ロープを邪魔する今だけは、ローヒールでないことが悔やまれる。
これでもかとハムストリングスを収縮させて、ロープのかかるヒールトップをお尻に引き寄せる。
同時に両肩まで全身を丸めるようにして、両腕だけを目一杯伸ばす。
ピンヒールのトップが、手首のロープを擦りながら何とか潜る。
不意に両腕が弛緩する。
ロープがピンヒールのソールをなぞる。
漸く、縛られた両手が身体の後ろから爪先にくる。
ピンヒールのスーツスタイルでデッドバグ状態になる。
両腕で弾みをつけて背中を起こす。
ストッキングの両膝を倒して横座りになる。
意を決して、ロープの結び目に歯をたてる。
堅く埃っぽいロープ、今は気にしない。
意外にも、ぞんざいな結び方。
簡単にはここから出られないか、直ぐに誰か来るか、どちらかのシルシ。
思ったより直ぐに解けそうなロープ。
そう感じたときには、夢中になりすぎていた。
悪い癖。
気配に気づくのに遅れる。
扉の前に巨漢とも言えそうな男が立っている。
あとは両手首を抜くだけのロープを気にしながら、横座りのまま男との間合いを計る。
男が少し驚いたように言う。
「ほう、お早いお目覚めだな」
言いながら、右手で黒光りする塊を取り出す。
ワタシは、今にも動き出そうとする身体を固める。
非常灯を背にする男の表情は、暗くてわからない。
突き出された黒い塊は、灯に艶やかに光っている。
真っ直ぐワタシに向けられている。
一際黒い、銃口。
一瞬の隙を突くしかない。
そう決めると男の動きに全神経を注ぐ。
男が暗闇に片手を伸ばす。
どこからかパイプ椅子を片手にさげている。
非常灯のアカリとカゲの境目あたりに、男がパイプ椅子を置く。
ワタシに向いたままの銃口。
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