4節 合成樹脂塗床
19.4.1 適用範囲
(a) この節は、主にコンクリート床面に塗床材を塗り付けて、シームレスな床を形成し、機械的強度(耐荷重性、耐摩耗性、耐衝撃性等)、化学的特性(耐水性、耐薬品性、耐熱性、耐候性等)及び居住性(歩行感、美観、防音性等)等を付与する塗床工事のうち、厚膜型塗床材(弾性ウレタン樹脂系塗床材及びエポキシ樹脂系塗床
材)、薄膜型塗床材(エポキシ樹脂系塗床材)を用いて、床仕上げを行う工事を対象としている。平成25年版「標仕」より薄膜型塗床材が追加された。
なお、「標仕」では規定されていないが硬化の速いメタクリル樹脂系塗床材と耐熱性に優れる水性硬質ウレタン系塗床材についても参考に示す。
(b) 作業の流れを図19.4.1に示す。
図19.4.1 合成樹脂塗床工事の作業の流れ
(c) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。
なお、 赤文字 を考慮しながら品質計画を検討する。
?@ 工程表(必要に応じて室別・場所別工程表の作成:下地ごしらえ、塗床材施工、養生等)
?A 製造所名、銘柄、色番及び施工業者名
?B 材料保管方法、取扱い注意事項(消防法、労働安全衛生法等により管理)
?C 室別・場所別の工法(表面仕上り状態:平滑、防滑、つや消し、工法:流し展べ樹脂モルタル仕上げ)
?D 下地コンクリートの水分管理、表層強度の確認、下地ごしらえ(下地状況別)
?E 施工時期・エ期(他の仕上げ工事との関係)
?F 施工環境(気温、湿度、結露、塵あい、臭気、騒音等)
?G 施工時及び施工後の換気方法
?H 養生方法( 塵あい、傷、汚れ、雨水、硬化前の歩行等からの保護)
?I 作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者、品質記録文書の様式とその管理方法等
?J 廃材の分別処理(不燃物、可燃物、激毒物等)
(d) 施工図の検討は、次の事項について行う。
(1) 隅部、柱回り(幅木)との取合い
(2) 設備関係器具回り、グレーチング回りの納まり
(3) 他の仕上材との取合い(見切り、目地)
(4) 床改め口回りの納まり
(e) 塗床の詳細に関しては、日本塗り床工業会「塗り床のソリューション塗り床の不具合抑止対策集」や「塗り床ハンドブック」に不具合対策だけでなく材料選定から保守管理に至るまでの注意点等がまとめられているので、参考にするとよい。
19.4.2 材 料
(a) 塗床材の種類と特徴
(1) 塗床材の種類を図19.4.2に示す。
図19.4.2 塗床材の種類
(2) 各種合成樹脂塗床材の特徴と主な用途を、表19.4.1から表19.4.3までに示す。
表19.4.1 無溶剤形塗床材の特徴と主な用途
表19.4.2 溶剤形塗床材の特徴と主な用途
表19.4.3 水性形塗床材の特徴と主な用途
(3) 主な合成樹脂塗床材の性能と使い分け
(i) 厚膜型塗床材は、材料の比重によって異なるが約1mm以上の厚塗りが可能で、機械的、化学的性能を要求される床に用いられる。厚みがつくことからコンクリート素地の細かい凹凸を軽減する効果があるため、掃き掃除の時の防塵効果はもとよりモップ量きやゴムレーキ掃除に適する平滑性を与えることも可能である。コンクリートに水が浸み込むことなくすぐに乾くことから、より衛生的な環境を提供することができる。
(ii) 厚膜型のウレタン樹脂系塗床は、弾力性、耐摩耗性に優れた材料で歩行感に優れ.靴音を低減できることから、一般事務所、廊下、病院等人が歩行する場所に適する。
(iii) 厚膜型のエポキシ樹脂塗床は、機械的強度、耐薬品性、美装性のバランスが良く、最も汎用的な無溶剤形塗床材である。ただし、低温硬化性と耐候性に欠点があるため、冬季の施工では施工管理に注意を要する。また、耐候性付与のためにアクリル系・ウレタン系のトップコートを塗装する場合がある。
