弟たちに言った。
「ぜひとも、よろしくお願いします。 お申し出があれば何でも差し上げます。 12 どんなに高い結納金でも贈り物でも、お望みどおり差し上げます。 ですから、ぜひあの方をわたしの妻にください。」
13 しかし、シケムが妹のディナを汚したので、ヤコブの息子たちは、シケムとその父ハモルをだましてこう答えた。
14 「割礼を受けていない男に、妹を妻として与えることはできません。 そのようなことは我々の恥とするところです。 15 ただ、次の条件がかなえられれば、あなたたちに同意しましょう。 それは、あなたたちの男性が皆、割礼を受けて我々と同じようになることです。 16 そうすれば、我々の娘たちをあなたたちに与え、あなたたちの娘を我々がめとります。 そして我々は、あなたたちと一緒に住んで一つの民となります。 17 しかし、もし割礼を受けることに同意しないなら、我々は娘を連れてここを立ち去ることにします。
18 ハモルとその息子シケルは、この条件なら受け入れてもよいと思った。 19 とくにシケムは、ヤコブの娘を愛していたので、ためらわず実行することにした。 彼は、ハモル家の中では最も尊敬されていた。 20 ハモルと息子シケムは、町の門のところへ行き町の人々に提案した。
21 「あの人たちは、我々と仲良くやっていける人たちだ。 彼らをここに住まわせ、この土地を自由に使ってもらうことにしようではないか。 土地は御覧のとおり十分広いから、彼らが来ても大丈夫だ。 そして、彼らの娘たちを我々の嫁として迎え、我々の娘たちを彼らの与えようではないか。 22 ただ、次の条件がかなえられれば、あの人たちは我々と一緒に住み、一つの民となることに同意するというのだ。 それは、彼らが割礼を受けているように、我々も男性は皆、割礼を受けることだ。 23 そうすれば、彼らの家畜の群れも財産も動物もみな、我々のものになるではないか。 それには、ただ彼らの条件に同意さえすれば、彼らは我々と一緒に住むことができるのだ。」
24 町の門のところに集まっていた人々は皆、ハモルと息子シケムの提案を受け入れた。 町の門のところに集まっていた男性はこうして、すべて割礼を受けた。
25 三日目になって、男たちがまだ傷の痛みに苦しんでいたとき、ヤコブの二人の息子、つまりディナの兄のシメオンとレビは、めいめい剣を取って難なく町に入り、男たちをことごとく殺した。 26 ハモルと息子シケムも剣にかけて殺し、シケムの家からディナを連れ出した。 27 ヤコブの息子たちは、倒れている者たちに襲いかかり、更に町中を略奪した。 自分たちの妹を汚したからである。 28 そして、羊や牛やろばなど、町の中のものも野にあるものも奪い取り、 29 家の中にあるものもみな奪い、女も子供もすべて捕虜にした。
30 「困ったことをしてくれたものだ。 わたしはこの土地に住むカナン人やペリジ人の憎まれ者になり、のけ者になってしまった。 こちらは少人数なのだから、彼らが集まって攻撃してきたら、わたしも家族も滅ぼされてしまうではないか」とヤコブがシメオンとレビに言うと、 31 二人はこう言い返した。
「わたしたちの妹が娼婦のように扱われてもかまわないのですか。」
再びベテルへ 35
1 神はヤコブに言われた。 「さあ、ベテルに上り、そこに住みなさい。 そしてその地に、あなたが兄エサウを避けて逃げて行ったとき、あなたに現れた神のための祭壇を造りなさい。」
2 ヤコブは、家族の者や一緒にいるすべての人々に言った。 「お前たちが身に着けている外国の神々を取り去り、身を清めて衣服を着替えなさい。 3 さあ、これからベテルに上ろう。 わたしはその地に、苦難の時わたしに答え、旅の間わたしと共にいてくださった神のために祭壇を造る。」 4 人々は、持っていた外国のすべての神々と、着けていた耳飾りをヤコブに渡したので、ヤコブはそれらをシケムの近くにある樫の木の下に埋めた。 5 こうして一同は出発したが、神が周囲の町々を恐れさせたので、ヤコブの息子たちを追跡する者はなかった。 6 ヤコブはやがて、一族の者すべてと共に、カナン地方のルズ、すなわちベテルに着き、 7 そこに祭壇を築いて、その場所をエル・ベテルと名付けた。 兄を避けて逃げて行ったとき、神がそこでヤコブに現れたからである。
8 リベカの乳母デボラが死に、ベテルの下手にある樫の木の下に葬られた。 そこで、その名はアロン・バクト(嘆きの樫の木)と呼ばれるようになった。
9 ヤコブがパダン・アラムから帰って来たとき、神は再びヤコブに現れて彼を祝福された。 10 神は彼に言われた。
「あなたの名はヤコブである。 しかし、あなたの名はもはやヤコブと呼ばれない。 イスラエルがあなたの名となる。」
神はこうして、彼をイスラエルと名付けられた。
11 神は、また彼に言われた。
「わたしは全能の神である。
産めよ、増えよ。
あなたから
一つの国民、いや多くの国民の群れが起こり
あなたの腰から王たちが出る。
12 わたしは、アウラハムとイサクに与えた土地を
あなたに与える。
また、あなたに続く子孫にこの土地を与える。
13 神はヤコブと語られた場所を離れて昇って行かれた。 14 ヤコブは、神が自分と語られて場所に記念碑立てた。 それは石の柱で、彼はその上にぶどう酒を注ぎかけ、また油を注いだ。 15 そしてヤコブは、神が自分と語られた場所をベテルと名付けた。
ラケルの死
16 一同がベテルを出発し、エフラタまで行くにはまだかなりの道のりがあるときに、ラケルが産気づいたが、難産であった。 17 ラケルが産みの苦しみをしているとき、助産婦は彼女に、「心配ありません。 今度も男の子ですよ」と言った。 18 ラケルが最後の息を引き取ろうとするとき、その子をベン・オニ(わたしの苦しみの子)と名付けたが、父はこれをベニヤミン(幸いの子)と呼んだ。
19 ラケルは死んで、エフラタ、すなわち今日のベツレヘムへ向かう道の傍らに葬られた。 20 ヤコブは、彼女の葬られた所に記念碑を立てた。 それは、ラケルの葬りの碑として今でも残っている。 21 イスラエルは更に旅を続け、ミグダル・エデルを過ぎた所に天幕を張った。 22 イスラエルがそこに滞在していたとき、ルベンは父の側女ビルハのところへ入って寝た。 このことはイスラエルの耳にも入った。
ヤコブの息子たち
ヤコブの息子は十二人であった。 23 レアの息子がヤコブの長男ルベン、それからシメオン、レビ、ユダ、イサカル、ゼブルン、 24 ラケルの息子がヨセフとベニヤミン、 25 ラケルの召し使いビハルの息子がダンとナフタリ、 26 レアの召し使いジルパの息子がガドとアシェルである。 これらは、パダン・アラムの生まれたヤコブの息子たちである。
イサクの死
27 ヤコブは、キルヤト・アルバ、すなわちヘブロンのマレムにいる父のイサクのところへ行った。 そこは、イサクだけでなく、アブラハムも滞在した所である。 28 イサクの生涯は百八十年であった。 29 イサクは息を引き取り、高齢のうちに満ち足りて死に、先祖の列に加えられた。 息子のエサウとヤコブが彼を葬った。
エサウの子孫 36
1 エサウ、すなわちエドムの系図は次のとおりである。 2 エサウは、カナンの娘たちの中から妻を迎えた。 ヘト人エロンの娘アダ、ヒビ人ツィブオンの孫娘でアナの娘オホリバマ、 3 それに、ネバヨトの姉妹でイシュマエルの娘バセマトである。 4 アダは、エサウとの間にエリファズを産み、バセマトはレウエルを産んだ。 5 オホリバマは、エウシュ、ヤラム、コラを産んだ。 これらは、カナン地方で生まれたエサウの息子たちである。
6 エサウは、妻、息子、娘、家で働くすべての人々、家畜の群れ、すべての動物を連れ、カナンの土地で手に入れた全財産を携え、弟ヤコブのところから離れたほかの土地へ出て行った。 7 彼らの所有物は一緒に住むにはあまりに多く、滞在していた土地は彼らの家畜を養うには狭すぎたからである。 8 エサウはこうして、セイルの山地に住むようになった。 エサウとはエドムのことである。
9 セイルの山地に住む、エドム人の先祖エサウの系図は次のとおりである。 10 まず、エサウの息子たちの名前を挙げると、エリファズはエサウの妻アダの子で、レウエルはエサウの妻バセマトの子である。 11 エリファズの息子たちは、テマン、オマル、ツエフォ、ガタム、ケナズである。 12 エサウの息子エリファズの側女ティムナは、エリファズのとの間にアマレクを産んだ。 以上が、エサウの妻アダの子孫である。 13 レウエルの息子たちは、ナハト、ゼラ、シャンマ、ミザである。 以上が、エサウの妻バセマトの子孫である。 14 ツィブオンの孫娘で、アナの娘であるエサウの妻オホリバマの息子たちは、次のとおりである。 彼女は、エサウとの間にエウシュ、ヤラム、コラを産んだ。
15 エサウの子孫である首長は次のとおりである。 まず、エサウの長男エリファズの息子たちについていえば、首長テマン、首長オマル、首長ツェホ、首長ケナズ、 16 首長コラ、首長ガタム、首長アマレクである。 これらは、エドム地方に住むエリファズ系の首長で、アダの子孫である。 17 次に、エサウの子レウエルの息子たちについていえば、首長ナハト、首長ゼラ、首長シャンマ、首長ミザ、である。 これらは、エドム地方に住むレウエル系の首長で、エサウの妻バセマトの子孫である。 18 エサウの妻ホオリバマの息子たちについていえば、首長エウシュ、首長ヤラム、首長コラである。 これらは、アナの娘であるエサウの妻オホリバマから生まれた首長である。 19 以上が、エサウ、すなわちエドムの子孫である首長たちである。
セイルの子孫
20 この土地に住むフリ人セイルの息子たちは、ロタン、ショバル、ツィブオン、アナ、 21 ディション、エツェル、ディシャンである。 これらは、エドム地方に住むセイルの息子で、フリ人の首長たちである。 22 ロタンの息子たちは、ホリとヘマムであり、ロタンの妹がティムナである。 23 ショバルの息子たちは、アルワン、マナハト、エバル、シェフォ、オナムである。 24 ツィブオンの息子たちは、アヤとアナである。 アナは父ツィブオンのろばを飼っていたとき、荒れ野で泉を発見した人である。 25 アナの子供たちは、ディションとアナの娘オホリバマである。 26 ディションの息子たちは、ヘムダン、エシュバン、イトラン、ケランである。 27 エツェルの息子たちは、ビルハン、ザアワン、アカンである。 28 ディションの息子たちは、ウツとアランである。
