一回限りの脆い踏み台。
ロッカーの天板を掴む両手、中仕切りに左足、右足は鏡用の棚。
両手両足のタイミングを合わせて、一気に力を込める。
小さな棚が壊れて落ちる。
代わりに腰までロッカーの天板に載る。
聞き耳をたてる。
プラスチック棚が落ちる乾いた音に注意を払うものはない。
両腕の力と体幹の筋力で、下肢をロッカーの上に振りあげる。
次の瞬間、埃っぽいロッカーの上に横になっているワタシ。
三連のロッカーの上で、仰向けになって呼吸を整える。
が、身体は徐々に怠さを増している。
残り時間は少ない。
ロッカーの上の、明かり取りと換気を兼ねた小さな窓。
仰向けのまま、身体の左側の内鍵を手探る。
探り当てた鍵を指先で解除して、小さな窓を開ける。
冷たい外気が、タイトなスカートの腰に吹きつける。
頭と肩がようやく通りそうな空間。
狭いロッカーの上で、身体を窓に垂直に向ける。
スカートとストッキングの下肢がロッカーの支えを無くす。
腰から下は、鍛えた腹筋がレッグレイズよろしく持ち上げる。
仰向けのまま両膝を胸に引き寄せて、頭から窓に向かう。
窓枠と頭の隙間から外壁に指先をかけて、身体を引っ張る。
横向きに懸垂するようにして、何とか頭を窓の外に出す。
隣のビルとの狭い通路。
左右に頭を振って、表と裏の通りの様子を確かめる。
壁から突き出た頭を気にする人影はない。
両手を肘まで窓の外に出す。
外壁に這わせた両手で、首から下の身体を引き出そうとする。
と、何かが閊える。
一瞬、ナニ?と思う。
覚って急に可笑しくなる。
「ククッ」
ワタシとしたことが、頭と肩のサイズは、見切ったのに。
自分の胸のサイズを忘れるなんて。
苦笑しながら、大きく息を吐いて呼吸をとめる。
右手を窓の内側に戻して、サラシでも巻くようにバストトップを押さえる。
そのまま窓の外の左腕で身体を引っ張る。
胸に感じる圧しつぶされる痛み、まるで何かの検査のよう。
堪えて上体を引き出す。
次の瞬間、飛び出し弾む両胸。
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