(iv) 平成25年版「標仕」で規定された薄膜型塗床材は、下地の凹凸がそのまま 仕上りに現れる塗床材で、ローラー刷毛で簡単に施工することができる。原膜型塗床材より簡易な塗床材で防塵性があり台車の通行や人の歩行程度の用途に用いる。庁舎の場合、電気室、機械室、倉庫、搬入口、軽作業の床に使用され、コンクリートからの発塵を抑え、容易に掃き掃除ができる珠税が得られる。また、簡易的に雨水・水の浸透を防ぎ、コンクリートを保護する。
(v) 「標仕」では規定されていない塗床材として、メタクリル樹脂系塗床材は低温環境下での施工、短時間施工が可能で、耐薬品性、耐候性に優れるため、主に食品関連床、屋外の床等に使用されている。また、水性硬質ウレタン系塗床材は、特に耐熱水性や耐衝撃性の要求が高い食品工場、厨房、学校の給食室、給食センター等の施設に適する。
(b) 下地調整材
(1) 樹脂パテ
塗床材と同質の樹脂に無機質系充填材あるいはセメント等の水硬性物質又はよう変性付与材等を加えパテ状とし、φ2mm以下のピンホール、巣穴及びひび割れ等の目つぶしあるいは不陸の修正に用いる。
(2) 樹脂モルタル
床面の不陸が大きな場合あるいは欠損部分が大きな場合は、無溶剤形の樹脂に質量比で 3〜10倍の骨材(けい砂等)を混合した樹脂モルタルで充填する。
(3) ポリマーセメントモルタル
水硬性のセメント系粉体に合成樹脂エマルションを混入したポリマーセメントモルタルやセルフレベリング材で、下地の不陸や巣穴を修正する場合がある。しかし、ポリマーセメントモルタルは、塗床材に含まれる溶剤や可塑剤の影響により強度の低下を来し、はく離やふくれの原因となることがあるので、塗床材の下地に適用する場合は注意する。
(c) 塗床材
(1) 塗床材は、一般にプライマー、ベースコート及びトップコートで構成される。ベースコートとは、「標仕」でいう、弾性ウレタン樹脂系塗床材塗り、エポキシ樹脂系塗床の流し展べ工法における下塗り及び上塗り、厚膜流し展べ工法の骨材混合ペースト塗り、樹脂モルタル工法の樹脂モルタル塗り等の金ごてで塗り付けるものがある。これに加えて薄膜型塗床の工法の下塗り及び上塗りのローラーばけを用いて塗布するものも含む。
(2) 主材/硬化材又はA/B等と表示される2成分形の材料は、混合することにより化学反応で硬化するため、混合不十分な材料を用いると硬化不良となるので注意する。
(3) 使用季節の表示がある材料は、表示の期間に使用する。
(4) 塗床材には皮膚に接触すると湿疹・かぶれを生じるものがあるので取扱いに注意する。
(5) プライマーは塗床材を塗布する場合に下地コンクリートとの接着性を高めるために用いられるもので、下地コンクリートの湿潤状態、油潤状態等により特殊なプライマーを使い分ける場合がある。
(6) 無溶剤形の塗床材に骨材締の充填材を混合すると厚膜流し展べ材や樹脂モルタル材等ができる。
(7) 表面仕上げを滑りにくくする場合には、材料にけい砂やウレタンチップ等の骨材を混合して塗布するか又は材料が硬化する前に骨材を散布して防滑仕上げとするのが一般的であるが、材料によう変剤を加えローラー塗りでスチップル模様として防滑を行うこともある。
(d) 合成樹脂塗床材の品質
(1) 「標仕」表19.4.1から表19.4.3までに、各塗床材の品質と試験方法が規定されている。しかし、これらに規定された試験方法は塗床材を対象として規定されたものではないため、具体的な塗床の試験方法の一例としては、JISに準拠して定められた日本塗り床工業会の「塗り床試験方法」による試験結果が「標仕」に規定する品質を満たしていることを確認すればよい。
(2) 薄膜型塗床材は諸性能のバランスに優れたエポキシ樹脂系とされている。エポキシ樹脂は物理的性能・耐汚染性に優れるが、直射日光により、経時で黄変やチョーキング(白亜化)が生じる場合がある。
(3) ホルムアルデヒド放散量については特記がなければ F☆☆☆☆としているので、指定された品質のものであることを確認して使用する。
