3節 PCカーテンウォール
17.3.1 一般事項
(1) 「標仕」では、PCCWを対象としている。
(2) 一般的な作業の流れを図17.3.1に示す。
図17.3.1 PCCW作業の流れ
17.3.2 材料
(1) コンクリート
(ア) 普通コンクリートや軽量コンクリートのほか、特殊な軽量骨材を用いた軽量コンクリート及び炭素繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維、鋼繊維等を混入し、鉄筋で補強しない材料(CFRC、GRC、VFRC、SFRC等)も使用されている。「標仕」では、実績が最も多く、PCCWの製造所で一般的に取り扱っている普通コンクリートや軽量コンクリート1種を使用することとしている。
「標仕」に規定されたコンクリートの品質は一般的な値であり、多くの PCCWの製造所では、スランプは12cm(スランプの許容差は、「標仕」表6.5.1による。)が標準的である。
(イ) コンクリートの調合は、所要強度、ワーカビリティー、均一性、耐久性等が得られるものが必要である。調合設計では、次に示した事項を考慮して所定の品質が得られるように決定する。
(a) 品質基準強度
(b) 脱型時強度
(c) コンクリート製造条件及び強度の標準偏差
(d) 加熱養生条件
一般的に、PCCWの製造所では、それぞれ基雄とする標準調合を定めており、強度等の条件が合う場合は、PCCWの製造所の標準調合を使用する方が問題が少ない。
(2) 鉄筋類
一般的に、主筋には、JIS G 3112(鉄筋コンクリート用棒鋼)に規定される SD295の異形棒鋼(径:D13、D10)を使用することが多い。また、これらの異形鉄筋を格子状に溶接した鉄筋格子も使用されている。
さらに、PC版の形状が、薄い平板の場合や乾燥収縮等のひび割れ防止のために、 JIS G 3551(溶接金網及び鉄筋格子)の溶接金網の線径6mmを主筋として使用する ことも多い。また、細部の補強等には、JIS G 3532(鉄線)の普通鉄線又はJIS G 3551の溶接金網の線径 3.2mm程度のものも使用されている。
JIS G 3551の溶接金網には丸鉄線と異形鉄線があり、一般的には、丸鉄線を使用することが多いが、異形鉄線も使用される。溶接金網を主筋に用いる場合の引張強度は、SD295に準じた引張強度とすることが多い。
(3) シーリング材
(ア) シーリング材は、PC版間の目地に充填するものが主であるが、このほか、PC版に先付け(打込み)したサッシ枠回り及び張り石間並びにPC版に隣接する他部材との目地に使用するものもある。
(イ) シーリング材の種類は、「標仕」17.3.2(4)で特記によると規定されている。その参考として、CWにおいて被着体別に使用されるシーリング材の例を表17.2.4に示す。
(ウ) 17.2.2の表17.2.4では、PCCWの部材間目地に使用するシーリング材を2成分形変成シリコーン系(MS-2、耐久性による区分9030)としている。これは、 PC版間の目地やPC版に隣接する他部材との目地に、水密や気密性能のほかに、地震時の建物層間変位による目地変形に追従する性能が必要なためである。
(4) 断熱材
PC版の裏面に直接施工するのが一般的である。断熱材の種類は特記によるが、一般的には、現場発泡形のポリウレタンが多い。そのほか、ポリウレタン、ポリスチレン系の発泡体及びグラスウール等の成形板がある。さらに、断熱と結露防止の目的でひる石系の材料を吹き付けることもある。断熱材の種類によっては、アルミニウム等を腐食させるものもあるため、その選択には注意が必要である。
また、断熱材は、工事中の雨掛りを避けるため、一般的に、現場でPC版を取り付けた後に施工することが多い。
(5) ガラスは、16.14.2による。ガラス取付け材料は、17.2.2(4)による。
(6) 取付け用金物と摩擦低減材〈滑り材〉
