03節 樹脂製建具
16.3.1 適用範囲
(a) 平成25年版「標仕」では、3節に「樹脂製建具」が新しく規定された。樹脂製建具は、寒冷地において断熱性の高い建具として普及してきている。
樹脂製建具の主要構成材料である無可塑ポリ塩化ビニルの主な特徴は、優れた断熱性(熱伝導率がアルミニウムの約1/1,000)と耐塩害性であり、樹脂形材については、2010年に JIS A 5558(無可塑ポリ塩化ビニル製建具用形材)が制定されている。
「標仕」で規定している樹脂製建具は、建具製作所が、既製の無可塑ポリ塩化ビニル製建具用形材及び金具その他の材料を用いて、通常製作している建具で、寸法はその建具製作所が定めた製作範囲とし、カタログ等で枠の形状、断面寸法、金具仕様が指定されている標準建具(既製品)を対象としており発注の際、断面寸法や金物等並びに仕様及び性能が要求され、新形の形材を使用する特別注文建具(オーダー製品)は対象としていない。
(b) 樹脂製建具工事の作業の流れを図16.3.1に示す。
図16.3.1 樹脂製建具工事の作業の流れ
(c) 樹脂製建具は、原則として、建具の加工及び組立からガラスの組込みまで一貫して建具製作所にて行うことで、性能・品質を確保している。
建具の品質保証、建具製作所の責任の明確化及び改修や維持管理という意味から、建具に建具製作所名等を表示させるのがよい。
(d) 「標仕」では外部に面する建具を対象としている。
16.3.2 性能及び構造
(a) 建具の性能及び構造は、JIS A 4702 (ドアセット)又はJIS A 4706(サッシ)に規定されている。「標仕」表16.3.1は、事務庁舎等に通常使用する外部に面する建具の性能等級を組み合わせて表したもので、強さのグレードで表すと、A種は耐風圧性能 2,000Pa、B種は同 2,400Pa、C種は同 2,800Paとなる。
なお、平成12年建設省告示策1458号において適用除外となっている部位に対する風圧力に関する資料として、(-社)日本サッシ協会では実績に基づき旧建築基準法施行令第87条及び旧昭和46年建設省告示第109号に規定されていた計算式を示している。
(b) 枠の見込み寸法は、要求される性能や建具寸法により決まることから、「標仕」では、特記によるとされている。
樹脂製建具は複層ガラスの使用を前提としているため、枠の見込み寸法は、一般的には、アルミニウム製建具より大きいものとなり、国内で流通している製品では、スイング系で 60〜80mm程度、スライディング系で100〜125mm程度である。
(c) 「標仕」で樹脂製建具に要求される断熱性能は、H-4 等級及び H-5等級であるが、JIS A 4702 又は JIS A 4706に規定されている断熱性能等級の最高グレードである H-5等級(0.430m 2 ・K/W以上)を超える熱貫流抵抗値を保持する製品もある。 H-5 等級を超える性能が要求される場合は、特記にて熱貫流抵抗値が指定される。
(d) 樹脂製建具の防火設備は、国土交通大臣の認定を受けた製品を使用する。
16.3.3 材 料
(a) 樹脂形材
「標仕」16.3.3(a)で規定している JIS A 5558(無可塑ポリ塩化ビニル製建具用形材)の材料の性能に適合したものとされている。樹脂形材の材料の性能を表 16.3.1に示す。
表16.3.1 樹脂形材の材料の性能(JIS A 5558 : 2010)
(b) 補強材、力骨、アンカー等
鋼材は、小さい断面で強度が得られるので、補強材として主に樹脂形材の内部に使用される。排水経路上に補強材として使用する場合には、防錆処置を施す必要がある。また、補強材とそれを固定するねじに接触腐食を起こすおそれがある箇所には、防食処理をする必要がある(「標仕」14.1.3(c)参照)。
(c) 気密材及び擦れ合う部分、振れ止め、戸当りの類
「標仕」では、耐久性を有し使用箇所に適したものとされており、一般的には、合成ゴム(クロロプレンゴム等)、合成樹脂(塩化ビニル、ポリアミド等)の有機質のものが使われている。また、接触や衝突により損傷を受けやすい部品については、建具製作所では交換部品を用意している。
(d) 網戸等
樹脂製建具に用いる網戸のかまち及び桟に用いる材料は、アルミニウム製建具と同様、アルミニウム合金である。
なお、かまち及び桟の色は樹脂製建具の色に合わせることが多い。
(e) ガラス