29 フリ人の首長は次の通りである。 首長ロタン、首長ショバル、首長ツィブオン、首長アナ、 30 首長ディション、首長エツェル、首長ディシャン。 以上がフリ人の首長であり、セイル地方に住むそれぞれの首長であった。
エドムの王国
31 イスラエルの人々を治める王がまだいなかった時代に、エドム地方を治めていた王たちは次のとおりである。 32 エドムで治めていたのは、ベオルの息子ベラであり、その町の名はディンハバといった・ 33 ベラが死んで、代りに王となったのは、ボツラ出身でゼラの息子ヨバブである。 34 ヨバブが死んで、代りに王となったのは、テマン人の土地から出たフシャムである。 35 フシャムが死んで代わりに王になったのは、ベダドの息子ハダドであり、モアブの野でミディアン人を撃退した人である。 その町の名はアビトといった。 36 ハダドが死んで代わりに王となったのは、マスレカ出身のサムラである。 37 サムラが死んで代わりに王となったのは、ユーフラテス川のレホボト出身のシャウルである。 38 シャウルが死んで、代りに王となったのは、アクボルの息子バアル・ハナンである。 39 アクボルの息子バアル・ハナンが死んで代わりに王となったのは、ハダドである。 その町の名はバウといい、その妻の名はメヘタブエルといった。 彼女はマトレドの娘で、メ・ザハブの孫娘である。
40 エサウ系の首長たちの名前を氏族と場所の名に従って挙げれば、首長ティムナ、首長アルワ、首長エテト、 41 首長オホリバマ、首長エラ、首長ピノン、 42 首長ケナズ、首長テマン、首長ミブツァル、 43 首長マグディエル、首長イラムである。 以上がエドムの首長であって、彼らが所有した領地に従って挙げたものである。 エサウは、エドム人の先祖である。
ヨセフの夢 37
1 ヤコブは、父がかって滞在していたカナン地方に住んでいた。
2 ヤコブの家族の由来は次にとおりである。 ヨセフは十七歳のとき、兄たちと羊
の群れを飼っていた。 まだ若く、父の側女ビルハやジツパの子供たちと一緒にいた。 ヨセフは兄たちのことを父に告げ口した。
3 イスラエルは、ヨセフが年寄り子であったので、どの息子よりもかわいがり、彼には裾の長い晴れ着を作ってやった。 4 兄たちは、父がどの兄弟よりもヨセフをかわいがるのを見て、ヨセフを憎み、穏やかに話すこともできなかった。
5 ヨセフは夢を見て、それを兄たちに語ったので、彼らはますます憎むようになった。 6 ヨセフは言った。
「聞いてください。 わたしはこんな夢を見ました。 7 畑でわたしたちが束を結わえていると、いきなりわたしの束が起き上がり、まっすぐに立ったのです。 すると、兄さんたちの束が周りに集まって来て、わたしの束にひれ伏しました。」
8 兄たちはヨセフに言った。
「なに、お前が我々の王になるというのか。 お前が我々を支配するというのか。」
9 ヨセフはまた別の夢を見て、それを兄たちに話した。
「わたしはまた夢を見ました。 太陽と月と十一の星がわたしにひれ伏しているのです。」
10 今度は兄たちだけでなく、父にも話した。 父はヨセフを叱って言った。
「一体どういうことだ、お前が見たその夢は。 わたしもお母さんも兄さんたちも、お前の前に行って、地面にひれ伏すというのか。」
11 兄たちはヨセフをねたんだが、父はこのことを心に留めた。
ヨセフ、エジプトに売られる
12 兄たちが出かけて行き、シケムで父の羊の群れを飼っていたとき、 13 イスラエルはヨセフに言った。 「兄さんたちはシケムで羊を飼っているはずだ。 お前を彼らのところはやりたいのだが。」
「はい、分かりました」とヨセフが答えると、 14 更にこう言った。
「では、早速出かけて、兄さんたちが元気にやっているか、羊の群れも無事か見届けて、様子を知らせてくれないか。」
父はヨセフをヘブロンの谷から送り出した。 ヨセフがシケムに着き、 15 野原をさまよっていると、一人の人に出会った。 その人はヨセフに尋ねた。
「何を探しているのかね。」
16 「兄たちを探しているのです。 どこで羊の群れを飼っているか教えてください。」
ヨセフがこう言うと、 17 その人は答えた。
「もうここをたってしまった。 ドタンへ行こう、 と言っていたのを聞いたが。」
ヨセフは兄たちの後を追って行き、ドタンで一行を見つけた。
18 兄たちは、はるか遠くの方にヨセフの姿を認めると、まだ近づいて来ないうちに、ヨセフを殺してしまおうとたくらみ、 19 相談した。
「おい、向こうから例の夢見るお方がやって来る。 20 さあ、今だ。 あれを殺して、穴の一つに投げ込もう。 後は野獣に食われたと言えばよい。 あれの夢がどうなるか、見てやろう。」
21 ルベンはこれを聞いて、ヨセフを彼らの手から助け出そうとして、言った。
「命まで取るのはよそう。」
22 ルペンは続けて言った。
「血を流してはならない。 荒れ野のこの穴に投げ入れよう。 手を下してはならない。」
ルベンはヨセフを彼らの手から助け出して、父のもとへ帰したかったのである。
23 ヨセフがやって来ると、兄たちはヨセフが着ていた着物、裾の長い晴れ着をはぎ取り、 24 彼を捕らえて、穴に投げ込んだ。 その穴は空で水はなかった。
25 彼らはそれから、腰を下ろして食事を始めたが、ふと目を上げると、イシュマエル人の隊商がギレアドの方からやって来るのが見えた。 らくだに樹脂、乳香、没薬を積んで、エジプトに下って行こうとしているところであった。 26 ユダは兄弟たちに言った。
「弟を殺して、その血を覆っても何の得にもならない。 27 それより、あのイシュマエル人に売ろうではないか。 弟に手をかけるのはよそう。 あれだって、肉親の弟だから。」
兄弟たちは、これを聞き入れた。
28 ところが、その間にミディアン人の商人たちが通りかかって、ヨセフを穴から引き上げ、銀二十枚でイシュマエル人に売ったので、彼らはヨセフをエジプトに連れて行ってしまった。 29 ルベンが穴のところに戻ってみると、意外にも穴の中にヨセフはいなかった。 ルベンは自分の衣を引き裂き、 30 兄弟たちのところへ帰り、「あの子がいない。 わたしは、このわたしは、どうしたらいいのか」と言った。 31 兄弟たちはヨセフの着物を拾い上げ、雄山羊を殺してその血に着物を浸した。 32 彼らはそれから、裾の長い晴れ着を父のもとへ送り届け、「これを見つけましたが、あなたの息子の着物かどうか、お調べになってください」と言わせた。 33 父は、それを調べて言った。
「あの子の着物だ。 野獣に食われたのだ。 ああ、ヨセフはかみ裂かれてしまったのだ。」
34 ヤコブは自分の衣を引き裂き、粗布を腰にまとい、幾日もその子のために嘆き悲しんだ。 35 息子や娘たちが皆やって来て、慰めようとしたが、ヤコブは慰められることを拒んだ。
「ああ、わたしもあの子のところへ、嘆きながら陰府(よみ)へ下って行こう。」
父はこう言って、ヨセフのために泣いた。
36 一方、メダンの人たちがエジプトへ売ったヨセフは、ファラオの宮廷の役人で、侍従長であったポティファルのものとなった。
ユダとタマル 38
1 そのころ、ユダは兄弟たちと別れて、アドラム人のヒラという人の近くに天幕を張った。 2 ユダはそこで、カナン人のシュアという人の娘を見初めて結婚し、彼女のところへ入った。 3 彼女は身ごもり男の子を産んだ。 ユダはその子をエルと名付けた。 4 彼女はまた身ごもり男の子を産み、その子をオナンと名付けた。 5 彼女は更にまた男の子を産み、その子をシェラと名付けた。 彼女がシェラを産んだ時、ユダはケジブにいた。
6 ユダは長男のエルに、タマルという嫁を迎えたが、 7 ユダの長男エルは主の意に反したので、主は彼を殺された。 8 ユダはオナンに言った。
「兄嫁のところへ入り、兄弟の義務を果たし、兄のために子孫をのこしなさい。」
9 オナンはその子孫が自分のものとならないのを知っていたので、兄に子孫を与えないように、兄嫁のところに入る度に子種を地面に流した。 10 彼のしたことは主の意に反することであったので、彼もまた殺された。
11 ユダは嫁のタマルに言った。
「わたしの息子のシェラが成人するまで、あなたは父上の家で、やもめのまま暮らしなさい。」
それは、シェラもまた兄たちのように死んではいけないと思ったからであった。 タマルは自分の父の家に帰って暮らした。
12 かなりの年月がたって、シュアの娘であったユダの妻が死んだ。 ユダは喪に服した後、友人のアドラム人ヒラと一緒に、ティムナの羊の毛を刈る者のところへ上って行った。 13 ある人がタマルに、「あなたのしゅうとが、羊の毛を刈るために、ティムナへやって来ます」と知らせたので、 14 タマルはやもめの着物を脱ぎ、ベールをかぶって身なりを変え、ティムナへ行く途中のエナイムの入り口に座った。 シェラが成人したのに、自分がその妻にしてもらえない、と分かったからである。 15 ユダは彼女を見て、顔を隠しているので娼婦だと思った。 16 ユダは、路傍にいる彼女に近寄って、「さあ、あなたの所に入らせてくれ」と言った。 彼女が自分の嫁だとは気づかなかったからである。
「わたしの所にお入りになるのなら、何をくださいますか」と彼女が言うと、 17 ユダは、「群れの中から子山羊を一匹、送り届けよう」と答えた。 しかし彼女は言った。
「でも、それを送り届けてくださるまで、保証の品をください。」
18 「どんな保証がいいのか」と言うと、彼女は答えた。
「あなたのひもの付いた印章と、持っていらっしゃるその杖です。」
ユダはそれを渡し、彼女の所に入った。 彼女はこうして、ユダによって身ごもった。 19 彼女はそこを立ち去り、ベールを脱いで、再びやもめの着物を着た。