PC版の部材付け金物の位置は、取付け躯体との関連で決まるため一律ではない。したがって、取付け用金物の形状・材質等は、PCCWの製造所の仕様によるとしている。一般的に、取付け用金物は、形鋼や鋼板等SS400材を組み合わせて製作するものと、専用品として市販しているものとがあり、使用実績を確認するとよい。取付け用金物の防錆処理は、「標仕」17.3.3(3)では、屋外に使用する鋼材、ボルト及びナットの表面処理は表14.2.2のC種、屋内に使用する鋼材の表面処理は、同表E種、ボルト及びナットは同表F種としている。
取付け用金物は、PC版の層間変位追従時の挙動や風圧等の外力に対して安全であることを、計算等により確認することが重要である。
摩擦低減材は、スライドホール部(滑動部)の滑り性能を確保するため、金物間に挟んで使用する。材質は、ステンレス板、ステンレス板等にカーボングラファイトを加工したもの、フッ索樹脂系のシート(テフロン(商標))等があり、摩擦係数は、0.2〜0.3程度のものが多い。
取付け用金物に要求される機能及びCW部材の留付けについては、17.2.2(7)を参照されたい。
(7) 先付け材料
PC版の型枠に先付けし、コンクリートに埋め込む(打ち込む)ものには、タイル、石材等の仕上げ材料とサッシ枠やゴンドラ用ガイドレール及びPC版の部材付け金物やあと付けするサッシ等の取付け金物がある。
(a) タイル等の仕上げ材は、特記による。
(b) サッシ枠やゴンドラ用レール等は、特記による。
(c) PC版の部材付け金物は、PCCWの製造所の仕様による。
(d)あと付けするサッシ等の取付け金物は、それぞれの製造所の仕様による。
17.3.3 形状及び仕上げ
(1) PC版の製作精度
製作精度は、層間変位追従性や目地幅等に直接かかわるが、PC版は、単品ごとに製造するコンクリート製品であるため、製作精度をあまり厳しく設定すると現実の問題として製造が困難になる。
「標仕」17.3.3(1)に規定されているPC版の見え掛り部分の寸法許容差は、標準的な大きさ(4m × 2.5m程度)の平板状PC版の寸法許容差であり、標準を大きく上回る版、リブ付き形状版、パラペット部を含む長大版並びにL形コーナー版等では、PC版の形状、大きさと建物の条件等を考慮し、PCCWの諸性能に影響を与えない範囲で寸法許容差を決めることが重要である。
受注者等が受入検査として行うPC版の寸法検査の頻度は、辺長、開口部の内法寸法、先付け金物位置については全数、その他についてはロット単位の検査で確認するとよい。
(2) PC版に先付けする表面仕上材
表面仕上材は、美観だけではなく、耐久性にも影響を与えるので、その選択には十分な配慮が必要である。また、仕上材の種類や材料によっては、PC版製作に先立ち、試験体を製作して付着力又はアンカー耐力等の確認が必要である。
(3) Y型構造ガスケットの取付け溝
一般的に、PCCWでは、PC版にサッシ枠を使用しないで直接ガラスを留める場合は、Y型構造ガスケット(17.2.2 (4)(イ) 参照)を使用する。
Y製構造ガスケットをPC版にはめ込むための溝の形状例を、図17.3.2に示す(「JASS 14 カーテンウォール工事」参照)。溝幅・位置等の精度は、ガラスのはめ込みやガスケットのガラス保持性及び水密性に影響するため、十分な精度管理が必要である。
図17.3.2 Y型構造ガスケットによるPC版へのガラスのはめ込み
17.3.4 製作
(1) 型枠の製作
型枠は、PC版の仕上げ程度及び製品精度に影響を与えるので、所定の要求品質が得られるものとする。一般的に、PC版の型枠は次のような理由から、鋼製の型枠を使用する。
(a) 剛性があり、組立及び脱型時の外力や振動による変形が小さい。
(b) 脱型が容易で、反復使用ができ、製品のばらつきが少ない。
(c) 吸水による変形がない。
(d) 加熱等の養生条件に耐える。
(e) コンクリートの品質に有害な影響を与えない。
なお、型枠の製作は、十分な精度管理が必要であるので、PCCWの製造所の型枠寸法許容差を確認する。
(2) 鉄筋の組立
(ア) 配筋は特記によるが、特記がない場合、監督職員は、PCCWの製造所が行うPC版の構造計算を確認して、承諾をする。