なお、ホルムアルデヒドの放散量とその確認方法等については、19.10.5を参照されたい。
(4) 薄膜型塗床材は、溶剤形と水性形がある。一般には溶剤形が使用されるが、キシレン・エチルベンゼン等の有機溶剤を含むので、一般の人が立ち入る居室の床に施工する場合には水性形とし、ホルムアルデヒドの放散量や学校環境衛生基準(平成21年3月31日文部科学省告示第60号)に指定される化学物質を放散しない材料であるかを安全データシート(SDS)等で確認して使用する。
19.4.3 工 法
(a) 下地の処理
(1) コンクリート床下地の表層部分はレイタンスやぜい弱層があるため、あらかじめ研磨機、研削機等でコンクリート表層のぜい弱な層を除去し強固な面とする。
また、油分等が付着している場合は脱脂処理をする。
(2) 幅木との取合い、グレーチングの納まり等異種材との取合い部分の納まりは、あらかじめ同材のパテ材や樹脂モルタルで平滑に処理しておく。
(3) 合成樹脂を配合したパテ材や樹脂モルタルで下地調整を行う場合は、プライマーを塗布したのちに行うのが一般的である。
(4) 下地のひび割れ、ピンホール、巣穴等の樹脂パテ処理が不十分な場合には、塗床材がその中に流れ落ち、塗床にピンホールや欠損が生じるので、同材のベースコートでしごくとよい。
(b) プライマーの塗布
(1) プライマーを塗布する場合には、施工場所の換気を十分に行い、プライマーの所定量をローラーばけ、はけ、金ごて等を用いてたまりを生じないように塗り付るる。プライマーの吸込みが激しく塗膜を形成しない場合は、全体が硬化したのち.吸込みが止まるまで数回にわたり塗る。
(2) 下地調整はプライマーが乾燥後、下地のくぼみや隙間等の大きさにより適宜 19.4.2(b)の材料を使い分け平滑に仕上げる。
(c) 塗床材の塗付け
(1) 塗床の仕上げの形態には薄膜型樅床工法、流し展べ工法、樹脂モルタル工法等があり、ベースコートの種類、塗付け方法で区分される。塗床の形態と特徴を表 19.4.4に示す。
表19.4.4 塗床の形態と特徴
(2) トップコートはベースコートの保護を主目的として用いられ、耐候性、意匠性、機能性(防滑性、帯電防止性、防汚性)等の性能が付与される。表19.4.5にトッ プコートの種類と用途例を示す。
表19.4.5 トップコートの種類と用途例
(3) 各工程における塗り間隔は、塗床材の種類により上限と下限がある場合があるので注意する。この間、前工程の塗り面には塵あいや水が付着しないようにあらかじめ十分に養生しておく。
(4) ベースコートの塗布は、気泡が混入しないようにして練り混ぜた塗床材を床面 に流し、ローラーばけ又は金ごてを用い塗りむらにならないよう平滑に仕上げる。
(5) 立上り面の施工はだれを生じないよう、よう変剤を混入した材料を用いる。
(6) 弾性ウレタン樹脂系塗床は、硬化する時に少量のガスを発生することがあり、1回の塗付け量があまり多いと内部にガスを封じ込めて仕上り不良となるので 、1回の塗付け量は2kg /m 2 以下とし、これを超える場合は塗り回数を増す。塗付け量2kg/m 2 以下は、硬化物比重1.0の場合で、塗付け厚さ2mm以下となる。
(7) エポキシ樹脂系塗床
(i) 樹脂モルタル工法は、流し展べ工法に比べて塗布厚みがあり、かつ、圧縮強度が高いので耐荷重性のある床をつくることができる。
(ii) 樹脂モルタル工法では、プライマーと樹脂モルタルの間にタックコートを塗布する。タックコートの役割は、下地と樹脂モルタルとの密着性を良くし金ごてによる樹脂モルタル塗りの作業性を良くする。タックコートを施工した塗面がゲル化する前に樹脂モルタルを塗り付ける。
(iii) 樹脂モルタルの塗付けは、こてむらとなりやすいので、定規を用いてあらかじめ平たんに塗り広げるなどして平滑に仕上げる。硬化後に目止めを行う。