20 ユダは子山羊を友人のアドラム人の手に託して送り届け、女から保証の品を取り戻そうとしたが、その女は見つからなかった。 21 友人が土地の人々に、「エナイムの路傍にいた神殿娼婦は、どこにいるのでしょうか」と尋ねると、人々は、「ここには、神殿娼婦などいたことはありません」と答えた。 22 友人はユダのところに戻って来て言った。 「女は見つかりませんでした。 それに土地の人々も、『ここには、神殿娼婦などいたことはありません』と言うのです。」 23 ユダは言った。
「では、あの品はあの女にそのままやっておこう。 さもないと、我々が物笑いの種になるから。 とにかく、わたしは子山羊を届けたのだが、女が見つからなかったのだから。」
24 三か月ほどたって、「あなたの嫁タルマは姦淫をし、しかも、姦淫によって身ごもりました」とユダに告げる者があったので、ユダは言った。
「あの女を引きずり出して、焼き殺してしまえ。」
25 ところが、引きずり出されようとしたとき、タマルはしゅうとに使いをやって言った。
「わたしは、この品々の持ち主によって身ごもったのです。」
彼女は続けて言った。
「どうか、このひもの付いた印章とこの杖とが、どなたのものか、お調べください。」
26 ユダは調べて言った。
「わたしより彼女の方が正しい。 わたしが彼女を息子のシェラに与えなかったからだ。」
ユダは、再びタマルを知ることはなかった。
27 タマルの出産の時が来たが、胎内には双子がいた。 28 出産の時、一人の子が手を出したので、助産婦は、「これが先に出た」と言い、真赤な糸を取ってその手に結んだ。 29 ところがその子は手を引っ込めてしまい、もう一人の方が出てきたので、助産婦は言った。 「なんとまあ、この子は人を出し抜いたりして。」
そこで、この子はペレツ(出し抜き)と名付けられた。 30 その後から、手に真赤な糸を結んだ方の子が出てきたので、この子はゼラ(真赤)と名付けられた。
ヨセフとポティファルの妻 39
1 ヨセフはエジプトに連れて来られた。 ヨセフをエジプトへ連れて来たイシュマエル人の手から彼を買い取ったのは、ファラオの宮廷の役人で、侍従長のエジプト人ポティファルであった。
2 主がヨセフと共におられたので、彼はうまく事を運んだ。 彼はエジプト人の主人の家にいた。 3 主が共におられ、主が彼のすることをすべてうまく計らわれるのを見た主人は、 4 ヨセフに目をかけて身近に仕えさせ、家の管理をゆだね、財産をすべて彼の手に任せた。 5 主人が家の管理やすべての財産をヨセフに任せてから、主はヨセフゆえにそのエジプト人の家を祝福された。 主の祝福は、家の中にも農地にも、すべての財産に及んだ。 6 主人は全財産をヨセフの手にゆだねてしまい、自分が食べるもの以外は全く気を遣わなかった。 ヨセフは顔も美しく、体つきも優れていた。
7 これらのことの後で、主人の妻はヨセフに目を注ぎながら言った。
「わたしの床に入りなさい。」
8 しかし、ヨセフは拒んで、主人の妻に言った。
「御存じのように、御主人はわたしを側に置き、家の中のことには一切気をお遣いになりません。 財産もすべてわたしの手にゆだねてくださいました。 9 この家では、わたしの上に立つ者はいませんから、わたしの意のままにならないものもありません。 ただ、あなたは別です。 あなたは御主人の妻ですから。 わたしは、どうしてそのように大きな悪を働いて、神に罪を犯すことができましょう。」
10 彼女は毎日ヨセフに言い寄ったが、ヨセフは耳を貸さず、彼女の傍らに寝ることも、共にいることもしなかった。
11 こうして、ある日、ヨセフが仕事をしようと家に入ると、家の者が一人も家の中にいなかったので、 12 彼女はヨセフの着物をつかんで言った。
「わたしの床に入りなさい。」
ヨセフは着物を彼女の手に残し、逃げて外へ出た。 13 着物を彼女の手に残したまま、ヨセフが外へ逃げたのを見ると、 14 彼女は家の者たちを呼び寄せて言った。
「見てごらん、ヘブライ人などをわたしたちの所に連れて来たから、わたしたちはいたずらをされる。 彼がわたしの所へ来て、わたしと寝ようとしたから、大声で叫びました。 15 わたしが大声をあげて叫んだのを聞いて、わたしの傍らに着物を残したまま外へ逃げて行きました。 16 彼女は、主人が家に帰って来るまで、その着物を傍らに置いていた。 17 そして、主人に同じことを語った。
「あなたがわたしたちの所に連れて来た、あのヘブライ人の奴隷はわたしの所に来て、いたずらをしようとしたのです。 18 わたしが大声をあげて叫んだものですから、着物をわたしの傍らに残したまま、外へ逃げて行きました。」
19 「あなたの奴隷がわたしにこんなことをしたのです」と訴える妻の言葉を聞いて、主人は怒り、 20 ヨセフを捕らえて、王の囚人をつなぐ監獄に入れた。 ヨセフはこうして、監獄にいた。
21 しかし、主がヨセフと共におられ、恵みを施し、看守長の目にかなうように導かれたので、 22 看守長は監獄にいる囚人を皆、ヨセフの手にゆだね、獄中の人のすることはヨセフが取りしきるようになった。 23 看守長は、ヨセフの手にゆだねたことには、一切目を配らなくてもよかった。 主がヨセフと共におられ、ヨセフがすることを主がうまく計られたからである。
夢を解くヨセフ 40
1 これらのことの後で、エジプト王の給仕役と料理役が主君であるエジプト王に過ちを犯した。 2 ファラオは怒って、この二人の宮廷の役人、給仕役の長と料理役の長を、 3 侍従長の家にある牢獄、つまりヨセフがつながれている監獄に引き渡した。 4 侍従長は彼らをヨセフに預け、身辺の世話をさせた。 牢獄の中で幾日かが過ぎたが、 5 監獄につながれていたエジプト王の給仕役料理役は、二人とも同じ夜にそれぞれ夢を見た。 その夢には、それぞれ意味が隠されていた。 6 朝になって、ヨセフが二人のところへ行ってみると、二人ともふさぎ込んでいた。 7 ヨセフは主人の家の牢獄に自分一緒に入れられているファラオの宮廷の役人に尋ねた。
「今日は、どうしてそんなに憂うつな顔をしているのですか。」
8 「我々は夢を見たのだが、それを解き明かしてくれる人がいない」と二人は答えた。 ヨセフは、「解き明かしは神がなさることではありませんか。 どうかわたしに話してみてください」と言った。 9 給仕役の長はヨセフに自分の見た夢を話した。
「わたしが夢を見ていると、一本のぶどうの木が目の前に現れたのです。 10 そのぶどうの木には三本のつるがありました。 それがみるみるうちに芽を出したかと思うと、すぐに花が咲き、ふさふさとしたぶどうが熟しました。 11 ファラオの杯を手にしていたわたしは、そのぶどうを取って、ファラオの杯に搾り、その杯をファラオにささげました。
12 ヨセフは言った。
「その解き明かしはこうです。 三本のつるは三日です。 13 三日たてば、ファラオがあなたの頭を上げて、元の職務に復帰させてくださいます。 あなたは以前、給仕役であったときのように、ファラオに杯をささげる役目をするようになります
14 ついては、あなたがそのように幸せになられたときには、どうかわたしのことを思い出してください。 わたしのためにファラオにわたしの身の上を話し、この家から出られるように取り計らってください。 15 わたしはヘブライ人の国から無理やり連れて来られたのです。 また、ここでも、牢屋に入れられるようなことは何もしていないのです。
16 料理役の長は、ヨセフが巧みに解き明かすのを見て言った。
「わたしも夢を見ていると、編んだ籠が三個わたしの頭の上にありました。 17 いちばん上の籠には、料理役がファラオのために調えたいろいろな料理が入っていましたが、鳥がわたしの頭の上の籠からそれを食べているのです。」
18 ヨセフは答えた。
「その解き明かしはこうです。 三個の籠は三日です。 19 三日たてば、ファラオがあなたの頭を上げて切り離し、あなたを木にかけます。 そして、鳥があなたの肉をついばみます。
20 三日目はファラオの誕生日であったので、ファラオは家来たちを皆、招いて、祝宴を催した。 そして、家来たちの居並ぶところで例の給仕役の長の頭と料理役の長の頭を上げて調べた。 21 ファラオは給仕役の長を給仕の職に復帰させさせたので、彼はファラオに杯をささげる役目をするようになったが、 22 料理役の長は、ヨセフが解き明かしたとおり木にかけられた。 23 ところが、給仕役の長はヨセフのことを思い出さず、忘れてしまった。
ファラオの夢を解く 41
1 二年の後、ファラオは夢を見た。 ナイル川のほとりに立っていると、 2 突然、つややかな、よく肥えた七頭の雌牛が川から上がって来て、葦辺で草を食べ始めた。 3 すると、その後から、今度は醜い、やせ細った七頭の雌牛が川から上がって来て、岸辺にいる雌牛のそばに立った。 4 そして、醜い、やせ細った雌牛が雌牛が、つややかな、よく肥えた七頭の雌牛を食い尽くした。 ファラオは、そこで目が覚めた。
5 ファラオがまた眠ると、再び夢を見た。 今度は、太って、よく実った七つの穂が、一本の茎から出てきた。 6 すると、その後から、実が入っていない、東風で干からびた七つの穂が生えてきて、 7 実の入っていない穂が、太って、実の入った七つの穂をのみ込んでしまった。 ファラオは、そこで目が覚めた。 それは夢であった。 8 朝になって、ファラオはひどく心が騒ぎ、エジプト中の魔術師と賢者をすべて呼び集めさせ、自分の見た夢を彼らに話した。 しかし、ファラオに解き明かすことができる者はいなかった。
9 そのとき、例の給仕役の長がファラオに申し出た。
「わたしは、今日になって自分の過ちを思い出しました。 10 かってファラオが僕どもについて憤られて、侍従長の家にある牢獄にわたしと料理役の長を入れられたとき、 11 同じ夜に、わたしたちはそれぞれ夢を見たのですが、そのどちらにも意味が隠されていました。 12 そこには、侍従長に仕えていたヘブライ人の若者がおりまして、彼に話をしたところ、わたしたちの夢を解き明かし、それぞれ、その夢に応じて解き明かしたのです。 13 そしてまさしく、解き明かしたとおりになって、わたしは元の職務に復帰することを許され、彼は木にかけられました。
