【1. 伏線】
5日のRBA声明の要点は、
- 結論は「市場予想通り現状維持」で、その理由は「政策スタンスを変更しないことが経済の持続可能な成長と、時間をかけてインフレ目標を達成することに一致すると判断」したため、です。この理由はこのところずっと同じ文言です。
- 今後の見通しは、「失業率低下とインフレ目標達成に更なる進展が期待されるが、進展は緩やかである可能性」で、この内容は昨年12月4日声明と同文です。
- 以前との文言の違いは主に次の点でした。失業率は 今後2〜3年の間に4.75%へ低下する 以前の予想よりも少し長く時間がかかる 。
でした。
下線部が、以前と違う箇所です。
失業率は、11月4日理事会の議事要旨(11月20日公表)で「2020年半ばまでには4.75%へ低下」としていました。4.75%への到達が1年半後から今後2〜3年の間に後ズレされました。
物価は、12月4日の声明では「2019年のインフレ率は中心的シナリオで2.25%」でした。これも以前よりも少し長く時間がかかる、と後ズレされました。
後ズレこそされていたものの、11月20日にRBA総裁は「予想通り経済が成長すれば、ある時点で金利は上昇する公算が高い」と述べていました。そして、12月20日に公表された12月4日理事会の議事要旨では「次の金融政策変更はおそらく利上げになるだろう」と記されていました。更に、1月29日、RBA理事会委員のひとりは「次回の行動は利上げと予想」との発言が報道されています。
これら伏線となる発言に基づけば、失業率とインフレ率が多少後ズレしていても、「失業率低下とインフレ目標達成に更なる進展が期待される」という文言の方に注目が集まるのも当然です。
実際、声明発表定時直後に数秒間だけ陰線側に数pips振れたものの、数秒後には陽線での反応に結び付きました。だって、次の政策変更は利上げ方向です。
【2. 反転】
ところが翌6日10:30、「RBA総裁は、次の金利の動きが上下方向のどちらにもなる可能性がある、と発言した」と伝えられました。
突然、これまでと話が違うじゃないか、というサプライズが起きました。
この発言を受けてAUDUSDは、0.7238ドル(6日10:30)から1時間で0.7175ドルまで下げ(時速53pips)、AUDJPYも79.45円から時速77pipsで下げました。
こんなとき、起きたことは起きたこととして、とりあえず、ついていくしかありません。
このブログのように、短期取引中心(指標発表前後は短期取引徹底)なら、自分のリクツと違う動きには素早く対応する必要があります。決して自説に拘らない「節操のなさ」は、短期取引で負けないためのスキルのなかで最も重要です(それでも自説を持っておくのは、予め自説通りの展開になったときにビビッて、大きく稼ぐチャンスを見逃しにくくするためです)。
一段落して振り返ると、RBA総裁が豹変した理由は気になります。
件(くだん)の発言は、「失業が増加し、インフレ停滞が続く場合は利下げを行う可能性がある」でした。一方、「雇用と賃金が増加するなら、政策金利を引き上げる可能性もある」でした。だから「過去1年間は次の金利の動きは下方向よりも上方向となる可能性が高かったものの、現時点ではその可能性はより均衡しているようだ」と述べていました。
いかがでしょう。そんなにおかしな発言ではない、と思います。
確かに従来の利上げ見通しが後退しています(利上げの可能性がなくなった訳ではない)。でも、利下げがメインシナリオになった訳でもありません。
「失業が増加」って、前日のRBA声明は「今後2〜3年の間に4.75%へ低下」と記していたじゃないか。「インフレ停滞が続く」って、前日のRBA声明は「以前の予想よりも少し長く時間がかかる」と記していたじゃないか。
だから「貿易摩擦に伴う中国経済の減速懸念や、英国の合意なき離脱が現実化したなら、これまでの次は利上げ方向の方針を見直さないといけない」と言ってくれれば良かったのに。
でもそうじゃなかった。
【3. トドメ】
そして8日09:30、RBA四半期金融政策報告で「2018〜19年度(18年7月〜19年6月)の成長率予想を従来の3.25%から2.50%に下方修正」しました。19〜20年度の成長率予想も従来の3.25%から2.75%に下方修正しました。
年度が6月始まりな点はポイントです。
この発表を受けて、週末終値は0.7085ドルまで下げています(6日発言前から153pipsの下げ)。AUDJPYも6日発言前から週末終値77.77円で終えました(168pipsの下げ)。2・3日で150pips強動いた訳です。
AUDUSDもAUDJPYも、それぞれ日足一目均衡表の雲の下端・上端がサポートしました。
このサポートは、8日欧州時間か米国時間に下抜け、次週からはレジスタンスに変わる、と予想していましたが、これは外しました。
【4. 次週も注目】
大きく眺めるより、まずは次週です。
11日は春節明けで中華圏での取引が再開され米中次官級貿易協議、14-15日に閣僚級貿易協議が予定されています。15日には、先に米議会で合意した暫定予算の執行期限も迎えます。そして、翌週月曜の18日は米国市場が祝日休場です。
週末15日金曜を目がけてどんどん疑心暗鬼が膨らむ展開しか予想できません。
週明けは、米中貿易協議の進展予想より先に、上海・香港の株価がAUDに影響を与える可能性が高いでしょう。それから米中次官級協議の結果、15日の閣僚級貿易協議です。首脳会談まで決着がつくとは思えないものの、進展があればAUDは買われます。
そして、米国政府機関再閉鎖関係があります。
6日に行われた米大統領による一般教書演説では、相変わらず「国境の壁の建設」を強く主張し、ただ議会の捻じれを意識して「党派を超えた連携を呼びかけた」と報道されています。何て都合のいいヤツ!という感じの報道でした。
ところが、報道されていない事実として、この演説は米国で評判が良いそうです。?@ 当初主張していたコンクリートの巨大な壁の建設を、フェンスでの設置の設置かフェンスが必要な個所にだけコンクリートの壁を設けること(この箇所の原文が見つかりません)、?A ドリーマー(子供のころに親に連れられて不法入国となった人)には米国市民となる道を示したこと、が理由です。
15日に政府再閉鎖が行われないことが決まるとドル買い材料のためUSDが買われ、また政府機関閉鎖になるとUSD売です。
AUDにとって最悪なパターンは、米中協議の進展がなく中国株が下落し、米国政府機関が再閉鎖されない場合、AUDを買うことができなくなります。もし大きく下げ始めたら、それを止める理由はテクニカルな理由しかありません。
AUDUSDは、現在のサポート0.7055ドル付近(日足一目均衡表の雲下端)を下抜けると、次のサポートは0.701ドル付近(12月下旬下値まで50pips弱)と近すぎます。ここを下抜けると、0.684ドルの1月3日のフラッシュクラッシュ下値までサポートが見当たりません。
今のところ、そんなに豪州経済が悪い様子はないものの、頭に入れておいてもいい数字です。
以上