2017年の政策金利利上げは3回が予定されていました。3月・6月を市場予想通り実施し、次回は12月と見なされていました。9月には、BS縮小によって引締め政策転換が実際に始まると見なされていました。
ところが、7月下旬〜8月中旬にかけて、2018年度予算が9月末までの期限に不成立との話が出て、少し状況が変わりました。デフォルトを起こしかけているのに、大きな金融政策変更なんて出来る訳ありません。その結果、12月利上げ確率が下がり、BS縮小についても実施が危ぶまれていました。
そこに、ハリケーン来週による災害です。大きな自然災害に対し、まさか予算措置が取られないはずがありません。これでデフォルトリスクは低下しました。リスクが低下したからと言って、起きないとは限らないのですが。
【4-2-1.(1) 金融政策】
8月25日のジャクソンホールでのFRB議長の講演では、今後政策に関するヒントがなかったように思われます。
そもそもFRBが何か言える状況ではありません。FRBの金融政策のスケジュールへの最も大きな障害は、議会の予算未承認によるデフォルトリスクかも知れません。そんなときに大きな金融政策変更が出来るはずないでしょう。
(分析事例) FOMC政策金利 (2017年7月27日発表結果検証済)
(分析事例) FOMC議事録 (2017年5月25日公表結果検証済)
FOMC前には備え方があります。
まず先に、発表日発表前を朝・昼・夕・夜・夜中と5つに分けて、それぞれの時間帯にトレンドが発生しやすく、それに乗れば微益を稼げば比較的安全に微益を積み重ねられる、ということを押さえておきましょう。但し、この方法はポジション保有時間が長くなる、という問題があります。
一方、国内外の大きな株式市場が開くとき、その国のUSDストレート通貨ペアの関係が数分間続きがちです(もっと続くこともありますが、ここでは数分間に注目です)。09:00の東証寄付直後1分足が陽線なら、09:01〜09:03ぐらいまで陽線が続きがちです。こちらは短時間取引で済みます。
実際のFOMC金融政策発表時刻に危ない橋を渡らなくても、こうしたやり方で数分?数回の取引で数10pips稼ぐ方が魅力的です。
【4-2-1.(2) 財政政策】
米国GDPに対し公共投資が与える影響は、日本の場合に比して小さなものです(絶対額でなく比率で考察)。従って、政府予算の配分が変わることは経済的な直接効果よりも、関連法規改正などで予算配分が増えた分野への政府支援が強まる間接効果となります(日本の場合は直接効果が大きい)。にも関わらず、そうした政策変更は、JPYに対してよりもUSDに対して大きく影響が現れがちな点が不思議です。
現在、米政権はオバマケア代案法案・税制改革・2018年度予算案(予算削減先が多い)・ロシアゲート問題・北朝鮮問題(中国問題)・多国間協定離脱の代替施策必要性(FTAやパリ協定)・政府高官の相次ぐ辞任、を抱えています。
きっと風呂敷も日本の20倍ぐらいあるのでしょう。もう「わやくそ」と言った状況です。
8月はデフォルトリスクが現実味を帯び始めました。財務長官によれば9月いっぱいの予算手当はできているそうですが、一度、数年前に期限に間に合わなかった前科があります。北朝鮮を見ればわかるように、瀬戸際交渉戦術というのは、以前よりも大きな刺激や衝撃が必要です。
この影響で9月の取引は、指標分析なんてあまり役に立たないかも知れません。
【4-2-1.(3) 景気指標】
景気指標の発表結果予想では、ふたつの指標の上昇基調・下降基調といったトレンド一致を論拠にすることはできます。がしかし、先に発表された指標結果の良し悪しを論拠に、後で発表される指標結果の良し悪しを予想することはできません。
(3-1) 総合・非製造業
8月分景気指標は、UM速報値・CB・ISMのいずれも前回を上回りました。
9月分景気指標は、UM速報値が9月15日、CBが9月26日、ISMは10月4日、の発表予定です。
(3-1-1) UM消費者信頼感指数速報値