14 そこで、ファラオはヨセフを呼びにやった。 ヨセフは直ちに牢屋から連れ出され、散髪をし着物を着替えてから、ファラオの前に出た。 15 ファラオはヨセフに言った。
「わたしは夢を見たのだが、それを解き明かす者がいない。 聞くところによれば、お前は夢の話を聞いて、解き明かすことができるそうだが。」
16 ヨセフはファラオに答えた。
「わたしではありません。 神がファラオの幸いについて告げられるのです。」
17 ファラオはヨセフに話した。
「夢の中で、わたしがナイル川の岸に立っていると、 18 突然、よく肥えて、つややかな七頭の雌牛が川から上がって来て、葦辺で草を食べ始めた。 19 すると、その後から、今度は貧弱で、とても醜い、やせた七頭の雌牛が上って来た。 あれほどひどいのは、エジプトでは見たことがない。 20 そして、そのやせた、醜い雌牛が、初めのよく肥えた七頭の雌牛を食い尽くしてしまった。 21 ところが、確かに腹の中に入れたのに、腹の中に入れたことがまるで分からないほど、最初と同じように醜いままなのだ。 わたしは、そこで目が覚めた。
22 それからまた、夢の中でわたしは見たのだが、今度は、とてもよく実の入った七つの穂が一本の茎から出てきた。 23 すると、その後から、やせ細り、実が入っておらず、東風で干からびた七つの穂が生えてきた。 24 そして、実の入っていないその穂が、よく実った七つの穂をのみ込んでしまった。 わたしは魔術師たちに話したが、その意味を告げうる者は一人もいなかった。」
25 ヨセフはファラオに言った。
「ファラオの夢は、どちらも同じ意味でございます。 神がこれからなさろうとしていることを、ファラオにお告げになったのです。 26 七頭のよく育った雌牛は七年のことです。 七つのよく実った穂も七年のことです。 どちらの夢も同じ意味でございます。 27 その後から上がって来た七頭のやせた、醜い雌牛も七年のことです。 また、やせて、東風で干からびた七つの穂も同じで、これらは七年の飢饉のことです。 28 これは、先程ファラオに申上げましたように、神がこれからなさろうとしていることを、ファラオにお示しになったのです。 29 今から七年間、エジプトの国全体に大豊作が訪れます。 30 しかし、その後に七年間、飢饉が続き、エジプトの国に豊作があったことなど、すっかり忘れられてしまうでしょう。 飢饉が国を滅ぼしてしまうのです。 31 この国に豊作があったことは、その後に続く飢饉のために全く忘れられてしまうでしょう。 飢饉はそれほどひどいのです。 32 ファラオが夢を二度も重ねて見られたのは、神がこのことを既に決定しておられ、神が間もなく実行されようとしておられるからです。 33 このような次第ですから、ファラオは今すぐ、聡明で知恵のある人物をお見つけになって、エジプトの国を治めさせ、 34 また、国中に監督官をお立てになり、豊作の七年の間、エジプトの国の産物の五分の一を徴収なさいますように。 35 このようにして、これから訪れる豊年の間に食糧をできるかぎり集めさせ、町々の食糧となる穀物をファラオの管理の下に蓄え、保管させるのです。 36 そうすれば、その食糧がエジプトの国を襲う七年の飢饉に対する国の備蓄となり、飢饉によって国が滅びることはないでしょう。」
ヨセフの支配
37 ファラオと家来たちは皆、ヨセフの言葉に感心した。 38 ファラオは家来たちに、「このように神の霊が宿っている人はほかにあるだろうか」と言い、 39 ヨセフの方を向いてファラオは言った。
「神がそういうことをみな示されたからには、お前ほど聡明で知恵のある者は、ほかにはいないであろう。」 40 お前をわが宮廷の責任者とする。 わが国民は皆、お前の命に従うであろう。 ただ王位にあるということだけ、わたしはお前の上に立つ。」
41 ファラオはヨセフに向かって、「見よ、わたしは今、お前をエジプト全国の上に立てる」と言い、 42 印章のついた指輪を自分の指からはずしてヨセフの指にはめ、亜麻色の衣服を着せ、金の首飾りをヨセフの首にかけた。 43 ヨセフを王の第二の車に乗せると、人人はヨセフの前で、「アブレク(敬礼)と叫んだ。 ファラオはこうして、ヨセフをエジプト全国の上に立て、 44 ヨセフに言った。 「わたしはファラオである。 お前の許しなしには、このエジプト全国で、だれも、手足を上げてはならない。」
45 ファラオは更に、ヨセフにツッフェナト・パネアという名を与え、オンの祭司ポティ・フェラの娘アセナトを妻として与えた。 ヨセフの威光はこうして、エジプトの国にあまねく及んだ。
46 ヨセフは、エジプトの王ファラオの前に立ったとき三十歳であった。 ヨセフはファラオの前をたって、エジプト全国を巡回した。
47 豊作の七年の間、大地は豊かな実りに満ち溢れた。 48 ヨセフはその七年の間に、エジプトの国中の食糧をできるかぎり集め、その食糧を町々に蓄えさせた。 町の周囲の畑にできた食料を、その町の中に蓄えさせたのである。 49 ヨセフは、海辺の砂ほども多くの穀物を蓄え、ついに量りきれなくなったので、量るのをやめた。
50 飢饉の年がやって来る前に、ヨセフに二人の息子が生まれた。 この子供を産んだのは、オンの祭司ポティ・フェラの娘アセナトである。 51 ヨセフは長男をマナセ(忘れさせる)と名付けて言った。
「神が、わたしの苦労と父の家のことをすべて忘れさせてくださった。」
52 また、次男をエフライム(増やす)と名付けて言った。
「神は、悩みの地で、わたしに子孫を増やしてくださった。」
53 エジプトの国に七年間の大豊作が終わると、 54 ヨセフが言ったとおり、七年の飢饉が始まった。 その飢饉はすべての国々を襲ったが、エジプトには、全国どこにでも食物があった。 55 やがて、エジプト全国にも飢饉が広がり、民がファラオに食物を叫び求めた。 ファラオはすべてのエジプト人に、「ヨセフのもとに行って、ヨセフの言うとおりにせよ」と命じた。 56 飢饉は世界各地に及んだ。 ヨセフはすべての穀倉を開いてエジプト人に穀物を売ったが、エジプトの国の飢饉は激しくなっていた。 57 また、世界各地の人々も、穀物を買いにエジプトのヨセフのもとにやって来るようになった。 世界各地の飢饉も激しくなったからである。
兄たち、エジプトへ下る 42
1 ヤコブは、エジプトに穀物があると知って、息子たちに、「どうしてお前たちは顔を見合わせてばかりいるのだ」と言い、更に、 2 「聞くところでは、エジプトには穀物があるというではないか。 エジプトに下って行って穀物を買ってきなさい。 そうすれば、我々は死なずに生き延びることができるではないか」と言った。 3 そこでヨセフの十人の兄たちは、エジプトから穀物を買うために下って行った。 4 ヤコブはヨセフの弟ベニヤミンを兄たちに同行させなかった。 何か不幸なことが彼の身に起こるといけないと思ったからであった。 5 イスラエルの息子たちは、他の人々に混じって穀物を買いに出かけた。 カナン地方にも飢饉が襲っていたからである。
6 ところで、ヨセフはエジプトの司政者として、国民に穀物を販売する監督をしていた。 ヨセフの兄たちは来て、地面にひれ伏し、ヨセフを拝した。 7 ヨセフは一目で兄たちだと気づいたが、そしらぬ振りをして厳しい口調で、「お前たちは、どこからやって来たのか」と問いかけた。
彼らは答えた。
「食料を買うために、カナン地方からやって参りました。」
8 ヨセフは兄たちだと気づいていたが、兄たちはヨセフとは気づかなかった。 9 ヨセフは、そのとき、かつて兄たちについて見た夢を思い起こした。
ヨセフは彼らに言った。
「お前たちは回し者だ。 この国の手薄な所を探りに来たにちがいない。」
10 彼らは答えた。
「いいえ、御主君様。 僕どもは食糧を買いに来ただけでございます。 11 わたしどもは皆、ある男の息子で、正直な人間でございます。 僕どもは決して回し者などではありません。
12 しかしヨセフが、「いや、お前たちはこの国の手薄な所を探りに来たにちがいない」と言うと、 13 彼らは答えた。
「僕どもは、本当に十二人兄弟で、カナン地方に住むある男の息子たちでございます。 末の弟は、今、父のもとにおりますが、もう一人は失いました。」
14 すると、ヨセフは言った。
「お前たちは回し者だとわたしが言ったのは、そのことだ。 15 その点について、お前たちを試すことにする。 ファラオの命にかけて言う。 いちばん末の弟を、ここに来させよ。 それまでは、お前たちをここから出すわけにはいかぬ。 16 お前たちのうち、だれか一人を行かせて、弟を連れて来い。 それまでは、お前たちを監禁し、お前たちの言うことが本当かどうか試す。 もしそのとおりでなかったら、ファラオの命にかけて言う。 お前たちは間違いなく回し者だ。」
17 ヨセフは、こうして彼らを三日間、牢獄に監禁しておいた。
18 三日目になって、ヨセフは彼らに言った。
「こうすれば、お前たちの命を助けてやろう。 わたしは神を畏れる者だ。 19 お前たちが本当に正直な人間だというのなら、兄弟のうち一人だけを牢獄に監禁するから、ほかの者は皆、飢えているお前たちの家族のために穀物を持って帰り、 20 末の弟をここへ連れて来い。 そうして、お前たちの言い分が確かめられたら、殺されはしない。」
彼らは同意して、 21 互いに言った。
「ああ、我々は弟のことで罰を受けているのだ。 弟が我々に助けを求めたとき、あれほどの苦しみを見ながら、耳を貸そうともしなかった。 それで、この苦しみが我々にふりかかった。」
22 すると、ルベンが答えた。
「あのときわたしは、『あの子に悪いことをするな』と言ったではないか。 お前たちは耳を貸そうともしなかった。 だから、あの子の血の報いを受けるのだ。」
23 彼らはヨセフが聞いているのを知らなかった。 ヨセフと兄弟たちの間に、通訳がいたからである。 24 ヨセフは彼らから遠ざかって泣いた。 それからまた戻って来て、話をしたうえでシメオンを選び出し、彼らの見ている前で縛り上げた。 25 ヨセフは人々に命じて、兄たちの袋に穀物を詰め、支払った銀をめいめいの袋に返し、道中の食糧を与えるように指示し、そのとおり実行された。