(8) 防滑のための骨材の散布は、下塗りが硬化する前に製造所が指定する骨材をむらのないように均ーに散布する。散布は手まきが一般的であるが、より均ーに散布するためにガン吹きとする場合もある。
(9) メタクリル樹脂系塗床
(i) 施工前に下地の表面温度を測定し、製造所の指定するプライマー、ベースコート及びトップコート樹脂液に対する硬化剤又は硬化促進剤の添加量を決定する。
(ii) メタクリル樹脂系塗床材は、一般に可使時間が 10〜20分と短いので広い面積の施工を行う場合は、テープ見切りを行うなどして塗継ぎにならないように注意する。
(iii) 塗膜厚が薄過ぎるとワックスの造膜を阻害し、硬化不良の原因となることがあるのでいずれの工程でも薄過ぎないよう注意する。
19.4.4 施工管理
(a) 下地コンクリート
(1) 塗床材を施工するコンクリート又はモルタル下地の養生期間は、夏期で3週間以上、冬期で4週間以上を目安とするが、天候に大きく左右されるためこれで下地が十分にり乾燥したと判断することは早計である。下地の乾燥状況を節易的に判定する方法については、日本床施工技術研究協議会の「コンクリート床下地表層部の諸品質の測定方法、グレード」(2006年4月)中の「水分量」の測定方法を参考にするとよい。この試験は、床面に乾燥度試験紙を不透湿性透明ビニル粘着テープで張り付け、試験紙が水分により変色した程度を色で判定する方法と、コンクリート・モルタル用高周波静電容量式水分計により測定する方法の二とおりがある。
(2) 春から雨期にかけては、地階の床や土間コンクリートでは表面結露を生じることが多いので、この時期の施工は避けた方がよい。しかし、やむを得ず施工する場合には天候の安定した日を選ぶとともに換気を十分に行う必要がある。
(3) コンクリート床の表面はブリーディング水に伴うレイタンスやドライアウトによるぜい弱層があったり、油分や塵あい等が付着して十分な接着力が得られなくなることがあるので事前に表面強度を確認しておく必要がある。また、原則として軽量コンクリートは、塗床下地に不適当であるが、下地の状態や条件により施工できる場合もある。
下地の表面強度を簡易に測定する方法として「コンクリート床下地表層部の諸品質の測定方法、グレード」中の「表面強度」の測定方法を参考にするとよい。この試験は、超硬質のピンに一定の荷重を加えながら下地表層を引っかき、その傷跡の形状と幅で下地の表面強度を判定するものである(図19.4.3参照)。
図19.4.3 引っかき試験
(4) コンクリート床の表面凹凸(表面の細かい凹凸)や不陸(表面全体的なたわみやうねり)が大きい場合には、塗床材が流れたり、材料使用量が予想以上に多くなる場合が多いので、あらかじめ確認しておくとよい。
表面の凹凸や不陸を測定する方法として「コンクリート床下地表層部の諸品質の測定方法、グレード」中の「表面凹凸、不陸」の測定方法を参考にするとよい。この試験は、長さ2mの直定規と長さ1.8mの水準器を使って容易にできる方法である。
(b) 塗床材の塗付け
(1) 施工場所の気温が低い(5℃以下)場合や湿度が高い(80%以上)場合等は、低温による塗床材の硬化不良や結露による仕上り不良を防止するため施工を中止する。
(2) 使用季節の表示(夏タイプ、冬タイプ)あるいは促進剤の添加量による硬化時間の表示がある場合、硬化時期に対応した材料及び添加量の確認をする。
低温下(5℃以下)の施工あるいは2時間以内で塗床を使用したい時は、メタクリル樹脂系塗床材を用いるとよい。
(3) 塗床材は種類により、また、防滑仕上げやつや消し仕上げは骨材の散布量により仕上り状態や色調等の風合に差があるので、採用に際しては塗り見本等を確認する必要がある。
(4) 引火性の塗床材を塗り付ける場合は、通風、換気、火気に注意する。
(5) 仕上げ後、適度な表面強度を得るためには、エポキシ樹脂系やウレタン樹脂系 の場合、冬期で3日間、春秋期で2日間、夏期で1日間程度の養生が必要である。