8月18日に発表された8月分UM消費者信頼感指数速報値は、総合指数(信頼感指数速報値)・期待指数が前回結果を上回り、現状指数が前回結果を下回りました。8月上旬には、ダウが22000ドルを一時的に上抜けているので、そのことと関係があるかも知れません。但し、その後はダウが下げることの方が多かったので、確定値は低下するかも知れません。
UM(ミシガン大学)消費者信頼感指数速報値とCB(カンファレンスボード)消費者信頼感指数とは、統計の目的・内容・時期が同じにも関わらず、単月毎の実態差異(発表結果ー前回結果)の方向が一致しません(一致率50%前後)。
よって、全体的なグラフの上昇基調・下降基調といったトレンドを論拠に発表結果を予想することは可ですが、単月毎の先に発表された指標結果を論拠に、後で発表される指標結果を予想することは不可です。
(分析事例) UM消費者信頼感指数速報値 (2017年8月18日発表結果検証済)
(3-1-2) CB消費者信頼感指数
8月29日に発表された8月分CB消費者信頼感指数は122.9でした。3か月連続で前回結果を上回り、グラフ推移が上昇基調に復しました。直近ピークは2017年3月分(125.6)で、今回結果はこれに次ぐ水準でした。
CB消費者信頼感指数は、直後1分足と直後11分足の方向一致率がそこそこあっても、それら 終値同士を比較すると反応を伸ばしたことが33%しかありません 。跳幅同士を比較すると反応を伸ばしがちなので、発表から1分を過ぎると逆張りの機会を窺った方が良い指標です。なるべくなら、取引しない方が良いでしょう。
(分析事例) CB消費者信頼感指数 (2017年8月29日発表結果検証済)
(3-1-3) ISM製造業景況指数
9月6日に発表された8月分ISM製造業景況指数発表は55.3でした。前回(53.9)を上回り、予想(55.4)を僅かに下回ったものの、反応は陽線でした。
ISM非製造業景況指数には妙な特徴があります。市場予想が前回結果より低めになりがち(73%)です。がしかし、実際の発表結果が前回結果を下回ったことは45%です。こうした特徴を持った指標は他に見当たりません。市場予想が最もアテにならない指標だと言っても良いでしょう。
過去の傾向では、反応程度があまり大きくありません。また、反応方向は素直なものの、その方向に反応が伸び続ける訳でもないようです。指標発表後の追撃は、順張り早期開始して、さっさと利確した方が良いでしょう。
つまり、取引する上であまり魅力的な指標ではありません
(分析事例) ISM非製造業・総合景況指数 (2017年9月6日発表結果検証済)
(3-2) 製造業
多くの指標解説書籍・記事では「NY連銀指標で動向を掴み、Phil連銀指標でそれを再確認して、ISM発表に臨むと良い」旨、記載されています。がしかし、この話をアテにすることはできません。
NY連銀結果とPhil連銀結果との実態差異一致率にせよ、Phil連銀結果とISM結果の実態差異にせよ、50%程度しか一致していていません。実態差異は、発表結果ー前回結果、で指標値の増減を表します。単月毎に見る限り、増減方向すら丁半博奕と同じぐらいしか一致していないのです。
但し、これにISM直前に発表される製造業PMIも加え「NY連銀・Phil連銀・PMIの方向が揃って一致したとき」とすると、ISM実態差異の方向一致率を70%付近まで向上できます。もちろん、そんな3つとも一致という機会は少ないため、指標予測には別の分析方法が必要です。
(3-2-1) NY連銀製造業景気指数
8月15日に発表された8月分指数は+25.2で、前回結果(+9.8)を大きく上回りました。
9月15日に発表された9月分指数は+24.4でした。
2016年1月を底として、それ以降は上下動をしながら全体的に上昇基調が続いています。5月分データが7か月ぶりにマイナス転換したことで景気減速が懸念されたものの、グラフ推移は上昇基調に保っています。上昇基調の起点は2016年1月分からです。
次回発表は10月16日の予定です。
(分析事例) NY連銀製造業景気指数 (2017年7月17日発表結果検証済)
まず、事前差異(市場予想ー前回差異)のプラス率が76%と、異常な偏りがあります。がしかし、事前差異と直前10-1分足との方向一致率は37%しかありません。市場予想が高めになりがちだと、参加者は知っているのでしょう。