26 彼らは穀物をろばに積んでそこを立ち去った。 27 途中の宿で、一人がろばに餌をやろうとして、自分の袋を開けてみると、袋の口のところに自分の銀があるのを見つけ、 28 ほかの兄弟たちに言った。
「戻されているぞ、わたしの銀が。 ほら、わたしの袋の中に。」
みんなの者は驚き、互いに震えながら言った。
「これは一体、どういうことだ。 神が我々になさったことは。」
29 一行はカナン地方にいる父ヤコブのところへ帰って来て、自分たちの身に起こったことをすべて報告した。
30 「あの国の主君である人が、我々を厳しい口調で問い詰めて、この国を探りに来た回し者にちがいないと言うのです。 31 もちろん、我々は正直な人間で、決して回し者などではないと答えました。 32 我々が十二人の兄弟で、一人の父の息子であり、一人は失いましたが、末の弟は今、カナン地方に住む父のもとにいますと言ったところ、 33 あの国の主君である人が言いました。 『では、お前たちが本当に正直な人間かどうかを、こうして確かめることにする。 お前たち兄弟のうち、一人だけ残し、飢えているお前たちの家族のため、穀物を持ち帰るがいい。 34 ただし、末の弟を必ずここへ連れて来るのだ。 そうすれば、お前たちが回し者ではなく、正直な人間であることが分かるから、お前たちに兄弟を返し、自由にこの国に出入りできるようにしてやろう。』」
35 それから、彼らが袋を開けてみると、めいめいの袋の中にもそれぞれ自分の銀の包みが入っていた。 彼らも父も、銀の包みを見て恐ろしくなった。 36 父ヤコブは息子たちに言った。
「お前たちは、わたしから次々と子供を奪ってしまった。 ヨセフを失い、シメオンも失った。 その上ベニヤミンまでも取り上げるのか。 みんなわたしを苦しめることばかりだ。
37 ルベンは父に言った。
「もしも、お父さんのところにベニヤミンを連れ帰らないようなことがあれば、わたしの二人の息子を殺してもかまいません。 どうか、彼をわたしに任せてください。 わたしが、必ずお父さんのところに連れ帰りますから。」
38 しかし、ヤコブは言った。
「いや、この子だけは、お前たちと一緒に行かせるわけにはいかぬ。 この子の兄は死んでしまい、残っているのは、この子だけではないか。 お前たちの旅の途中で、何か不幸なことがこの子の身に起こりでもしたら、お前たちは、この白髪の父を、悲嘆のうちに陰府に下らせることになるのだ。」
再びエジプトへ 43
1 この地方の飢饉はひどくなる一方であった。
2 エジプトから持ち帰った穀物を食べ尽くすと、父は息子たちに言った。
もう一度行って、我々の食糧を少し買って来なさい。」
3 しかし、ユダは答えた。
「あの人は、『弟が一緒でないかぎり、わたしの顔を見ることは許さぬ』と、厳しく我々に言い渡したのです。 4 もし弟を一緒に行かせてくださるなら、我々は下って行って、あなたのために食糧を買って参ります。 5 しかし、一緒に行かせてくださらないのなら、行くわけにはいきません。 『弟が一緒でないかぎり、わたしの顔を見ることは許さぬ』と、あの人が我々に言ったのですから。」
6 「なぜお前たちは、その人にもう一人弟がいるなどと言って、わたしを苦しめるようなことをしたのか」とイスラエルが言うと、 7 彼らは答えた。
「あの人が、我々のことや家族のことについて、『お前たちの父親は、まだ生きているのか』とか、『お前たちには、まだほかに弟がいるのか』などと、しきりに尋ねるものですから、尋ねられるままに答えただけです。 まさか、『弟を連れて来い』などと言われようとは思いも寄りませんでしたから。」
8 ユダは、父イスラエルに言った。
「あの子をぜひわたしと一緒に行かせてください。 それなら、すぐにでも行って参ります。 そうすれば、我々も、あなたも、子供たちも死なずに生き延びることができます。 9 あの子のことはわたしが保障します。 その責任をわたしに負わせてください。 もしも、あの子をお父さんのもとに連れ帰らず、無事な姿をお目にかけられないようなことにでもなれば、わたしがあなたに対して生涯その罪を負い続けます。 10 こんなにためらっていなければ、今ごろはもう二度も行って来たはずです。」
11 すると、父イスラエルは息子たちに言った。
「どうしてもそうしなければならないのなら、こうしなさい。 この土地の名産の品を袋に入れて、その人への贈り物として持って行くのだ。 乳香と蜜を少し、樹脂と没薬、ピスタチオやアーモンドの実。 12 それから、銀を二倍用意して行きなさい。 袋の口に戻されていた銀も持って行ってお返しするのだ。 たぶん何かの間違いだったのだろうから。 13 では、弟を連れて、早速その人のところへ戻りなさい。 14 どうか、全能の神がその人の前でお前たちに憐れみを施し、もう一人の兄弟と、このベニヤミンを返してくださいますように。 このわたしがどうしても子供を失わねばならないのなら、失ってもよい。」
15 息子たちは贈り物と二倍の銀を用意すると、ベニヤミンを連れて、早速エジプトへ下って行った。
さて、一行がヨセフの前に進み出ると、 16 ヨセフはベニヤミンが一緒なのを見て、自分の家を任せている執事に言った。
「この人たちを家へお連れしなさい。 それから、家畜を屠って料理を調えなさい。 昼の食事をこの人たちと一緒にするから。」
17 執事はヨセフに言われたとおりにし、一同をヨセフの屋敷へ連れて行った。 18 一同はヨセフの屋敷へ連れて来られたので、恐ろしくなって、「これはきっと、前に来たとき我々の袋に戻されていたあの銀のせいだ。 それで、ここに連れ込まれようとしているのだ。 今に、ろばもろとも捕らえられ、ひどい目に遭い、奴隷にされてしまうにちがいない」と思った。 19 彼らは屋敷の入り口のところでヨセフの執事の前に進み出て、話しかけて、 20 言った。
「ああ、御主人様。 実は、わたしどもは前に一度、食糧を買うためにここへ来たことがございます。 21 ところが、帰りに宿で袋を開けてみると、一人一人の袋の口のところに自分の銀が入っておりました。 しかも、銀の重さは元のままでした。 それで、それをお返ししなければ、と持って参りました。 22 もちろん、食糧を買うための銀は、別に用意してきております。 一体誰がわたしどもの袋に銀を入れたのか分かりません。」
23 執事は、「御安心なさい。 心配することはありません。 きっと、あなたたちの神、あなたたちの父の神が、その宝を袋に入れてくださったのでしょう。 あなたたちの銀は、このわたしが、このわたしが確かに受け取ったのですから」と答え、シメオンを兄弟たちのところへ連れて来た。 24 執事は一同をヨセフの屋敷に入れ、水を与えて足を洗わせ、ろばにも餌を与えた。 25 彼らは贈り物を調えて、昼にヨセフが帰宅するのを待った。 一緒に食事をすることになっていると聞いたからである。
26 ヨセフが帰宅すると、一同は屋敷に持って来た贈り物を差し出して、地にひれ伏してヨセフを拝した。
27 ヨセフは一同の安否を尋ねた後、言った。
「前に話をしていた、年をとった父上は元気か。 まだ生きておられるか。」
28 「あなたさまの僕である父は元気で、まだ生きております。と彼らは答え、ひざまずいて、ヨセフを拝した。
29 ヨセフは同じ母から生まれた弟ベニヤミンをじっと見つめて、「前に話していた末の弟はこれか」と尋ね、「わたしの子よ。 神の恵みがお前にあるように」と言うと、 30 ヨセフは急いで席を外した。 弟懐かしさに、胸が熱くなり、涙がこぼれそうになったからである。 ヨセフは奥の部屋に入ると泣いた。 31 やがて、顔を洗って出て来ると、ヨセフは平静を装い、「さあ、食事を出しなさい」と言いつけた。 32 食事は、ヨセフにはヨセフの、兄弟たちには兄弟たちの、相伴するエジプト人にはエジプト人のものと、別々に用意された。 当時、エジプト人は、ヘブライ人と共に食事をすることはできなかったからである。 それはエジプト人のいとうことであった。 33 兄弟たちは、いちばん上の兄から末の弟まで、ヨセフに向かって年齢順に座らされたので、驚いて互いに顔を見合わせた。 34 そして、料理がヨセフの前からみんなのところへ配られたが、ベニヤミンの分はほかのだれの分より五倍も多かった。 一同はぶどう酒を飲み、ヨセフと共に酒宴を楽しんだ。
銀の杯 44
1 ヨセフは執事に命じた。
「あの人たちの袋を、運べるかぎり多くの食糧でいっぱいにし、めいめいの銀をそ
れぞれの袋の口のところへ入れておけ。 2 それから、わたしの杯、あの銀の杯を、いちばん年下の者の袋の口に、穀物の代金の銀と一緒に入れておきなさい。」
執事はヨセフが命じたとおりにした。
3 次の朝、辺りが明るくなったころ、一行は見送りを受け、ろばと共に出発した。 4 ところが、町を出て、まだ遠くに行かないうちに、ヨセフは執事に命じた。
「すぐに、あの人たちを追いかけ、追いついたら彼らに言いなさい。 『どうして、お前たちは悪をもって善に報いるのだ。 5 あの銀の杯は、わたしの主人が飲むときや占いのときに、お使いになるものではないか。 よくもこんな悪いことができたものだ。』」
6 執事は彼らに追いつくと、そのとおりに言った。 7 すると、彼らは言った。
「御主人様、どうしてそのようなことをおっしゃるのですか。 僕どもがそんなことをするなどとは、とんでもないことです。 8 袋の口で見つけた銀でさえ、わたしどもはカナンの地から持ち帰って、御主人様にお返ししたではありませんか。 そのわたしどもがどうして、あなたの御主君のお屋敷から銀や金を盗んだりするでしょうか。 9 僕どもの中のだれからでも杯が見つかれば、その者は死罪に、ほかのわたしどもも皆、御主人様の奴隷になります。」 10 すると、執事は言った。
「今度もお前たちが言うとおりならよいが。 だれであっても、杯が見つかれば、その者はわたしの奴隷にならねばならない。 ほかの者には罪は無い。」