(1) ガラスのはめ込みは、原則として、建具製作所にて行い、性能・品質を担保する。
(2) ガラスは、複層ガラスを用いることを原則としているが、遮音性能及び断熱性能を要求されない場合で、単板ガラス又はパネルを用いる場合は特記によるとされている。
(3) 複層ガラスのガラス厚は、最小のガラス板厚( 3mm以上)及び中間層( 12mm以上)を想定し、18mm以上としている。また、複層ガラスは、中間層の厚さのほか、中間層の気体の種類、ガラスの種類によっても断熱性能が異なる。
(4) 遮音性を期待する場合(T-2等級)の複層ガラスは、低音域の遮音低下防止のため、2枚のガラス厚を異なる厚さにすることが望ましい。
(f) グレイジングガスケット
ガラスのはめ込みには、一般的に、JIS A 5756(建築用ガスケット)に準ずるグレイジングガスケットやグレイジングビードを用いる。グレイジングチャンネルやシーリング材は、通常用いない。
16.3.4 形状及び仕上げ
(a) ガラス溝は、一般的には押縁構造とする。
(b) 主要構成材料である無可塑ポリ塩化ビニルは、その組成の40%が石油、60%が工業塩であることから、金属とは異なり、腐食の要因となる金属水酸化物が発生しないため、表面処理をする必要はない。
(c) 「標仕」では、枠・かまちの接合部は、溶接接合としている。
(d) 形材は、通常押出前に樹脂に顔料を練り込んで色を出している。標準色は一般的には白色である。特注色は、無可塑ポリ塩化ビニル材料とそれ以外の材料を共押出成形(2層押出し)することによって積層させる方法で製作する。特注色の中でも、黒・ブラウン・シルバ一色は市場での汎用性が高いことから、建具製作所では在庫をもっている場合が多い。ほかの色も製作は可能であるが、調色(マスターバッチの製作)が必要となるため、樹脂製建具の製作に当たっては、調色にかかる期間及びコストを考慮する必要がある。
16.3.5 工 法
(a) 加工及び組立
一般に、ガラス及び押縁を建具製作所にてはめ込んだのち、建築現場へ搬送する。建具製作所が定めた搬送における製品重量を超えるものについては、現場でガラス及び押縁をはめ込む場合もある。
(b) 取付け
(1) 取付けの際は、養生材をできるだけ残して、やむを得ず取り除いた養生材は、取付けが終わったのちにできるだけ早く復旧する。周囲の仕上げに支障のある養生材は、仕上げに先立ち取り除く。
(2) 枠等のアンカーのピッチは、防火認定の条件及び枠の変形防止を考慮し400mm以下としている。
(3) 取付け基準
(i) 取付けには、基準墨(心墨、陸墨、逃げ墨)を出し、図16.2.4のように建具にも基準墨に合う位置にマークをして位置を調整する。マークのない場合は、一般に枠面で測定する。連窓等陸墨が出せない場合は、レベルを用いたりピアノ線を張ったりして基準とする。取付け精度は、許容差を± 2mm程度とする。
(ii) 建具寸法が大きい場合や、枠と躯体の間隔寸法が大きい場合には、枠の湾曲、垂下がり、はらみ、つづみ等を防止するため、図16.3.2のように枠に切張りを行う。
図16.3.2 枠の切張り
(4) 鉄筋コンクリート造及び鉄骨造への取付け
鉄筋コンクリート造及び鉄骨造へ取る付ける場合は、建具アンカー溶接時に溶断を行ってはならない。また、溶接スパッタが枠材に付着しないよう、十分な養生を行う。溶接スパッタが枠材に付着すると枠材表面に悪影響(焦げ等)を及ぼし、復旧が困難となる。
(c) 樹脂製建具の清掃方法
(1) 樹脂製建具の清掃方法を表16.3.2に、注意事項を次に示す。
(2) 磨き粉、たわし等の硬いものは、樹脂を傷つけるため使用しない。
(3) 次の有機溶剤等は、枠材に悪影響を及ぼす場合があるため使用しない。
(i) ハロゲン化炭化水素系溶剤(クロロホルム、塩化メチレン等)
(ii) ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン等)
(iii) 芳香族系溶剤(ベンゼン、トルエン、キシレン等)
(iv) アルコール系溶剤(メチルアルコール、エチレンアルコール、その他のアルコール類)
(v) 酸性物質(塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、蟻酸等)
(vi) その他(シンナー等)
(4) 外装材の酸洗い等の清掃時には、清掃液が建具に付着しないよう十分な養生を施す。
表16.3.2 樹脂製建具の清掃方法