次に、指標発表直後の反応程度は平均的で、指標結果の良し悪しに素直に反応しがちです。事後差異(発表結果ー市場予想)と直後1分足との方向一致率は72%です。がしかし、事後差異と直後11分足との方向一致率が58%しかありません。
発表結果が市場予想を上回っても、必ずしも反応が伸び続けるとは限りません。
そして、実態差異(発表結果ー前回結果)は、直後1分足・直後11分足との方向一致率がそれぞれ72%・70%です。反応が伸び続けて欲しければ、実態差異の符号(プラスが陽線、マイナスが陰線)を確認しておきましょう。
追撃は、直後1分足跳幅を直後11分足跳幅が超えたことが76%と高いので、反応方向を確認したら早期開始です。直後1分足終値を超えて直後11分足終値が伸びたことは52%しかないので、追撃を続けるならば前述の実態差異を確認することは必須です。
(3-2-2) Phil連銀製造業景気指数
8月17日に発表された8月分指数は+18.9(前回+19.5)で、反応は陽線でした。ほぼ横ばいですが、グラフ推移を見ると、今後の上昇・下降いずれも予感させます。
ただ、今回の内訳で見るべき大きな変化は、新規受注が大きく伸びたことです。前回は受注が急落(6月25.9、7月2.1)していたので、これで7月を異常値と見なすことができます。7月の受注は、2016年9月以来の低い値でした。
9月21日に発表された9月分指数は+23.8で、前回・予想を上回りました。がしかし、僅かな上昇で、まだ上昇基調に転じたようには見えません。
次回は10月19日に発表予定です。
(分析事例) Phil連銀製造業景気指数 (2017年8月17日発表結果検証済)
先述の通り、NY連銀結果とPhil連銀結果との実態差異の方向一致率は、50%程度しか一致していていません。実態差異は、発表結果ー前回結果、で指標値の増減を表します。単月毎に見る限り、NY連銀製造業景気指数の良し悪しを論拠にすることはできません。
直前1分足の陰線率が75%と、異常な偏りがあります。
指標発表後の反応方向を示唆する予兆は見受けられません。
直後1分足と直後11分足の方向一致率は79%と高いものの、事後差異と直後1分足・直後11分足の方向一致率はそれぞれ76%・66%です。直後1分足終値を超えて直後11分足終値が反応を伸ばしていたことは41%しかありません。追撃するなら、発表後早期開始して、短期利確が基本です。
(3-2-3) ISM製造業景況指数
9月1日に発表された8月分ISM製造業景況指数は58.8でした。グラフ推移は直近ピークだった6月分57.8を上回り、近年ピークだった2014年11月の58.7も上回っています。グラフ推移は上昇基調が明確になっています。
次回発表は10月2日です。
(分析事例) ISM製造業景況感指数 (2017年8月1日発表結果検証済)
先行発表されるNY連銀指数とPhil連銀指数の実態差異方向が一致したことは、2015年1月分以降15回です。この15回のうちISM指数も同じ方向になったことは9回(期待的中率60%)です。あまりアテになる数字ではありません。
更に、本指標発表前に製造業PMIが先行発表されます。先に挙げたNY連銀とPhil連銀と、この製造業PMIとが全て前月結果との増減方向が同じだったことは、同じ期間に7回ありました。この7回のうち5回(期待的中率71%)が、ISMも先行する3指標と同方向の発表結果となっています。
アテに出来る期待的中率は、先行3指標の実態差異方向が一致した場合のみです。
そして、直後1分足と直後11分足の方向一致率は80%で、この80%の方向一致時に跳幅を伸ばしていたことは83%です。方向一致率・反応伸長率も高い以上、発表後は早期追撃開始です。直後1分足と直後11分足が終値で反応を伸ばしていたことは60%あり、複数回の追撃も可です。60%なので、短期利確で複数回が基本です。
【4-2-1.(4) 物価指標】
四半期毎に発表される四半期PCEコアデフレータは、GDPと同時発表されます。