11 彼らは急いで自分の袋を地面に降ろし、めいめいで袋を開けた。 12 執事が年上の者から念入りに調べ始め、いちばん最後に年下の者になったとき、ベニヤミンの袋の中から杯が見つかった。 13 彼らは衣を引き裂き、めいめい自分のろばに荷を積むと、町へ引き返した。
14 ユダと兄弟たちがヨセフの屋敷に入って行くと、ヨセフはまだそこにいた。 一同は彼の前で地にひれ伏した。 15 「お前たちのしたこの仕業は何事か。 わたしのような者は占い当てることを知らないのか」とヨセフが言うと、 16 ユダが答えた。
「御主君に何と申し開きできましょう。 今更どう言えば、わたしどもの身の証を立てることができましょう。 神が僕どもの罪を暴かれたのです。 この上は、わたしどもも、杯が見つかった者と共に、御主君の奴隷になります。」
17 ヨセフは言った。
「そんなことは全く考えていない。 ただ、杯を見つけられた者だけが、わたしの奴隷になればよい。 ほかのお前たちは皆、安心して父親のもとへ帰るがよい。」
ユダの嘆願
18 ユダはヨセフの前に進み出て言った。
「ああ、御主君様。 何とぞお怒りにならず、僕の申し上げますことに耳を傾けてください。 あなたはファラオに等しいお方でいらっしゃいますから。
19 御主君は僕どもに向かって、『父や兄弟がいるのか』とお尋ねになりましたが、 20 そのとき、御主君に、『年をとった父と、それに父の年寄り子である末の弟がおります。 その兄は亡くなり、同じ母の子で残っているのはその子だけですから、父は彼をかわいがっております』と申上げました。 21 すると、あなたさまは、『その子をここへ連れて来い。 自分の目で確かめることにする』と僕どもにお命じになりました。 22 わたしどもは、御主君に、『あの子は、父親のもとから離れるわけにはまいりません。 あの子が父親のもとを離れれば、父は死んでしまいます』と申しましたが、 23 あなたさまは、『その末の弟が一緒に来なければ、再びわたしの顔を見ることは許さぬ』と僕どもにおっしゃいました。 24 わたしどもは、あなたさまの僕である父のところへ帰り、御主君のお言葉を伝えました。 25 そして父が、「もう一度行って、我々の食糧を少し買って来い」と申しました折にも、 26 『行くことはできません。 もし、末の弟が一緒なら、行って参ります。 末の弟が一緒でない限り、あの方の顔を見ることはできないのです』と答えました。 27 すると、あなたさまの僕である父は、『お前たちも知っているように、わたしの妻は二人の息子を産んだ。 28 ところが、そのうちの一人はわたしのところから出て行ったきりだ。 きっとかみ裂かれてしまったと思うが、それ以来、会っていない。 29 それなのに、お前たちはこの子までも、わたしから取り上げようとする。 もしも、何か不幸なことがこの子の身に起こりでもしたら、お前たちはこの白髪の父を、苦しめて陰府に下らせることになるのだ』と申しました。 30 今わたしが、この子を一緒に連れずに、あなたさまの僕である父のところへ帰れば、父の魂はこの子の魂と堅く結ばれていますから、 31 この子がいないことを知って、父は死んでしまうでしょう。 そして、僕どもは白髪の父を、悲嘆のうちに陰府に下らせることになるのです。
32 実は、この僕が父にこの子の安全を保障して、『もしも、この子をあなたのもとに連れ帰らないようなことがあれば、わたしが父に対して生涯その罪を負い続けます』と言ったのです。 33 何とぞ、この子の代わりに、この僕を御主君の奴隷としてここに残し、この子はほかの兄弟たちと一緒に帰らせてください。 34 この子を一緒に連れずに、どうしてわたしは父のもとへ帰ることができましょう。 父に襲いかかる苦悶を見るに忍びません。」
ヨセフ、身を明かす 45
1 ヨセフは、そばで仕えている者の前で、もはや平静を装っていることができなくなり、「みんな、ここから出て行ったくれ」と叫んだ。 だれもそばにいなくなってから、ヨセフは兄弟たちに自分の身を明かした。 2 ヨセフは、声をあげて泣いたので、エジプト人はそれを聞き、ファラオの宮廷にも伝わった。
3 ヨセフは、兄弟たちに言った。
「わたしはヨセフです。 お父さんはまだ生きておられますか。」
兄弟たちはヨセフの前で驚きのあまり、答えることができなかった。
4 ヨセフは兄弟たちに言った。
「どうか、もっと近寄ってください。」
兄弟たちがそばに近づくと、ヨセフはまた言った。
「わたしはあなたたちがエジプトに売った弟のヨセフです。 5 しかし、今は、わたしをここへ売ったことを悔やんだり、責め合ったりする必要はありません。 命を救うために、神がわたしをあなたたちより先にお遣わしになったのです。 6 この二年の間、世界中に飢饉が襲っていますが、まだこれから五年間は、耕すこともなく、収穫もないでしょう。 7 神がわたしをあなたたちより先にお遣わしになったのは、この国にあなたたちの残りの者を与え、あなたたちを生き永らえさせて、大いなる救いに至らせるためです。 8 わたしをここへ遣わしたのは、あなたたちではなく、神です。 神がわたしをファラオの顧問、宮廷全体の主、エジプト全国を治める者としてくださったのです。
9 急いで父上のもとへ帰って、伝えてください。 『息子のヨセフがこう言っています。 神が、わたしを全エジプトの主としてくださいました。 ためらわずに、わたしのところへおいでください。 10 そして、ゴシェンの地域に住んでください。 そうすればあなたも、息子も孫も、羊や牛の群れも、そのほかのすべてのものも、わたしの近くで暮らすことができます。 11 そこでのお世話は、わたしがお引き受けいたします。 まだ五年間は飢饉が続くのですから、父上も家族も、そのほかすべてのものも、困ることのないようになさらなければいけません。』 12 さあ、お兄さんたちも、弟のベニヤミンも、自分の目でみてください。 ほかならぬわたしがあなたたちに言っているのです。 13 エジプトでわたしが受けているすべての栄誉と、あなたたちが見たすべてのことを父上に話してください。 そして、急いで父上をここへ連れて来てください。」
14 ヨセフは、弟ベニヤミンの首を抱いて泣いた。 15 ヨセフは兄弟たち皆に口づけし、彼らを抱いて泣いた。 その後、兄弟たちはヨセフと語り合った。
16 ヨセフの兄弟たちがやって来たという知らせがファラオの宮廷に伝わると、ファラオも家来たちも喜んだ。 17 ファラオはヨセフに言った。
「兄弟たちに、こうするように言いなさい。 『家畜に荷を積んでカナンの地に行き、 18 父上と家族をここへ連れて来なさい。 わたしは、エジプトの国の最良のものを与えよう。 あなたたちはこの国の最上の産物を食べるがよい。』 19 また、こうするように命じなさい。 『エジプトの国から、あなたたちの子供や妻たちを乗せる馬車を引いて行き、父上もそれに乗せて来るがよい。 20 家財道具などには未練を残さないように。 エジプトの国中で最良のものが、あなたたちのものになるのだから。』」
21 イスラエルの息子たちはそのとおりにした。 ヨセフは、ファラオの命令に従って、彼らに馬車を与え、また道中の食糧を与えた。 22 ヨセフは更に、全員にそれぞれ晴れ着を与えたが、特にベニヤミンには銀三百枚と晴れ着五枚を与えた。 23 父にも、エジプトの最良のものを積んだろば十頭と、穀物やパン、それに父の道中に必要な食糧を積んだ雌ろば十頭を贈った。 24 いよいよ兄弟たちを送り出すとき、出発にあたってヨセフは、「途中で、争わないでください」と言った。 25 兄弟たちはエジプトからカナン地方へ上って行き、父ヤコブのもとへ帰ると、 26 直ちに報復した。 「ヨセフがまだ生きています。 しかも、エジプトの全国を治める者になっています。」
父は気が遠くなった。 彼らの言うことが信じられなかったのである。 27 彼らはヨセフが話したとおりのことを、残らず父に語り、ヨセフが父を乗せるために遣わした馬車を見せた。 父ヤコブは元気を取り戻した。
28 イスラエルは言った。
「よかった。 息子ヨセフがまだ生きていたとは。 わたしは行こう。 死ぬ前に、どうしても会いたい。」
ヤコブのエジプト下り 46
1 イスラエルは、一家を挙げて旅立った。 そして、ベエル・シェバに着くと、父イサクの神にいけにえをささげた。 2 その夜、幻の中で神がイスラエルに、「ヤコブ、ヤコブ」と呼びかけた。 彼が、「はい」と答えると、 3 神は言われた。
「わたしは神、あなたの父の神である。 エジプトへ下ることを恐れてはならない。 わたしはあなたをそこで大いなる国民にする。 4 わたしがあなたと共にエジプトへ下り、わたしがあなたを必ず連れ戻す。 ヨセフがあなたのまぶたを閉じてくれるであろう。」
5 ヤコブはベエル・シャバを出発した。 イスラエルの息子たちは、ファラオが遣わした馬車に父ヤコブと子供や妻たちを乗せた。 6 ヤコブとその子孫は皆、カナン地方で得た家畜や財産を携えてエジプトへ向かった。 7 こうしてヤコブは、息子や孫、娘や孫娘など、子孫を皆連れてエジプトへ行った。
8 エジプトへ行ったイスラエルの人々、すなわちヤコブとその子らの名前は次ぎのとおりである。 ヤコブの長男ルベン。 9 ルベンの息子のハノク、パル、ヘツロン、カルミ。 10 シメオンの息子のエムエル、ヤミン、オハド、ヤキン、ツォハル、およびカナンの女による息子シャウル。 11 レビの息子のゲルション、ケハト、メラリ。 12 ユダの息子のエル、オナン、シェラ、ペレツ、ゼラ。 ただし、エルとオナンはカナンの土地で死んだ。 ペレツの息子のヘツロン、ハルム。 13 イサカルの息子のトラ、プウ、ヨブ、シムロン。 14 ゼブルンの息子のセレド、エロン、ヤフレエル。 15 これらは、レアがパダン・アラムでヤコブとの間に産んだ子らである。 ヤコブの娘ディナも含め、男女の総数は三十三名である。
16 ガドの息子のツィフヨン、ハギ、シュニ、エツボン、エリ、アロディ、アルエリ。 17 アシェルの息子のイムナ、イシュワ、イシュビ、ベリア、及び妹セラ。 ベリアの息子はヘベル、マルキエル。 18 これらは、ラバンが娘レアに与えたジルバの子らである。 ジルバがヤコブとの間に産んだのは十六名である。