(イ) 鉄筋は、所定の形状に合わせ正確に配筋する。鉄筋は、型枠とは別の場所で組み立てられた後、運搬、仮置きされることが多く、その間に変形したり、あるいは型枠内でコンクリート打込み作業中に位置がずれることのないように堅固に組み立てたものとする。また、断面の小さな部分やひび割れの生じやすい部分は、配筋図に記載されていなくとも必要に応じて補強筋を配することが重要である。
なお、製造上やむを得ない場合や、実績がありPC版の性能上問題がないと思われる場合は、監督職員の承諾を受けて鉄筋の組立を溶接とすることができるが、溶接による鉄筋の断面欠損が生じないようにすることが重要である。
(ウ) PC版の鉄筋のかぶり厚さは、「標仕」表5.3.6により、耐久性上有効なタイルや石材仕上げ等がある場合は20mm、有効な仕上げがない場合は30mmを最小値とする。また、鉄筋相互のあきは「標仕」5.3.5(4)による。
(3) コンクリートの打込みは、各種の振動機(バイプレーター)を用いて密実に締め固め、気泡、豆板、クレーター状の跡等が生じないように行う。また、振動のかけ過ぎはコンクリートの分離を招くので、状況により適切な時間を選択しなければならない。
(4) コンクリートの養生及び脱型
(ア) PC版は、脱型強度を確保するため一般に加熱養生を行う。加熱養生は、次のような事項を考慮して養生計画を立てる。
(a) 加熱開始までの前置き時間
コンクリート打込み後、水引き前後の初期硬化開始直後の加熱養生は、コンクリートの強度発現性に悪影響を与えるため、前置き時間を2〜3時間とることが必要である。
(b) 養生温度の上昇勾配と下降勾配
上昇及び下降勾配は、15℃/h以下が望ましく、20℃/hを超えてはならない。
(c) 最高養生温度
最高養生温度は、40〜50℃前後が望ましく、70℃以上では有害とされている。
(d) 部材を養生槽から取り出したときの部材温度と外気温との差
20℃以下が望ましく、冬期等で、温度差が大きいと急激な収縮により内部応力が働き、ひび割れの要因となるので注意が必要である。
加熱養生条件の例を図17.3.3に示す。
図17.3.3 加熱養生条件の例
(イ) PC版の脱型は、脱型強度の確認後、有害なひび割れや欠け等が生じないように注意して行う。脱型時のコンクリート強度は12N/mm 2 以上とし、PC版の形状、大きさ等により適宜強度を増す。一般的には12〜15 N/mm 2 程度である。
17.3.5 取付け
(1) 躯体付け金物の取付けは、17.2.5(1)に準じる。
なお、PC版は重いため、次に示す取付け躯体の梁は、PC版を取り付けた時の梁のたわみやねじれが、許容値以内に納まることを確認し、必要に応じて適切な補強を行う必要がある。
(ア) 階段、パイプシャフト、ダクトスペース、エレベーターシャフト部分等、スラブと一体でない梁
(イ) 屋上に突出した柱上部(設備機器等の目隠し取付け用等)の梁
(ウ) スラブコンクリートを打ち込む前の梁
(2) 主要部材の取付け
「標仕」表17.3.2に示す部材の取付け位置の寸法許容差は、「JASS 14 カーテンウォール工事」に準じたものである。その他の安全作業、仮留めボルト等のあと処理及び取付け部の固定と防錆処理は、17.2.5(2)に準じる。
(3) 耐火構造
外墜の耐火梢造、延焼のおそれのある部分での防火設備及び層間ふさぎの施工は、17.2.5(3)に準じる。
17.3.6 ガラスの取付け
ガラスの取付けは、17.2.6に準ずる。
17.3.7 耐火被覆の施工
PC版が、躯体(柱、梁)の耐火構造を兼ねる合成耐火構造とする場合は、法令に基づき認定されている材料、工法に従って施工する。
なお、PC版自体のみならず、PC版の目地にも同等の耐火性能が必要であり、耐火目地材や、有効に火熱を遮断するシリコーンゴム製ガスケットが設置されていなければならない。
17.3.8 シーリング材の施工及び試験
シーリングの施工及び試験は、17.2.7に準ずる。
17.3.9 養 生
養生は、17.2.8に準ずる。
参考文献