毎月発表されるPCEコアデフレータは、FRBが注目していると言われています。がしかし、最近はあまり大きな反応がありません。最近はCPIが小売売上高と同時発表されることが続いたこともあって、CPIの方が大きく反応しています。
8月10日に発表された7月分PPI・コアPPIは前回結果を下回りました。
ただ、前回よりも今回結果が低下と言っても、0.1〜0.2%程度です。この結果解釈は難しいところです。このところのUSD安と設備稼働率上昇で、製造原価は下がって当然です。
8月11日に発表された7月分CPIは前回結果を上回りました。
コアCPIは前回同値でしたが、グラフ推移を見る限りでは、CPIは下げ止まったように見受けられます。市場の解釈は、市場予想を下回っていたため一旦大きく陰線で反応したものの、発表から10分を過ぎる頃から反転し、30分を過ぎる頃には発表前の水準を超えて陽線側に転じました。
8月1日に発表された6月分PCEコアデフレータは、上昇・下降を見極めやすい前年比が前回よりやや改善しました。まだ、上昇に転じたと言えるほどではありません。
8月31日に発表された7月分PCEコアデフレータは、前期比+0.1%・前年比+1.4%でした。前年比は前期より0.1%低下しています。
(分析事例) 四半期PCEコアデフレータ (2017年7月28日発表結果検証済)
(分析事例) PCEコアデフレータ (2017年8月31日発表結果検証済)
(分析事例) CPI (2017年8月11日発表結果検証済)
(分析事例) PPI (2017年9月13日発表結果検証済)
(分析事例) 輸入物価指数 (2017年7月18日発表結果検証済)
多くの指標解説書籍・記事に記されている「物価は、材料(輸入物価指数)→生産(PPI)→消費(CPI)へと下流に波及する」旨は、少なくとも最近に関する限りあてはまりません。
輸入物価とPPIとは、単月毎に前回結果と発表結果の差を求め、上流指標と下流指標の増減方向を比べた場合、一方を前後3か月ずらしても増減方向の一致率は高くありません。
PPIとCPIは「波及する」というよりも、ほぼ同時に同じ方向に向かいがちです。同月発表のPPIとCPIの実態差異は71%一致するのです。
【4-2-1.(5) 雇用指標】
景気を表すのは新規雇用者数と失業率で、これらについては既にFRB幹部も満足しています。だから、最近は景気を後押しする平均時給の伸びが注目されています。インフレ圧力が強まっているのに、賃金が伸びなければいずれ好調な個人消費が減少に転じ、それが経済成長を阻むと考えられているから、です。
8月30日に発表された8月分ADP民間雇用者数前月差は+23.7万人で、前回・予想を大きく上回りました。
9月1日に発表された8月分雇用統計は、NFP増減が+15.6万人、失業率が4.4%、平均時給が+0.1%でした。いずれも前回・予想を下回りました。
(分析事例) ADP民間雇用者数 (2017年8月30日発表結果検証済)
(分析事例) 雇用統計 (2017年9月1日発表結果検証済)
ADPは、直後1分足と直後11分足の方向一致率が高く、且つ、それらの戻り比率も小さいことから、 追撃は早期開始して徹底 することに適しています。
雇用統計は非常に大きな反応する指標です。発表前には、ISM製造業景況指数や同非製造業景況指数の雇用指数や、ADP雇用統計の結果を根拠に、雇用統計の良し悪しを論じる記事は多数見かけます。がしかし、少なくとも過去2年程度に関する限り、単月毎のISMの雇用指数は雇用統計の良し悪しと関係ありません。ADP結果は雇用統計結果とやや相関があるものの、それでも前月発表結果と今月発表結果の増減方向が60%も一致していません。
雇用統計発表から1分間の反応は極めて大きいため注意が必要です。発表から1分を過ぎると、それ以前のポジションは一旦利確のタイミングを計った方が良さそうです。そして、発表から10分を過ぎた頃に、再度の追撃可否をチャートと相談すると良いでしょう。 やみくもに複数回の追撃を繰り替えすやり方には向いていない指標 です。
以上
【このカテゴリーの最新記事】
- no image