19 ヤコブの妻ラケルの息子のヨセフ、ベニアミン。 20 ヨセフには、エジプトの国で息子が生まれた。 それは、オンの祭司ポティ・フェラの娘アセナトが彼との間に産んだマナセとエフライムである。 21 ベニヤミンの息子のベラ、ベケル、アシュベル、ゲラ、ナアマン、エヒ、ロシュ、ムビム、フピム、アルド。 22 これらは、ヤコブとの間に生まれたラケルの子らで、その総数は十四名である。
23 ダンの息子のフシム。 24 ナフタリの息子のヤフツェエル、グニ、イエツェル、シレム。 25 これらは、ラバンが娘ラケルに与えたビルハの子らである。 ビルハがヤコブとの間に産んだ者の総数は七名である。
26 ヤコブの腰から出た者で、ヤコブと共にエジプトへ行った者は、ヤコブの息子の妻たちを除けば、総数六十六名である。 27 エジプトで生まれたヨセフの息子は二人である。 従って、エジプトへ行ったヤコブの家族は総数七十名であった。
ゴシェンでの再会
28 ヤコブは、ヨセフをゴシェンに連れて来るために、ユダを一足先にヨセフのとことへ遣わした。 そして一行はゴシェンの地に到着した。 29 ヨセフは車を用意させると、父イスラエルに会いにゴシェンへやって来た。 ヨセフは父を見るやいなや、父の首に抱きつき、その首にすがったまま、しばらく泣き続けた。 30 イスラエルはヨセフに言った。
「わたしはもう死んでもよい。 お前がまだ生きていて、お前の顔を見ることができたのだから。」
31 ヨセフは、兄弟や父の家族の者たちに言った。
「わたしはファラオのところへ報告のため参上し、『カナン地方にいたわたしの兄弟と父の家族を者たちがわたしのところに参りました。 32 この人たちは羊飼いで、家畜の群れを飼っていたのですが、羊や牛をはじめ、すべての財産を携えてやって来ました』と申します。 33 ですから、ファラオがあなたたちをお召しになって、『仕事は何か』と言われたら、 34 『あなたの僕であるわたしどもは、先祖代々、幼い時から今日まで家畜の群れを飼う者でございます』と答えてください。 そうすれば、あなたちはゴシェンの地域に住むことができるでしょう。」
羊飼いはすべて、エジプト人のいとうものであったのである。
ファラオとの会見 47
1 ヨセフはファラオのところへ行き、「わたしの父と兄弟たちが、羊や牛をはじめ、すべての財産を携えて、カナン地方からやって来て、今、ゴシェンの地におります」と報告した。 2 そのときヨセフは、兄弟の中から五人を選んで、ファラオの前に連れて行った。 3 ファラオはヨセフの兄弟たちに言った。
「お前たちの仕事は何か。」
兄弟たちが、「あなたの僕であるわたしどもは、先祖代々、羊飼いでございます」と答え、 4 更に続けてファラオに言った。
「わたしどもはこの国に寄留させていただきたいと思って、参りました。 カナン地方は飢饉がひどく、僕たちの羊を飼うための牧草がありません。 僕たちをゴシェンの地に住まわせてください。」
5 ファラオはヨセフに向かって言った。
「父上と兄弟たちが、お前のところにやって来たのだ。 6 エジプトの国のことはお前に任せてあるのだから、最も良い土地に父上と兄弟たちを住まわせるがよい。 ゴシェンの地に住まわせるのもよかろう。 もし、一族の中に有能な者がいるなら、わたしの家畜の監督をさせるがよい。」
7 それから、ヨセフは父ヤコブを連れて来て、ファラオの前に立たせた。 ヤコブはファラオに祝福の言葉を述べた。 8 ファラオが、「あなたは何歳におなりですか」とヤコブに語りかけると、 9 ヤコブはファラオに答えた。
「わたしの旅路の年月は百三十年です。 わたしの生涯の年月は短く、苦しみ多く、わたしの先祖たちの生涯や旅路の年月には及びません。」
10 ヤコブは、別れの挨拶をして、ファラオの前から退出した。
11 ヨセフはファラオが命じたように、父と兄弟たちの住まいを定め、エジプトの国に所有地を与えた。 そこは、ラメセス地方の最も良い土地であった。 12 ヨセフはまた、父と兄弟たちと父の家族の者すべてを養い、扶養すべき者の数に従って食糧を与えた。
ヨセフの政策
13 飢饉が極めて激しく、世界中に食糧がなくなった。 エジプトの国でも、カナン地方でも、人々は飢饉のために苦しみあえいだ。 14 ヨセフは、エジプトの国とカナン地方の人々が穀物の代金として支払った銀をすべて集め、それをファラオの宮廷に納めた。 15 エジプトの国にもカナン地方にも、銀が尽き果てると、エジプト人は皆、ヨセフのところへやって来て、「食べる物をください。 あなたさまは、わたしどもを見殺しになさるおつもりですか。 銀はなくなってしまいました」と言った。
16 ヨセフは答えた。 「家畜を連れて来なさい。 もし銀がなくなったのなら、家畜と引き換えに与えよう。」
17 人々が家畜をヨセフのところに連れて来ると、ヨセフは、馬や、羊や牛の群れや、ろばと引き換えに食糧を与えた。 ヨセフはこうして、その年、すべての家畜と引き換えに人々に食糧を分け与えた。 18 その年も終わり、次の年になると、人々はまたヨセフのところに来て、言った。
「御主君には、何もかも隠さずに申し上げます。 銀はすっかりなくなり、家畜の群れも御主君のものとなって、御覧のように残っているのは、わたしどもの体と農地だけです。 19 どうしてあなたさまの前で、わたしどもと農地が滅んでしまってよいのでしょうか。 食糧と引き換えに、わたしどもと土地を買い上げてください。 わたしどもは農地とともに、ファラオの奴隷になります。 種をお与えください。 そうすれば、わたしどもは死なずに生きることができ、農地も荒れ果てないでしょう。」
20 ヨセフは、エジプト中のすべての農地をファラオのために買い上げた。 飢饉が激しくなったので、エジプト人は皆自分の畑を売ったからである。 土地はこうして、ファラオのものとなった。 21 また民については、エジプト領の端から端まで、ヨセフが彼らを奴隷にした。 22 ただし、祭司の農地だけは買い上げなかった。 祭司にはファラオからの給与があって、ファラオが与える給与で生活していたので、農地を売らなかったからである。
23 ヨセフは民に言った。
「よいか、お前たちは今日、農地とともにファラオに買い取られたのだ。 さあ、ここに種があるから、畑に蒔きなさい。 24 収穫の時には、五分の一をファラオに納め、五分の四はお前たちのものとするがよい。 それを畑に蒔く種にしたり、お前たちの家族の者の食糧とし、子供たちの食糧としなさい。」
25 彼らは言った。
「あなたさまはわたしどもの命の恩人です。 御主君の御好意によって、わたしどもはファラオの奴隷にさせていただきます。」
26 ヨセフはこのように、収穫の五分の一をファラオに納めることを、エジプトの農業の定めとした。 それは今日まで続いている。 ただし、祭司の農地だけはファラオのものにならなかった。
ヤコブの遺言
27 イスラエルは、エジプトの国、ゴシェンの地域に住み、そこに土地を得て、子を産み、大いに数を増した。 28 ヤコブは、エジプトの国で十七年生きた。 ヤコブの生涯は百四十七年であった。
29 イスラエルは死ぬ日が近づいたとき、息子ヨセフを呼び寄せて言った。
「もし、お前がわたしの願いを聞いてくれるなら、お前の手をわたしの腿の間に入れ、わたしのために慈しみとまことをもって実行すると、誓ってほしい。 どうか、わたしをこのエジプトには葬らないでくれ。 30 わたしが先祖たちと共に眠りについたなら、わたしをエジプトから運び出して、先祖たちの墓に葬ってほしい。」
ヨセフが、「必ず、おっしゃるとおりにいたします」と答えると、 31 「では、誓ってくれ」と言ったので、ヨセフは誓った。 イスラエルは、寝台の枕もとで感謝を表した。
ヤコブ、ヨセフの子らを祝福する 48
1 これらのことの後で、ヨセフに、「お父上が御病気です」との知らせが入ったので、ヨセフは二人の息子マナセとエフライムを連れて行った。 2 ある人がヤコブに、「御子息のヨセフさまが、ただいまお見えになりました」と知らせると、イスラエルは力を奮い起こして、寝台の上に座った。 3 ヤコブはヨセフに言った。
「全能の神がカナン地方のルズでわたしに現れて、わたしを祝福してくださったとき、 4 こう言われた。
『あなたの子孫を?栄させ、数を増やし
あなたの諸国民の群れとしよう。
この土地をあなたに続く子孫に
永遠の所有地として与えよう。』
5 今、わたしがエジプトのお前のところに来る前に、エジプトに国で生まれたお前の二人の息子をわたしの子供にしたい。 エフライムとマナセは、ルベンやシメオンと同じように、わたしの子となるが、 6 その後に生まれる者はお前のものとしてよい。 しかし、彼らの嗣業の土地は兄たちの名で呼ばれるであろう。
7 わたしはパダン地方から帰る途中、ラケルに死なれてしまった。 あれはカナン地方で、エフラトまで行くには、まだかなりの道のりがある途中でのことだった。 わたしはラケルを、エフラト、つまり今のベツレヘムへ向かう道のほとりに葬った。」
8 イスラエルは、ヨセフの息子たちを見ながら、「これは誰か」と尋ねた。 9 ヨセフが父に、「神が、ここで授けてくださったわたしの息子です」と答えると、父は、「ここへ連れて来なさい。 彼らを祝福しよう」と言った。 10 イスラエルの目は老齢のためかすんでよく見えなかったので、ヨセフが二人の息子を父のもとに近寄らせると、父は彼らに口づけをして抱き締めた。
11 イスラエルはヨセフに言った。
「お前の顔さえ見ることができようとは思わなかったのに、なんと、神はお前の子供たちをも見せてくださった。」
12 ヨセフは彼らを父の膝から離し、地にひれ伏して拝した。 13 ヨセフは二人の息子のうち、エフライムを自分の右手でイスラエルの左手に向かわせ、マナセを自分の左手でイスラエルの右手に向かわせ、二人を近寄らせた。 14 イスラエルは右手を伸ばして、弟であるエフライムの頭の上に置き、左手をマナセの頭の上に置いた。 つまり、マナセが長男であるのに、彼は両手を交差して置いたのである。
15 そして、ヨセフを祝福して言った.
「わたしの先祖アブラハムとイサクが
その御前に歩んだ神よ。
わたしの生涯を今日まで
導かれた牧者なる神よ。
16 わたしをあらゆる苦しみから
贖われた御使いよ。
どうか、この子供たちの上に
祝福をお与えください。
どうか、わたしの名と
わたしの先祖アブラハム、イサクの名が
彼らによって覚えられますように。
どうか、彼らがこの地上に
数多く増え続けますように。」
17 ヨセフは、父が右手をエフライムの頭の上に置いているのを見て、不満に思い、父の手を取ってエフライムの頭からマナセの頭に移そうとした。 18 ヨセフは父に言った。
「父上、そうではありません。 これが長男ですから、右手をこれの頭に上に置いてください。」
19 ところが、父はそれを拒んで言った。
「いや、分かっている。 わたしの子よ、わたしには分かっている。 この子も一つの民となり、大きくなるであろう。 しかし、弟の方が彼よりも大きくなり、その子孫は国々に満ちるものとなる。」
20 その日、父は彼らを祝福して言った。
「あなたによって
イスラエルは人を祝福して言うであろう。
『どうか、神があなたを
エフライムとマナセのように
してくださるように。』」
彼はこのように、エフライムをマナセの上に立てたのである。
21 イスラエルはヨセフに言った。
「間もなく、わたしは死ぬ。 だが、神がお前たちと共にいてくださり、きっとお前たちを先祖の国に導き帰らせてくださる。 22 わたしは、お前に兄弟たちよりも多く、わたしが剣と弓をもってアモリ人の手から取った一つの分け前(シェケム)を与えることにする。」
ヤコブの祝福 49
1 ヤコブは息子たちを呼び寄せて言った。
「集まりなさい。 わたしは後の日にお前たちに起こることを語っておきたい。
2 ヤコブの息子たちよ、集まって耳を傾けよ。
お前たちの父イスラエルに耳を傾けよ。
3 ルベンよ、お前はわたしの長子
わたしの勢い、命の力の初穂。
気位が高く、力も強い。
4 お前は水のように奔放で
長子の誉を失う。
お前は父の寝台に上り
それを汚した。
5 シメオンとレビは似た兄弟。
彼らの剣は暴力の道具。
6 わたしの魂よ、彼らの謀議に加わるな。
わたしの心よ、彼らの仲間に連なるな。
彼らは怒りのままに人を殺し
思うがままに雄牛の足の筋を切った。
7 呪われよ、彼らの怒りは激しく
憤りは甚だしいゆえに。
わたしは彼らをヤコブの間に分け
イスラエルの間に散らす。
8 ユダよ、あなたは兄弟たちにたたえられる。
あなたの手は敵の首を押さえ、
父の子たちはあなたを伏し拝む。
9 ユダは獅子の子。
わたしの子よ、あなたは獲物を取って上って来る。
彼は雄獅子のようにうずくまり
雌獅子のように身を伏せる。
誰がこれを起こすことができようか。
10 王笏はユダから離れず
統治の杖は足の間から離れない。
ついにシロが来て、諸国の民は彼に従う。
11 彼はろばをぶどうの木に
雌ろばの子を良いぶどうの木につなぐ。
彼は自分の衣をぶどう酒で
着物をぶどうの汁で洗う。
12 彼の目はぶどう酒によって輝き
歯は乳によって白くなる。
13 ゼブルンは海辺に住む。
そこは舟の出入りする港となり
その境はシドンに及ぶ。
14 イサカルは骨太のろば
二つの革袋の間に身を伏せる
15 彼にはその土地が快く
好ましい休息の場となった。
彼はそこで背をかがめて荷を担い
苦役の奴隷に身を落とす。
16 ダンは自分の民を裁く
イスラエルのほかの部族のように。
17 ダンは、道端の蛇
小道のほとりに潜む蝮。
馬のかかとをかむと
乗り手はあおむけに落ちる。
18 主よ、わたしはあなたの救いを待ち望む。
19 ガドは略奪者に襲われる。
しかし彼は、彼らのかかとを襲う。
20 アシェルには豊かな食物があり
王の食卓に美味を供える。
21 ナフタリは解き放たれた雌鹿
美しい小鹿を産む。
22 ヨセフは実を結ぶ若木
泉のほとりの実を結ぶ若木
その枝は石垣を越えて伸びる
23 弓を射る者たちは彼に敵意を抱き
矢を放ち、追いかけてくる。
24 しかし、彼の弓はたるむことなく
彼の腕と手は素早く動く。
ヤコブの勇者の御手により
それによって、イスラエルの石となり牧者となった。
25 どうか、あなたの父の神があなたを助け
全能者によってあなたは祝福を受けるように。
上は天の祝福
下は横たわる淵の祝福
乳房と母の胎の祝福をもって。
26 あなたの父の祝福は
永遠の山の祝福にまさり
永久の丘の賜物にまさる。
これらの祝福がヨセフの頭の上にあり
兄弟たちから選ばれた者の頭にあるように。
27 ベニヤミンはかみ裂く狼
朝には獲物に食らいつき
夕には奪ったものを分け合う。」
28 これらはすべて、イスラエルの部族で、その数は十二である。 これは彼らの父が語り、祝福した言葉である。 父は彼らを、おのおのにふさわしい祝福をもって祝福したのである。
ヤコブの死
29 ヤコブは息子たちに命じた。
「間もなくわたしは、先祖の列に加えられる。 わたしをヘト人エフロンの畑にある洞穴に、先祖たちと共に葬ってほしい。 30 それはカナン地方のマムレの前のマクベラの畑にある洞穴で、アブラハムがヘト人エフロンから買い取り、墓地として所有するようになった。
31 そこに、アブラハムと妻サラが葬られている。 そこに、イサクと妻リベカも葬られている。 そこに、わたしもレアを葬った。 32 あの畑とあそこにある洞穴は、ヘトの人たちから買い取ったものだ。」
33 ヤコブは、息子たちに命じ終えると、寝床の上に足をそろえ、息を引き取り、先祖の列に加えられた。
ヤコブの埋葬 50
1 ヨセフは父の顔に伏して泣き、口づけした。
2 ヨセフは自分の侍医たちに、父のなきがらに薬を塗り、防腐処置をするように命じたので、医者はイスラエルにその処置をした。 3 そのために四十日を費やした。 この処置をするにはそれだけの日数が必要であった。 エジプト人は七十日の間喪に服した。
4 喪が明けると、ヨセフはファラオの宮廷に願い出た。
「ぜひともよろしくファラオにお取り次ぎください。 5 実は、父がわたしに誓わせて、『わたしは間もなく死ぬ。 そのときは、カナンの土地に用意してある墓にわたしを葬ってくれ』と申しました。 ですから、どうか父を葬りに行かせてください。 わたしはまた帰って参ります。」
6 ファラオは答えた。
「父上が誓わせたとおりに、葬りに行って来るがよい。」
7 ヨセフは父を葬りに上って行った。 ヨセフと共に上って行ったのは、ファラオの宮廷の元老である重臣たちすべてとエジプトの国の長老たちすべて、 8 それにヨセフの家族全員と彼の兄弟たち、および父の一族であった。 ただ幼児と、羊と牛の群れはゴシェンの地域に残した。 9 また戦車も騎兵も共に上って行ったので、それはまことに盛大な行列となった。
10 一行はヨルダン川の東側にあるゴレン・アタドに着き、そこで非常に荘厳な葬儀を行った。 父の追悼の儀式は七日間にわたって行われた。 11 その土地に住んでいるカナン人たちは、ゴレン・アタドで行われた追悼の儀式を見て、「あれは、エジプト流の盛大な追悼の儀式だ」と言った。 それゆえ、その場所の名は、アベル・ミツライム(エジプト流の追悼の儀式)と呼ばれるようになった。 それは、ヨルダン川の東側にある。
12 それから、ヤコブの息子たちは父に命じられたとおりに行った。 13 すなわち、ヤコブの息子たちは、父のなきがらをカナンの土地に運び、マクベラの畑の洞穴に葬った。 それは、アブラハムがマムレの前にある畑とともにヘト人エフロンから買い取り、墓地として所有するようになったものである。
14 ヨセフは父を葬った後、兄弟たちをはじめ、父を葬るために一緒に上って来たすべての人々と共にエジプトに帰った。
赦しの再確認
15 ヨセフの兄弟たちは、父が死んでしまったので、ヨセフがことによると自分たちをまだ恨み、昔ヨセフにしたすべての悪に仕返しをするのではないかと思った。 16 そこで、人を介してヨセフに言った。
「お父さんは亡くなる前に、こう言っていました。
17 『お前たちはヨセフにこう言いなさい。 確かに、兄たちはお前に悪いことをしたが、どうか兄たちの咎と罪を赦してやってほしい。』お願いです。 どうか、あなたの父の神に仕える僕たちの咎を赦してください。」
これを聞いて、ヨセフは涙を流した。 18 やがて、兄たち自身もやって来て、ヨセフの前にひれ伏して、「このとおり、私どもはあなたの僕です」と言うと、 19 ヨセフは兄たちに言った。
「恐れることはありません。 わたしが神に代わることができましょうか。 20 あなたがたはわたしに悪をたくらみましたが、神はそれを善に変え、多くの民の命を救うために、今日のようにしてくださったのです。 21 どうか恐れないでください。 このわたしが、あなたたちとあなたたちの子供を養いましょう。」
ヨセフはこのように、兄たちを慰め、優しく語りかけた。
ヨセフの死
22 ヨセフは父の家族と共にエジプトに住み、百十歳まで生き、 23 エフライムの三代の子孫を見ることができた。 マナセの息子マキルの子供たちも生まれると、ヨセフの膝に抱かれた。
24 ヨセフは兄弟たちに言った。
「わたしは間もなく死にます。 しかし、神は必ずあなたちを顧みてくださり、この国からアブラハム、イサク、ヤコブに誓われた土地に導き上ってくださいます。」
25 それから、ヨセフはイスラエルの息子たちにこう言って誓わせた。
「神は、必ずあなたちを顧みてくださいます。 そのときには、わたしの骨をここから携えて上ってください。」
26 ヨセフはこうして、百十歳で死んだ。 人々はエジプトで彼のなきがらに薬を塗り、防腐処置をして、ひつぎに納めた。
(2) 創世記 井戸をめぐる争い 26-15 〜 ヨセフの死 50-26
【このカテゴリーの最新記事】
- no image
- no image
- no image
- no image
- no image